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第十四話 光と過去 -2-

食べ終わった食器を手に立ち上がると流し台の中へと置き、水道の蛇口を捻って水に浸す。ダイニングから出て行く際に明かりを消して階段を上って行くと、またしても妹が部屋から丁度出てきたのだった。

「お前! まだ起きてたのかよ?」

 突然の声に驚く妹だったが、目を擦りながら言う。

「お兄ちゃん違うよ。ちょっとトイレで起きちゃっただけだよぉ!」

「また寝る前に何か飲んだだろ?」

「えへへっ……ジュースをちょっとだけ……」

「夜中にトイレで起きちゃうから寝る前は飲むなって言ってるのに」

「だって喉渇いちゃったんだもん! 仕方無いじゃん! っていうか、お兄ちゃんだってこんな時間に御飯食べてた癖に」

「俺は夕方食べれなかったから良いんだ。そんな事より早くトイレ行って来いよ。また漏らすつもりなのか?」

「ひっど~い! またってどういう事? 私、漏らした事無いもん!」

「小さい頃はよく漏らしてたじゃないか」

「もう小三なんだよぉ。いつまでも小さい頃の事を言わないでよ! お兄ちゃんの意地悪っ」

「良いからさっさと行って来いよ! 俺、もう寝るぞ」

「イ~~~~~~だ! 言われなくても行くもん!」

 階段を下りて行く妹を横目に自分の部屋へと入って行くと、暗闇の中で携帯電話のライトが点滅している事に気付く。部屋の明かりを点けると共にドアを閉めてベットの上に置かれた携帯電話の元に行き、手に取ると開いて画面を見る。するとメールが二件入っていたのだった。

(こんな遅くに電話やメールをしてくるなんて一体何処のどいつだよ。って、まぁ俺の携帯番号とアドレスを知っているのなんて二人しか居ないんだけどな。しかもそのうち一人はアドレスを知らない訳だから自動的にメールは一人だけに限定されてしまうんだけどな。取り敢えずメールを先に確認しとくかな)

 すっかり慣れた手つきでメールを読み始める真野であった。

『真野くん。どうもこんばんは。本屋です』

(えっ! な、何であのおっさんが俺のアドレスを知っているんだ?)

『驚いたでしょうか? さて、ここで問題なんですけど、私はどうして真野くんのアドレスを知っているのでしょうか?』

(そんなの河原に聞いたに決まってんじゃん!)

『まぁ、そんな事は別に気にするような事でも無いでしょうから置いておきましょう』

(問題なのに答えないのかよ! しかも『そんな事』って結構重要な事だぞ!)

『今日は、態々お店まで来て貰い有難う御座いました。正直な所、勝手に勘違いして帰ってしまって一体何の為に来たんだろうって思ってしまったんですけど、そんな事を思ってしまったなんて言える筈も無いのでこれはメールに打たなくて良いですね?』

(既に文章として打ってるから……っていうか心の中で思っている事を全て文章にしなくていいからメールっていうのは……)

『長々と無駄話をしてしまいましたが、本題に入らせて頂きます。今日夕方頃にまた本の力を使って、幻逝膏文堂にいらっしゃいましたよね。そして河原さんと仲良くバイトをなさってましたよね。私も一緒に居て、色々お話をさせて頂きましたが、まだ全部を話す事が出来た訳では無いのです。それは真野くんも分かっていると思います。河原さんも言っていましたが、正直真野くんはとても危険な状況に居る訳です。私としては河原さんの頼みもある事ですし、真野くんを助けてあげたいと思っているのですが、どうでしょう? 明日もう一度幻逝膏文堂にいらして、今度こそちゃんとお話をさせて頂きたいと思っているのですが。自分自身の事ですので、無理にとは言いませんので一晩良く考えて頂いてから来る来ないの判断をして下さい。因みに私自身は真野くんがどうなろうと別に構わないんですが、河原さんがとても心配しているんですよね。まるで自分の事の様に真野くんの事を考えてくれています。こういう話は先程まで食事をされていた真野くんには少しばかり耳の痛い話になってしまいましたでしょうかね。余談が過ぎましたが、明日幻逝膏文堂でお待ちしております。それでは失礼致します』

 やはり本屋の言葉には奇妙な感覚を覚えてしまうのだった。まるで何処かで見ているかのような言い回しをする辺りが余計にそういう感じにさせてしまうのかも知れない。

 真野は、複雑な心境になってしまっていたが、もう一通のメールの方にも目を通す為、開くのだった。

『あっそうでしたそうでした! 大事な事を言い忘れてしまっていましたので、再びのメールです』

(またあんたかよ! 普通に今度は河原からだと思って安心し切っていたから、不意打ちを食らった様な気分だよ!)

