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第十三話 スィートピー

いよいよ最終話です。


 春風が街に新しい希望を運び、私たちは卒業の日を迎えていた。


 予行練習にも出られなかったヒッキ―も、何とか復活して出席している。

担任に我侭を言って、私はその隣に座らせてもらう。

 無事に式典が終わり、退場の曲を演奏するため吹部が楽器を構えた瞬間を待ち構えていたように、ヨッちゃんがつかつかと壇上に向かう。

 どこからともなく、ピアノの音色が奏でられ、一度下げられた緞帳が上がる。

 私とヒッキ―は顔を見合わせてしまった。

 流暢に弾き語っているのは、ヨーデルだった。

 それに合わせて、ヨッちゃんがハーモニカを吹き始め、それに合わせて吹部が演奏をし始める。

 「これ?」

 「大変だったんだよ。あんたまた倒れてて、壮行会に出れなかったからさ、ヨッちゃんが先生たちに直談判して、これを徹夜で編集してさ。あんた、こっそり皆の写真撮っていたんだね」

 「姉貴だな」

 「あたり。みんなでお泊り会をした時に話してくれたんだ。学校休みがちだから、一人でも多くの子を覚えられるようにって、撮ってたんでしょ。それとヨーデルの趣味と、ヨッちゃんの音楽センスプラスマッチの文章能力を足すと、こんな卒業ビデオが出来ましたとさ」

 「なんか出来過ぎでしょ。所々横綱のダイエット作戦も取り入れられて、笑わせたりしてさ」

 「隠し玉もあるんだ。秋穂さんの御友人が手伝ってくれました」

 「ご友人?」

 私は振り返り、秋穂さんを見つけ手を振る。

 「でかっ」

 「彼だってさ。ケーブルテレビのデレクターしているらしいよ」

 「だから、でかでかサイズの洋服があったんだ」

 「すごくいい人だよ。見かけによらず繊細で、細かいところまで配慮してくれてさ、ほとんど彼の演出だから」

 次々と思い出のシーンが映し出され、それに合わせて曲が乗っけられていく。

 

 A組の担任が映し出され、進行係の先生が号令を掛ける。クラス全員の顔が映し出され、ありがとうの人文字の中、会場を後にする。各クラスの思考が施され、次々に退場し、私たちのクラスの番が来た。


 「さぁ行くよ」

 私は、ヒッキ―の手を取り壇上に立つ。待ち構えていたマッチとヨーデルが私たちを挟む。

 「私たち、花咲け乙女高校、ダイエットクラブ。ウ~」

 何が始まったのかときょとんとしているヒッキ―に、良いから真似をしてと私は囁く。

 屈んで地団太を踏む三人の前に一歩出た私が、どすこいとしこを踏む。

 クラス全員が一斉に飛び上がった。

 ヒッキ―が、凄いと呟く。

 それが合図で、クラス全員の手型で書き上げたありがとうの文字が映し出され、最後の部分にヒッキ―の手をかざさせた。

 「三年E組、退場」

 吹部の曲が変わり、ロッキーのテーマが流れ出し、会場から割れんばかりの笑いが出る。

 

 「何かベターすぎるんじゃない?」

 困惑しながら言うヒッキ―に、そうだねと私たちは口を揃えて答えた。


 ――あれから10年。


 ヨッちゃんは有言実行で、内科医になり、めでたく今日、ヒッキ―とゴールインした。

保育士希望だったヨーデルは、クリエーターになり、マッチは普通の事務職員として働いている。私はというと、看護師になったものの、入院患者と恋に落ち、誰よりも早く結婚し、二人目の子がお腹にいる。


