第七話 あさがお
一週間後、無事ヒッキ―は復活を果たし、皆の前に姿を現した。
「なんか、痩せたんじゃねぇ?」
急に話し掛けられ、驚いた私たちは仰け反り、その声の主を見た。
「芳郎、脅かしてんじゃないよ」
私の雄たけびの後、ヨーデルが、ああびっくりしたと胸を撫で下ろし、その隣でヒッキ―が気まずそうに俯く。
「皆して、どこかへ行くの?」
のんびりした口調で話し掛けて来たヨッちゃんは、何気なくヒッキ―の横に並ぶ。
「これから、マッチに会いに行くとこだけど、芳郎、吹部の練習は?」
「ああ、暑くて面倒だからサボった」
「それ、まずくない? 全国大会、控えてんでしょ?」
ヨーデルの透き通った声が、廊下に響き渡る。
「声、でけーよ」
「俺には、全国大会より大切なもんあっから」
チラリとヨッちゃんは、ヒッキ―を見るが、相変わらず目を合わせて貰えず、黙りこむ。
「付いて来ないでよ」
「何で? 俺も参加させてよ」
「ダメ、これはうちらの問題だから」
「いや、俺の問題でもある」
ヨッちゃんの問題発言に思わず、どういう意味と、言ってしまってからヒッキ―は、すぐに口を噤む。
「だって、マッチと喧嘩したんでしょ? それが解決しないと、俺らの夏のバカンスがなくなる可能性があるってことでしょ?」
「あんた、まだ一緒に行く気?」
穏やかではない会話に、ヨーデルが面を食らったように、私を見る。
「行くよ。だって約束したじゃん。その為に、お金も溜めてんだ。もうバイトとか出来ないから、いろいろ理由を付けて、親から金を貰おうとしたんだけどさ、無理があることに、気付いたんよん。しょうがないからついに、沖縄旅行の話をしたんだ。部活ばっかでクラスの奴らとあまり交流が取れんかったから、最後の記念に行くって言ったらさ、卒業旅行にしろって言われて、もう大ゲンカしちゃったよ」
「そうすればいいじゃん」
ヒッキ―のつぶやきに、にやけた顔を強張らせたヨッちゃんが、何だよ、その態度と肩を掴んだ。
「芳郎!」
思わず私は叫んだ。
「じゃあ私が行かない」
ヒッキ―がよろめきながら、芳郎の手を振り払い言う。
「ヨーデル、今日はキャンセル。悪いけど、ヒッキ―と二人にして。芳郎もヒッキ―のこと、好きなら今日はその辺にしておきな。この子、病み上がりで体力ないんだから。もう少し元気になってから、そう言う話はしてよ。まったくデリカシーがないんだから」
私は軽々とヒッキ―を抱き上げる。
「ちょっと―、何してんの?」
ヒッキ―がじたばたと体を動かすのを余所に、ヨーデルにその姿を撮らせた。
「今日は、友をバーベル代わりにダイエット。目標まで頑張ります。とでも書き込んでおいて」
「ヨーデル、ブヒブッブーにしておいて。姫、攫われるだよ」
「うるさい。誰が姫じゃ。ヨーデル、マッチにちゃんとブログだけは読めってメールしておいてね」
「了解!」
敬礼したヨーデルの横で、ボケッとしたヨッちゃんだけが取り残されているのが、うっすらと涙を浮かべているヒッキ―には悪いけど、妙におかしくて笑ってしまった。
あさがおの花言葉・・・愛情の絆。平静。はかない恋。




