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4話

 広場を後にして、迷宮都市の冒険者ギルドに向かった。冒険者ギルドは広場から南西へ3分ぐらいの距離にあった。

 冒険者ギルドの建物は3階建ての大きな建物だった。

 入り口のロビーは2階までの吹き抜け構造になっており、ロビーの左側、3分の1のエリアに受付窓口が並んでおり、残りがカフェテリアのようになっていた。

 受付窓口の隣に2階に上がる階段があった。階段横の案内板に「クエスト達成の受付は2階。魔石とドロップ品の換金は支店へどうぞ」と書かれていた。

 冒険者ギルドの支店はゲートのある広場の西側に建っているので、地下迷宮の冒険者にとっては支店の方が便利なはずだ。

 カフェテリアには、食べ物や飲み物を売っているカウンタとカウンタの前に100個ぐらいのテーブルが置かれ、3分の1ぐらいのテーブルは飲み物や食べ物を置いた冒険者が座って、神聖協会の腕輪を操作してたり、おしゃべりをしたりしていた。

 何人もの冒険者がカフェテリアの方の壁の前に立って壁を眺めているところを見ると、そこに依頼が張り出されているのだろう。テーブルも壁際から十分に離れた場所に並べられている。

 冒険者ギルドに対しては、酒場のようなイメージを持っていたのだが、随分と雰囲気が違う。真面目で明るい雰囲気で、酔っ払いが闊歩している様子は全く無い。

 2割ぐらいが俺と同じ普段着で、約7割が武装しており、魔術師の服装の者が1割の割合だ。良く見ると、冒険者の殆どの者が魔獣バックを下げており、テーブルに座った冒険者の何人かは、神聖協会の腕輪からディスプレイを出して、画面を操作している。

 俺のウェストバックにも、魔獣バックと神聖協会の腕輪が入っている。

 魔獣バックは、4次元ポケットのようになっているのだが、所持している冒険者の筋力に応じた容量しか入らないようになっている。

 魔獣を倒すと、倒した魔獣は跡形もなく消えてしまうが、このバックを持っていると魔獣が残したドロップアイテムが、自動にバックの中に入るようになっている。

 バックを各ギルド、または、神聖協会に持ち込めば、中身をお金に換金することが出来るし、中身を取り出すことが出来るが、直接バックの中身を取り出すことは出来ないし、バックに物を入れることも出来ない。

 考えてみると、一般人にとっては全く使えないバックで邪魔な飾りにしかならないが、魔獣を狩って生活する冒険者には必需品だ。

 神聖協会の腕輪は、携帯電話や高性能パソコンに相当する情報端末のことだ。腕時計のようなデザインになっており、高性能な腕輪はパソコンと同じようなディスプレイとキーボートを出すことができる。

 冒険者の場合、パーティを組む場合と地下迷宮の各階層を繋いでいるポータルと呼ばれる転送装置テレポートゲートを起動するために必要になる。

 ポータルを起動し、パーティを組むだけの腕輪が1クラン、メール送受信、通話、ネットワークに接続して検索する機能を足すには10クラン、パソコンと同様にアプリケーションが使えるようになり、ネットワークから情報をダウンロードしたりアップロードできる機能がさらに10クラン。そして、さらに10クランを追加すれば、CPUとメモリの強化とCPUとメモリの性能に応じたアプリケーションの追加ができる。

 この機能強化は3回まで可能だ。つまり、最高機能の腕輪は51クランになる。尚、魔獣バックも1クランで売られている。

 腕輪を操作すると、ディスプレイが使用者の目の前に表示され、ディスプレイを操作することで、パーティを組んだり、高性能な腕輪ならキーボードも出してネットワークを検索したりする。

 パーティメンバーはどんなに離れていても近くにいるかのように話ができるし、バックの内容はパーティ間で共有される。


 カフェテリアの壁に近づいて、掲示板を眺めてみた。

 魔獣が出現する場所を示した近郊の地図が張られており、魔獣が出現する場所と出現する魔獣の種類とランク。買取ドロップ品の名前と買い取り価格。そして、盗賊が頻繁に現れる場所と賞金首の名前と賞金額の一覧が張り出されていた。

