ラグビー女子チーム育成
ラグビーマンガの原作の習作です。
マンガ原作
ラグ女!
1. 第1話
1.1. ラグビーの練習風景
高校のグラウンド。ラグビーシャツに短パンの女生徒が約20名。スタイリッシュなデザインのシャ
ツ。筋肉質の男性コーチが、女生徒の足元に大型の円筒を落とす。フワリと下辺が地面に着地した瞬
間に蹴り上げる練習。
コーチ「まっすぐ蹴っていないぞ」「次!」「ふり足をコントロールするんだ」
生徒「はい!」
次の女生徒が順に並び、その前にやわらかい素材の円筒が落とされる。
コーチ「ラグビーボールは楕円だ。中心にまっすぐインパクトするんだ。」
L字型に足を振り上げてフォロースルーの姿勢を取る主人公のカスミ。額に汗が光る。カスミはショ
ートカットで細身、肢体の長さがチャームポイント。
1.2. 入学式へ向かう女生徒
地方都市の郊外。ゆるい上り道が続く並木道。行く手には豪奢な門構えの建物。入学式に向かう数十名の高校一年生の女子生徒とその保護者が歩いている。体格がよく、姿勢のよい、シンプルな黒髪の女子生徒ばかり。
主人公の神楽カスミはワンピース姿の30代の母親とともにその雑踏の中を歩いている。カスミのジャケットのボタンは留めておらず、胸元のレジメンタルタイはだらしなく緩められている。
カスミ「はぁー、これ全員桜麗の一年生?」
母親はカスミをたしなめる。
母「皆、きちんとしているわよ。カスミもきちんとしてね」
カスミ「んー、ライバルがたくさんだなー」
闘志がかき立てられた様子のカスミ。
母「…カスミが寮なんて、ママはやっぱりさびしいわ」
カスミ「まぁ、心配しなくったって大丈夫だって」
群衆は壮麗な門をくぐり、入学式典はこちら、と看板が立てられた建物の中へ入っていく。
学園内の講堂で式典が始まり、学園長が挨拶に立っている。40代後半で、分厚い体格を高級スーツに包み、実業家然とした様子の学園長。
学園長「君たちは桜麗学園の栄えある一期生であり、全国選抜を勝ち抜いたスポーツ特待生である。」
1.3. 前年の生徒募集 -カスミ
昨年の初夏。全国紙の朝刊の全面広告。『来春高校一年の女子スポーツ特待生募集!』の文字が躍る。雑誌記事の見開き、ウェブサイトのトップバナーのイメージが躍る。
テレビ番組の男性ニュースキャスターが報道で伝える。
キャスター「来春より設立される私立桜麗学園が、スポーツ能力に優れた新高校一年生、現在中学三年生の女子生徒のセレクションを始めると発表しました。」
「その破格の教育条件と環境に文科省・スポーツ界は騒然としています」
カスミの父親が自宅の居間で新聞記事の切り抜きを手に興奮して叫んでいる。
父「カスミ、おまえこのニュース見たか? この学校を受験してみたらどうだ?」
記事の見出しのアップ。『世界で活躍するトップアスリート育成の学園が誕生』『最先端のトレーニングと一流のメディア教育』『スポンサー制度により学費・設備費は無料』
中学陸上部のTシャツ・ジャージ姿のカスミが興味なさそうに記事を一瞥する。
カスミ「スポーツ特待生ってキツそうじゃん。」
父「いや、先輩がいない新設校だし、丁寧に育ててくれるそうだ。」「なによりもアスリートとしてのピークを二十代に持ってくる教育方針だ」
カスミ「…でも、高校でジャンプ続けるか決めてないし」
父「いや、これは総合アスリート高なんだ。」
「中学でやっている競技種目は問わず、入学してから競技を決めるんだ。」
カスミ「ふーん、ライバルが多そうね。じゃあ、受けてみようかな。」
父「日本中、いや世界中から希望が殺到するぞ。」
カスミ「だから燃えるんじゃん」
カスミはニッコリと不敵な笑顔を浮かべる。
1.4. 前年の生徒募集 - 美希、その他
全国の中学の運動部で桜麗学園のセレクションが話題になっている様子。
神戸の山の手の女子中学で、進路指導の先生がクラスに説明。
