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第一話 闇と記憶 -1-

いつの間にか自分の部屋に居る状況が未だに飲み込めない真野は、自分の見慣れた部屋の中を隈なく見回した。

(俺の……部屋だよな?)

 確認する事が出来ると視線を机の上に置かれたデジタル時計へと向ける。

 十一月十四日――土曜日

(あれ? もう土曜日になってる……って事は学校が休みだ。でも、昨日の記憶が全く無いのは何故だ? さっき見ていたのは夢だよな?)

 記憶が曖昧になってしまっている自分の頭の中を整理するが、やはりどうしても金曜――つまり昨日の記憶だけが無い。一昨日までの記憶は、しっかりと憶えているのに疑問を感じずにはいられなかった。

 とは言えまだ何か忘れている様な感じがする。

(昨日は木曜だったよな? だけど、時計には今日が土曜と表示されている。っと、なると昨日は金曜だったのか? いや、そんな筈は無い。授業はちゃんと木曜の時間割通りに行われていた。事前に時間割が変わると言われた記憶は無い。それに帰宅していた時に駅前の商店街で安売りをしていた。毎週木曜に決まって行われる事だ。しっかりとこの目で見たんだから間違いないだろう。じゃあ何故今日が土曜になっているんだ……あっそういう事か! それなら納得がいくぞ。元々長年使っていたからなぁ。壊れてしまっても何一つ可笑しい事じゃ無い)

 全ての謎が解けたかの様に目の前にある時計に手を伸ばした。

(まさかこんな単純な事で俺が朝から振り回されてしまうなんてな。っと、なると学校に行く為に準備しないといけない)

 椅子から立ち上がった真野は、横に置いてあったリモコンでテレビの電源を入れると壁に掛けられた制服を手に取るとある事に気付く。薄っすらと砂でもかけられた様に白くなっていたのだった。疑問に感じた真野だったが、軽く叩くとハンガーから取り、ベットの上に置いたのだった。そして徐に着ている服を脱ぎ始めるとテレビへと視線を移す。

『お早う御座います。十一月十四日土曜日朝のニュースをお送り致します』

 穿いていたズボンを膝まで下ろした状態のまま固まる。

(……ちょ、ちょっと待てよ! 今何って言った? 十四日の土曜日って聞こえたけど、俺の聞き間違いじゃないよな? 一体どうなってるんだ?)

 再び下ろしたズボンを上げると、部屋を出て行く。階段を下りて一階まで行くと丁度母親が洗濯カゴを持って歩いて来た。

「あら、今朝は随分と早起きなのね。それとも今日は何かあったかしら?」

「……今日は何曜日?」

「えっ? いきなりどうしちゃったの? 十四日の土曜日だけど?」

(やっぱり何も間違っていなかったんだ。机の上にあった時計も正確だったし、朝のテレビで言ってた事も本当の事だったんだ……唯一俺だけ今日が土曜って事を知らなかったんだ)

 急に黙り込んだ真野に母親が不思議そうな表情を浮かべる。

「ど、どうしちゃったの? 今日が土曜だと何か都合が悪かったの?」

「俺……木曜はちゃんと学校行ったよな?」

「うん。行ったわよ」

「でも、それって昨日の事じゃないんだよな?」

「まぁ、昨日は金曜だからね」

「じゃあさ。昨日もちゃんと俺、学校行った?」

「本当にどうしちゃったの? 今週は月曜から金曜まで休まずに学校行ってるじゃないの」

「そんな筈無い! 昨日は木曜で学校に行ったけど、金曜は学校には行ってない筈だ!」

「え? え? 何が? 昨日は金曜よ? 木曜は一昨日よ。一体どうしちゃったの?」

 母親との会話は余計に混乱を招くだけだった。何がどうなって昨日の木曜が金曜になってしまったのか理解出来なかった。だが、昨日が木曜だというのは真野の勝手な思い込みに過ぎないのだ。正確に言うなら昨日は金曜でその前が木曜である。木曜の記憶はあるが、朝から夕方過ぎの学校から帰ったくらいまでだった。次に繋がった記憶はというとつい先程、本の上に顔を落としていたところからなのだ。

「……何でも無い」

 呟く様に言った真野は母親に背を向けると下りて来た階段を再び上って行った。その様子を首を傾げながら見詰めていた母親からは、どこか心配そうな雰囲気を感じた。

 一歩一歩階段を上がると部屋のドアを開けて中に入って行く。

(こんな事ってあるのか……記憶が無いのに普段と変わらず生活をしていただなんて本当にそれは俺自身だったのか? 違う……何かが俺とすり替わって一日過ごしたとしか思えない。だけどそんな摩訶不思議な現象が起こったりするものなのか? 兎に角、昨日の俺が何をしてたのか突き止めなければ……)

 昨日の自分探しをしようと思った真野は、机の上に置かれた携帯電話を手に取った。

(きっと誰かに連絡なり、メールなりしている筈なんだ。その相手に連絡して聞けば何か少しくらいは分かる事が出来るだろう)

 画面を開いた真野は、ある事に気付き落胆してしまう。

(……そう思ってみたものの……俺誰とも連絡なんて取った事無いじゃん。いつも一人で話なんてしてる訳無いのに、昨日に限って携帯電話が活躍してる筈が無いよな……)

 何か手掛かりが掴めると思い歓喜していたのも束の間、一瞬にして奈落の底へと突き落とされてしまった様な気持ちになってしまう。

 パタンと閉じた携帯電話だったが、同時にメールが届いた。咄嗟に顔を上げると、片手で閉じた携帯を両手でゆっくりと開いたのだった。今までにこれ程までに丁寧に扱った事があっただろうかと思える程の丁寧さであった。しかし、メールの通知は喜びに値するが、気になるのは誰が送ってきたのかという事であった。真野は無口を通り越して誰とも朝の挨拶すらも交わす事は無いのだ。接点の無い人物からメールが送られて来るなど、これ程までに無いくらいの恐怖が襲ってきても可笑しくないのだ。その事に気付いた真野は、『決定』ボタンを押せずにいた。もしかして開いた瞬間、得体の知れない呪いが一斉に襲い掛かってくるかも知れない。だが、ボタンを押す以外の選択肢は残されてはいない。自分が昨日何をしていたのか突き止める為にも情報提供者が必要なのだ。手の中にある携帯電話に届いた一通のメールは今にも切れてしまいそうな程に細い糸だったが、唯一の手掛かりと言えるだろう。下手すれば蚕が紡いだばかりの繊細な糸が地球最大生物である鯨でさえも一本釣り出来てしまう程の強力な糸へと変貌を遂げてしまうかも知れないのだ。小刻みに震えている人差し指をボタンの上に置いた。そのまま深々とボタンを奥へと押し込んでいくのだった。

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