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第七話 謎と場所 -3-

「俺は他人の事をクズだなんて思った事無いですよ。みんな掛け替えない存在だし、大切な一人一人だと思います。他人と一緒にされたくないだなんて思った事も無いですよ。きっとそう思われてしまうのは、俺が人の中に入り込むのが苦手だから誰とも一緒に居る事が出来ていないからですよ。つまりそういうのが、他人の事を馬鹿にして一緒に居たがらないという風に見えているんだと思います」

(まぁ、取り敢えず当たり障りの無い解答と言って良いだろう。これでこの男性も納得してくれるだろう)

 内心では、模範解答として作り上げた本心でも無い言葉を役者にでもなったような気分で演じた。自分は、そんな悪い気持ちなんて持っていませんよと言うみたいに。

 けれど、男性は表情一つ変える事無く相変わらずの様子で「うんうん」と頷いてみせて言った。

「そういう考えをお持ちだったのですね。素晴らしいですね。少し私は感動してしまいましたよ。特に掛け替えの無い存在という台詞は胸にグッときました」

(はぁ~良かった。これで安心して話を聞かせて貰える……ん? 台詞?)

「真野くん」

 瞬間的に空気が張り詰めた様な感覚に襲われる。確かに男性は、相変わらずの表情を浮かべていたのだが、眼鏡の奥からは鋭く突き刺す様な視線が向けられていた。

「私が少し言い方を間違えてしまっていたんですかね? 正解じゃ無いと言ったのがいけなかったんですかね? そう言われてしまえば自ずと正解は何だろうかと考えてしまうものですからね。しかし、考えなくても分かる事だとも言いましたよね? 普段から真野くん自身が周りの人間に対してどんな風に思っているのか教えて欲しかったんですけどね。残念ですよ模範解答を言われてしまうだなんて」

「えっ……そ、そんな模範解答だなんて……」

 暫く黙り込む男性だった。その間も真野に対する視線を一ミリ足りともずらさなかった。まるでその様子は、獲物を捕らえようとしているライオンの様であった。

「まぁ、今はそう思っているという事にしておきましょう」

 そう言った男性の目は、元のような優しい目に戻っていた。真野は、体中が緊張で強張っていたのが解けていく。

「えっと何を話そうとしていたんでしたっけ? あっそうそう。私が真野くんの元へと行けない理由でしたね。因みに普通に見えているようでも実際はそんな場所なんて存在しないものって信じられます? そうですねぇ~。真野くんが知っているもので例えるなら空気中の水滴によって光が屈折して起こる現象として七色の虹や温度の異なる空気の層に光が屈折してまるで遠くの方に街がある様に思わせる現象として蜃気楼がありますよね。目には映っているのに実際はそこに何かがある訳では無い。簡単に言えばそういう事になりますでしょうか」

「つまり今此処にあるものは実際には無いものという訳なんですか?」

「いえいえ違いますよ。真野くんの目の前に居る私やそこの机や椅子、本棚に並べられた書籍に触れる事も出来ますし、読む事だって出来ます。さっきの話は、分かり易く説明しただけですので、実際の原理になってしまいますとちょっと難しい話になってしまうんですよ。なので、今はそんな感じ程度の認識をして頂ければ結構です。ただ真野くんの目の前に居る私は、真野くんの世界では存在していません。存在していないものがそこに存在するというのは原理の法則から外れてしまうのです。だから真野くんの居る世界を見る事は出来ても行く事は出来ないのですよ」

「そうなんですか。じゃあどうして俺は、此処に居られるんですか?」

「あっ、いい質問ですね! それは結構簡単な事なんですよ。まず私の居る見えているようで実際には存在しない世界がゴルフボールだとすると、そのゴルフボールを中に包み込む様な形でソフトボールがあるとします。このソフトボールは勿論、真野君が居る世界の事ですよ。ソフトボールの存在は、その中を自由に移動する事が出来ますが、ゴルフボールの世界はあくまでもゴルフボールの中だけの世界なのです。少しでも殻を突き抜けてソフトボールの中に入って行ってしまう事は出来ないのです」

「ちょっと例えが微妙だけど……でも、何と無く分かった様な気がする」

「少しだけでも世界の仕組みを理解して頂けたなら良かったです。それでは真野くんが今、目の当たりにしている問題の話に入りましょうかね」

 気付かない間に不思議な事に巻き込まれてしまった真野がどうしてこんな事になってしまったのか、本当の理由を男性の口から聞ける時がきた。だが、真野はまだ気になる事が残っていたのだった。

「早く聞きたいとは思っているんですけど、その前にちょっと質問しても良いですか?」

「そうですね。さっきから私の話ばかりで真野くんだって疑問に感じてる事がある筈ですもんね。私が知っている事でしたら何でも聞いて下さい。プライベート以外でしたら全て答えますから」

(何か突然ボケたけど、何と無く真剣に言っている様な気もするし……突っ込んだ方が良いのかな?)

 先程、本屋から鋭い目で見られてしまい、また変な事を言って怒らせてはいけないと思った真野が何も言えずにいると本屋が不思議そうに質問してきた。

「あれ? ずっと真剣な話ばかりでは気が持たないと思って、ボケたつもりなんですけど気が付かなかったですか?」

(やっぱりボケてたのか!!)

「えっとですね。何でも聞いて下さいって言ったのに、プライベートはダメなのかよ! 的なボケだったんですよ」

(しかも何をボケたのかを説明してる! っというよりプライベートを聞けない事を俺が残念に思っているように聞こえる! ……本当に不思議な人だな)

 不思議な人物だという事は、路地を抜けて此処に来た時から感じていた事ではあったが、話していくうちに更に謎は深まっていくばかりであった。

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