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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

桃の華の散り方は。

作者: 菜咲大介



ーーーー鬼の再来。




再びそんな噂が流れ始めたのは、桃太郎、齢70。



16で鬼退治。

それ以降は平穏な日々が続いた。24で幼馴染の村娘と結婚。

子はできなかったが、仲睦まじい夫婦だった。

じじ様ばば様が逝き、その後を追うように犬、猿、雉もあの世へ旅立ったのはもう25年も前のことだ。



村は平穏だったものの、身体は鍛え続け、70とは思えない肉体を未だに保っている。



村はおろか国中に、桃太郎鬼退治伝説は語り継がれ、今では生きる伝説として桃太郎は毎日、村の子供たちに昔話をした。



そんな中での鬼の再来。






ーーーーー桃太郎は死に場所を探していた。





過去に鬼を退治し、今なお伝説として語り継がれる男は、やはり、最期まで誇り高くあり散りたいとそう心から願っていた。



身体はかろうじてまだ動く。漢として、生きる伝説として死ねるギリギリのタイミングだ。そんな中、鬼再来という言わばチャンスが舞い込んで来た。




ーーーーーーーーーーーーーーー






村に、吉平なる青年がいた。年は16。


桔平は、誰よりも桃太郎に憧れを抱いていた。



幼い頃からその伝説を聞き続け、国中から憧れられる存在に桔平自身なりたいと願っていた。



桔平は、毎日、桃太郎の元へ剣術を習いに通っている。


剣を習うことで少し、ほんの少し憧れに近づける気がするから。





ーーーーーーーーーーーーーー





桔平は、今日も剣の稽古に桃太郎を訪ねた。


屋敷の前まで行くとそこには人集りができていた。




「鬼が出たんです!!助けてはくれませんか??」

「おねげえだぁ!あんたしか頼りがいねえ!」




鬼再来の噂は既に聞いていた。よくよく考えれば当然だ。この世で鬼を倒した人間は桃太郎さんだけだ。




わかってる。わかってるのにどうしてか吉平は抑えきれない怒りに襲われた。



「やめないか!桃太郎さんはもう70。お世辞にも若いとは言えない。そんな人を捕まえて戦いに行け?ふざけるな!」



師匠が、憧れの英雄がこの世から消えてしまう。それが何しろ怖かった。



「吉平!?いや、でもよお、なら他に誰に助けてもらえやいいってんだ!」


同い年の石蔵が胸ぐらに掴みかかってくる。




「確かに強い奴が弱い奴を助けるのは当然だ、、、だからと言って、弱い奴が強い奴に助けてもらえるのが当たり前、それは違うだろ!」



群がる村人たちがバツの悪い顔をして黙りこむ。




「桃太郎さんに行かせるくらいなら、…この吉平が、愚生吉平が鬼討伐に行ってやる!」




ーーーーーーーーーーーー




翌日、鬼討伐の準備をしていると、激しく戸を叩く音が聞こえた。



「吉平!石蔵だ!開けてくれ!頼む!」



戸を開けると、血と泥にまみれた石蔵が転がり込んで来た。



「隣村で、お、鬼が出たんだ!目の前で、何人も何人も喰われたぁ!」



「何も!何もできながっだ!くそ!くぞ!」


泣いて悔しがる石蔵。そのわなわなと泣く青年の姿から、どれほど恐ろしかったか容易に想像がつく。




しかし、向こうから出向いてくれるとは好都合だと、吉平は剣を腰に刺す。



「事情はわかった。この吉平、今より鬼討伐に参る。村の者には皆家に入り、一切の外出をするなと伝え回ってくれ。」



隣村までは走って四半時。すぐ近くのため急がなければ次は吉平の村に被害が出る。




家を出てすぐ、隣村への道をひた走る。




「頼む。1人でも多く生きていてくれ!!!!!」




ーーーーーーー





隣村に着く。焦げ臭い。吉平がそこで見たのは黒焦げで山積みになった隣村の人たちの死体だ。



「……嘘、だろ。こんな、こんな…」


異臭に対する吐き気もさることながら、ここまで惨たらしい鬼にとてつもない怒りが込み上げる。




「アレェ〜まだ生きたニンゲンが残ってるゾォ〜」


「んなぁ!殺しそびれたか!!こりゃ参った、親父に叱られる!!!」



気づけば吉平の後ろに人と同じくらいの鬼2人が立っていた。



「どお!?こーすれば鬼に対するキョウフを植えつけられるって!オヤジが!!どお!?コワイ??!」




その瞬間。吉平は怒りで我を失っていた。




ーーーーーこのクズが!!!!



