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第十二話 嘘と疑問 -4-

色んな事が頭の中を巡っていたが、敢えて考えないようにしているうちに、いつの間にか真野は眠ってしまっていた。きっと今回は何事も起こらなかったのであろう。夢を見ていたという感覚も無いまま、目を覚ますと薄暗かった部屋の中がすっかり真っ暗になってしまっていた。何処に何があるのかも分からない程であった。手探りで頭元に置いてある目覚まし時計を手に取る。普通なら携帯画面を開くところだが、周りが見えない事を考えるといつも決まった場所に置いてある時計を探す方が容易いと思ったからだ。しかもこの目覚まし時計は横に付いているボタンを押す事によって盤面が光る様になっていた。敢えて別の光を当てる必要も無く、とても見易い構造となっている。

 盤面を光らせ時刻を確認する。微かに光る程度なのだが、ずっと暗闇の中で眠っていた真野にとっては、若干眩しく感じたがそれもすぐに慣れてしまう。

十時十三分――五時間が経過した事になる。確かに空腹を感じてしまっている事に気付く真野。それもその筈だ。朝起きてから何も口にしていなかったからだ。幻逝膏文堂に行った際も嫌がらせの様に出された熱々のコーヒーも一口すら飲まなかった。まさに飲まず食わずとはこの事だと身を持って実感したのだった。

ベットから起き上がり、足を下ろし立ち上がるとドアの方に向かって歩き出す。微妙に隙間から階段の電気が点いている事が分かった。

(明日も休みだからってこんな時間まで起きてやがるな)

 寝起きで少し機嫌が悪かった真野は、ドアを開けて出て行くとそこに丁度妹が通り掛かったのだった。

「あっお兄ちゃん!」

「お前、どうして夕飯の時に起こしに来てくれなかったんだよ?」

「えぇ、起こしたよ私! このドアの前で何回も呼んだけど全然返事無かったからお母さんが『きっと良く眠っているんだと思うからそのうちお腹が空いたら起きて来るでしょ』って言ってたから起こすの止めたの」

「……そんなに起こしてくれたのに俺起きなかったのか……」

「でも、ちゃんと御飯ならテーブルの上に置いてあるからレンジで温めれば大丈夫だよ」

「ふぅ~ん。そっか……じゃあ、俺は一階に下りて食べてくるけど、幾ら学校が明日も休みだからって遅くまで起きてたらダメだからな」

「は~い! 分かってるよお兄ちゃん。今から寝ようとしてたところなんだから」

「なら良いけど、じゃあお休みな!」

 一階に下りて行こうと体の向きを変えようとした真野だったが、妹が腕を掴んでいた。

「ん? どうした?」

 振り返って妹を見ると、目を閉じて少し上を向くような体勢になっていた。

「目にゴミでも入ったのか? ったく仕方無いな……」

「違うよ。これから可愛くて大好きな妹が寝ようとしてるんだからお休みのチューは?」

 咄嗟に大声になってしまう。

「お前馬鹿か! 俺達は兄妹だぞ! そんな新婚夫婦みたいな事をする訳が無いだろうが! さっさと部屋に入って寝ろよ!」

「そ、そんな大声出さなくても……うぅ……」

(ヤバイ! また面倒な事になってしまった……でも、流石に何を考えているんだこいつは。何処でそんな事を覚えてくるんだろうか? 最近の小学生はこんなにも知識というか考えが進んでしまっているのか? まさか学校でもこんな事が平気で行われているんじゃないだろうな……しかしどうする? こうなってしまった妹は面倒臭いにも程があるぞ。俺は早く下に行って御飯を食べたいのに……ええい! 仕方無い!)

 今にも泣き出しそうな妹を抱き締める真野。いきなりの兄の行動に驚く妹だった。

「そんな事、お兄ちゃんは恥ずかしくて出来ないよ。だから今日はこれで許してくれ。大好きな妹が良い夢を見られる事を願っているからな」

「お兄ちゃん……」

「因みに聞くんだけど、こういう事って学校のみんなもしているのか? 生徒同士でもしてたりするのか?」

「学校のみんなが家でしてるかは知らないけど、私はお兄ちゃんだけにだよ。だって大好きなお兄ちゃんだからね!」

「そっか!」

 その言葉を聞いて何と無くホッとした真野は、妹の体を更に強く抱き締めた。しかし、ふと我に返るのだった。

(ん? 何で俺今ちょっとホッとしたんだ? 別にこいつがどうなろうと俺の知った事じゃ無いじゃないか! ただ……そう! 世の中の風紀問題について安心しただけなんだ。最近の小学生が幾らませてるからといって、越えてはいけないものというものが存在するんだからな。俺の今感じた安心感はそんな世の中になっていなくて良かったなぁっと感じただけに過ぎないんだ!)

 かなり力説しているようだが、一体誰に対して演説を行っているのか自分自身でも突っ込みを入れたいくらいに感じてしまうのだった。

 そんな事を考えている間も両手で抱き締めていた妹の体温が上がってしまっている事に気付いた時には遅かった。

 恥ずかしそうな表情を浮かべている妹の顔は真っ赤になっており、今にも湯気が噴き出してしまいそうになっていたのであった。慌てて妹の体から手を離すと、フラフラになりながら自分の部屋に戻って行った。その様子を見ながら

「……流石に刺激が強過ぎたよな。何やってんだろう俺……大嫌いな妹の筈なのにいつもあの悲しそうな顔を見ると不思議な気持ちになってしまうんだよな。ちゃんと部屋に戻って行ったからきっと大丈夫……だよな?」

 自分に言い聞かせるように心で思うと、階段を下りて一階に行く。

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