第十二話 月見草
楽しかった夏も終わり、アスファルトの割れ目からひょっこりと顔を出した月見草が咲く道を、私は、心臓をバクバクと言わせながら、一歩一歩踏みしめ、駅へと向かう。
途中、ヒッキ―が手を上げ合流する。その後にヨッちゃんが姿を見せ、ヒッキ―は胸の前でポーズを取ると、小走りで愛しのきみの元へ走り寄る。
ホームに入って行くと、待ち構えていたマッチとヨーデルがこちらを見て、ヒッキ―と同じようなポーズで、私にエールを送る。
7時45分発の電車に乗り込んだ私は、キョロキョロと辺りを見渡し、座席に座る愛しのきみを発見。
隣のドアの前で立っているヒッキ―とヨッちゃんに目配せをすると、その前に立つ。
今日は珍しく本じゃなく、スマフォを手にしている愛しのきみを見て、私は大きく深呼吸をした。
「あのぅすいません」
自分の声が違う人の声に聞こえ、私の足がブルブルと震える。
怪訝そうに見上げられ、いよいよ緊張が高まる。
「私、見崎高校三年の石黒登志子と言います。もし良かったらお友達になってもらえませんか」
通算1284回の練習の成果はちゃんと出た。後は結果を待つのみ。周辺にいた人々の視線を感じながら、私は運命の審判を待った。
「ごめんなさい。ああでも嬉しいです。ありがとう」
見事に玉砕だった。
「すいません。変なこと言っちゃって。あの、もし良かったら名字だけでも教えていただけませんか?」
遠くで、ヨッちゃんがよしと呟く。
「水島です」
「水島さん、もう一つだけ我儘ついでに、握手、してもらってもいいですか」
しっかりと握られた私の手は、恥ずかしいくらい汗ばんでいた。
「横綱、でかした」
ヒッキ―が電車を降りるや否や私に飛びつく。
かなり通行の邪魔になっている私たちは、慌ててホームの端に移動しすると、ヨーデルとマッチが涙ぐみながらやって来た。
「よしよし」
マッチが私の頭を撫で、ヨーデルが良い写真撮れたよと言って、私と水島さんが握手している写真を見せてくれた。
「これ、ブログに載せても良い?」
控えめに聞くヨーデルに、それだけはと断った。
「いや、載せるべきだよ。だってこのためになれない運動とか、食事制限とかして頑張って来たんでしょ?」
「だってそれじゃ、水島さんに迷惑かかるじゃん」
「じゃあこういうのはどう?」
ヒッキ―のこの言葉が出たら、実行という意味で、私と水島さんの握手した手が大きく映し出され、この日を手に入れるために私たちは頑張って来ました。花咲け乙女高校ダイエットクラブは、永遠に不滅です。とコメントが入れられた。
悔しいけど、私は家に帰ってからそれを何回も見て泣いた。
私の失恋劇は、秋風に吹き飛ばされ、皆はそれぞれの進路の為、つるむこともなく日々を過ごすようになった。10月に入り、学校にはほとんど行かなくなり、水島さんと顔を合わせるのが気まずく、一本、早めの電車に乗るようになった私は、大学の受験日を迎えていた。
ヒッキ―がわざわざ家の前まで来て、手作りのお守りを手渡す。
私はそれだけで胸が熱くなる。
「横綱なら大丈夫」
「ありがとう」
「私の分まで頑張って来てね」
がっちりと抱きついて来たヒッキ―に耳元で囁かれ、私の涙腺は決壊してしまっていた。
「頑張って来るから」
手を振る私を、ヒッキ―が構えたカメラがパシャリと捉える。
後で聞いた話だが、どうやら、こんなことを全員にやり遂げたらしい。ヨッちゃんにはスペシャルキッス付きだったそうだが。その甲斐あって、全員、現役合格を果たすことが出来た。
月見草の花言葉・・・美人。自由な心。虚ろな愛。




