23話
地下迷宮から地上に出ると、マリアが泊まっている高級宿屋に戻ることにした。
メイド姿の杏子を連れて歩くのは何かと目立つ。仕方が無いのでマリアの部屋に待機させることにした。マリアが泊まっている高級宿屋ならお付のメイドが一緒でも何の問題もない。
俺はマリアの提案で、マリアと一緒に宿屋の食堂で昼食を食べるために食堂に降りた。杏子は食事を必要としないので、マリアの部屋に待機させたままだ。
杏子は食事をすること自体は可能だ。摂取した食べ物は杏子の体内で保存され99.9%の効率でエネルギーに変換されるか、必要になれば他の物質に変換されて再利用される。また、体内に保存する重量に制限は特に無いので、一緒に食事をさせること自体は問題ないのだが。
マリアの必要ないとの一言で、杏子は部屋で留守番することになった。
「それじゃ、私はエルを訪ねにいくから、用事が終わったら来てね」
食事を終えて、ギルドマスターの件を報告するためにギルドの前に来ると、マリアは俺に告げて後ろも見ずに行ってしまった。
昼食を食べ終えて今後の予定を簡単に話し合った結果、明日の朝一番で学院都市も戻ることにした。マリアはエルシアに顔を見せに行き、俺はギルドにダンヒル討伐の報告をしてからエルシアの家で合流することにした。
マリアの後姿を見送った俺は気を取り直してからギルドのロビーに入った。
こんな時間なのでロビーには数えるほどの冒険者がいるだけでなのだが、全員が視線を俺に向けている気がした。自意識過剰と言うやつだろうと俺は気のせいだと自分を納得させて気にしないようにした。
受付窓口に一直線に近づいて「こんにちは」と担当職員に声を掛けた。
「こんにちは、リオンさん。御用は何ですか?」
ルーティの友人のルーシーだ。今更だけど名前が似ている。
「副支店長のセインさんに用があるんだけど、居るかな?」
「セインさんですか? ……えっと、呼んで来ますので、少々お待ちください」
何の用か聞かれるかと思ったが、ルーシーは一瞬だけ戸惑った様子を見せたが、何も聞かずに奥に行ってしまった。
暫く待っていると奥の扉が開いてセインが現れた。
「やぁ、リオンくん。僕を呼び出すとは、何かあったのかい?」
セインはいぶかしげな顔をしながら俺に聞いた。
「以前に受けた例の依頼を達成したから報告に来ました」
セインの傍にルーシーが居るので、俺は曖昧に誤魔化しながらでセインに報告した。
「例の依頼……」
セインは考え込む様子を見せると、直に吃驚した顔に変った。ちょっとあからさまさ過ぎたかもしれないと不安になったが理解して貰えたようだ。
「まさか。先週に依頼した件か?」
「そうです。奥で報告した方が良いよね?」
「あぁ……。そうだな、君の言う通りだ。それじゃ、そっちから回って奥に来てくれ」
セインの案内でギルドの奥に進み会議室のような部屋に入った。セインが指示した椅子に座ると、俺は何も言わずにダンヒルの首が入っている袋と神聖協会の認識票を取り出してセインの前に置いた。
セインは袋からダンヒルの頭を取り出して確かめてから袋に戻し、認識票を読み取り装置に通して内容を確認した。
「間違いなくギルドマスターのダンヒルの物だ。いや、元ギルドマスターと言うべきかもしれない。しかし、どうやって倒したんだ?」
「セインさんの予想通りでした。30階層のボスを倒したら、突然現れて襲ってきたので返り討ちにしました」
「30階層のボスと言うとレッドドラゴンのことかい?」
「そうです」
「つまり、レッドドラゴンを倒した直後に襲われて、返り討ちにしたと言うことかな?」
「その通りです」
「もう少し詳しく説明して貰えないかな、襲ってきたのは何人で、どうやって返り討ちにしたんだ?」
