3話
1階に降りて食堂に入ると、殆どの席に客が座って朝食を食べていた。随分と混んでいる。
客の視線を気にして見ていたら、ちらりと見られただけですぐに視線が戻った。思っていたほど目立つ格好ではないらしい。ふうーっと、安心した。
「おはようございます。朝食はお食べになりますか?」
見覚えのある少女が元気な声で聞いてきた。昨日、部屋に案内してくれた14、5歳ぐらいの少女だ。
「おはよう。声も同じで可愛いね。朝から可愛らしい声を聞けて嬉しいよ。勿論、朝食も頼むよ」
何故か、少女は俯いて、「こちらのテーブルにどうぞ。」と小さい声になった。
からかったつもりは無いのだが、どうやら、からかわれたと思ったようだ。
テンションが上がって、酔っ払った状態になっているのかもしれない。まぁ、酔っ払ったことが無いので、同じかどうか分からんが、大体、酒を飲むと頭が物凄く痛くなって気分が悪くなるから酔っ払った経験がない。俺の酒量はビールで小さなコップ1杯だ。
少女がすぐにテーブルへ向かったので、慌てて少女の後ろを追いかけた。中3ぐらいの女の子だったので、つい、兄の孫娘と同じように扱ったのだが失敗した。
少女に案内されたテーブルの椅子に座り謝ろう思ったが、少女は何も言わずに奥へ行ってしまった。ほんの少しだが、顔が赤くなっていたようだ。
昔からそうだが、女心と言う物がさっぱり分からない。そんなに怒るようなことは言ってないはずだが、兄の孫娘の反応と随分と違う気がするが、この世界の常識が違っているのだろうか。
…………食堂に居る他の客から注目されているような気がする。やはり、俺の服装は目立っているのかもしれない。
テーブルに視線を落とし、周りを見ないようにして待っていると、少女が朝食が載ったトレイを運んできた。
「ありがとう」
少女にお礼を言ったのだが、無視されてしまった。
顔が赤かったところを見ると、まだ怒っているのだろうか? しかし、何故怒っているのか、さっぱり分からない。
朝食はスープ、トースト、目玉焼きのベーコンエッグ、ポテトサラダ。豪勢な朝食だ。しかも量が多い。
トーストにジャムを塗って噛付いた、スープを飲んで、フォークでベーコンエッグ、ポテトサラダを食べた。薄味だが素材が良いらしく、とても美味しい。
朝食を食べながら、周りにチラチラと視線を向けて観察した。
亜人に分類される人間ではない種族も居る。ファンタジー世界でお馴染みの小人族、ドワーフ族、獣人族、鬼族。…………人間と亜人の割合は半々ぐらいだろうか?
当たり前だが、俺は人間じゃない種族を初めて見た。まるでファンタジー映画に入り込んでしまったかのような感じだ。
俳優が変装しているような作り物の感じが全しない。物凄く自然に見える。本物だから当たり前ではあるが、どうにも現実味が無い。
半数以上が革や金属製の鎧を着て剣や斧で武装しているし、ゲームでお馴染みのフルプレートを着込んだ者までいる。まるで映画を生で見ているようだ。
じっくりと眺めたいのだが、ワニの頭をした獣人や角が生えている鬼族は、ゲーム画面で見るよりも遥かに迫力がある。
見られている事に気付いて難癖をつけられたらたまらないので、決して目を合わせないように注意した。
朝食に視線を戻し、何も考えずに朝食を食べた。
食べ終えると、少女がハーブティが入ったカップを運んできて、代わりに、食べ終えた食器を片付けた。
「ありがとう」とお礼を言うと、「どういたしまして」と返事が返ってきた。
顔色も元に戻っているようなので、怒ってはいないらしい。少し嬉しくなって、にっこりと笑顔で少女を見たら、また、俯いて行ってしまった。……訳が分からん。
特に、若い女の子の気持ちは分からない。世代の違いをいやでも感じさせられるが、気にしないことにしよう。
ハーブティを飲んでみた。ストレート紅茶のような味で飲めなくはないがコーヒーを飲みたいと思った。
コーヒーと同じような沈静効果があるらしく、気持ちが落ち着いてきた。
ハーブティを飲みながら今の情況を考えた。
