春に溶けた冬色
『これなんかどうかしら?』
「少しカラフル過ぎないかな」
『そんなことないわよ。蒼に緑、臙脂色があなたらしくて、いい具合に柔らかい色合いになっているじゃない』
「そうかな。派手じゃないかな」
『いいから巻いてみなさいよ。ほら、あなたにぴったり。これくらいの色づかいの方が似合うのよ。もっと自分に自信を持ちなさい。とっても素敵よ』
そうかな、なんて照れながら秋の深まる吉祥寺のデパートでマフラーを買ったーーというか、彼女が僕にプレゼントしてくれた。
代わりに僕は彼女が自ら選んだ冬物のカーディガンを贈った。
その冬、僕は会社に行くときも、週末に出かけるときも、そのマフラーを巻いた。
温くて少し首筋にちくちくとして、まるで彼女を表現しているようで、愛おしかった。
半年が経ったころ春が来て、ふたりは離れた。
彼女の家に置いたままのマフラーは、小包に入って送られてきた。
ひと冬を着回したせいか、買ったときよりも毛羽立って見えた。
晩春の風景は、桜の花びらをアスファルトに散らして、新しい息吹が芽となり葉となり、次の季節の足音を聞かせていた。
僕はカラフルなマフラーがあの日の彼女に続いているような気がした。
巻いてみると以前より毛羽立っているようで、マフラーは僕の首筋を執拗にちくちくと刺した。
季節外れのマフラーをぐるぐるに巻いた僕は街に繰り出した。
春らしい色めきを見せる街に、蒼も緑も臙脂も、飲み込まれるように溶けてしまった。