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第十一話 ハイビスカス

 私の連絡を受け、迎えに来た秋穂さん同伴の旅行になり、始終機嫌が悪いヒッキ―と対照的に、ヨーデルはテンションを上げていた。

 どうやらヨーデルにとって、秋穂の存在は女神に見えるようだ。

 可愛そうなのがヨッちゃん。部屋を追い出され、別のホテルに泊まる羽目になってしまっていた。

 それでも旅行続行ができ、その上思いがけないスポンサーが付いた私たちは、少し贅沢な遊びをさせてもらえ、ヒッキ―には悪いが、秋穂の登場は大歓迎だった。

 旅行最終日、ヨッちゃんとヒッキ―は浜辺へと二人で出かけて行った。

 私たちも何となく、名残惜しく花火を買って浜辺に行くと、オカリナの音が聞こえ立ち止る。

 「あれ」

 マッチが指差す方向を見て、私とヨーデルは肩を竦め踵を返す。

 ヨッちゃんが、ヒッキ―のために奏でる音色だった。

 「なんかいいね」

 マッチが羨ましそうに言うと、ヨーデルがカバンからスマフォを出して二人を写す。

 「ブログに書いちゃおうかな」

 「ダメだろう」

 私の突込みで、スマフォを仕舞ったヨーデルが、聞きにくそうに私を見る。

 「ねぇヒッキ―って、どこが悪いの?」

 「性格」

 「そうじゃなくって」

 マッチも物言いたげに私を見ていた。

 「良くは知らないんだ。ただなんか調子が良くないってことぐらいでさ。そういうの知っちゃうと、嘘くさい友情になるから嫌なんだってさ」

 「どういう意味?」

 「可哀相な子だから友達になってあげようとかさ。同情されながら、一緒に遊んでもらうの嫌なんだって。ちょっと体が弱いどうしようもない友っていう位置づけが、良いらしい」

 「でも、それもなんだか寂しいね」

 「そうだね。でも知ったところで、私たちガキが、何が出来るって訊かれたら、何もないからね」

 「そうだけどさ」

 用意してきたロウソクに、マッチが火を灯し、私はそれに花火の先を押し当てた。

 青白い炎が威勢よく飛び出し、続いてヨーデルの花火がパチパチと幾筋もの枝を伸ばす。マッチのは、威勢よくオレンジ色の炎が噴き出している。

 ヨーデルがねずみ花火に火を点けて投げ、パンと弾けた。私が砂で埋めた仕掛け花火に、マッチの花火で点火。赤や青の火の玉を上げ、自ずと上がった歓声に気が付いた二人も交じり、にわかに花火大会がはじまった。

 「最後の締めはこれだね」

 みんなの手に線香花火が渡され、一斉に花を咲かせ始める。

 次々に火の玉が落ち、一瞬にして静けさを取り戻した夜の海を、私たちは無言で眺める。

 「終わっちゃったね」

 ヨーデルの言葉に、皆で頷く。

 「楽しかった」

 マッチが涙目で言うと、私もこんな楽しかったの初めてと、ヒッキ―も涙ぐむ。

 「もう皆どうしちゃったの?」

 「よく分かんないけど、横綱がいてくれたから楽しめた気がする」

 ヨッちゃんのセリフに、ぐっと来た私に止めを刺したのは、マッチだった。

 「いろいろあったけど、横綱の七転八倒のダイエット、結構癒されたよね」

 「やっている本人は大真面目ですから」

 「ブログ、作るの面白かったな」

 「俺も、皆に頼んでロッキーのテーマ録音した時、初めて吹部最高って思った」

 「いやいや、頼んでいませんから」

 「私も、あんなに朝早くから自転車漕いで、気持ち良かった。後は、横綱の恋が実るのだけが唯一の楽しみだわ」

 「あんた、人生最後みたいなセリフ、言っているんじゃないわよ」

 「俺決めた」

 「何を」

 「俺、医者になる。医者になって、一生、ヒッキ―の躰の面倒を見てやる」

 「ねぇそれって、もしかしてプロポーズ?」

 マッチが豆鉄砲でも食らったような顔で言うと、ヨッちゃんは素直に認めた。

 「ええ~凄い。何か私たちドラマしてない?」

 「まだまだ先のことだよ」

 「よし私も決めた」

 「横綱まで何?」

 「私はヒッキ―がいつ倒れても大丈夫のように、看護師になってやるわ」

 「もう。私は大丈夫だって」

 「あぁはいはい」

 ヨーデルがピョンピョン跳ねながら、手を上げる。

 「はい、見澤芽衣子さん発言をどうぞ」

 ヒッキ―の合いの手に、ヨーデルは透き通った声で、私は、保育士になる。明日を担う子供たちが真っ直ぐ育つように、笑顔をたくさんプレゼンするんだ。

 意外な発言に、皆で口笛を吹き称える。

 「私は、まだ決められない。けど、絶対素敵な恋をしてやろうと思う」

 「良いねそれ」

 私も賛同すると、ヒッキーが抜かりなくツッコミを入れる。

 「よし決まり。帰ったら横綱の告白タイム作るよ」

 「良かった。ここの所ブログがマンネリ化してて困っていたんだよね」

 「だから」

 「今のきみなら大丈夫。人並みになったじゃありませんか」

 「マッチまで」

 「あっ俺、景気づけに何か吹きます」

 ヨッちゃんが奏でる少年時代は甘くて切なくて、少し泣けた。


ハイビスカスの花言葉・・・勇敢。勇ましさ。新しい恋。

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