塔の四階のモンスター
レイヴンの後を追い階段を上る。
「四階からは体の大きな魔獣たちのフロアになります」
階段を一番上まで上り終わると、一部屋一部屋区切られていない、柱だけの大きな空間が広がる。下の階までは頭上にシャンデリアや電気の明かりがあったので明るかったが、こちらは壁に数本の蝋燭が所々に置いてあるだけで随分と暗かった。
「転ぶなよ」
レイヴンはこのような暗い場所も慣れているのか一人、堂々と前を歩く。足元を確認しながら恐る恐る歩いていると、何か固いものを踏んでしまったようで、パキッと乾いた物が割れた音がする。
手に持っている蝋燭の明かりを地面に近づけるとそれはなんと何かの骨のように見えた。
「ひっ……!!!」
びっくりして凛はその場に立ちすくむ。
「魔獣たちはそれぞれ特性があるので、このようにワンフロアになっていることが多いですね。このフロアの魔獣は……あれ? 魔王様??」
ナーガが横を見ると、今まで一緒にいた凛の姿は見えなかった。
「た……助けてくださ……い……!!」
大分後ろの方で、凛の悲鳴が聞こえる。二人が振り向くと、巨大な魔獣が凛の後ろに立っていた。
「バグちゃん……! その方は、魔王様です……!」
「使役済みではないのか?」
三メートルくらいある二本の前足は後ろの足に比べると硬く鋭く太い。体全体の骨がむき出しになっており、頭蓋骨の両脇に太い二本の角が生えていることから牛のようにも見えた。
口を大きく開け、凛を食べようとしていた。
「使役って何!?!?」
慌ててレイヴンがそれを阻止しようと走る。
凛はもうだめだと思い身を縮めると、先程ナーガが持たせてくれたかごの中から丸いパンがころんと地面にこぼれ落ちる。
すると魔獣が一瞬動きを止め、地面に転がったパンの臭いをくんくんと嗅いでいた。レイヴンが凛と魔獣の間に入ると、魔獣は気に入ったかのように小さなパンを一口で丸飲みにした。
そして、もう一度凛に近づき、凛の肩を鼻の骨で軽く突っつくと、かごからパンが二個こぼれ落ちる。それも、美味しそうに口の中で味を確かめた後、ごっくんと飲み込んだ。
もう一度、凛に近づき鼻を押し当てようとする。
すると凛の前にレイヴンが出てきて、鼻がレイヴンの胸に当たる。レイヴンは怖い顔で睨み付け「遊 ぶ な」と阻止した。
「勿論使役済みですよ?」
ナーガがぱたぱたと走ってきて、地面に縮こまる凛の両手を取り、洋服についたほこりを払った。
「使役とは野獣が使い魔=魔獣になることだ。闇属性魔族の中でも、契約を交わしていない野獣は身分関係なく逆上したり仲間通しで潰し合う」
「この子はバグちゃん。本来は臆病で大人しいから隅の方に隠れているのだけれど、強い魔力に反応してびっくりして出てきたのね?」
凛はひとまず良かったと胸を撫で下ろし、ほっとため息をつく。バグは、睨み付けるレイヴンから視線を外し、物欲しげな目で、首を横に傾むけ、凛の顔を見つめていた。凛はかごに残っていた最後のパンをバグに差し出す。
「私の顔、覚えてくれたかな?」
バグは凛の手のひらのパンを口で軽く加え、味わって食べた。パンを食べ終えた後、差し出された手を自分の頬骨で軽く撫でる。
それは、信頼の証という意味だったーー……。