確認していないが、リオンは物凄い金持ちのはずだ。田舎に引退して、畑を耕しながら平穏に暮らしたい。あるいは、海の近くに住んで魚を釣ったり、ヨットに乗ったり、山に入って山菜を取ったりするのも楽しそうだ。
以前の俺なら大金が手に入れば、昼は優雅な生活をして夜はネットサーフィンとゲーム三昧だったはずだ。
しかし、宿屋の様子では、こちらの世界の文明レベルは中世ヨーロッパぐらいのようだ。田舎に引っ越したら暇でしょうがないだろう。夜の娯楽が何も無さそうだ。
普通。小説の主人公は死にそうな目に会うことになっている。最終的には幸せになれるとしても、小説の主人公が最も不幸な人だと俺は思う。
俺は主人公になりたくない。気楽な脇役を希望したいのだが、……目立たないように気をつけて、出来る限り危険を避けるように行動しよう。
平凡な人間なら誰だってそうするはずだ。馬鹿な主人公は女性を襲っている悪人を見れば、自分から喧嘩を売るのだろうが、俺はゲームオタクではあるが平凡なサラリーマンなのだ。
地下迷宮のことは……勿論、非常に興味がある。これでも俺はゲーマーだ。60にもなってゲームかと突っ込まんでくれ、ちゃんと自覚はあるつもりだ。
メッセージの内容は気になるが、具体的なことは何も書かれていないので、メッセージの内容に意味が無いのではないだろうか?
単なるフェイクかもしれない。
何が目的のフェイクなんだ? と考えれば、色々と疑問が尽きなくなる。ひょっとしたら混乱させるのが目的のフェイクかもしれない。考えても分からないのだから、気にしない方がいいだろう。
冷静になって、ゲーマーであることを忘れて、サラリーマンの立場で考えると、最初にやらねばならぬことは何か?
…………それは、現状把握だ。
毎週の会議で同僚や上司から言われていることだが、ビジネスの観点から捉えれば、現在のリソースを把握し、利点と弱点を見極め、将来を見据えた目標計画を立案し、投資のリスクと効果を考えるのだ。
と大上段に構えたけど、結局、システム画面、アイテム画面、ライブラリ画面が気になっているだけ。ビジネスのことは関係ないし、大げさに理由を並べる必要もないし、同僚や上司に言い訳する必要はないのだから、正直に言えば、ゲーマーとして、とても気になっているだけだ。
何で、会議での言い訳なんて考えたんだろ? 悲しいけど、身についてしまった平サラリーマンのさがかもしれん。
俺はハーブティを飲み干し、カップをテーブルに置いて立ち上がった。
店の主人に「部屋で休むから、邪魔しないようにしてくれ」と頼んでから、部屋に戻った。
ウェストバックを腰から外してテーブルに置き、椅子に座った。
自分の状況を確認するためにメニュー画面を展開した。コマンド一覧の上の方に、ゲームと同じコマンドが並んでいる。ステータスコマンド、スキルコマンド、アイテムコマンド、マップコマンド、……。
メニュー画面にアイコンを並べたり、メニュー画面の中にさらにメニュー画面を作ったりと自分の好みで自由に画面をカスタマイズできるが、後で良いだろう。
ステータス画面、スキル画面、アイテム画面と次々にコマンド画面を展開して、ライブラリ画面を1番手前に移動した。
トップディレクトリの一覧画面をツリー構造を表示するモードに切り替えた。
体系的にまとめられており、科学、技術、魔法に娯楽小説まで、あらゆる分野の情報が揃っているようだ。
この世界に関する文献が一つのツリーにまとめて入っていた。一覧の中から試しに冒険者ギルドのガイドブックを選んで表示した。
最初のページを見たとたん、ガイドブックの内容をそれこそ一字一句まで思い出した。そして、数学、物理、化学、医学など、地球よりも遥かに進んだ知識、魔法に関する高度な知識などを覚えていることを思い出した。
慌てて、ツリーを辿り、娯楽小説の分野の見知らぬ題名の本を開いたら、その本に関する記憶は無かった。娯楽小説まで覚えていたら、本を読む楽しみが無くなるところだった。ちゃんと考えて知識がロードされているらしい。あるいは、ある程度の知識までしか主記憶にロードされていないのかもしれない。
