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第二話 闇と記憶 -2-

画面上に送られてきたメールが表示される。

『あ、あの……昨日は有難うね。真野くんが助けてくれたお陰で私凄く元気になれたよ。まさかあんな事を真野くんが言ってくれるだなんて思わなかったから正直びっくりしちゃった。でも、とても嬉しかったよ。あと、私が頼んだ事引き受けてくれて有難うね。真野くんと一緒ならきっと素敵な時間に出来ると思うんだ。私と同じで真野くんも好きで本当に良かった。じゃあまた近い内に連絡するからね』

(い、一体何があったんですか? 昨日の俺、何をやらかしてしまったんでしょうか? これまで友達すらも居なかった俺にどれ程の飛び級が行われてしまったのだろう? このメールの内容ってあれだよな……良く世間一般にいうあれだよな……か、か、かじょっ!! うっ……心の台詞なのに噛んでしまった。この世広しといえど心で舌を噛んだのは俺の他に誰も居ないだろうな……って話が反れてしまった! こんなメールは彼氏彼女の遣り取りの様に感じてしまうのは俺だけだろうか? ちょ、ちょっと一先ず落ち着いて考えるんだ。えっと差出人は誰だ?)

 手に持った携帯の画面に表示されている文章を最初に戻そうとするが、『終話』ボタンを間違えて押してしまう。

(あっ! 画面を戻してしまった! ヤバイぞ! 俺は携帯に疎いから表示されたメールを見る事は出来るが、何も表示がなくなってしまった状態からメールを開くにはどうしたら良いんだ? まだ差出人を確認出来てないんだぞ! 昨日から俺とどんな関係になってしまった人物なのか確認しないといけないのに……仕方無いこういう時は、苦手だけどあいつに頼むしかないな……)

 気が進まない感じで頭をボリボリ掻くと手に持った携帯電話を閉じて、部屋を出て行く。そして向かいの部屋の前まで行くと一回だけドアを叩くというより思い切り殴りつけた。その突然の音に驚いたのか部屋の中からドスンという音が聞こえた。ベットから落ちた音だった。若干唸っている女の子の声がした。

「もう~~~いきなり何よ! 普通に起こしに来れないの?」

「あっいや、ごめん。大好きな妹に会えると思ったら、無性に嬉しくなってしまって軽めのスキップをしていたら、角に躓いて思い切りドアにぶつかってしまったんだ」

 そうドアの向こうに居る妹に言うと、急いでドアの方へと近付いて来る音が聞こえたかと思うとドアが開き、妹が抱き付いて来た。

「お兄ちゃん大丈夫だった? もうっ! いくら可愛い妹に会えるからってそんなに浮かれて怪我でもしちゃったらどうするの? 私はいつだってお兄ちゃんの傍に居るんだから安心してて大丈夫なんだからね!」

「そっか。それを聞いて安心したよ。ところでお前に頼みがあるんだけど良いか?」

「お兄ちゃんが私に頼み事をしてくれるだなんて凄く嬉しいよぉ! 何でも聞いてあげちゃうんだからぁ」

 携帯を妹の目の前に差し出す。

「何かついさっきメールが届いたんだけど、ボタン間違えて表示を消しちゃったんだよ。だからメールの文章を出して欲しいんだ」

 急に妹の態度が急変し始めるのだった。

「……メール? お兄ちゃんにメールが届いたの? 友達も居ないお兄ちゃんに誰がくれたの? もしかして女とかじゃないよね?」

「いや……その……本当は内緒にしておきたかったんだけど、お、お前にプレゼントを買おうと思ってて。だから携帯で色々調べてて、その情報メールが届いたんだよ」

 明らかに咄嗟の口から出た出任せであった。目は泳いでいたし、じんわりと額に汗も滲んでいた。真野のそんな姿を見た妹は顔を俯かせてしまった。この瞬間、流石に怪しまれてしまったと心臓が胸から飛び出さんばかりの心境になってしまった。しかし、再び顔を上げた妹の目には涙が浮かんでいた。

「お兄ちゃん……私の事をそんなにも大切に想ってくれてたんだね。大丈夫だよ! ちゃんとお兄ちゃんの気持ちはいつだって伝わっているんだからね! 私の為に機械オンチですらも気にしないなんて流石大好きなお兄ちゃんだ。 分かった。携帯貸して。例え私の命に代えても届いたメールの文章を出してあげるからね」

(そんな危ない作業なのかよ? いやぁ~自分で何とかしようとしなくて良かったな。危うく自分の命を危険に晒してしまうところだった……って大袈裟にも程があるぞ!)

