第四話 風前蔓
――本格的な夏がもうそこまでやって来ていた。
私はロッキーのテーマを聞きながら、本格的なダイエットを始めた。
本当に持つべきものは友。
「一緒に戦えないけど、応援はする」
担架事件から数週間後、腹の虫と戦っている私をヒッキ―達に連れられて音楽室に行くと、待っていたのは、吹奏楽部の子達だった。
高らかに上げられたスティックで、カウントを取る江上芳郎に、ヒッキ―は小さく手を振って見せる。
……女って奴は。
この時とばかり幸せそうな笑みをするヒッキ―を横目で見ながら、突如始まった演奏に、キョトンとなってしまう。
なぜ、ロッキーのテーマ?
ふと気が付くと、マッチがそんな私に携帯を向けていた。
「やっぱ、ウチの吹部、上手いね」
「当然、ヨッちゃんがいるんだから」
「キャー強烈。私天才かも」
そう自画自賛するマッチの携帯を、ヨーレルとヒッキ―、二人して覗き込む。
力なくベンチに座りこむ私に、ほら横綱も見てと画面を目の前に持ってくる。
「あんたたち何がしたいの?」
さっきの吹部の演奏に合わせて私の表情が映し出され、花咲け乙女。横綱、痩せます。のコメントが入れられていた。
「まさかと思いますが、アップなどしてませんよね」
「まさかと思いますが、本気でそんなことを訊いてませんよね」
質問に質問を返すなんて小賢しいことをするヒッキ―に代わって、ヨーレルがい甲高い声で答える。
「こんな面白いこと、全国ネットで知らしめなきゃ」
じろりと睨んだ私に、ヨーレルは恐れをなして、言葉をそのまま飲んだ。
「うちらは横綱のことを思って、やっているんだよ。こうでもしないと、その体型は崩せないでしょ。取り敢えず、はいこれ」
私に縄跳びを渡しながら、ヒッキ―が真剣な眼差しを向ける。
「何よ」
「食べ物だけ減らしてちゃ埒が明かないよ。一人だとめげるでしょ。ヨッちゃんが練習している間、私が付き合ってあげようじゃないのって思ったりして」
「そうそう、それだけじゃ挫けるだろうと思って、公言しちゃえばさ、嫌でもやらなきゃならんでしょ」
笑いをこらえて言うマッチ。
その傍らでヨーレルが携帯を向けてくる。
「早く飛んでみて」
はしゃぎ声で言うヨーレルを無視して帰ろうとする私を引き留めたのは、ヒッキ―だった。
「横綱、本当にそれでいいの? あなたの恋、成就させたいのよ私たちは」
校舎に掛かる夕映えに、ヒッキ―の顔がやたら綺麗に見えてしまい、迂闊にも涙を流しそうになってしまった。
ヒッキーがしたりという顔で、二人を顧みる。
私はしまったと思った。
時すでに遅し。
「今の、青春映画ぽくなかった」
「グッジョブ」
ヒッキーの言葉に、マッチが親指を立ててみせる。
「よし。後はコメントを入れて」
マッチとヨーレルが鼻を突き合わせて携帯操作に専念しだす。
「あんたら、私で遊んでない?」
「全然、これはあくまでも応援ですよ。応援」
ものすごい形相で突進してくる私を見て、三人はまたもや夕映えの中、蜘蛛の子を散らしたように逃げ去って行った。
風前蔓の花言葉・・・あなたと飛び立ちたい。期待。自由な心。