ライブリには記憶していない本が大量にあるかもしれないが、確認するには相当な時間が掛かるだろう。
…………ふと思いついたことがある。
『アリス』
俺は声を出さずにありスを呼んだ。
「はい。マスター」
耳元でアリスの返事が聞こえた。
『神聖協会のシステムにはアクセスできるか?』
「はい。マスター、アクセス可能です。神聖協会のシステムに接続しますか?」
『セキュリティ上の問題はあるか?』
「いいえ。特に問題はありません」
『それじゃ、接続してくれ』
「了解しました」
神聖協会とは、この世界を管理しているシステムの名前だ。ゲームには出てこなかった。
神聖協会は個人を認識するための認識票を発行し、個人の口座を開設したり、銀行のようなサービスを提供しているし、ネットワークシステムのようなサービスもある。
俺が首に下げているネックレスが神聖協会が発行した認識票だ。この世界では、個人を識別するために利用されている。
各ギルドや魔術学院などは、神聖協会のネットワークサービスを利用して情報を登録し、登録した情報を活用したり、資格の認定試験なども神聖協会が実施している。
他にも、貨幣を流通させ、農産物などの基本となる特定の産物を一定価格で売買して物価を安定させたり、マジックアイテムや高度な技術製品を販売したりしている。
流通している通貨は、銅貨、銀貨、金貨、白金貨の4種類。銅貨の単位がコル、銀貨がシルク、金貨がクランで、100コルで1シルク、100シルクで1クラン。銅貨と銀貨は、1枚、5枚、10枚、50枚の4種類。金貨は、1枚、10枚の2種類で、白金貨は1種類しかなく白金貨1枚は100クランになる。
単純に比較はできないが、1クランは日本円で10万円に相当する。
ライブラリには、膨大な量の文献が登録されているので、タイトルだけを見たとしても、何日も掛かってしまうだろう。
ライブラリ画面を消してステータス画面を手前に移動し、表示モードを切り替えると、リオンの3D立体像が表示された。
3D立体像からリンクされているリオン・ウォートの登録情報を開いた。神聖協会のネットワークにリンクしているので神聖協会に登録されている情報を表示することができる。
生年月日、種別、性別などの個人情報が表示された。リオン・ウォートは人間種族の男性で、年齢は15歳。口座の残高が1億クラン、冒険者ギルド、魔術師ギルド、商人ギルドには登録済み、各種の資格も取得済みになっている。
口座の残高は、リオンの所持金が反映されたらしい。日本円に換算すれば、……10兆円だ。庶民の俺では、どれぐらいの金持ちなのか想像もできない。
各ギルドに登録されている情報を確認すると、冒険者ギルドのランクは最低ランクのF、魔術師の資格は最上位の特級魔術師。商会名は「黒猫商会」で、商会口座の残高は1千万クランになっていた。
ギルドの登録年月日、担当者名、魔術師試験も初級、中級、上級の各試験結果に、魔力測定結果など、詳細な情報が登録されていた。
リオンの3D立体像からリンクされている装備画面を開くと、身につけているアイテムが表示された。
装備画面で、全ての服を取り去れば、3D立体像は裸になり、現実の俺も裸になってしまう。戦闘中に装備画面で武器を変更すれば、瞬時に武器を変更することがきる。ゲームなら普通かもしれないが、本当に実現されると考えると、…………反則技だ。
特性とスキルの情報を確認すると、まるで、改造ツールで最大に設定したかのようになっていた。鍛冶師のリオンには魔法のスキルや特性が無かったのだが、ゲームの攻略情報で見た覚えのあるスキルや特性、そして、攻略情報には存在していなかったスキルや特性が並んでいた。
俺は思わず呻いた。大事に育てたキャラクターをいじるとは許せん。
暫くの間、怒りで頭が真っ白になった。
やっとの思いで気持ちを落ち着かせた。
1時間ぐらいは怒っていたと思うが、ふうーと溜息をついてから、アイテム画面を手前に移動し、アイコン化されていたウェストバックの画面を開いて、中身を確認した。