 「秋穂さん、一つだけ聞いても良いですか?」

 大きくなったお腹を抱える様に座る私の隣に座った秋穂が、柔らかい笑みを向ける。

 「どうして執拗に、ヒッキ―に優しかったんですか?」

 「ああそれ、俺も知りたい」

 私と同じような体型の旦那さんが、興味深げに口を挟む。

 「あの子が母の中に居ると分かったのは、私が10歳になったばかりの頃だったの。ずっと一人っ子だった私は、喜んで話す母親も父親も、なんだか許せない気持ちになっちゃったのね。10歳って色々と分かって来る年齢だったから。私、居なくなっちゃえって、心の中で何度も叫んじゃったりして。凄いよね。自分でも驚くくらいの嫉妬心で。でもそれはすぐに、後悔に変わったわ。予定日より早くにあの子、母親の中から出て来ちゃって、なんか大騒ぎになっちゃってね。よく分からなかったけど、あちこち悪いところだらけで、本当に生きて行けるのかしらって、母親は泣くし、父親は医者の怠慢さを罵る有様で、私、自分のせいだって、もうあの子の病気は10歳の私には衝撃的だった」

 「でも、ヒッキ―って生命力ありますよね」

 「本当。20歳まで生きられないかもって言われていたのにね。良かった。本当に良かった」

 秋穂さんは涙ぐみ、ハンカチを目に押し当てる。

 ヨーデルは相変わらず、芸術魂をくすぐられたらしく、二人の姿をハンディームービーで追いかけ、マッチはそれを手伝っている。

 時折振り返るマッチの顔がおかしくて、笑って手を振る。

 「あたし、横綱にお礼を言わなくっちゃ」

 「え?」

 「あの子、あんな風に笑えるようにしてくれたの、横綱だから」

 「うっそー。それ、反対だよ。ヒッキ―が初めて友達になってくれたから、私、結婚まで出来たんだよ」

 「いやいや、私、本当は医者志望だったんだ。だけど、夏妃が真面目な顔をして私の部屋にやって来てさ、お姉ちゃんに助けて欲しい人がいるって言い出したんだよね。あれ、たぶん小学校3年生くらいじゃなかったかな。あの子なりにいじめられている横綱を何とか救い出そうと、思っていたんだろうね。お医者さんになんかならなくていいからって、せがむんだよね。細い腕を伸ばして、私の手を掴んで、どうしたら、あの子を助けられるのって、何度も何度も聞かれてさ。大人とかに相談してさってありきたりのことを言っても、聞かないんだよね。大人はみんな嘘つきだからって。お姉ちゃんがなんとかしてって。夏妃に弱みがある私としては、大幅に、進路を変えざるを得なくなったってわけ。しかし参ったなぁ。あの時のあの子の剣幕ときたら、本当に横綱のことが心配だったんだろうね。掴んだ手がすごく熱かったのに。どうしても聞き分けてくれなくてさ、上っ面だけを改善してもその子は救えないからって、説明してやったっけ。それでも引き下がんないからさ、苦し紛れに、姉ちゃんが、その子を助けるには、少し時間が必要だから、夏妃はその子が負けないように見守ってあげててねって言い聞かせたんだ。それからだよね、いつでもどこでもカメラを持ち歩くようになったのは」

 「おかげで命拾いをしました」

 「あの子って、本当に不思議な子だよね。心が透けて見えるって、冗談で言ってたことあるけど、本当に見えるのかもね」

 「見えますよ。だってそのお陰で、私もマッチもヨーデルも、幸せだもん」

 

 新郎のヨッちゃんが、ヒッキ―のためにオカリナを吹き始める。

 それはあの夏の海で、ヒッキ―に吹いたのと同じ曲だった。

 甘く優しく囁くように鳴り響く音色に合わせ、懐かしい時間が胸にこみ上げて来た。


 「私たち、花咲け乙女高校ダイエットクラブ。ウ~どすこい」

   

                  (おしまい)



スイートピーの花言葉・・・ほのかな喜び。門出。優しい思い出。永遠の喜び。


何だかんだと楽しかった高校生活も終わろうとしています。

あとから思うと、くだらなかったことがキラキラしていたあの日。

誰の心にもそんな一ページがあるのでは?

気に入ってくれたら、何よりです。



 

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