教諭「運動神経に自信がある者は、この秋の桜麗学園のセレクションを検討するように。」
教室にもう一人の主人公の美希の後姿がある。黒髪を一つに束ねている。
バスケットボール部の顧問が部活動前に体育館で女子部員数名を集めて力説。
顧問「レギュラーメンバーのポテンシャルは高い。推薦で進学する者は受けるように」
ひときわ背の高い二人のバスケ部員がうなずく。
アメリカの体操クラブ。レオタード姿の金髪の少女たちに混じって、黒髪をポニーテールにした女の子が跳馬を飛んでいる。体操コーチに日本人の母親が伝える。
母「来年は転勤で日本に戻ることになりました」
コーチ「彼女はぜひこのままうちの選手として育てたいのですが。オリンピックを目指しましょう」
母「せっかくですが、家族そろって、日本へ戻ります」
アフリカ。陸上のトラックの前でネイティブの男性選手が数名、話している。
男性コーチ「日本で16歳の女子選手の募集があるそうだ。おまえの妹は陸上をやっているのか?」
男性選手「ああ、短距離だ」
男性選手は空を見ながら思う(最初はたいへんだが、日本の実業団は待遇がいいからな)
日本家屋の縁側。座敷で将棋を打っている着物姿の白髪の老人と女の子の後姿。
老人「…桜麗学園の選抜の手続きは済ませたのかな?」
女の子「はい、おじいさま。……あの、詰みました。」
老人「おや。」
老人はクックックと愉快そうに老人が笑う。
1.5. セレクションの報道
ふたたび、テレビ番組のニュースで男性キャスターが伝える。
キャスター「私立桜麗学園の入学選抜は、100名の定員に早くも4千名以上の応募が殺到。日本国内はもとより世界各国の15歳から応募が相次いでいます。」
番組画面で隣に座る女性キャスターが聞く。
キャスター2「入学者の国籍は問わないのですか?」
キャスター1「ええ、国際大会で日本代表として試合に出ることが入学の条件です。オリンピックではいずれ帰化の議論が出てくるかもしれません。しかし高校1年生ですから、日本国内での生活実績としては十分ではないでしょうか。」
キャスター2「どのような生徒が入学するのか、全国の注目が集まります。また、この発表に伴い、各地のスポーツ推薦受け入れ高校は入試時期をずらしています。」
1.6. 入学式での発表
学園長が演台から、100名の女生徒が座る講堂のフロアに向かって語りかける。その様子は多くの取材陣がテレビカメラで撮影している。メディアが多数入学式の様子を報道している。
学園長「50倍以上の倍率を勝ち抜いた君たちは、未来のトップアスリートである。しかし、今すぐ競技大会の成績を求めることはない。身体能力だけではなく、知性とセンスを磨き、優れたアスリートとして活躍してほしい。」
そこで、園長がおもむろに宣言する。
学園長「諸君の3年間は…ラグビー強化年だ!」
ざわめく生徒。
学園長「2015年のワールドカップ日本代表、2016年リオデジャネイロ・オリンピックの出場、そして2019年日本主催のラグビーワールドカップの優勝を目指してもらう。」
ポカーンとした表情の女子生徒たち。後方の保護者席からもざわざわと驚きの声が上がる。
報道陣から一斉にカメラのシャッターが切られ、パシャパシャ!と音が上がる。
1.7. トップ争い
100名の新一年生の運動資質の判定のため、学内テストが行われている。カスミは持ち前の負けず嫌いの性質を発揮して、歯を食いしばる表情で記録の上位を狙っている。
背筋で力を入れて反るカスミ。表示は130kg。
カスミ「やった!」
達成感のある満面の笑み。電光掲示板に「1神楽佳純カグラカスミ 130」と表示される。細身の女の子に「すごいね」と声を掛けられるカスミ。しかし、次の瞬間、どよめきに振り返ると「1野間美希ノマ美希 132」「2神楽佳純カグラカスミ 130」とトップの記録を抜かれている。
カスミはすかさず女性トレーナーに尋ねる。