銅貨、銀貨の全種類が10枚ずつ入ったがま口の財布と1クラン金貨100枚、10クラン金貨100枚が入った布袋の財布。銀行カード、冒険者カード、魔術師カード、特級魔術師認定カード、商人カード、交易許可カード、商会主証明カード、商会口座カード、…魔術師ギルドから支給される魔術師用のローブとマントに魔術師の杖、魔獣バッグ、端末装置になっている神聖協会の腕輪、着替用の下着に靴下、丈夫そうな普段着と靴、雨具、革鎧一式、ロングソード、グレートソード、日本刀、弓と矢筒に矢、拳銃とカートリッジ、投擲用ナイフ、何種類かの魔弾銃、魔法の水筒、食器、キャンピング用具、魔法のリュック、何種類ものサイズと形状の袋、宝石類が入っている幾つかの袋、召喚獣のマジックアイテム、調味料、食料、…………呆れてしまうほど何でも揃っていた。
アイテム画面を手前にして、ライブラリと同様に、表示モードをツリー構造に切り替えて、ツリーを展開した。
ゲーム関連のアイテムが1つのトップツリーで纏められていた。そして、ゲームでは出てこない日用品や銃などの近代兵器、地球よりも遥かに進んだ技術製品や武器に高度なマジックアイテムなどがライブラリと同様に分類されたツリーに大量に登録されていた。
鍛冶師や錬金術師などの生産系のスキルが反映されているらしく、素材からアイテムを製造したり、カスタマイズする機能もある。
これほど大量にあると、使いたいときにすぐに見つられるとは思えない。ウェストバックに必要と思われるアイテムが揃っているようだが、ウェストバックの中であっても、某青い猫ロボットみたいに、取り出すアイテムを選ぶのが難しいかもしれない。
ショートカットのように、緊急性のあるアイテムは別枠に纏める必要がある。アイテム画面のツリー構造は幾らでもカスタマイズできるので、時間を掛けて整理する必要があるだろう。
俺は幾つかの整理用のアイテム画面を作り、ウェストバックのアイテムとアイテム画面に登録されているアイテムを夢中になって整理した。
…………ふと、時刻を確認するためにマップ画面を見たら、マップ画面の時刻に12:48と表示されていた。
時間を忘れて夢中になるなんて、我ながら苦笑してしまった。
なんだかんだと言いながらも、俺は夢中になって、時間を忘れてしまうほど楽しんでしまった。
なんだか、上手にのせられてしまったような気がする。勝手にキャラクターを弄られたことやメッセージの内容を思うと癪に障るが、しかし、ゲーマーなら誰だって俺のことを羨ましがるに違いない。
ゲームマニアなら、誰でもゲームの世界に転生して最強キャラクターで無双することを夢見たことがあるはずだ。
これからどうするかを考える必要はないだろう。冒険者ギルドに行き、実際に地下迷宮に篭って冒険する以外に何がある。違うことをやり出すゲーマーが居たら、そいつはゲーマーじゃない。
ここは、ベルゼルグ王国の「迷宮都市」。都市の名前は「リカンド」だ。
ゲームのスタート地点で、この都市には地下迷宮の入口であるゲートがある。
4時間近くも身動ぎせずに椅子に座っていたのだが、体は平気だった。肩が凝ったり、体が固まったりしていない。しかし、じっとしたままでは不健康だ。空腹をあまり感じないが簡単に昼飯も食べた方が良いだろう。新しい体に慣れる必要もある。
昼飯は公園か広場で屋台の食べ物を探せば良いだろう。その後は、冒険者ギルドに行って見たいと思う。
今日の日付は、4月1日。季節は日本と同じ春だ。外は未だ少し寒いが、コートを着るほどではないはずだ。
朝の様子から今の鎧は目立ようなので、ウェストバックに入っていた丈夫そうな服と靴に着替えて、ウェストバックを身に着けて、部屋に忘れ物が無いか確認してから1階に降りて、カウンターに居た宿の主人に鍵を渡して宿の外に出た。
宿屋の前の道は2車線ぐらいで石畳で舗装されていた。通りに並んでいる建物はレンガで造られているようで、中世ヨーロッパ風の風景だ。
