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魔術師たちの昏き憧憬:Re  作者: 美凪
二章 真実の輩は扉を叩く
54/78

#22

お察しの方々も多いかもしれませんが、二話ほど前から書き溜めが尽き、自転車操業状態です。後々修正する箇所が出てくるかもしれません。ご了承ください。

追記 6/22:話数が23になっていたので修正しました。

#22


 街の中心区画まで戻ってきたトキヤは、駅に預けていた自分の荷物を受け取ると、駅の一番近くに会った宿泊施設に部屋をとった。可能ならば今日中にこの地で済ませられることをすべて済ませておきたかったが、移動時間に予想以上に時間がかかってしまったし、疲れも見え始めていた。少々早めではあったが、その日の行動はそこで切り上げることにする。

 自分以外には一人しか居ないという泊り客。食事も済んでしまうとやることもなく、ただ沈黙の時間だけがそこにはあった。体を休めるにはいい機会だが、トキヤの目は冴えていた。次の日の探索で万が一何も得られなかった場合、今回の依頼は実質的に「失敗」となるからだ。


 シュトで得た情報と、サギリから聞き出した情報を整理して考えてみたところ、失踪直前のホウジョウの行動には不自然さが見られることに気づいた。

 娘が殺され、その犯人を見つけられない市警に業を煮やしたホウジョウは、なんらかのきっかけで知ることになった呪法、あるいは儀式を用い、【真実の輩】を捕縛して事件の真実を知ろうと考えた。彼がそれだけのことをやってのけるのにどれだけの苦労があったかはわからない―― トキヤにとっては、むしろ関係のないことだ―― が、最終的にその目論見は成功している。

 ホウジョウは確実になんらかの真実を聞き出したのだ。それにもかかわらず、彼は口を閉ざして謎の失踪を遂げた。


 ――これは何故なのか。


 ホウジョウは娘の敵を取ることに執念を燃やしていた。これは周囲の証言からも間違いないことだといえるだろう。しかし、必要な「真実」を手に入れたはずのホウジョウは、それを現実に役に立てることをしなかった。少なくとも、犯人を公平な裁判の場に引っ張りだすことをしなかった。

 今までの調査によって、トキヤはホウジョウの心情に説明をつけるために十分な仮説を打ち立てることに成功した。あとはこれに確証となるものを加えるばかりだが、確証となり得るもの―― ホウジョウがすべてを賭けて手に入れた「真実」の"隠し場所"は、もはや一箇所を除いて考えられない。万が一そこで何も見つからなければ、この一連の事件の真相は完全に闇に葬られてしまう。現在のトキヤの目的である"鍵"も例外ではない。ここにおいては、失踪直前のホウジョウの"不自然さ"―― つまり、何かを"残そうとしている"そぶりに賭けてみるほかはない。


 ここで思い悩んでいても仕方がないことだというのは重々承知しているが、ままならないものである。依頼を請け負ったときには、よもやこのような遠回りをする羽目になるとは考えもしなかった。


 ――どうにも最近は自分の運命の流れが変わってきている気がする、と。安物のベッドの上で寝返りを打ちながら、トキヤは唐突にそんなことを考え始めていた。


 シュトに住むようになってから六年の月日が経つ。ついこの間までは、忘れたいものを忘れ、目先のことだけに集中して生きることが出来ていた。今のように何が起こるかわからないような不安に囚われることもなかったのに。

 事の起こりはやはり、アカギリ姉妹との出会いだろう。だが、それ以前に―― 所謂"ケチのつき始め"には心当たりがあった。


(やはり"アレ"のせいだ。"アレ"のせいでボクは……)


"そのこと"について思い起こそうとすると、今回の件で散々感じていたものとは別の緊張が体を支配する。どうすることもできない"怒り"。トキヤ自身さえも戸惑うくらいに強い感情の噴出が起こる。

 頭に血が上りかけたところで、嘆息して気分を落ち着かせる。普段はたとえ他人に批難されるようなことがあっても常に冷静でいようという心構えを持っているトキヤだが、殊"これ"に関しては、考えだすとすぐに感情が乱れてしまう。なるべく思い起こさないようにするのがベストだが、自分で"それ"がすべての始まりであると認識している手前、現状について考えだすと必ず頭の隅には引っかかるという具合だ。


