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魔術師たちの昏き憧憬:Re  作者: 美凪
二章 真実の輩は扉を叩く
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#20

#20


「……奥様は、もはやホウジョウ氏が見つからないとお考えですか?」

「どうなんでしょう。気持ちの整理がつかないまま、時間が経ちすぎましたわ。……あなたは、なんとしても夫を探す気でいらっしゃるのね?」

「ええ。奥様の前でこういった物言いをすることは憚れますが、仕事をこなすのに必要なことなのです」


 殊"イツキ・ホウジョウを探す"ということに関して必要以上の執着はない。トキヤはそのようなスタンスを貫くことにした。その領域まで踏み込むことはどうにも危険なように思われたからである。


 しかし、真実を求む心はトキヤという人間の人格のいくらかを占めている。今回の仕事である「不審な物音の原因の調査・排除」とは別に、事の発端であるイツキ・ホウジョウの身に何が起こったのか、そして彼がそれに対してどのような行動を起こしたのか知りたいとも考えていた。


「そう、仕事、ね…… わたくしも夫に会いたくはないとは言わないわ。もう一度出会えるのなら……」


 サギリはそこで一度口を閉ざし、


「……正直を申しませば、わたくしが何かを話したところで、今更あなたに夫が見つけられるとは思えません。けれど、あなたが自身に必要なことだというならば、知っていることをお話しますわ」

「ご協力、感謝いたします。……それではさっそくおうかがいしたいのですが、ホウジョウ氏が失踪する原因となったことに、なにか心当たりはございますか?」

「そうね、どこから話せば良いのかしら…… わたくしたちが、都からこちらに移ってきた理由については、ご存知?」

「――ご令嬢の事件がきっかけかと推察しますが」

「それが引き金となっているのは間違いありません。……わたくしの不注意で娘は攫われ、殺されました。結局その犯人すら捕まらず―― 夫は"狂った"のです」

「狂った?」


 突如飛び出した不穏な言葉に、ある程度予測はしていたとはいえ、思わずトキヤは眉をひそめて尋ね返していた。


「市警の捜査にまったく進展が見られないまま時間が過ぎて、最初は市警に対して催促だけを行っていた夫は、次第に自分で行動を起こすようになったのです」

「ご自身で探偵を始めたということですか?」

「いいえ。そのような"まっとうな"手段を選んでいたのならば、「狂った」などとは表現しませんわ。夫は何か―― 占いのようなまともではない方法で、娘を殺した犯人を突きとめようとしていたのです」

(ここまではだいたい、仮説通りだが――)


 娘が殺された一件に関して、市警はまともな成果を上げることが出来なかった。


 それに我慢ならなかったホウジョウは、みずから事件の真実を暴こうと行動を開始したのである。その手段こそが、【真実の輩】を捕縛することだったのではないか。――つまり、ホウジョウは【真実の輩】に娘を殺した犯人を聞き出そうと考えたのである。


「その様子が尋常ではなかった、と?」

「ええ、それはもう。夫は職業柄、たくさんの書物を持っておりました。我が家―― 今は手放した都の自宅のことですが、あの家に収まりきらないほどの蔵書が存在していたのです。夫はそれを隅から隅までひっくり返し、朝から晩まで読みふけっておりましたわ。まるで何かに取り憑かれたかのように……」

「占いの類に頼ろうとしているのだとお気づきになった理由はなんでしょうか」

「それほど確かな理由があるわけではありません。偶然、夫が「儀式」や「魔術」などと口走っていたところを見たくらいで…… 当然、そのようなことでどうにかなるとは思えませんでしたので、わたくしは止めたのです。けれど、そのころにはわたくしに一切の関心を失っていて、聞き耳を持ってもらえず……」


