第八話 ハスの花
ゆっくり旋回して行く飛行機を見上げながら、私は隣に立っているヒッキ―を盗み見る。
ヨッちゃんとの騒動の後、ヒッキ―が急に飛行機が見たいと言い出して、現在に至るのだが、ずっと黙ったままこの状態を保っていた。
「沖縄、本気で行けないかも」
ボソッと言うヒッキ―は、目を大きくしている私を見て、小さく微笑む。
「あんまり、検査の結果が良くないみたいだわ」
「嘘……」
壊れそうな笑顔で見ているヒッキ―を、私は思わず抱きしめる。
しばしの沈黙の後、ヒッキ―の携帯にメールが届く。
「マッチからだ」
そう呟くと、メールを読みだすヒッキ―の横顔を、私はぼんやり眺める。
「なんか、話したいことがあるから会えないかって」
「今から?」
時計はとっくに7時を回っていた。
「駅前のマックに居るらしいよ。もうヨーデルも来ているってさ」
「それじゃ行くしかないでしょ。だけど、ヒッキ―は帰った方が良いんじゃねぇ」
「私なら大丈夫。少しでもみんなと一緒に居たいから」
この野郎、泣きたくなるじゃないか。ぐっと込み上げて来るものを我慢していると、ヒッキ―がプッと吹き出した。
「横綱、変な顔」
「変な顔で悪かったわね」
口を尖らせたところで、パシャリ。
「ふぐに劣らないデブってところかな?」
「デブって言うな」
「デブはデブだよ」
「グラマーっていうんだよ。海外ではモテモテなんだから」
「じゃあ行けばいい。アメリカでもイギリスでも。幸いここは空港だし、最終に間に合うんじゃん」
そんな減らず口を聞きながら、私たちはマッチが待つマックへと、急いだ。
マックに9時を少し回ったところで着く。
無言で座っている二人の前に、私はドカッと座る。
ヒッキ―は暢気に、お腹が空いたと言ってしっかりバリューセットを購入している。私もと言いかけると、あなたはダイエットでしょと冷たく言い放たれてしまい、渋々と手ぶらで二人の前に座ったのだが、マッチが食べ残してあるポテトを見て、思わず生唾を飲みこむ。
「緊急の用って何?」
ヒッキ―が席に着いた所で、私が質問した。
「やだーこれ美味しい」
ヒッキ―の無神経な言葉を無視して、マッチが口を開くのを待つ。
「言っちゃいなよ。この二人なら大丈夫だって。許してくれるよ。て言うか、仲直りしようと思っていたし、ね、だから」
ヨーデルが困ったような顔をして、マッチに囁く。
もぞもぞと体を動かし、マッチが言いにくそうにチラチラと私たちを見ては、目を伏せる。
「ええー」
数秒後、ヒッキ―は食べていたハンバーガーを手から落としそうになり、私は私で鼻の穴を大きく膨らまして、身体をのけぞらしていた。
「こ、子供が出来た?」
「横綱、声が大きい」
ヨーデルに指を立てられ、宥められた私は、身を乗り出し、マジと聞き直す。
「たぶん」
「たぶんって?」
ヒッキ―も珍しく声のトーンが一オクターブ上がっている。
「だって来ないんだもん」
「遅れているだけじゃないの?」
「私も言ったんだけどね」
私の言葉に、ヨーデルが言い繋ぎ、それを半泣きでマッチが否定する。
「そんなことないもん。毎月、きちんと決まった周期で来ているから、間違いない。私……、どうしよう」
テーブルにうっつぶし泣き始めたマッチの背中を、ヨーデルが撫で、どうすると私はヒッキ―に目で話しかける。
「姉貴を呼ぼう。あの人なら何とか出来ると思う」
冷静沈着なヒッキ―の言葉に、最初は嫌がっていたマッチも、うちらガキにはどうにもできないでしょ。姉貴なら大丈夫。そこら辺の大人と違うから。と力説され、それは私も補償する。と私の後ろ盾をする。
そして、私たちよりグーンと大人の10歳離れた秋穂が、呼ばれることになったのだった。