カスミ「もう一度、背筋させてください!」
トレーナー「テストは一度だけ」
不満そうな顔のカスミに、隣の女生徒が話しかける。
女生徒1「野間さんは柔道の中学女子チャンピオンなんだって。筋力はすごいと思うよ」
カスミ「…そうなんだ」
カスミは、次の伏臥上体そらしの列で、掲示板に「1野間美希ノマミキ」の名前を見つける。
カスミ「柔軟は絶対に負けない」
離れて見ていた女生徒がカスミを指さして、他の生徒へ説明する。
女生徒2「あの人、神奈川の神楽カスミよ。ハイジャンプの中学チャンピオンよ。」
女生徒3「やっぱり、すごい人が入学しているのね」
カスミはマットに寝そべって背筋力で背中を押し上げ、柔軟で美希の記録を塗り替える。得意な表情になるカスミ。そして、反復横跳びでいよいよ二人が激突する。
カスミ「……」
美希「……」
二人とも無言で高速で横跳びに集中する。
コーチ「ストップ!」「…野間62回!、神楽62回!」
同じ回数で目を合わせる二人。その後、鉄棒、遠投、1000メートル持久走に二人が取り組む場面。
学内セレクションの結果が張り出される。丸めた模造紙が広げて貼られる。
1位 神楽カスミ 195ポイント
2位 野間美希 194ポイント
3位 … 169ポイント
4位 … 166ポイント
女生徒4「圧倒的にあの2人は強いわね」
女生徒5「3位を30ポイントも離しているわ…」
少しほっとした表情のカスミだが、1ポイント差で安心できない。美希は表情に出さないようにして
いるが右手をギュッと握りしめる。
1.8. 寮の同室に
セレクションが終わり、生徒全員が寮の建物へ誘導されて入っていく。豪華な女子寮の設備にキョロキョロ見回す生徒。玄関に部屋割り表が張り出されている。「201号 神楽・野間」の文字を見つけるカスミ。
カスミ(え、あいつと同じ部屋なの? わーー)
コーチ「部屋割りは、セレクションの成績順だ。シャワールームは1階。身支度を整えて、19時に食堂集合!」
二人部屋を美希と過ごすことになったカスミ。
カスミ「あ、私、神楽カスミ」
美希「どうぞよろしく、野間です。神戸出身。」
顔を見合わせて、無言になった後、プッと吹き出す二人。
カスミ「筋力、強いねー。えーーっと…野間さん」
美希「美希でいいよ」
カスミ「私のこともカスミって呼んで」
美紀「…カスミも、運動能力すごいね。」
カスミ「私だって、まともに競る相手なんて初めて。それにしてもラグビーって驚いたね」
美希「ええ、ラグビーなんて生まれて初めて、ルールも知らないし」
カスミ「でもまあ、面白そうだね」
箱を開けて荷物を取り出す美希。レースのポーチやぬいぐるみが机に並べられる。
カスミ(わ、ファンシー!)「ちょっと!なに可愛いーじゃん!」
美希「…いいでしょ。好きなんだから」言いながら、赤面する
カスミ「全然、イメージと違うしっ」
美希「もうっ、もしかしてカスミって、ガサツ系なの?」
カスミ「そうそう、正真正銘全部筋肉」(爆笑)
カスミは美希のうさぎのぬいぐるみを取り上げて、部屋中を逃げ回る。美紀は「返してよ」と追う。少女趣味な美希を知り、ようやく打ち解ける。
1.9. ラグビーの練習の始まり
生徒が初めてラグビーボールを触る。グラウンドの一方でイレギュラーなバウンドにとまどう。また他方では、3人の生徒がうまくスクラムが組めないまどろっこしい様子。
コーチ「正式な試合では、監督はグラウンドに入れない。無線で指示を与えるんだ。そこで、この学園では普段からその方式を取り入れる。監督の声は放送で流れる」
グラウンドに備えられたスピーカーから声が流れる。野太い声を表現する太いフォントで。
監督「諸君、監督だ。」
生徒は直立不動でスピーカーの方へ体を向けて聞く。
