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第十一話 嘘と疑問 -3-

ふと気付き目を開けると、目の前には妹が覗き込んでいた。驚いた真野は思わず声を上げる。

「わぁっ! な、何やってるんだよ! 勝手に俺の部屋に入って来るなって言ってるだろ!」

 すると妹は、目をウルウルさせながら

「だって……私が買い物から帰って来て、お兄ちゃんの部屋の前を通り掛かったら『うぅ……うぅ……』って、凄く苦しそうな声が聞こえてきたんだもん! だから心配になって中に入ったら、お兄ちゃんが本を顔に載せたまま魘されてたんだもん!」

「……本?」

 横に目を遣ると本があった。

(またこの本と顔を合わせながら眠ってしまっていたのか……)

「お前が本を退かしてくれたのか?」

「……うん」

「そっか。有難うな。お陰でお兄ちゃん悪い夢から覚める事が出来たよ」

 そう言いながら頭を優しく撫でてあげると、とても嬉しそうな笑顔を浮かべていたが、何処と無く恥ずかしそうでもあった。

瞬間的に「可愛いじゃねぇか!」と心で思ってしまう真野だったが、すぐに自分自身を咎め始めた。

(何て事を思ってるんだ! こんな妹が可愛いだなんて有り得ないだろ。不思議な事が多過ぎて頭の中までも不思議になってしまったんじゃないだろうか? 兎に角、さっさと妹に部屋から出て行って貰わないと)

撫でていた手を止めると、妹は若干物足りなそうな顔をした。だが、冷静な心を取り戻した真野は緩めていた口元を締めると

「もう大丈夫だから自分の部屋に戻れよ。俺は、さっきまで勉強していたから夕飯までもう少し寝るから。起こしてくれた事については褒めてやるけど、幾ら魘されていた声がしたからって勝手にもう入って来るんじゃねぇぞ」

 冷たい言葉を投げ付けると、さっきまで笑っていた顔が一気に寂しそうな表情へと変わり、俯き加減で立ち上がると真後ろにあるドアへと振り返り出て行ってしまう。

 閉まっていくドアが余計に寂しさを表している様にも感じた。仰向けの状態からドアとは反対側にある壁の方に体を向けるのだった。

(妹なんて全然可愛くねぇ。邪魔なだけだ。何時も何時も何かにつけて俺の事で首を突っ込んで来やがって……本当に迷惑なだけだ……あいつが妹だなんて俺は受け入れない。俺があいつの兄であるという事も……同じ家の中に一緒に居るからって家族とは限らないんだから、もうこれ以上干渉するのは止めてくれ……俺に関わらないでくれ……)

 これ程まで妹の事を毛嫌いするのは一体何故なのだろう。たまに見せる優しい表情になる自分自身をまるで抑え込むかのようにしている真野の本心はどういったものなのか。

 部屋に一人きりになった真野は、そんな考えと共に先程の夢の事を思い返していた。

(今見ていた夢の中で居た場所って、幻逝膏文堂……で間違いないよな。河原とあのおっさんも居た。何か不思議な事を言ってたよな。本がどうとか、夢だと思っていたものが本当の現実で起きている事でもあるとか……ついさっき俺自身が幻逝膏文堂に行った続きの様にも思えた。でもまぁ、実際に起こった出来事の続きの様な夢を見るのは別に珍しい事じゃないし、良くある事だと言っても良いんだけど……けど、何故か引っ掛かる事ばかりだ。どうして俺があの店でバイトをする様な夢を見てしまったんだろう? どうして夢の中で俺は自分自身が本を好きだという風に思い込んでしまったのだろうか? その事について河原やあのおっさんが言っていた言葉が妙にリアル過ぎていた様に思えてしまう……もしかして今見ていた夢も実際には現実に起こってしまっていたのだろうか? いや、流石にそれはあまりにも考え過ぎか。そんな見る夢見る夢で不思議な出来事が起こる訳が無いよな)

 頭の中で夢の事を整理していた真野だったが、どちらかと言えば整理というより自分の都合の良い考えにしていたという方が正しかった。

 夕方を過ぎ、日も沈んで徐々に部屋の中も薄暗くなっていた。これからもうひと眠りしようとしている真野にとっては、最適の環境と言えるであろう。目を閉じて今にも眠りに入ろうとしていた時だった。瞼の向こうに微かではあったが、光が点灯している事に気付く。目を開けると、それは携帯のライトが点滅していたものだと分かる。

(この光はメールかな?)