 壁は依頼を貼る掲示板とパーティメンバーの募集案内を貼る掲示板の2つに大きく分けてあった。また、依頼の掲示板はランクごとに仕切られていて、ランクに応じた依頼の紙がぎっしりと張り出されていた。

 ギルドのランクは、SS、S、A、B、…Fで、Fが最低ランク。Aランク以上になると、ギルドからの指名の依頼を受ける義務が発生する。

 魔獣がドロップする魔石にポイントが定めれれており、魔石を売るか、依頼を達成すれば、ポイントが貰える。

 ランクアップに必要なポイントが溜まるとギルドに申請し、ギルドがランクアップの判断をする。

 冒険者ギルドに売った魔石や達成した依頼の履歴がデータとして登録されているので、ギルドがランクアップに相応しい実力があると判断すれば、すぐにランクアップできるのだが、ギルドが実力を判断できない場合は、ギルドから討伐する魔獣を指定されるか、ランクに応じた依頼を受けるように指示され、指定ランクの魔獣を倒すか、指示された依頼を達成すれば、ランクアップとなる。

 Aランク以上になると審査のための面接が必要になり、Sランク以上は、なんらかの功績が必要になる。


 機能を追加した腕輪なら、神聖協会のネットワークに接続して調べることが出来るので、壁の前に立って見上げる必要はない。

 カフェテリアでポテトチップと果汁のジュースを購入し、空いているテーブルに座った。

 ウェストバックから神聖協会の腕輪を出して、腕時計のように左腕に嵌めてから、ディスプレイとキーボードを出してネットワークに接続し、王都の冒険者ギルドのページを検索した。

 壁の掲示板に貼り出してある情報よりも、より多くの情報がページに記載されていた。

 ディスプレイで情報を読んでいる間も、異常に鋭くなった俺の聴覚が冒険者達の会話を拾い上げた。

 特性の「複数同時思考」の効果と思うが、まるで、何人も自分が同時に存在しているかのように、情報を読んでいる自分、あるグループの会話を聞いている自分、そして、他のグループの会話を聞いている自分がいる。

 「聞き耳」のスキルの効果かもしれないが、盗み聞きをするつもりは無いのに、自然と聞こえてしまう。

 「聞き耳」は盗賊用のスキルではなく、どちらかと言うと探索用のスキルで、不意打ちを受けないように、音に対して警戒するために使用するスキルなのだが、盗み聞きとしても十分に使えるようだ。

 情報収集の手段として、酒場のマスターに噂話を聞くのがRPGゲームの鉄則なんだろうが、ここで冒険者達の話を盗み聞きしても、有効な情報を集められそうだ。

 俺は1時間ぐらい冒険者達の話を盗み聞きしてから、宿屋に戻った。



 食堂に入ると、今朝の少女ではなく、20代男性の店員がカウンター席を案内してくれた。

 晩飯はサラダ、シチュー、パン、そして、ビールの大ジョッキ。

 食事を済ませて他の客の会話を聞きながら、まだ半分ぐらい残っているビールを飲んでいると、隣の客に話しかけられた。

「坊主は、商人の見習いか?」

 狼頭の獣人であるウォルフ族の男性。人間と違うので、年齢が分かり辛いが、人間の壮年、つまり、30代か40代ぐらい。ウォルフ族の寿命は、人間の倍ぐらいなので、60から80歳ぐらいかもしれない。

 隣に座っていることを知っていたが、怖かったので、見ないように気をつけていた。

 俺は、話しかけられたウォルフ族の顔を見た。

 よく見ると、賢そうな目をしており、思っていた程、怖い感じがしない。

「商人じゃないよ。冒険者さ」

 俺は格好つけて答えた。ビールで少し酔っていたのかもしれない。俺は冒険者になるために迷宮都市にやってきた15歳の少年になりきっていた。

 テーブルトークRPGをプレイしている感じと言えば分かって貰えるだろうか、子供のごっご遊びのことだ。女の子がお母さん役、男の子がお父さん役で、ままごとのおもちゃを使って遊ぶあれを大人がゲームとして演じる訳だ。真面目にやらないとかなりつらい。恥ずかしいと思ったら負けだ。

