#8
前回追記し忘れてしまいましたが、最近の就業時間がどんどん朝に近い時間にずれこんでしまっているので、投稿を忘れて眠ってしまっても間に合うように投稿時間を十二時から十八時にずらすことにいたしました。
勝手な筆者の都合ですが、どうかご容赦を。
※追記 時系列の設定にミスがあったため、こちらの文章を修正しました。
サワはさきほどから何かを考えこむかのようなしぐさを見せているが、自分から何かを話す気はないらしい。これ以上の情報は出てこないかと話を切り上げることを考え始めたレイカだったが、最後に一番気にかかっていた事を思い出した。
「――そういえば、なんで衆聞会だったのかしらね」
ポツリとそう漏らすと、サワは首を傾げた。
「なにがだい?」
「遺体発見現場よ。私の知る限り、ヒビキは衆聞会とはなんの関り合いもなかったはずなんだけれど。……それに、現場には鍵がかかってたのよね?」
「え? あ、ああ、そうだね。鍵はきちんとかかってたよ。もちろん、窓からの出入りも不可能だ。キミも知ってると思うけど、ここの窓はみんなはめごろしだから」
「そこまでわかってるなら、少しは妙だとは思わない?」
「何を言っているのか、よく……」
「犯人がいたとして、そのヒトは、わざわざ鍵を使って、少なくとも一度以上衆聞会室に出入りしてる」
そうでしょう? といわんばかりに見つめてくる妹に頷き返し、レイカはその言葉を引き取る。
「つまり、そこまでする理由があったはずなのよ。単純に死体を遺棄するだけなら、もっと適当な場所があったはずよ」
「……確かにそうだね。わざわざ鍵のかかった部屋を死体遺棄の場所に選ぶメリットって、すぐには思いつかないな」
「犯行現場として考えても同じことだわ。何かあの場所を選んだ理由があると思うんだけど、その「理由」にさっぱり見当がつかないのよねえ」
レイカの記憶の限り、ヒビキは衆聞会とはなんの関わりも持っていないはずだ。無論、殺されるほどの恨みを買っていたとも思えない。
「あの子は衆聞会と関わりはなかったはずだから、あるとしたら犯人の方かしら? 何か心当たりはないの?」
「うーん、そのあたりのことは市警でも散々訊かれたけど、会室で死体が発見されるような大事に繋がりそうな"いざこざ"は―― あ、待てよ。そういえば……」
話の途中で突然眉間にしわを寄せ、何事かを思案するようなしぐさを見せるサワ。「早く思い出せ」とせっつきたい気持ちを抑えつつ、レイカはサワの言葉を待った。
『相手が必死に何かを思い出そうとしている時は、下手に声をかけてはいけませんよ。特に焦らせてはいけません。記憶の引き出しのありかを見失ってしまいますので』
とは、いつか暇つぶしに訪れた事務所で、トキヤが放った言葉だ。
実際に聞いている時は片手間に聞き流していたような気がするが、そういう場面に遭遇してみると、自分がいかに短気かということがよく分かってくる。認識を改めねばなるまい。こういった場だけではなく、レイカの場合は将来にも関わってくることだ。交渉術は得意だと思っていたが、まだ学ぶべきことは多いようだ。
「あ、そうだ、そうだった。思い出したぞ! 僕が直接対応したわけじゃないから、すっかり忘れてた」
じっくり待った甲斐あって、しばらくしてサワが手を打ちながら大声を上げた。思わず周囲の様子をうかがうレイカだったが、ラウンジに人気は少ない。わずかに残っている生徒たちも、一瞬だけ怪訝そうに視線を投げかけてきただけで、レイカたちのことを気にかけている様子はない。
「何、犯人に心当たりでもあった?」
「いや、そうじゃないんだけど。彼女―― ヒビキ・カミナさんだったよね。ようやく思い出したよ。彼女、一度衆聞会に"乗り込んできた"ことがあってね。しかも結構最近の話だよ」
「乗り込んできた?」
サワの意外な一言に、レイカは思わず首をひねった。
「そう。まぁ、仔細を言えばクレームを付けに来たわけだね。ウチの記事についてさ。――そうだな。今から一ヶ月とちょっとくらい前だったかな?」
「あの子が? 本当に?」
ヒビキという少女は、フウカほどではないものの、人見知りでやや引っ込み思案な性格だった。決して悪意を以て人に接するような人物ではなく、何かの間違いで槍玉に挙げられることがあっても、困ったように笑って往なしていた。その大人しめの性格が、激しい性格のレイカの周囲に対するフォローにもなっていた。――そのヒビキが、である。