 全く使う事が無く、携帯電話に対して疎かった真野だったが、今日一日で使う頻度が急激に増えた為、そういう判断が付いたのだ。

 本と並ぶ様な形で置いてある携帯電話を手に取ると開いた。表示されていた『メール一件』という文字が目に入った瞬間

(やっぱりな!)

 何処と無く得意気な表情を浮かべていた。たかがその程度の事が分かったくらいで得意気になれるなんて今の時代では考えられないであろう。

 表示された『メール一件』の文字にカーソルを合わせると決定ボタンを押した。これによって送信してきた人物が明らかになった。河原だ。とはいえ真野にメールを送る事が出来るのは河原以外には誰も居ないので当たり前の事ではあった。きっと番号しか知っていない本屋では無理の事であったであろう。

 送信者を確認した真野は、その下へと続く本文に目を遣った。長々と書かれていたその内容は、今からもうひと眠りをしようと企んでいた真野にとっては目が覚めてしまうようなものであった。


『真野くん。さっきは突然目の前に現れてしまって驚かしちゃったね。何か色々誤解をさせてしまったようだったけど、私も本屋さんも真野くんの事を騙そうだなんて一切思ってないからね。本当にたまたま私が幻逝膏文堂でバイトをしていただけであって、真野くんが来る事なんて全然知らなかったんだよ。だからどっちかと言えば、突然目の前に現れたのは真野くんの方で驚いたのは私の方って言った方が正しいのかも知れないね。本来なら黙って店の奥に居ようと思ってたんだけど、真野くんが座って隠れてた私に気付いてしまったし、本屋さんも知ってか知らずかは分からないけど私の事を紹介したからこんな事になっちゃったんだよね。全部私のせいだよね。本当にごめんなさい。でも、今話した事は紛れも無い事実なので私の事は兎も角、本屋さんの事だけは信じてあげて下さい。そしてもう一度だけ幻逝膏文堂に来て話を聞いて下さい。真野くんの事、助けられるのは本屋さんしか居ないから。急にこんな事言っても信じられないかも知れないけど、真野くんは今とても危険な状態に居るの。とは言っても命が危ないとかそういう訳じゃないんだけどね。うん……私説明が苦手だから上手く伝わらないよね。さっき真野くん、幻逝膏文堂に来てたよね? 勿論実際じゃないんだけど、現実には起こっている事なんだけどね。その時、一緒にバイトしたよね? どうしてあんな夢を見たのか分かるかな? それは全て今手元にある本の影響のせいなの。詳しい事は、正直私も分かって無いんだけど本屋さんが言っていた言葉が全てなんだ。だからお願いします。本屋さんの事を信じて幻逝膏文堂に来て下さい』


(さっき見た夢の事を河原が知ってた……やっぱりあれもそうだったんだ……それはそうと俺が危険な状態って一体どういう事なんだ? 確かに不思議な感覚だけど、そんな危険な事のようには思えないんだけどな……あのおっさんを……本屋さんを信じて……か)

 ただの夢だと思っていた事が、知られているというまたしても不思議な出来事に直面した真野は、すっかり寝る気も失せてしまい、ベットの上に座り込んでしまっていた。

 あの二人の事を信じるか否かで迷っていた。河原は、同じクラスメイトとして七ヶ月以上過ごして来てはいるが、話なんて昨日の夢か現実か分からないような状態で初めて話しただけであった。確かに今日になって交わした言葉は増えたかも知れないが、それでもまだ二日目の関係。とはいえ人間なんて十年の関係だろうが二十年の関係だろうが、元々は赤の他人な訳で自分がどうしようも無い極限の状況に追い込まれてしまえば、それまでどれだけの歳月を積み重ねていようが簡単に裏切ってしまうものなのだ。それを考えれば二日目のクラスメイトを信じられる訳が無かったのだった。

そしてもう一人の本屋だが、こんなのは考えるまでも無く信じられる筈が無いのだ。何処の誰かも分からない奇妙な雰囲気を醸し出し、初対面の人間に対して意味不明な言葉ばかり吐いてくる。そんな印象でしか受ける事が出来なかった人間を一時間も満たないような短時間で信じられるという人間の方が稀であろう。

結論から言ってしまえば信じられる程の理由が見付からなかったし、見付けられなかった。逆に言えば信じる事で被る不利益は山ほど見付けられてしまっていたのだった。この事から河原が送ってきたメールには信憑性に足りる程のものが無かったと判断される。

問題が解決した途端、座っていた真野は再びベットに横になった。誰も信じないと思う気持ちがそんな行動に現れてしまったのだった。

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