 午後に冒険者ギルドに行った影響を受けているのだろう、実際に現実の冒険者達の中に居たのだ。60のおじさんであっても、はっちゃけるのは仕方が無いだろう。

「冒険者だと、……そうは見えないがなぁ、大丈夫なのか?」

「おじさん。人を見かけで判断すると後悔するよ。それより、おじさんこそ商人に見えないよ。おじさんも冒険者かい?」

 座っているので身長は分からないが、立派な体格をしていた。鎧ではなく俺と同じ普段着を着ているので冒険者じゃない可能性が高い。

 この宿のような安い宿に泊まる客の大部分は、冒険者か旅商人のどちらかだ。つまり、冒険者でなければ、旅商人の確率が高い。

「はっはっは、愉快な坊主だ。まぁ、坊主の言ったことも間違いでもないがな、俺は元冒険者だ。今は荷馬車の御者をやってる」

「ふーん。すると、運送屋だね」

「運送屋とは、珍しい言い方だな、まぁ、荷物を運ぶのが仕事だから、間違っちゃいないか。……すると、坊主は冒険者になるために、ここに来たのか?」

「そうだよ。昨日着いた所だ。明日から地下迷宮に行く予定だよ」

「そうか、田舎から出てきたところと言った感じだな」

「まぁね。良く分かったね」

「そりゃあな、冒険者になるために迷宮都市に来る餓鬼は多いからな。俺もそうだった。でもよ。冒険者として成功するのは、素質のある一握りの冒険者だけだ。大抵の奴は、無理して死んじまう。俺は、死ぬ前に、見切りをつけた、お蔭で生き延びてるよ」

「そうなんだ、田舎者だから知らなかったけど、地下迷宮って、どんな感じなの?」

「そうだな、夢を壊したくはないが、世の中の現実ってやつを教えてやるよ。若者を導くのは、大人の義務だしな。……俺もそうだったが、英雄になる夢を抱いて、地下迷宮に挑む若者は、本当に多い。しかし、大金を儲けるようになれるのは、100階層以上へ行ける上級者だけだ。最初は、宿代を払うだけで精一杯と言うのが普通だな。地道に地下迷宮を探索して、自分の実力に見合った魔獣を倒すんだ。坊主は、魔獣を倒せば、強くなれることを知ってるよな?」

 ゲームにレベルアップは常識だ。現実には、こんな感じに認識されているらしい。

「うん。聞いたことはあるよ。だけど、詳しくは知らない」

「そうか、まぁ、俺だって詳しくは知らんが、魔獣を倒すと、魔獣の強さの一部が体に取り込まれて、強くなると冒険者の間では言われている。しかし、強くなれる限界があってな、ある程度強くなると、幾ら魔獣を倒しても、強くならなくなる。個人によって、取り込めれる量の限界があるそうだ」

 最大レベルは個人によって違うらしい。

「へぇー。それは、知らなかったなぁ」

「地下迷宮は、階層が増えると魔獣が強くなる。まぁ、最初の30階層ぐらいまでなら、誰でも簡単に行けるようになるが、運が悪いと30階層ぐらいで限界を迎える奴がいる。自分がどれぐらい強いのか見極めるのは難しい。

 上のランクの魔獣を倒せば、その分、金が儲かる。誰でも上のランクの魔獣を出来るだけ倒したいと考えるし、30階層ぐらいじゃ、大した儲けにならんからな。

 少しでも、金を儲けて威力の高い武器を買おうと、無理することになる。大抵の奴は無理した結果、死んじまうのさ」

「そうか、それで、おじさんは何階層まで行ったの?」

「俺は82階層だ。82階層で大怪我をして、それで、冒険者を引退した。今思えば、怪我して良かったと思うよ」

「どうして?」

「今なら良く分かるが、俺の限界は、せいぜいが70階層だった。パーティを組んで無理してたんだ。あのままなら、その内死んでたさ」

「パーティって?」

「パーティとは、最大6人まで、仲間と一緒に地下迷宮に入ることさ。

 地下迷宮は不思議なところでな、同じ階層でも入った冒険者毎に違う階層になってるのさ。だから、怪我をしても他の冒険者に助けてもらうことができない。自分以外は誰もいないからな。しかし、事前にパーティを組んでおけば、パーティの仲間は同じ階層に入れる。1人で戦うよりも仲間で戦った方が安全だ。例え、ランクが上の魔獣でもパーティなら倒すことができる。