「レッドドラゴンを倒した直後にギルドマスターのダンヒルと統一教会のローハン・ハイライダーの2人が突然現れました。ダンヒルはローハンからマジックアイテムのカードを受け取り変身してから襲ってきました。そうですね。ギルドカードと同じ形のカードで黄金色でした。
ダンヒルはそれをかざして魔法を発動しました。身体強化の魔法だと思うけど体が2まわりぐらい膨れて、全身に毛が生えて手足は完全に赤虎の手足に変化しました。まるで赤虎が二本の足で立ち上がった感じです。
襲い掛かってきたのでなんとか首を切り落として倒しました。ダンヒルが倒れるとローハンはカードを使って逃げてしまいました」
「ダンヒルが変身して強くなったのか?」
「そうです。物凄い強さでした。危うくやられてしまうところでしたが、肩に噛みつかれた時、首が伸びた状態で動きが止まったので、首を切り落としてやりました」
「そうか、それでランクSの冒険者は返り討ちに会ったのか。しかし、リオンくんは良く倒せたね、変身して強化された強さは明らかにランクSSだろう。どちらかと言うとそちらの方が信じられないよ」
「嘘じゃないですよ」
「あぁ、申し訳ない。ここに証拠がある以上、勿論、信じてるよ。信じてはいるがね。リオンくんがランクSS以上の強さには見えないからなぁ……。
おっと、失礼。
それにしても、ダンヒルと教会のローハンは直接繋がりがあったんだねぇ」
「知ってるんですか?」
「あぁ、ダンヒルをギルドマスターにしたのは、そのローハン・ハイライダーと言う奴らしいことは分かっている。しかし、何が目的なのかは分からないままだ。ローハン・ハイライダーは教会の中でも結構な大物らしくて、なかなか尻尾を捕まえられなくて苦労しているそうだ」
「なんだか、他人事みたいな言い方だね」
「まぁな。教会に関する事は俺も詳しい話を聞かされていないからな。ギルドも教会とは事を構えたくはないから強気に出れないのさ」
「そうなんだ。……そうだ、一応報告するけど、明日か遅くても明後日にはここを出て学院都市に戻る予定です」
「なんだと。……」
セインは黙って少し考え込むと。
「そうだな、その方が良いだろう。了解した。それで賞金はどうする? と言っても、額が大きいから銀行口座に振る込むことになるかもしれない」
「口座に振り込んで貰えば良いよ」
「そうか、あっちの大陸なら何処でも下ろせるらしいな。分かった。すぐには無理だが、そうだな、2週間後ぐらいには振り込まれるだろう」
「分かった」
セインは再び黙り込んだ。
「ところで、これ以上質問がないのなら、帰っても良いですか?」
セインがビクッとして顔を上げた。
「あぁ、申し訳ない。……そうだな。これ以上聞くことはないな。
とにかく、ギルドを代表してお礼を言うよ。ありがとう」
セインが立ち上がって頭を下げた。俺も慌てて立ち上がった。
「報酬が貰えるんだから、お礼はいりませんよ」
「ダンヒルを倒せる冒険者を見つけるのは大変だったからな、君がこの街に居て運が良かったよ」
「襲われたから倒しただけです。礼を言われることじゃないよ」
「まぁ、そうかもしれないが、ギルドとしては助かったのは事実だ。SSランクの冒険者が派遣されるとは思えなかったからね。もう一度、言うよ。リオンくん。ありがとう」
セインは再び、頭を下げた。
「どういたしまして」
仕方が無いので俺はセインが頭を上げるのを待って礼を受けることにした。
「それじゃ、これから寄るところがあるから行きます」
「あぁ、分かった。ギルドは君に恩があるからね。困ったことがあったらギルドに相談すると良い。上層部には連絡が行くから、あっちの大陸でも有効なはずだ」
「分かった。それじゃ、お元気で」
俺はセインに挨拶して会議室から出た。
ギルドを出て街を南下して郊外に向う。すれ違う人の中には挨拶をしてくれる人もいるので、俺も同じような挨拶を返す。中には何となく見覚えのある人もいるのだが、名前を知っている人は1人もいない。
