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第二十話 雪と現実 -4-

路地の前に立ち止まり考え込む真野は、通り過ぎていく人達から見ると不思議な高校生に見えてしまっていただろう。

 向こう側まで真っ直ぐ延びた先には小さな光が見えていた。向こう側に何があるんだろうかと真野は若干興味を持ち始める。そして一歩、路地へと踏み入れるのだった。ゆっくりと突き進んで行くうちに周りの光は遮られてしまい、薄暗い中を歩いていた。

(うえ~やっぱり気持ち悪い! 入って来るんじゃなかったかな……でも、此処で向きを変えたら壁に体を擦り付けてしまいそうだしなぁ……仕方無い。あと少しで向こう側だから我慢しよう)

 目の前まで迫って来た向こう側の光が異様に眩しく感じた。まるでずっと監獄に閉じ込められていた囚人が死に物狂いで見付けた抜け道を通って脱獄に成功した瞬間のようにも思えてしまうくらいだった。だが、監獄に閉じ込められた経験がある訳では無い為、あくまでも想像上での感想になってしまう。

あと少しになった最後のところで少し焦ってしまったのか早足になった真野は踏み出した足が横の壁に当たってしまい、体勢を崩してしまう。

 此処で倒れてしまったら、湿気を帯びて黒くなってしまっている土に制服や手を汚されてしまうばかりか、下手をしたら顔面強打をして顔にも土が付いてしまうと一瞬で危険を察した真野は、両手を壁に押し付けもう一本の足で力強く地面を後ろへと蹴ったのだった。その勢いで体は前へと押し出され何とか路地から抜け出す事が出来たのだった。

(危なかったぁ~もう少しで全身を汚してしまうところだったなぁ……)

 脱出には成功した真野だったが、崩れた体勢まで戻せる訳も無く、そのまま前へと倒れ込んでしまうのだった。

(ま、まぁ……路地の中でなるよりかはマシだよな……)

 うつ伏せ状態で倒れていた真野の目の前に突然足が現れる。

「う~ん。どうしてしまったのですかねぇ? こんな勢い良く路地を抜けて来られるなんて余程此処に来る事を楽しみにして頂けてたという事でしょうか? そんなに焦って来られなくても此処は滅多に人なんて来ない場所なので安心して下さい。それより早く起き上がらないと、いつまでもそんな所で倒れていたら制服が汚れてしまいますよ。さぁどうぞ私の手に掴って下さい」

 優しい声の男性は、そう言うと目の前に見えている足の前へと手を差し出してきた。少し驚きながらも差し出された手を掴むと力強く体を起こしてくれる。

「う~ん。お怪我はありませんか? 此処まで来る手段はあなたの後ろにある細い路地だけしかありませんので、足元に気を付けて来られないと危ないですよ。兎に角、此処『幻逝膏文堂』にようこそお越し下さいました。私はこの店の店主をさせて頂いておりますモトヤと申します。漢字で書くと『本屋』となりますが、決してホンヤでは御座いませんので、そこのところ宜しくお願いします」

「幻逝膏文堂? えっと……此処は一体何のお店なんですか?」

「主に書物を取り扱っておりますよ」

「書物……って事は本屋ですか?」

「いえ、ですからモトヤと申します」

「あ、はい……それは分かっています。で、本屋ですよね?」

「いや、だからモトヤですから」

「……モトヤさん。此処は書物屋って事で良いんですよね?」

「やっと分かって頂けましたか。はい。あなたの仰る通り書物を主に扱っておりますから」

(こんな誰も知らない場所に本屋なんて出来てたんだ……でも、見た感じ既にボロボロでお客さんが来ている雰囲気が全く感じられないな。多分すぐ潰れるんだろうな。まぁ、俺には本なんて興味無いものだからこの店が潰れようが関係無い事なんだけどな)

 確かに真野が思ったように建物自体は古くからあるような感じがした。柱や壁のペンキは剥がれおり、看板すらも何が書いてあるのか読み取れない程に傷み切っていた。言葉綺麗に表現するならば趣があると言えるだろう。しかし、逆に目に入ってきたそのままを一言で言うならば廃墟であろう。

