【間話】移動の間の自己紹介
話をしよう。
あれは今から―――。
「どうした、新之助」
エリスが急に足を止めて、聞いてきた。
問題ない、と言ったらフラグだろうか?
いや、正直に言うと暇なのだ。
移動はすべてエリス任せ。
空間移動は人族には不向きらしく、目を回さないための目隠し、空気圧変化対策の耳栓、気分を悪くしないための薬草(たぶん酔い止め)、吐かないために口に猿轡が装備されていて、車いす (もどき) から落ちないように体もひもで固定されている。ようするに電気椅子状態といえば伝わるだろうか?
人権センターに訴えたら勝てるだろう。
悪魔を司法の名のもとにさばいてくれる人がいるかは非常に謎であるが。
時計なるものがないので、どれくらい時間が経過したかがわからない。暗い道ばかりを使っているせいか、光の変化も感じられず、がたがた地面が揺れては、突如びゅんと空気抵抗を感じること数回。恐怖体験も、ある程度繰り返し経験すると人は飽きるということがよくわかった。
いや、正直俺の寿命は確実に縮んでいると思うが―――。
「むぐぐぐ」
しゃべろうにも当然声にならないのだが、エリスは
「わかった。我慢しろ」
ほんとに伝わっているかは知らないが、何事もなかったように移動を再開した。
あまりに暇なので、移動の間に自己紹介をしようと思う。とはいえ俺は現在進行形で自分のことが嫌いだし、思い出したいとも思わないし、俺の不幸自慢を読んで続きが気になる読者もいないと思う。なので3行ですませる。
享年32歳、ひき、おた、ぴちぴちのでぶニート。
性格:天邪鬼、コミュ障
死因:秘密
以上。俺も読者もwin-win。
死んでから目が覚めた後の話をしよう。
死んで目が覚めたら、剣と魔法と多種種族が共生するファンタジーの世界に転生した。ざわざわ聞こえる世界だったら、リライフよろしく、まさに僥倖、彼は生まれ変わったのだ!とナレーションが入るところだろう。しかしすぐに死にたくなった。というか、それを躊躇する必要もなく、俺はすぐに死ぬのだろう。冒険が始まることなく、エピローグをまっとうするだけの寿命しか感じられない俺の体は、この世界でセカンドライフを満喫しようにも、そもそもの可能性さえないとすぐに分かった。