 まぁ、稼ぎもパーティで分けることになるから、儲けは減ることになるがな」

「なるほど、それなら、強い冒険者と一緒に行けば楽だね」

「まぁな、でも、そんなに甘くないぞ、当たり前のことだが、弱いと判断されたら、次からパーティに入れてくれなくなる。それに、金が絡むと大変だぜ、パーティ同士で殺し合いになることもある。

 気心の知れた友人でないと、危ないぜ。数人で組んで仲間に入れた冒険者を殺して、装備品を奪う犯罪者もいるらしいからな、やたらとパーティを組まない方がいいぜ」

「そうか、それは、怖いね」

「命を預けられるほど信頼できる友人を作ればいいのさ。それに、仲間が居た方が楽しいからな」

「なるほど、その通りだね」

 俺は残ったビールを飲み干して、カウンターに置いた。

 獣人の男の手のビールには、まだ、3分の1ぐらいのビールが残っていた。

 ビールとつまみを奢れば、もっと話を聞くことができるだろうし、時間的にも1時間ぐらいは余裕がありそうだ。……正直に言うと、狼の頭はそれなりに迫力があって、怖いのだ。

 種族差別のつもりはないし、人間種族の男性だったとしても。日本人のような容姿は、ここでは珍しく、殆どの人間は外人にしか見えなくて、それに、やっぱり外人は苦手だ。

 以前は体質的にあまり酒を飲めなかったので、酒を飲みに行くのはめったに無かった。所詮、俺は酒を飲めないゲームオタクで、人付き合いが苦手なのだ。

 以前の体なら、1リットルもある大ジョッキのビールはとっくに許容量を超えていたが、リオンはアルコールに強いらしくて、大ジョッキを飲んでも平気だった。

「それじゃ、俺は部屋に戻って休むよ。色々と話してくれてありがとう」

 俺はお礼を言ってから、立ち上がった。

「なぁに、大したことじゃないさ。こっちこそ、話を聞いてくれて、ありがとな」

「それじゃ。お仕事、がんばってください」

「おぉ、そっちも、がんばれよ」

 獣人が見送ってくれた。やっぱり良い人だった。もう少し、話を聞けばよかったと後悔した。


 部屋に戻って、特性とスキルを詳細に調べ、地下迷宮に入る準備を整えた。リオンのレベルは1なので、地下迷宮に行ってレベルを上げる必要があるのだ。

 アリスの画面を見るのに、明かりは必要ないので、部屋のランプを消したのだが、リオンには暗視能力があるので、明かりがなくても、昼間のように見ることができた。注意しないと部屋が暗いのか明るいのか、分からなくなるぐらいだ。

 眠くは無かったが、12時頃に服を脱いで、ヘッドに入った。

「アリス、朝の7時に起こしてくれ」

「了解しました。しかし、マスターには、7時間の睡眠は必要ありませんが、すぐに寝ますか?」

「どういうこと?」

「マスターに必要な睡眠時間は1日に2時間程度です。2時間もあれば、マスターの体調を整えることができます。7時間の睡眠時間では、5時間が無駄になります」

 …………あぁ、そうだった。すっかり忘れていた。

 アリスに任せれば、完璧に体調を整えることができる。すぐに寝ることができるし、完璧な状態で指定した時間に起きられる。嬉しいことにトレーニングも不要だ。苦しい筋力トレーニングをやらなくてもアリスが筋力のバランスを完璧に整えるので、筋力トレーニングをやるのと同等以上の状態に整えてくれる。

「そうだな、忘れてた。……それじゃ、もうちょっと起きてる」

 服を着るのも面倒なので、ベッドに入ったまま、ステータス画面を表示して特性とスキルを見直したが、長年の習慣を急に変えるのは難しい、時間の無駄かもしれないが、結局、2時頃にアリスに眠らせて貰った。


 1話の長さをどれぐらいにするのかで、ちょっと苦労しています。

 「騎士王物語」の8話、9話を流用しています。殆ど変っていません。

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