監督「声だけの指示となるが、君たちの様子はカメラを通じて見ている。練習の全てを見ているので、手を抜かないように取り組んでください。まず基礎練習とルールの理解に努めてもらう。来週は学内練習試合を行い、チーム編成を決める」
緊張してゴクリと唾を飲みこむ生徒達。カスミと美紀も強張った表情。
パス練習が始まる。カスミは前へ勢いよく走るが、後ろを向いてボールを投げるとうまくコントロールが定まらない。受け取る相手の女生徒もボールをうまくつかめず、落としてしまう。
コーチ「ラグビーボールは楕円だ。しっかり掴んで投げる、受ける」
カスミ、女生徒「はい!」
もう一度走りながら後方へ投げるが、ボールの軌道は逸れてしまう。女生徒がまたボールを落とす。
コーチ「目に頼るな! 直感で、移動先の位置を掴むんだ」
カスミ「…は、はい」
コーチ「セブンズは運動量が多くて、コースが柔軟だ。」
囲み記事で解説を挿入『2016年より、男女7人制ラグビーがオリンピックの正式種目となる。15人制と同じ広さのフィールドで試合を行うことから、変化に富み番狂わせが魅力と言われる。運動量が多い。』
カスミ「はい!」
カスミはボールを抱えて、再び走り出す。
ボールを持った大柄な女生徒と1対1で向かい合う練習を行う美希。ぎこちなく踏み込むステップを行ってから、両腕をいっぱいに伸ばし、相手の両腿にタックルを行う。二人はぎくしゃくとグラウンドに倒れこむ。
コーチ「踏み込みが甘い!」
美希「はい!」
コーチ「もっと間合いを詰めてからホールドするんだ」
美希「はい!」
二人はもう一度向かい合い、美希は素早く相手の前へ飛び出し、近づいてタックルする。
放送音のスイッチが入り、グラウンド隅のスピーカーの音が入る。
監督「監督だ。美希。」
美希はどこに向かって返事をしていいのか分からず、顔を回してから中空に向かって返事をする。
美希「…は、はい!」
監督「さすが格闘技の天才だ、飲み込みが早い。追う時は柔道で詰めろ。追われる時は空手の距離を取れ」
美希「はい!」
腑に落ちたような確信を持って、美希がうなづく。
監督「それから、山脇姉妹」
バスケットボール選手だった背の高い涼と綾がクローズアップされる。双子の二人の顔は似ているが涼がベリーショートの金髪。綾が黒いボブカットと髪型が異なる。
監督「スクラムは姿勢だ。7秒は保てるように」
涼・綾「はい!」同時に返事。
監督「以上。」
プツンと放送が切れる。場面が変わり、室内の放送機材の様子が見える。4画面の同時中継でグラウンドの各場所が映っている。黒い人影が画面を見入る様子。監督の詳細は明かされない。
1.10. 練習試合
晴れた空の下の学園のグラウンド。生徒がラグビーのユニフォームで全員整列している。
コーチ「学内練習試合を始める。10チームを編成した。総あたりになるので順次行うように」
生徒「はい!」
放送音のスイッチが入り、選手が発表される。
監督「監督だ。これよりチーム編成を発表する。Aチーム プロップ 明石陽菜、岩田…」
ウィング 神楽カスミ…」
監督「Bチーム…… スタンドオフ 野間美希…」
監督「Cチーム…… プロップ 山脇涼、山脇綾…」
監督「Dチーム…… センター ベル・カワク…」黒人の女生徒の姿の紹介。
監督「Eチーム…… スクラムハーフ 佐藤七虹」ポニーテールの小柄な生徒の紹介。
監督「Gチーム…… フッカー 林麻里」元気な表情の丸顔の女生徒の紹介。
監督「……以上、今回呼ばれなかったものはリザーブ。適性を見させてもらう。」
(囲み記事で解説を挿入)
『7人制ラグビーのシステムは試合時間が14分、7分ハーフで行われる。短時間で複数の試合が行われることが特徴』。
対戦がスタートする。グラウンドで不器用に3人ずつのスクラムを組む両チームの生徒。コーチが笛を吹くも、お見合い状態になり遠慮しながら正面で向き合う。ノロノロとラグビーボールが足元から出され、掴んだ女生徒がためらってパスを出す。
カスミ(チャンス!)