街を出ると流石にすれ違う人が居なくなる。のんびりと歩いていくとやがてエルシアの家が見えてきた。
「すみません。リオンです。誰か居ませんか?」
エルシアの家の玄関に立って、大声で呼びかけて少し待つとドアが開かれてルーティが現れた。
「リオンくん。いらっしゃい」
ルーティに招かれて中に入ると、マリアとエルシアが向かい合ってテーブルに座っていた。ルーティの案内で奥に進み、マリアの横に座ると、ルーティがカップにお茶を入れて渡してくれた。
「マリアに聞いたが、リオンがギルドマスターを倒したそうだな」
エルシアが世間話をするかのように何気なく聞いた。
「えぇ、ギルドに報告してから此方に来ました。ギルドが公式に発表すると思うけど、それまでは内密にお願いします」
「うむ。まぁ、そうじゃろうな。ルーティ、聞いたな?」
「うん。分かった」
「アリーシャにも秘密じゃぞ。アリーシャが知ったらその日の内に街中に広まるわ」
「大丈夫。言わないよ」
エルシアが念を押すと、ルーティはくすりと笑ってから同意した。
「それで、ギルドマスターをどうやって倒したのか教えて貰えんかのう? マリアはギルドマスターとローハン・ハイライダーが現れたけどリオンがダンヒルの首を跳ねてローハンは逃げたと言うだけで、詳細はリオンから聞けだそうだ」
俺は話しても良いかとマリアを見ると、マリアはにこっり笑って俺を見返した。
「分かりました。ただし、ここだけの話にしてくださいよ」
「もちろんじゃとも、ルーティも誰にも話すなよ」
ルーティは頷いて返事をした。俺はギルドマスターとの戦いの様子を詳しく話した。
「エルシアさんはローハン・ハイライダーのことを知ってるんですか?」
「直接会ったことは無いが、話ぐらいは聞いておるよ」
「ローハンが使っていたカードのことは知らないですか?」
「知らない。初めて聞いたよ。戦闘力の強化と言うよりも変身の魔法じゃな、それと転位魔法。転位魔法を使える者は何人かいるらしいが、変身の魔法のことは始めてじゃな、そんな魔法があるとは知らなんだ。しかも、それほど高度な魔法をカードにして使えるようにするとは大した物だ」
エルシアは腕を組んで考え込んだ。
「エルはルーティの留学と一緒に、学院都市に店ごと引越しするそうよ」
ずっと黙っていたマリアが急に話しを振ってきた。
「ルーティが学院に入学できたらの話じゃ」
「あら、ルーティの入学なら私が保証できるわよ」
「マリアならそれぐらい可能なんじゃろうが、そうじゃな、ルーティなら実力で入学できるとは思うが、万が一でも危なそうなら、面倒を見てもらえるとありがたいのう」
「いいわよ。任せて頂戴」
ルーティが不思議そうな顔をした。
「マリアさんは学院の顧問だから融通が利くんだと思うよ」
「学院の顧問?」
「どれぐらい偉いのか良く分からないけど、下手したら学院長よりも上かもしれないよ」
「えぇ~、そうなんですか?」
ルーティが驚いた声を上げた。
「これ、ルーティ、いきなり声を上げるんじゃない、驚くだろうが」
エルシアがルーティをたしなめると、ルーティは「ごめんなさい」と言って静かになった。
それから夕方になるまで雑談した後、マリアは高級宿屋に、俺はルーティと一緒に宿に戻った。
いつもの席に座って夕食が運ばれるのを待っていると、ルーティが2人分の食事を運んできた。いつもはジェームスも一緒に夕食を食べるのだが、ジェームズの姿が見当たらない。
「ジェームズさんは?」
対面に座ったルーティに聞いた。
「ギルドからまだ帰ってきてないよ。多分、ギルドで残って仕事をしてるんじゃないかなぁ。先に食べましょう」
ルーティは返事を返すと夕食を食べ始めたので、俺も夕食に手をつけた。