(全部、"あの人"の戯れ言だ。そうでなければ――)


 最後に一度硬く拳を握りしめ、トキヤは全身の力を抜いた。

 結果がついてこずとも、この件は明日で幕引きだ。それかけた思考は元に戻しておかねばならない。

 考えることをやめても、嫌な気分は消えなかった。強引に目を閉じると、トキヤはそれ以降、朝になるまで身じろぎひとつもしなかった。




 翌朝、今度は宿のフロントに荷物を預け、トキヤはフレミングがこの地に残したという屋敷へと向かうことにした。愛用の手帳には、御者から聞き出した屋敷の場所についてのメモが記されている。それによれば、フレミングの屋敷は街の中心部から見て領主の館と反対方向にあり、人の脚で三十分から四十分ほどの距離であるらしい。近隣には他の住宅はなく、森林がほど近い。どうやらフレミングという男は、とことん人目を避けたい気質であったらしい。


 トキヤは最低限の荷物を手に、フレミングの屋敷へと急いだ。この探索にどれほどの時間がかかるのかわからないが、早く終わるに越したことはないのである。なぜなら、シュトへ帰還するための汽車は数が限られているからだ。時刻表はシュトのほとんどの昨日が停止する十八時が基準となっている。年がら空を覆う暗雲のせいで「夜を忘れた街」と揶揄されるシュトであるが、その実眠りにつくのは早い。

 トキヤにはこの街に長い間留まり続ける気はなかった。ここにはトキヤの後ろ盾となるものがない。大げさに言ってしまえば敵地である。


 人通りもまだない時間に出立し、周囲を警戒しながら街外れへと向かう。フレミングの屋敷は御者の話通り、森林にほど近い池のそばに建っていた。木々の合間に建つ洋館は、ミステリやホラーなどの創作(フィクション)の舞台としてぴったりであると言えた。

 外観は朽ちているというほど荒れ果てた様子ではないが、門の内側、前に輪の部分は背の高い草が生い茂っており、元は白塗りであったであろう壁面は薄汚れ、蔦が張っている。長らく手入れがなされていなかったことは確かなようだ。人の出入りは皆無か、最低限のおとないしか受けていなかったのだろう。

 土江お踏み固めて造られた道が、かろうじてエントランスまでかたちを保っている。トキヤはやってきた道のほうを警戒しながら、早歩きで扉へと近づいた。


 案の定、扉には鍵がかかっている。この屋敷の鍵は、ホウジョウに貸与されたまま行方がわからなくなっているという話だった。このままでは屋敷に侵入することは不可能だが、トキヤにはこの屋敷の鍵について思い当たるフシがあった。


(おそらく、これで――)


 トキヤが懐から取り出したのは、オオトミに貸し与えられた、現オオトミ家の鍵束であった。そのなかにはひとつだけ、"オオトミの家のどの扉の錠にも対応しない"鍵があった。つまり、【開かずの間】に対応する鍵とまったく別の鍵が入れ替わっていたのだ。これは間違いなく、イツキ・ホウジョウの手によるものである。


 件の鍵を選び出し、慎重に扉へ差し込む。手応えが―― あった。


 思わずこみ上げてくる笑みを押し留め、トキヤは屋敷の中へと身を滑り込ませる。途端に、トキヤを包む空気が一変した。

 屋敷のエントランス・ホールは薄暗く、最近押し入ることになったマミヤ邸―― 偶然にも、もともとはエドガー・ジョン・フレミングの持ち物であったというところで一致している―― 以上に強い退廃のにおいを嗅ぎ取ることが出来る。そこかしこに感じる小さな気配は、おそらく虫のたぐいか小型の爬虫類であろう。トキヤは潔癖症ではないが、このあれ具合には思わず顔をしかめてしまう。……深呼吸はしないようにしたほうが良さそうだ。


 ハンカチーフをコートのポケットから取り出す。それで口元を隠しながら、トキヤは一階部分から探索を進めることにした。


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