皆がとまどっている間に独走でタッチラインを狙おうと走り出すカスミ。止められる選手がいないた
め、やすやすと走り抜ける。
コーチ「何してる!」
(囲み記事で図と解説を挿入)
『ラグビーのフィールドはゴールラインから22m、中心から10mの位置で構成される。幅は70m以内。』
※参考図面を平面にして図表で説明。
生徒のオーバースロー、ステップ、パスの場面を挿入。だんだん試合らしくなる練習試合。カスミはボールを不器用に掴んで走り、トライされてボールを前に落とす。
カスミ「しまった!」
別チームの美希の様子、チーム全体を見ながら叫ぶ。
美希「声を出してアイコンタクト!」
試合で目立った活躍を見せる選手が出てくる。鉄壁のディフェンスを誇る双子はがっちりとスクラムを組み、強く押す。150cm弱と小柄なナナコは柔軟に体をひねり、敵のタックルを変な角度でかわす(極端に柔軟な身体)。ベルは圧倒的な運動量でグラウンドを走りぬける。
1.11. 決勝戦
決勝戦でカスミは美希のチームと対戦する。
コーチ「AチームとBチームが勝ち点で同率だ。これが決勝戦となる。この勝者が学内試合の優勝だ。」
両チームの7人がグラウンドに整列する。
カスミ「美希んとこ、チームワーク良さそうじゃん」
美希「あなたが一人で独走しているAチームとは違うのよ」
カスミ「まだ個人の走りで何とかなる余地があるからね」
二人は笑顔で離れていく。
ホイッスルが鳴り、トライとキックの場面が2度あり、白熱した様子の描写を入れる。電光掲示板の得点は「7対7」。
スクラムを組む選手同士が険悪な目つきでけん制しあう。ぎすぎすした雰囲気になっている。スクラムの内部で、美希のチームのフッカー(スクラムの中央の選手)が、カスミのチームのフッカーがボールを足で出そうとした瞬間、足を踏む。靴が脱げ、うまくボールが出せない。
フッカー「何すんの!?」
フッカー「べつに」
フッカーは怒って相手に掴みかかり、互いに襟をつかみ合う。試合が中断する。2つのチームの選手同士が乱闘寸前の険悪なムードに。カスミもカッカして「そっちの反則だ!」と叫ぶ。
コーチ「ピー!!ピー!!ピー!!」ホイッスルを鳴り響かせる。
そこへ、スーツ姿の学園の理事長が現れる。
カスミ(わ、理事長!)
理事長「中断したまえ。」
生徒は静かになってその場に立つ。
理事長「乱闘とは、いかがなものか。」
そして、厳かに語りだす。
理事長「原因は聞かない。君たちはラグビーの本質を分かっていない。まずはフェアプレイのラグビーの精神が基本にある。勝敗ではなく、その過程でいかに立派に戦ったが試されるんだ。自己犠牲とノーサイド、君たちはラグビーを行っているんだ。」
理事長「この学園では、女子ラグビーではなく、ラグビー女子と呼んでいる。その意味を考えたことがあるかね。女性固有のラグビーをするのではなく、普遍的なラグビーをプレイするんだ。男女は単なるチーム編成だ。まず、ラグビー選手なんだ。」
複雑な表情のカスミ、美希、他の生徒達。
放送音のスイッチが入る。
監督「理事長、ありがとうございます。」
理事長「うむ」とうなづく。
監督「ラガーウーマンの諸君、これより全試合結果を踏まえて、学内選抜チームを発表する。来週さっそく対外的な練習試合を行う。」
ざわめく生徒達。
カスミ(さっそく試合か!)