食事を終えてビールを飲みながらルーティと雑談していると、ジェームズがセインを連れて食堂に入ってきた。
「ルーティ、厨房に行ってねぇさんの手伝いを頼む」
「分かった」
ルーティが席を立って厨房へ行くと、ルーティが座っていた席にセインが座り、ジェームズはルーティと一緒に厨房へ行った。
「どうしたんですか?」
俺は正面に座ったセインに聞いた。
「今日は貸切で僕とジェームズの昇格祝いと君に送別会をやるそうだよ。準備が整うまで座っていれば良いよ。ライオネルとサムソンもすぐに来るはずだ」
「昇格祝いと言うと?」
「今日付けで、僕がギルドマスター、ジェームズが副支店長になったのさ、明日、ダンヒルの討伐と一緒に公式に発表するけどね」
テーブルと椅子が移動され、食堂の中央に3つのテーブルが並んだ列が作られ、料理と酒が並べられた。俺とセインはその中央のテーブルの一番上座に座らされた。
いつの間にかライオネルとサムソンが俺の隣に座り、その他大勢の冒険者で食堂に入ってきて、食堂は冒険者で一杯の状態になった。
「皆!。ちょっと聞いとくれ」
準備が整うと、アリーシャが中央に立って声を張り上げた。ざわついていた食堂が途端に静かになった。
「今日はセインとジェームズの昇格祝い、それとリオンの送別会だよ。費用はセインとジェームズ持ちだから、みんな。じゃんじゃん飲んどくれ」
食堂が拍手で沸いた。アリーシャは両手で静かにするように合図すると、拍手が徐々に止んだ。
「みんな知ってるかもしれないけど、みんなに報告するよ。
セインはギルドマスター、ジェームズは副支店長に今日付けで昇格した。
そして、勇者リオン。
リオンは明日。学院都市に戻るそうだ。
リオン。あたい達のことは忘れないでよ。いつでも遊びにおいで、街を上げて歓迎する」
アリーシャはビールのジョッキを持ち上げた。
「それでは、乾杯するよ。みんな、ジョッキを持ちな」
全員がジョッキを掲げた。
「セイン、ジェームズ。昇格おめでとう。
それから、リオン。元気で。
みんな。ジョッキを上げな……」
アリーシャは全員がジョッキを掲げるのを待った。
「乾杯!」
アリーシャが音頭を取ると、全員が声を揃えて「乾杯!」と唱和してビールを飲んだ。そして、全員が拍手をした。
食堂に集まった冒険者達が、順番にやって来てはセインとジェームズにお祝いを言い。俺に分かれの挨拶をしながらジョッキを飲み干していった。食堂は何時もより増して喧騒に包まれていった。
アリーシャが新しいビールジョッキを両手に持って近づいてくると、俺の隣に座り、ジョッキを渡してくれた。俺はこの宿屋の慣例に従って持っているジョッキを飲み干して新しいジョッキを受け取った。何杯目のお代わりなのか分からないほど飲んでいる。
「リオン。ギルドマスターを倒したのはリオンなんだろう。どうやって倒したのか細かく教えてよ。セインが相当な名勝負だったようだと言ってたよ。けちけちしないで最初から話しなよ」
酔っ払った勢いもあったんだと思う。それに、今までは強さを隠そうと思っていたのだが、最近は、賞金首を倒したことが知れ渡っている以上、ある程度のことなら話しも良いのではないかと考えが変ってきた。
なんでもかんでも隠そうとすると身動きが取れなくなるし、出来ることは出来ると普通にしているのが一番だと思うようになって来た。
「いいよ」
俺はアリーシャに答えると、ジョッキのビールをぐいっと飲んで、話し始めようとした。
「ちょっと待った」
ジェームズが俺に言うとその場で立ち上がった。
「みんな。ちょっと聞いてくれ」
食堂の喧騒が静かになり、全員がジェームズに注目した。
「明日、ギルドで正式に発表するが、ギルドマスターのダンヒルは実は前ギルドマスター殺害犯として賞金首に指定されていた。そして、そのダンヒルを倒したのが勇者リオンだ」