レイカにはどうしても、『学校新聞に文句をつけるヒビキ』が想像できなかった。その行動自体が、レイカの中にあるヒビキの像にどうしても噛み合わないのである。
「間違いない…… はず。さっきも言ったけど、僕はその一件には関与してないんだ。ちょうど同好会の自治集会に出席してたときでさ。そのことが済んでから報告を貰っただけなんだよね」
「……それについて詳しく聞きたいんだけれど」
「うーん、僕はこれ以上のことを知らないんだよね。なんせ、今の今まで忘れてたくらいだし。詳しく聞きたいならその時の担当者に訊くのが一番――」
「サワせんぱーい、こんなところでなにしてるんですかー!」
思わぬ事実と収穫にレイカが身を乗り出し、サワがそれに答えようとしたときだった。
やや素っ頓狂な少女の声が、人の少ないラウンジに響き渡る。その場にいる全員―― レイカたちを含む、ラウンジに居た数少ない人間のすべて―― が声の下方向へと注意を向ける。
「呼ばれてたみたいけど、知り合い?」
「ああ、うん。ちょうどよかった。彼女のほうが、例の件について僕よりも詳しいんだ」」
レイカたちよりも背の小さい、まだ幼さが目立つ純朴そうなイメージの少女が、明らかにレイカたちが囲むテーブルに向かって歩んでくる。サワはいきなり名を呼ばれて驚いたのか、さきほど自分で大声を出したときには気にもとめなかったというのに、周囲の様子をうかがい始めた。
「会室、新しいところ借りたっていうから行ってみたのに誰も居なくて。探してたんですよ?」
少女はテーブルのそばまでやってくると、人好きのする笑顔を浮かべて話しだした。
胸ポケットから顔を覗かせている学生カードを見てみれば、端のほうにわずかに青いインクが見えた。青色はレイカたちのひとつ下の世代を示す色なので、彼女は現在一回生ということになる。
「あんなことがあった直後だからね。さっきまで僕しか居なくて、仕方ないから施錠して空けてきたんだよ。いれ違いになっちゃって悪かったね」
「今日は取材の予定があるって言ってましたもんねー。……あれ、取材はどうなったんです? この人たちは研究所の人―― じゃないですよね。うん」
そこにきてようやくレイカたちの存在を認知したらしく、少女は不躾な目線を差し向けてきた。
「あ、学生カード…… 先輩だったんですね。えっと、失礼しました」
一応の礼儀はわきまえているらしい。初対面の相手への態度について物申そうと考えていたレイカだったが、小さく嘆息するだけにとどめておいた。
「……気にしてない。私はレイカ・アカギリ。わかってるとは思うけど、二回生よ。こっちは妹のフウカ。双子だから同じ二回生。――で、あなたは?」
「あ、アタシですか? 一回生のシホ・ドウジマっていいます! 衆聞会所属です。よろしくおねがいしまーす!」
シホは元気に挨拶をする。
――この下級生は、ワリと油断ならないかもしれない。少なくともサワよりは。
その屈託がなさそうな笑みを前に、レイカはそう思った。シホの反応を見るに、そもそもレイカの実家のことをあまり良く知らないか、知っているにも関わらず敢えて無視するように振る舞っているのだろう。実家の威光を笠に着るのはあまり好きではないレイカだが、名前を出した時に多少なりとも怯んでくれたほうが話を勧めやすいのは確かである。しかし、シホがそういった素振りを見せない以上、彼女との関係は極めてフラットに近い「先輩と後輩」になる。これではレイカが強引な手管を用いない限り、かけられるプレッシャーには限度がある。
「えっとそれで、サワ先輩はアカギリ先輩たちとここで何を? 今日の取材と何か関係が?」
「取材は…… 専門のヤツが顔を出したら、そいつに行かせることにしたよ。僕じゃあ、なかなかはかどらなくってね。彼女たちとは別件で――」
そこでサワがチラとレイカに視線を寄越す。目の前の少女・シホを今の会話に巻き込んでもかまわないか、という確認だ。そう判断したレイカは、小さくうなずき返しておく。いかにも口が軽そうなシホだが、情報を持っている以上背に腹は代えられない。
「ほら、事件があっただろう? 昨日の。それについてちょっとね」