多くは無いが人通りがあるし、バスクと呼ばれるでっかいサイのような動物に引かれた大型の荷馬車がゆっくりと移動して行くのが見えた。
アーサー王やジャンヌダルクのような中世の騎士時代の映画か、ファンタジー映画の世界に入り込んだような感じだ。
マップを拡大して、迷宮都市の全域を見えるように表示した。
計画的に区画整備された都市らしく、道路が網の目のような幾何学的な図形を描いている。都市の中央に地下迷宮へのゲートがあり、ゲートの回りが巨大な広場になっている。
広場の周りに神聖協会、各ギルド、教会などの主要な建物が集まっている感じだ。
俺は中央の広場に行くことにした。広場なら食べ物を売る屋台があるはずだ。
なんだか外国に観光旅行に来たみたいで楽しくなってきた。
マップ画面を確認しながら、建物や通行人を眺めながら歩いた。外国の田舎の街を予想していたのだが、思いの外通行人が多くて賑やかだ。
宿屋を出て30分ぐらいで広場に着いた。広場はかなり広くて綺麗に掃除されていた。午後1時半なので、昼休みのピークを過ぎていると思うのだが、多くの人で混んでいた。
中央に向って進んでいくと、奥から屋台の呼び声と旨そうな匂いがした。そして、肉を焼いた旨そうな匂いを嗅ぎ分けた。朝食をたっぷりと食べたのであまり腹は減っていないのだが、俺は旨そうな匂いを辿って歩き出した。
匂いを嗅ぎ分けて辿れるとは、まるで警察犬だなと苦笑した。
広場の南側に大きな噴水が建てられており、噴水の周りに多数の屋台が出ていた。人通りも多し、ベンチに座って昼食を食べてる人も居る。
嬉しいことに、平和で繁栄しているように見える。どこかと戦争でもしてたら、こうは行かないだろう。
匂いを辿ると6、7人の客が並んでいる屋台に辿り着いた。他の屋台と比べると、並んでいる客が少し多いようだ。これは当たりかなと考えながら列の後ろに並んだ。
すぐに、俺の番が来た。
「少年、何が欲しいんだ?」
屋台の裏側で肉を焼いている兄ちゃんが聞いてきた。肉の旨い匂いがたまらない。
以前から人生の楽しみは食べることと寝ることだと主張していたが、旨いものが食べられるなら世界が違っても気にするもんかと強く思った。
屋台の兄ちゃんは人間種族の男性で25歳ぐらいの若者だ、雰囲気がテキ屋の兄ちゃんのそのまんま。外人さんだけど、この一瞬だけは、異世界であることを忘れた。
俺の実年齢は兄ちゃんの2倍以上はあるのだが、リオン・ウォートの年齢は15歳なので、少年と呼ばれても仕方が無い。
台の上には、何種類かの焼きあがった串焼きが並べてある。
「これと、これを1本ずつ」
「あいよ。2本で、40コルだ」
俺が適当に注文すると威勢の良い声で2本の串焼きを渡してきた。
俺はウェストバックからがま口の財布を取り出し、10コル銅貨4枚を渡して2本の串焼きと交換した。
40コルは日本円にすれば、大体400円ぐらいに相当する。日本の焼き鳥とは違って1本の串焼きがかなり大きい。1本200円ならかなり安いと思う。日本なら1本で500円ぐらいだろう。
俺は屋台から離れて肉の串焼きにかぶりついた。何の肉なのか分からないし、塩と胡椒の簡単な味付けだが、匂い通りでかなり旨い。
日本よりもこちらの世界の方が食べ物に恵まれているのかもしれない。
俺は串焼きを食べながら、他の屋台を覗いて回った。
見たことがあるような食べ物があれば、見たことが無い食べ物もあった。この世界が特殊ではなく、海外旅行へ行けば同じように見たことが無い食べ物ぐらい売っているだろう。単に食文化が違うだけだ。
食べ終えた串をごみ箱に捨て、ウェストバックから水筒を出して水を飲んだ。屋台で飲み物も売っていたが、金を出してまで買う必要は無いだろう。
水筒は500mlのペットボトルのような形をした魔法の水筒で、清涼な名水など数十種類もの飲み物が無限に出てくる優れものだ。
区切りが悪いかもしれませんが、ここまでを3話としました。
「騎士王物語」の5話、6話、7話を流用しています。大筋の変化はないはずですが、2話と同様に少し手を入れています