剣を抜き先に喋った方の鬼に斬りかかる。その真剣は対応に遅れたその鬼の頭部が真っ二つに切り、その鬼は血を吹き出しその場に倒れた。



それを見たもう一方の鬼が棍棒を振り下ろす。



「てめえぇ! ニンゲン!!よくも俺のオトウトを!!!!」


頭を狙ったスイングを華麗に避け、その後、両腕を跳ね上げる。




「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


棍棒ごと両腕が飛び、血が吹き出る。



「この人たちは、お前らの何倍も!何十倍も痛く辛かったはずだ!」



「ぁぁ…。ぐぁぁ!!!」


腕を失った鬼が刺し違えてでも吉平を殺そうと、首元に牙を光らせ飛び込んでくる。



「御免!!!」



その切っ先が、鬼の胴と頭を切断した。頭と腕を失った鬼の胴体は何度か血を吹き、ながら痙攣し、ついに絶命した。



剣を振り、血を払う。剣を鞘に収めた。刹那、背筋が凍る。絶対的な死を感じて。



気付いた時には左上段から棍棒が目前まで迫っていた。


咄嗟に左腕でそれを防ぐが、そのまま10メートルほど吹っ飛ばされる。



「があぁっ!!ーー!!!」



棍棒で打たれた左腕は骨が粉々に砕け、もはや形を成していない。




「オマエェェェ。オレの息子に何してくれてんダァ!!!」




鬼の怒りにと痛みに途絶えそうになる意識に鞭を打ち、立た上がる。剣を抜く。目が霞む。



力を振り絞り剣を振り抜く。



鉄より硬い棍棒に剣が真っ二つに折られる。


次の瞬間、右わき腹に蹴りが入る。

再び、吉平は吹っ飛ばされる。



「ぐあっ…………ガハッ。。。」



折れた肋骨が内臓に刺さり、血を吐く。




鬼が近づいてくる。


怒りを露わに吉平の頭上で棍棒を振り上げた。



ーーーーくそ、ここまでか……



覚悟を決めたその時だった。




ーーーーーーー鬼が吹き飛ぶ。



倒れはしないものの棍棒を振り上げ、無防備なわき腹に斬撃が入り、血が吹き出す。



「間に合ったか、、、あとは70の老人に任せなさい。」



絶体絶命を救ったのは桃太郎だった。鬼と対峙するその背中はまさに、伝説の英雄。



「もぼだろぅざん…」




その声届くことなく戦闘が始まる。



鬼が棍棒を振り抜く。かわして斬りつける。棍棒と剣がぶつかる。鍔迫り合いではやはり、桃太郎が不利。

見えない速さの剣撃が続く。鉄と鉄のぶつかり合う鈍い音が幾度となく響き渡る。



お互いキズだらけになりながらも剣を、棍棒を振り続ける。



先に折れたのは桃太郎だった。体力の限界だった。歳のせいだ。鬼の胸を切りつけた後、回避が遅れ、右腕に棍棒が直撃。肩下から腕が剣ごと吹き飛ぶ。


「もぼだろっ…ざん!」



肩口から脈打つように血が出る。



だか、それを見た鬼に、一瞬の隙が生まれた。


英雄はそれを見逃しはしなかった。



左手で脇差を抜く。切っ先が鬼の心臓を貫く。



ーーーーーー桃太郎さんの勝ちだ!



しかし、そんな甘い考えはすぐに吹き飛んだ。



血を吐きながらも最後の力を振り絞り、鬼は桃太郎の右頭部を噛み砕いた。



鬼は、直後に絶命した。




ーーーーそんな…嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ…桃太郎が死ぬ??そんなの、、そんなの!!!



桃太郎が倒れそうになる膝を抑え振り向く。


死にそうな痛みの中、その表情は安心したように笑っていた。


「よく戦ったな…吉平。泣くなよ、儂が不死身とでも思ってたのか??」



返り血、いやほとんど自分の出血で、桃太郎は全身真っ赤に染まっている。



「まるで、まるでよ、一晩の夢を見ているかのような、そんな濃い人生じゃった!!」





はぁーっと息を着く。桃太郎は最後の力を振り絞って叫んだ。



ーーーっ桃太郎伝説、これにておしまいじゃ!!!






ーーーーーーーーーーーーーー






その昔、吉備津法師という隻腕の語り部がいた。

腰には『鬼殺し』なる刀を携えていた。

その法師、日の本を渡り歩き、桃太郎なる昔話をして周った。

その法師、実の名を、吉平と申す。











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