美希(まだルールだってよく分かってないのに)
監督の声が響き、7名のメンバーの名前が順に呼ばれる。桜麗学園代表の7人が揃う。カスミ、美希、双子、ナナコ、ベル、麻里…7人のチームメンバーがグラウンドに揃う。
監督「以上、桜麗学園高校ラグビー女子代表チーム、ラグ女だ。」
2.
2.1. アスリート教育の全貌と学園長の野望
そして、世界を魅了するために必要な教育が施される。高校の勉強以上の学習内容に驚く生徒たち。脳科学の最先端を活用した学習環境の中で1年生のうちに3年までの授業は全て終わるスピード。アスリートとして、スポーツ科学やトレーニング、医療の知識を身につける他、タレントとしても一流になるようカリキュラムが組まれている。これまで一年中ジャージで過ごしていたカスミだったが、ファッショントレンド、語学、表情の作り方やスピーチ・記者会見の練習と磨かれていく。フィールドの外でも紳士であれと教えるラグビーの精神から、キリリとしたブレザー姿で過ごすことになる。生活には常時取材のカメラが入り、目立つ生徒には早くもファンクラブが出来るなど全国からの注目も高まる。
2.2. 学内セレクションの始まり
気恥ずかしそうに、緊張しながら、おどおどとドアから出てくる女生徒たち。フラッシュと多くのカメラが一斉に向けられる。
そこはスポーツ棟で広い板敷の体育館になっている。映像はネットで生中継されニコ生やUstreamでは、桜麗学園の女生徒の映像が配信される。ネットの画面に多くのコメントが書き込まれる。
「右端かわいい」
「運動神経いいのか」
「オレの嫁」
「まだコドモ」
男性からのコメントが多い。
そこへ、丸太のような太さの腕と腿の男性コーチがあらわれる。両脇に助手風の若い女性が控えている。姿はスポーツジムの女性トレーナー風でトレーニングウェア。
勝「コーチのすぐるです。私は君たちの身体基礎コーチを務めます。よろしくお願いします。」
女生徒「よろしくお願いします!」
皆、スポーツ経験があるため、大きな声でさっと挨拶を返す。
勝「私の専門はスポーツ分野の身体トレーニング理論です。ニックネームはキン肉マンですが、ま、君たちの世代には分からないかな。」
笑顔で勝コーチは女性のスポーツトレーナーを差し示しながら紹介する。
勝「彼女達は私の助手。皆さんのサポートをする桜麗学園のスポーツトレーナーです。」
「器具の使い方に迷ったり、なにか不調があれば、すぐ相談してください。」
勝「初日で緊張していると思いますが、今週は皆の基礎体力を測定します。中学で行った体力測定のようなものだと思ってください。」
「皆さんの左腕のバンドにはICチップが埋め込まれています。体力測定をはじめ、練習量や食事の記録はすべて電子記録で管理されます。」
ニコ生画面では、先生のアップの顔の下に「管理キター」「スポーツ家畜w」とコメントが入る。
勝「では、スポーツ棟へ入って、順に測定していってください。」
トレーナーに誘導されて、カスミや他の生徒は次の部屋へ入っていく。
そこには最新の筋力トレーニングの装置が備えられている。イチロー愛用のノーチラス等が贅沢に配置されている。
握力の測定を行う女生徒。パソコンに接続されたバーコードリーダー風の機械が腕のバンドのチップに近づけられる。すると、室内の壁の電光掲示板に「明石奈那アカシナナ 右:39.14 左:31.28」と表示される。一気に表情が活気づく女生徒たち。
室内では、背筋力の測定、踏み台昇降、反復横とび、伏臥上体そらし、体前屈が行われる。カメラはその室内のあちこちで回されている。
2.3. スターの育成
トレーニングウェア姿のコーチが、すぐに生徒達を誘導して次の場所へ向かわせる。
そこはロッカールーム。野球選手のロッカールームのように、一人ひとりのロッカーが与えられ、その中には桜麗学園のウェア一式とシューズ類が入っている。下着、靴下、アウターまで、トップブランドの今年のラインで作られたデザイン性に優れたもの。カスミたち女生徒は「わー、カッコいい!」と嬉しそうに着替えていく。
