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第十話 日日草

 法律用語を立て続けに並べられ、脅された犬飼は可愛そうなくらい大きな体を小さくさせ、只管に目の前に立ちはだかっている二人に謝罪の意を表していた。

 手切れ金と言って、マッチは30万円入った封筒を渡され、思いっきり彼の頬を叩く。

 こうしてマッチの初恋は幕を下ろしたのだが、秋穂の部屋に戻り、思い掛けない大金を手にしてしまった私たちは、無言でその封筒を見つめていた。

 「これで沖縄、行ってくればいいじゃない?」

 ブランデー片手に言う秋穂を、皆で見る。

 「だよね。親に説明がつかないお金だもんね~。じゃあこうしたらどう」

 つまみに用意したチョコを口に放り込んだ秋穂が、私を見てニヤリと笑った。

 「横綱のダイエット成功報酬だってことにするの。ほらよくあるでしょ。ダイエット食品会社で開催している奴。横綱の体重が減れば一目瞭然で分かるし、説得力抜群だと思うよ」

 「そっか。ブログで逐一報告しているしね。花咲け乙女高校、ダイエットクラブ。ギャグで付けたタイトルだけど、案外いけるかも」

 「いけねーだろ。嘘の高校名だしさ。あれからもうひと月以上やっているけど、2キロ痩せるのがせいぜいなのに。無理難題を押し付けんといて」

 「ところでさ、何でダイエットなんか始めたの?」

 「今更そんなことを訊く?」

 大きく頷くマッチを見て、ヨーデルも、私もその理由知らないかもと言い出す。

 「うっそ~。それでこんな手の込んだブログ立ち上げたの?」

 「ああそれ、私の趣味です」

 音楽に合わせた私の動きに、絶妙なコメントが載せられ流れて行く。

 「ヨーデルちゃん上手いね」

 「題材が良いんです。横綱自体、キャラが面白すぎるから」

 「そうだよね。癒されるわ~その顔」

 その言葉に、ヒッキ―がパシャリ。

 間が抜けた私のドアップが画面を覆い尽くし、痩せたいんだけど痩せられない夏。どうせなら自分の脂肪、食ってやろうかと書き込まれ、敢え無くヨーデルのブログにアップされてしまった。

 私は、アクセス数を見て、がっくりと肩を落とす。

 いっそのこと、お笑い目指してやろうか。

 そのタイミングで、マッチが私の肩を叩き、今日はありがとうねと言って来た。

 「私は何も」

 マッチが大きく首を振った。

 「横綱がそばにいてくれたから、私、安心出来たんだと思う。あの人、なんだかんだ言っても男だし、腕の筋肉とかすごくあるし、怒ったら何されるかすごく怖かったから」

 「そうだね。一見気が弱そうな人が豹変って、よくある話だしね」

 「はいはい。お役にたてて何よりです」

 「このお金、横綱が使っても良いよ。これでジムに通ってみる?」

 「それは出来ないよ」

 「そう」

 「そうだよ」

 「それよりも、ダイエット始めた理由がまだだけど」

 ここで蒸し返しますか? 

 ギロリと私に睨まれたヒッキ―が、何食わん顔でその理由を断りもなく話し始める。

 本当にこの女は……。

 大きな体を小さくしながらはにかむ私を見て、皆は散々笑った。


日日草の花言葉・・・楽しい思いで。若い友情。

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