『くれぐれもあの本を開く事は無いようにして下さい。本来なら今日来て頂いた時に言うべき事だったのですが、人間という生き物は禁止されたものをどうしても破りたくなるような衝動に駆られてしまいますので、敢えて言わないでおいたのですが、まさか家に帰るなり真っ先に不思議な出来事の発端となった本を開くなんて私でも予想出来ませんでした。なので、今度はちゃんと肝に銘じておいて下さいね。何があっても絶対に本を開かないで下さいね。それでは今度こそ本当に失礼致します』

 内心がっかりしたような気持ちになった真野。まさか届いたメール二通とも本屋だなんて思いもしなかったからだ。

(アドレスを知らなかった癖にいきなり二通も送って来るんじゃねぇよ! しかも長文を打って来るなんてお前は女子高生レベルの打鍵の持ち主か!)

 何か特別な事をした訳では無かったが、どっと疲れが押し寄せてきた。起きてから御飯を食べてメールを読んだだけであった。しかし、既に真野はベットの上で横になっていた。

(にしても明日もう一度来いってか……メールの内容からして基本的にはふざけているように感じたけど、意外と切羽詰っている様子も感じられたからなぁ。俺が危険な状態ってどういう事なんだよ? ただ眠って夢を見ているだけじゃん。まぁ、その夢が実際に起こってるっていう事自体が確かに不思議だし、体に異常を来してしまっているのかも知れないけど……何か嘘臭いんだよな……人を信じる事なんて馬鹿げてるよなぁ……)

 本屋のメールに書かれていた言葉を信じる事が出来ずにいた真野は、未だに迷っていた。っという以前に全ての事を信じられずにいたのだった。

 ボーっと天井を見ながら自分がどうするべきなのかを考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえたのだった。

(何だ? もう母さんと妹は眠っている筈だぞ……ま、まさかあのおっさんが言ってた俺が危険な状態っていうのは何かの呪いがかけられているという事なのか? そして今まさに死神か悪魔が俺の命を奪いにやって来たというのだろうか……)

 空気が凍り付き、時間が止まってしまったように感じた。心臓は、胸を突き破って出てきてしまうくらいに脈打っていた。ドアを開けた瞬間に果たして何が待っているのか恐怖が真野を襲っていた。

 ベットから下りるとゆっくりと足音をさせないようにドアに近付いて行く。そしてドアに耳を当てて向こう側の様子を伺ってみるが何も聞こえなかった。恐る恐るドアノブを握ると、そおっと回した。すると自然とドアが開いていくのだった。唾を飲み込むと隙間から顔を出すとそこに居たのは妹だった。

「お兄ちゃん寝てた?」

「……何だよ。お前か……どうした?」

 ドアをノックしてきたのが妹だと分かり、安堵の表情を浮かべる。しかし真野の言葉に違和感を感じてしまった妹は突っ込んでいく。

「あれ? お兄ちゃん、お母さんだと思ったの?」

「別にそんな事は思って無いけど、どうしてだ?」

「だってその反応、まるで私じゃないと思ってたみたいだから。ならこの家に居るのはお母さんかなって思ったの。それとも違う誰かかと思っちゃったの?」

「そんな事を思う訳無いだろ。特に深い意味なんて無いんだから気にするんじゃねぇよ!」

 異様に突っ込んでくる妹の事を若干面倒臭く感じてしまった真野は、ついつい言葉が乱暴になってしまう。

「っていうか、お前今何時だと思ってるんだよ。早く寝ろって言ってるだろ!」

「……うん、分かってるよ」

「ならさっさと自分の部屋に戻れよ」

「……うん、そうなんだけど……」

 煮え切らない反応を繰り返す妹だった。何か真野に対して言いたい事があるみたいなのだが、どうしても切り出せずにいた。真野もそんな妹の態度に困ってしまう。

「何か俺に言いたい事でもあるのか?」

「言いたい事……って訳じゃないけど……」

「もうっ一体どうしたんだよ? はっきりしない奴だなぁ! 何も無いなら自分の部屋に戻れよ!」

「…………分かった。お兄ちゃんごめんね。私、部屋に戻るよ……」

 落ち込むようにそう言った妹が立ち去る前にドアを閉めてしまう。

(何なんだよ? あれじゃまるで俺が悪いみたいじゃないか……どうしたら良かったって言うんだよ……どうして欲しかったって言うんだよ……ああぁ! めっちゃ後味が悪いじゃんさっきの!)

 妹の反応は明らかに何か言いたそうであったし、何かを求めていたようにも感じられた。しかし、それがどういうものなのか真野自身には検討もつかなかった。

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