 サギリは悲痛な表情で俯いた。当時のことを思い起こして辛い気分にでもなったのであろうか。その表情は自然なもので、心から表されたものであるように思えた。


「それでは、奥様はホウジョウ氏が具体的にどのような「占い」を行おうとしていたのかは、ご存知ではないのですね?」

「はい、まったく知りません。わたくしには何も教えてはくれませんでしたから。……ただ」

「ただ?」

「夫と一緒になって資料漁りをしたり、夫に頼まれごとをして頻繁に遠出をしていた人物がおりました。彼は――」

「もしや、その人物の名はエドガー・ジョン・フレミングという名では?」


 トキヤが口にした名を受け、サギリは目を見開いて驚きを露わにした。


「あら…… そこまでご存知だったのですか?」


 エドガー・ジョン・フレミングは、ホウジョウ失踪後に他人の手に渡った邸宅を訪れ、【真実の輩】に殺害されたと思しき西洋人作家の名である。奇しくも、アカギリ姉妹の祖父、ショウダイ・マミヤの屋敷の以前の所有者であり、謎を解く鍵となった本の著者と同一人物であったことが判明している。


「はい。……ですが、彼はすでに亡くなっておりまして、話を聞くことが出来なかったのです」

「そうだったのですか。彼は亡くなっていたのですね」

「……参考までのお訊きしたいのですが、フレミング氏と最後に会ったのはいつごろのことですか?」

「彼と最後に会ったのは、夫が失踪してしばらくしたころでした。夫に預けた"鍵"を返して欲しくて訪ねてきたとのことだったのですが、肝心の夫が行方知れずでしょう? そうと知ると自分の目的は放って、すぐに帰って行ってしまいましたわ」


 おそらく、フレミングはその後、自分にできる手を尽してホウジョウの行方を探していたのであろう。その一環として以前彼が住んでいた家を調べに訪れ―― 死んだのだ。


 トキヤはすこしばかり間を置き、質問を続ける。


「細かいことで申し訳ないのですが、フレミング氏がホウジョウ氏に預けたという"鍵"は、どのようなものだったのでしょう?」

「彼の邸宅の鍵ですわね」

「邸宅の……」


 トキヤはすでに焼け落ちて失われたシュトのマミヤ邸のことを思い起こしたが、それはサギリの言葉によって否定された。


「フレミングさんは夫の援助受けて、この地に長らく住まっていたのです。作家として生計が立つようになって、シュトに移り住んだのが今から十六年ほど前―― わたくしたちの娘が事件に巻き込まれる少し前のことです。フレミングさんが夫に預けた鍵というのは、この地にある家の鍵の方だと思いますわ」

「ホウジョウ氏は、どういった理由でその鍵を?」

「詳しくは知りません。どうやらフレミングさんは夫が求める資料を沢山所有していたらしくて、それの保管してる場所が例の家だったようですの。『ウチにある資料が読みたいから、鍵を貸してくれ』と言われたのだと仰っておいででした」

「そのやりとりがいつ頃行われたのかは、ご存知ですか?」

「それはわかりませんわね。ただ、その鍵を借りたのがいつごろであっても、夫はこの地に戻ってくるまで、フレミングさんの家を訊ねることはなかったと思います」

「ずいぶんと自信がおありのようですね」

「それはもちろん。あの頃の夫は衰弱していて、お世話が必要不可欠でしたから。わたくしが四六時中ついていたのです。出かけようとすれば気づかないはずがありません」

「なるほど、参考になります」


 つまり、ホウジョウは資料閲覧以外の目的で鍵を借りた可能性が高い。

 単純に外出する気力や時間が足りなかったのかも分からないが、当時の様子を聞くにホウジョウは娘の事件の真実を調べあげることに執念を燃やしていたはずである。そのために必要なことなら、何がなんでも行うだろう。


(無意味に鍵を借りたのではないのなら、いったいなんの目的があったんだろう。……時期が知りたいが、知らないというのだから仕方がない。コレに関しては、嘘を言っているふうでもないしな)


 つくづく、トキヤが関わる前にフレミングが死んでしまっていたのが痛手である。もしも彼が存命であれば、ここまで苦労することはなかっただろう。


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