 どんな関係なのかは疑問に感じてしまうところだが、真野のちゃんとした妹なのである。少しばかりお兄ちゃんの事を好き過ぎなだけである。だからと言ってここまで合わせる必要はあるのか? お前、もしかしたら途轍もないくらいのシスコン野郎なんじゃないのか? そんな声が聞こえてきそうであるが、この妹は自分の思う様にいかない事には全力の実力行使に打って出るのだ。勿論兄妹だろうが、関係無く命を狙って来るだろう。

 携帯を手渡すと妹は慣れた手つきで弄り始めるのだった。そしてメールの文章が表示された瞬間、真野は妹の手から奪い取って自分の部屋へと消えて行った。突発的な行動に一瞬に何が起こったのか分からない感じの妹だったが、ニコッと笑って言う。

「うふっ。もう、お兄ちゃんたら……私へのプレゼントどんなのにするか秘密にしておくつもりなのね!」

 勝手な思い込みによって満足した様子で妹も自分の部屋へと戻って行った。

 一方、何とかメールの文章を画面上に表示させる事に成功した真野は、ドアに耳を当てながら妹が大人しく自分の部屋へと戻って行った事を確認していた。

「ふぅ~結構強引な理由付けだったけど、馬鹿な妹で助かった……さてっと、一体誰から送られてきたメールだったのかな?」

 携帯画面に視線を向けるとそこに表示されてた名前に驚いてしまうと共に何と無くメールの文章から薄々気付いていた人物と一致する事になる。


 河原朱華


「あぁ……」

 思わず声が漏れてしまう。やっぱりお前だったのかという気持ちも込められていたかも知れなかった。初めて見る名前に違和感を感じてしまっていた真野だったが、自分自身の周りに居る人間の中で河原という苗字を名乗っているのは一人しか居ない。同じクラスメイトのあの河原という事になる。

 一つの謎が解けて安堵の表情を浮かべる間も無く次の新たな謎が真野の脳裏に浮かんでくる

のだった。

 メールの差出人が誰かという事は分かったが、どうして河原が自分のメールアドレスを把握しているのか謎に思う。しかし、こういうのは意外と簡単に解決してしまう謎だという事に気付く。直接本人に聞いてしまえば良いだけの話なのだから。

 真野は、返信ボタンを押してメールを作成する。

『真野です。ちょっと質問したい事があるので二、三伺います。まず、一つ目に皮腹って俺の知っている皮腹で合っているんですよね? 二つ目にいつ何処で俺のアドルスを知ったのでしょうか? そして三つ目に昨日の俺、何か変な事言ったりしてなかったですか?』

 文章チェックした後、送信ボタンを押して送信完了の文字が画面に並ぶ。

(さて、どんな返事が来るかな。質問内容からしても回答するには多少の時間が掛かってしまうだろう。ベットに横になってテレビでも見ながら待つか……)

 つけっ放しにしていたテレビ画面に目を移すと、ベットへと向かう途中にある机の上に携帯電話を置こうとした瞬間、異様なまでに光始めたのだった。

(な、な、何だこの現象は? メールとは違うぞ! 鮮やかなまでに光り輝くこのイルミネーションは一体……まるで携帯電話自体が踊り狂っている様だ!)

 あまりの変貌振りに驚いてしまっていると携帯の光が治まった。しかしまだ、時折点灯している状態を不思議そうに見詰めた。突然の事で自分でも分かるくらいに心臓が高鳴っていた。何とか気持ちを落ち着かせようと大きく息を吸い込んでみる。

(今まで携帯が作動する事なんて無かったのに、今日は一体どうしたというんだ? やはり不吉な何かに取り憑かれてしまったのだろうか?)

 考えはマイナスな方向へしか傾いていかなかった。そうなってしまうのも無理もない話である。真野の記憶上では木曜に学校から帰って来るまで何の変哲も無い毎日を繰り返していただけなのだ。誰とも話す事も無く、誰とも接点を持とうともしない。けれど勘違いをしないで欲しいが、真野がどうしようもなく嫌われ者でみんなから迫害にあっているから自ずとそうしなければならいという訳では無いのだ。自分でそれが一番楽で幸せな日々の過ごし方だと考えているからだ。まぁ、妹の異常な兄への監視によって受けた影響はこの際置いておくとして、兎に角望んで誰とも仲良くしていないのが紛れも無い事実なのである。

 そんな真野の携帯電話が今まさに作動しっ放しという異常事態を起こしているのだ。内心穏やかで居られないのも頷けてしまうのだ。

 やっと心拍数も安定してきたのが自分自身でも感じられるくらいに戻った。

(さっきの異常な動作は一体何だったのだろうか? 壊れたにしてはそんなに乱暴に扱った記憶は無いぞ……っというか扱った事自体皆無に等しいのだから……)

 困惑の表情を浮かべながら携帯電話を眺める。ふいに開いて画面を見た時、驚愕の事実を目の当たりにする事になった。

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