ミーティングルームは、中央に演台があり、生徒が半円に座っていく造り。
中央にとても美しい女性トレーナーが立つ。颯爽とした立ち姿に生徒達は一気に目を奪われる。
「はじめまして。わたしは渚・ウィリアムズです。皆さんのメディアコーチです。」
渚「皆さんは、たんなるスポーツ選手として、この学園に入ったわけではありません。これから3年先、5年先、10年先に、世界のトップアスリートとして活躍するのです。」
「そこで、アスリートとしての身体能力、競技能力はもちろん、人格と教養、立ち居振る舞い、そして人気を兼ね備えてもらいます。」
渚の流暢な話ぶりに、ぼうっとする女生徒たち。
渚「学園長から、皆さんが取り組む競技がラグビーだと発表されました。しかし、世界で活躍するアスリートになるためには、泥臭くてはいけません。」
渚「いいですか、皆さんは、世界を魅了するアスリートになるのです。つまり、現代のマイフェアレディとして育成されるのだと思ってください。」
カスミが隣の生徒に小声で聞く。「…なにレディって、なに?」
女生徒「お嬢様教育ってこと、権威を使った」
渚「そこで、まずは皆さんに重要なことをお伝えします。」
「この部屋から一歩出ると、皆さんの姿は報道されます。」
生徒「え…?」
渚「試合、トレーニングの様子は、全国のメディアがカメラで取材。その他の場面でも学園のカメラマンが映像で配信します。」「皆さんの学園での様子は、刻一刻とネットで配信されるのです。」
茫然とする生徒達。
渚「悩んでもいい、泣いてもいい、弱音を吐いてもいい、普段通りの振る舞いをして構いません。世界は、幼いものの成長と変容を望みます。気に留めておくことは、皆さんの姿はすべて記録され、世界中へ配信されているということです。」「カメラにはそのうちに慣れると思います。メディアやファンとの付き合い方は徐々に指導していきます。」「まずは、皆さんがメディアの前に出る前に、スタイリストのチェックを入れます。」
どやどやとファッショナブルなスタッフが大勢入ってくる。
各生徒の前に、スタイリストとヘアメイクのペアが立ち、衣装のサイズ調整とヘアスタイリングを行う。
それぞれの組で声が上がる。
「下着のサイズが合っていません。胸のラインが崩れるから気を付けてね」
「前髪が目にかかるので、カットします」
カスミの前にも、ベテランのスタイリストと若いヘアメイクが来る。
カスミ「あ、よろしくお願いします」ペコリと頭を下げる。
スタイリスト「あら、あなたは脚が長いのね、チャームポイントね。うーん、ソックスは一段短いものに替えましょう。」「エステサロンの脱毛は週末の予約を入れるから、あとでスケジュールを連絡します。」
カスミ「…え?…え?」驚いて、とまどう。
スタイリスト「もちろん、学園にはエステも併設されているのよ」
ヘアメイク「ショートカットが似合うわ。髪色は少し明るくしましょう。ヘアサロンには2週に一度は来てちょうだい。屋外のスポーツは髪が傷むのでヘアケアには気を付けないと。」
たちまち髪をブローされ、ショートパンツと短いソックスに替えられ、スッキリした様子になるカスミ。
そして、各女生徒は左腕の手首に細いバンドを装着される。腕を気にする生徒達。
渚「では、皆さん、準備はいいですか。」
「一歩外に出たら…皆さんは、カメラの前です。」
ドアが開く。
2.4. 寮の設備
豪華な食事
学園と寮の設備は、アスリート教育機関として必要な全ての粋が集められた豪華なものだった。食事も身体づくりの理論にもとづいた贅沢なものが提供される。
2.5. ルールの理解
夜には、座学としてラグビールールの説明が行われる。
(ラグビーが初めての読者も多いため)ゲームの成り立ちを図解で説明。