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転生翁。  作者: えのくま
2章~xxxx~
3/5

二人の決意

「どうした、新之助」


俺はいつもの勉強机にて、歴史書を教科書に、悪魔族の言葉を学んでいた。

そう、いつもの勉強机―――。


思わず、隣で教えていたエリスを力いっぱい抱き寄せた。

「おい、おい・・・」

戸惑いながらも抵抗はされない。


何度死んでもなれないが、しかしそれでいいと思った。

エリスが生きている。

たったそれだけで、この世界は、俺の心は、まだ生きていられる。



エリスは何も言わず、そっと俺の頭をなでてくれた。

つるつるの頭を。

それだけで涙が出る。

自分がまだ生かされていることを実感できる。


俺はまだ、あきらめない・・・

俺は永遠に殺され、やがて魂が持たず消滅する。今回が最後の転生かもしれないけれど。

今度こそ、今度こそ、エリスの思いを成就させて上げたい。

そして、笑顔のエリスのそばで死にたい。


知らぬ間に泣いていた。

いきなり抱き着かれて、泣き出して、俺がエリスなら不気味がり拒絶するだろう老人の姿に、エリスはただただ待ってくれた。


「すまん」


少し落ち着いたころ、なんとか自分の口からいって、元の体勢に戻ることができた。


「問題ない。少しは落ち着いたか?」

「ああ」


少しの沈黙。

俺は覚悟を決めた。


「エリス。俺を信じてくれないか?」

「どうした、急に。」

「二人だけで話がしたい」

「この部屋には私と新之助しかいないが?」

「臣下の耳があるだろう?じいとか」

「・・・なるほど」


エリスは俺の意図を察してくれたらしく、慣れた手つきで部屋に結界を張る。

断絶結界――

勉強部屋の一部の空間が独立し、外からの情報収集がすべて遮断される。その代り、空間に隔離された内部の者は、外の世界のあらゆる情報を???。


返事の代わりに、エリスは俺の目を見つめた。

俺は一つ一つ言葉を選びながら、俺の見てきた未来をエリスに説明した。

もちろん、ミッシング・ワールドである可能性のことも前置きして。

曰く、俺は並行世界で何度もエリスに助けられ、今こそ恩を返したいと思っていること。

曰く、俺が転生者でる証拠として、俺はエリスが大切に身に着けているペンダントの秘密を知っている、ということ。

曰く、じいは本当の意味で敵ではなく、あくまで狙いは俺であること。

曰く、魔王xxxxは戦乱の中でエリスに戦死するように仕向けようとしていること。

エトセトラ、エトセトラ


「お兄様が・・・」

さすがに実兄がエリスの死を望んでいる、というのは自分の命と引き換えにでも悪魔族の世界をと誓ったエリスにとってもショックだったらしい。

当然だろう。


しばし沈黙が流れる。


そしてエリスが他にもあるか、という目で俺を見てきたので、俺も首を横に振り静かに言った。

「俺はエリスの未来を変えたい。そのために俺を信じてほしい」

と、もう一度、信じてほしいと告げた。


自信があるとは決して言えない。しかし、やるしかないのだ。

何かを変えないと、何も変わらない。



「悪魔族は魂で相手を見分ける」

「?」

初めてエリスと会ったとき、俺は老人なのになぜわかるのか聞いたときにエリスが言った言葉だった。

「魂の消耗と疲弊を感じる。君は嘘をついていない」

「・・・そうか」

エリスは、俺の妄言を信じてくれた。

並行世界でもたびたびあった、ミッシング・ワールド。

やったはずの行動が別の世界の出来事だったとか。

やっていないはずの出来事が起きているとか。

そういうことを何度も経験している。

俺の発言が、この世界で起こる未来ではなく、ただの杞憂である可能性がある。あるいは妄想かも。

でも、何も知らなくて突然巻き込まれて抜け出せなくなるよりは。

ひょっとしたら起こるかもしれない、占いとでも思ってもらえればいい。とにかく、未来を変えるきっかけになってほしい。そう思わずにはいられなかった。

「むしろ、嘘をついているのは私のほうだな」

「!?」

エリスは、なるほど、なるほどとうなづき、しまいには笑った。

文字通り、悪魔の笑い。

俺はこういう風に笑うエリスを知らなかった。

「逆に問おう。新之助は私を信じてくれるか?」

「当然だ」

それだけは自信がある。そのために生きると決めた。


「巫女に会おう。君に嘘をついていることを証明し、計画を軌道修正する。この世界で決着をつけよう」

「巫女は、めったに姿を現さないし、表立って合えば悪魔族の指揮や信用にかかわるから数年は無理なんじゃ?」

「そう私が君に説明したのか?」

「ああ」

「じゃあ、それも嘘だ。」

彼女のニヤニヤは続く。

どういうことだ・・。悪魔族を戦争に導いたのは、巫女のせいだと世間一般的には思われているんじゃなかったのか?

「そう。それは事実だ」

しかし、と彼女は続けた。

「その気になれば私は巫女といつでも会える。じいを出し抜いて、お兄様の耳に入れずに入れずに、君を連れてな」

自信たっぷりだった。

「君と巫女を会わせたくなかったのだろう。私の嘘が君にばれてしまう。だからもっともらしい理由をつけて、君を出し抜いたのだ。」

「・・・」

特に詫びようとする気配もなく、ただ淡々と。

「もう一度言う。新之助は私を信じてくれるのか?」


俺は、もちろんだと言い返そうとして、言い淀んでしまった。。。

思ってしまったのだ。こいつは本物のエリスなのか、と。

出鼻をくじかれたなんてものじゃない。

この世界のエリスは言っているのだ。

君の信じていた私は、虚像だと。

巫女に会えばそれが明々白々になりますよ、と。

受け入れる覚悟はありますか、と。

わざわざそんな回りくどいことをしなくても、今この場であのときああいったのは嘘だ、と言ってくれればいいのに。

私は嘘をついていた。だが、ここでそれを言うつもりはない。たったそういわれただけで、俺の気持ちは揺らいでしまった。。。

この場で言ってくれ。そう言おうか迷った。

俺は単純だから簡単に感情に流される。そう自分でも自覚している。

でも、俺はエリスを信じると決めた。可能なら、もう一度だけ転生することを許されるのなら、彼女を信じ、助けになると。

そして今。それが叶って、まず最初に自分の思いを確認したんじゃないか。

その思いは決して揺らいではいけない。



俺は体の向きを変え、エリスを正面から見た。

エリスもまた、俺を見つめていた。

・・・苦手なんだよな、こういうの。

「俺はエリスを信じる」

即答できなかったのは恥ずかしいし、悔しいが、俺は改めて決意を固めることができた。

「そうか」

エリスの顔がいつもの冷静な顔に戻った。

こっちのほうがやっぱり落ち着くなあ。



「まずはじいの説得だな。お兄様への謁見をがんばってもらわねば」

エリスは指をぱっちんさせて、結界をといた。



「じい、入っていいぞ」

エリスはいつもの声色でじいを呼んだ。



###cut

巫女は人族が嫌いだから、護衛に殺される可能性もあるし、何より


―――気のせいでなければ、なんとなく楽しそうだ。

###





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