 本屋である事が分かった真野は、拍子抜けしたような気持ちになった。多分、もう此処に来る事は一生無いだろうと思ったに違いない。

 先程、倒れてしまったせいで制服に砂が付いて汚れてしまった事もあってか、早くこの場を後にしたい気持ちを我慢して、ずっと気になっていた事を本屋に質問した。

「あの、俺が此処に来る前に誰か来たりしませんでしたか?」

「う~ん。誰かねぇ~……来たような来てないような気がしますね」

(そんな悩む事なのか? ついさっき此処には滅多にお客さんは来ないって言ったばかりじゃねぇかよ……)

「あっ! もしかしてあの子の事でしょうかね?」

 建物に付けられている窓へと指を差す本屋。そこには女の子が椅子に座って本を読んでいる姿があった。その瞬間、脳内で朧気であった路地へと入って行った人影と重なったのだった。

 肩下まである髪を耳へと掛け、大きなレンズをしたメガネをした綺麗な女の子だった。窓からなので上半身よりもう少し上辺りくらいまでしか見る事は出来なかったが、御淑やかな様子が感じられた。しかし、どうしてこんな綺麗な女の子がこんな薄汚れて今にも潰れんばかりの雰囲気を醸し出しているボロボロ書物店に訪れたのか疑問に思うのだった。

「う~ん。たまたま見掛けた女の子が気になり、後を追い掛けて来たら此処に辿り着いたって感じですかね?」

 いつの間にか後ろに立ち、耳元で呟く様に言ってきた本屋に驚いた真野は咄嗟に体を横に仰け反らせた。

「そ、そんな訳無いじゃないですか」

「ふふふっ別に隠さなくても良いんですよ。突然心を奪われるなんて事は学生時代誰もが経験するものなのですから」

「だ、だからそういうのじゃないんですって」

「う~ん。まぁ、あなたがどんな気持ちになっていようが、私には全く興味の無い事ですからあなたがそう言うならきっとそうなんでしょうね。では、此処には一体どんなご用件で来られたのでしょうか?」

(そんな突き放し方あるのかよ。興味津々になられても困るけど、全く無いとまで言い切られるのもそれはそれで嫌だな……どんな用件でって聞かれても用なんてある訳無いじゃん。此処が書物屋だなんて今知ったんだから。でも、何か答えないと面倒臭そうだしなぁ~……此処はやっぱり当たり障り無い感じに答えた方が良いよな)

「実はこの辺りに引っ越してきたので、学校から帰るついでに色々見てみようかなって思ってたら、此処に来てしまったんです」

「う~ん。それは嘘ですね」

 いきなり嘘とバレてしまい驚いてしまう真野だった。

「えっ……何でそんな事分かるんですか?」

「だって真野くんが嘘付く時は、必ず右耳が赤くなるんですよ」

「そ、そんなまさか」

 咄嗟に右耳を手で覆う様に隠す真野。すると本屋は笑いながら言う。

「ふふふっ嘘ですよ。そんな訳が無いじゃないですか。だって私、真野くんと会ったの今が初めてなのにそんな隣に住んでいる幼馴染が知っているような事を私が知っている訳が無いじゃないですか。ちょっとしたカマを掛けてみただけです」

「うぅ…初対面の人を騙すなんて酷いですよ。もう帰ります」

「う~ん。気分を悪くさせてしまいましたかね。どうも済みませんでした。ですが、真野くんが最初に嘘をついたんですよ。因みにこれは本当の事なんですけど、真野くんの制服はどっからどう見ても着慣れている感じがしますし、仮に転向して来てまだ正式な制服が無く、前の学校のままの制服を仕方無く着ているとしてもこの辺りにある学校の制服を着ている訳がありませんからね」

(この人……地元の学生の制服がどういうのか把握しているって事なのか? もしかしてめちゃめちゃ危ない人なんじゃないのか? っていうか、よく考えて見たら此処って学生が通学路として使っている道に面した路地の先にある場所…………益々怪しい)

 知らず知らずのうちに考えていた事が表に出てしまっていた真野は、疑惑の表情を浮かべていた。すると本屋が切り出してきた。

「う~ん。やっぱりあの女の子の後を追い掛けて来たっていう線が濃いかな?」

(興味無いって言ってたのに本当はやっぱり気になってたんだこの人)

 先程から拍子抜けさせられる事ばかりで精神的に疲れてしまった真野は苦しい言い訳をするのが面倒臭くなり、正直に話すのだった。

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