ジェームズは言い終えると「そんなことはとっくに知ってるわ」、「今頃、何を言ってやがる」とジェームズに野次が飛んだ。
「まぁ、待て。
それでだ。今からリオンがダンヒルをどうやって倒したのか詳しく教えてくれるそうだ。聞きたい奴はリオンの傍に集まれ」
ジェームズが言うと「やったぜ」「是非、話してくれ」と全員が俺の近くへと移動してきた。俺は覚悟を決めると、皆が落ち着いた頃を見計らって話し始めた。
「ちょうど、30階層のレッドドレゴンを倒した時、突然、背後の拍手の音が聞こえた。俺が振り返るとまるで転位魔法で現れたかのようにダンヒルと教会のローハン・ハイライダーと名乗る男が立っていた。
拍手をしていたのはローハンで、ダンヒルは腕を組んで俺を睨んだまま立っていた。
ローハンは名乗りを上げると、ギルドカードと同じ形のカードをダンヒルに手渡した。
ダンヒルがカードをかざすと、カードから眩しい光が溢れて、驚いたことにダンヒルが体が膨れ上がりみるみるうちに虎の姿に変身しだした。鎧もブーツも膨れ上がったダンヒルに耐え切れなくてびりびりと裂けてしまった。
ダンヒルは後ろ足で立っている赤虎、そのものの姿に変ると、物凄い雄叫びを上げた。レッドドレゴンの雄叫びよりもっと凄い雄叫びで、大地がびりびりと震えた…………」
俺が手振り身振りを交えながら戦いの様子を説明すると、全員が真剣な眼差しで俺の話を聞き入った。
「…………ダンヒルは俺の首を目掛けて噛み付いてきた。俺はとっさに右に移動して避けようとしたが、ダンヒルは左の肩にがっぷりと噛み付いた。
その時、俺はダンヒルの首が伸び、動きが一瞬だけ止まったことに気づいた。
とっさに右に持った剣をダンヒルの首に当てて、押し上げるようにして首を切った。
首の骨で剣が止まったが体全体で押し上げるかのように無理やり剣を上に押し上げて振り切った。すると見事に首を切り落とすことができた。
首から噴水のように血が溢れ出たが、俺はとっさにダンヒルを蹴飛ばして後ろに下がった……」
ローハンに逃げられるところまで話終えると、俺は椅子に座ってジョッキを煽った。ほんの暫くの間、食堂はしーんと静かだったが、「すげぇ」、「ブラボー」、「勇者リオン」とけたたましい喝采の声で溢れた。
俺は何回も乾杯を強制され次々とジョッキを空にした。
翌朝、とっくに日が昇り部屋に差し込んだ眩しい日差しと、鈍い頭痛と共に目覚めた。
昨晩の記憶が曖昧だ。なんとなく深夜遅くに誰かの肩を借りてヘッドに倒れ込んだような気がする。アリスが飲みすぎだの非論理的だのどうのこうの言って来たが、無視してやっと思いでベッドから出て、ベッドに腰掛けて頭を抱えた。
最初の頃はいくらアルコールを飲んでも酔うことは無かったが、この街に来てから俺が毒物を摂取した場合、自動に浄化されてしまうため、アルコールも飲めばすぐに浄化されていることに気づいた。アリスはアルコールの影響について長々と説明し、わざとアルコールを摂取して危険な状態に陥るのは非論理的であると反対したが、俺はアリスに生命に危険がない限りはアルコールに関しては浄化しないように厳命した。その結果、大ジョッキのビールを飲めば少しほろ酔い状態になれるようになった。勿論、以前と比べればアルコールの摂取許容量は桁違いではあるが、浴びるほど飲めばこの体でも酔っ払えることができる。
時間を確認すると8時20分だった。時間は指定されていないが迎えに行くとマリアと約束している。朝食を食べる時間は無さそうだ。
アイテム画面を開いてアルコール専用の解毒ポーションを出した。物凄く不味いことは知っているが、覚悟を決めて一気にポーションの液体を飲み込んだ。
「まずい!」
あまりの不味さに声が出たが、直に効き目が現れて頭痛が治った。俺は慌てて準備を整えて宿屋を出だ。