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21話


 ルーティと一緒にギルドの依頼を達成した俺は翌日から今日まで29階層を徹底して攻略した。29階層のマップは全て濃い色に変っているのだが、俺の目の前に通路の行き止まりの壁が立ちはだかっている。

 マップ画面で見ると壁の奥にも通路が続いている。壁の奥に探索感覚を伸ばせば、壁の奥は通路が続いていることが分かる。絶対に何か仕掛けがあるはずだ。

 壁を含めて通路の側面の壁、天井、床を隈なく舐めるようにして調べたのだが壁を開く仕掛けが見つからない。どこにも鍵穴がない。針ぐらいの穴も見落とさないように注意したので間違いない。


 やけになって壁を蹴っ飛ばすと空ろな音が響いた。


 音の感じから間違いなく壁の裏側は通路になっていることが分かるだけに物凄く悔しい。

 唯一のヒントは壁に描かれた、まるでひび割れているかのような模様だけだ。

 ひびが入っているかのように見えるのだが実際には壁にはひびが入っていない。ただの模様だ。擦ったり叩いたりとすでに散々調べてた。他の壁や通路と比べて異なる点はこの模様だけだ。

 この模様が唯一の手掛かりとしか言いようが無い。

 ……ふとある3Dダンジョンのゲームのことを思い出した。

「まさか、それは無いだろう」

 俺は思わず声に出していた。

 俺は駄目元で試してみるために、後ろに5,6歩ほどさがり、正面の壁へ目掛けて思いっきりダッシュして肩からタックルした。

 壁にぶつかる瞬間に全身に力を込めて壁をぶち抜くつもりで突っ込むと、予想した通りに壁が崩れて壁の破片と一緒に奥へ転がり出た。

 地下迷宮の壁はどんなに強力な魔法で攻撃しても巨大なハンマーでぶっ叩いても決して崩れたりしないのだが、俺は唖然としてその場で座り大声で笑い声を張り上げていた。

 散々調べた通り、この壁には何の仕掛けもなく、単にぶち壊せば良いだけの壁だった。それなりの厚さがあるので、力がなければハンマーでも持ち出さないと壊せないだろうが、つまりは単なる普通の壁だったと言うことだ。

 唯一の手掛かりだった模様は確かにヒントだった。ひび割れに見える模様はつまり壁を壊せることを示していたと言うことになる。


 俺は立ち上がって鎧に付いた瓦礫を叩いて落とし、期待で胸を膨らませながら慎重に奥に進んだ。30mぐらい真っ直ぐに続いた通路の先に両開きの扉が見えた。俺は扉を押し開いて中に入った。

 1辺が50mの大部屋になっていた。天井までの高さは20mぐらいで壁には観客の絵が描かれている。まるでこの大部屋が闘技場であることを示しているみたいだ。

 扉から入った一番奥の壁の近くに大きな宝箱がおかれている。俺は宝箱まで移動して宝箱を探査するとレベルの低い「警報」罠が仕掛けられていることが分かった。

 その場で魔法で罠を解除して宝箱の蓋を持ち上げて開けてみると、中は空だった。

「くそっ。先を越されてたか」

 誰かに先に中身を取られたと思ったのだが、しかし、この大部屋に入るためには先ほどの壁を壊す必要がある。俺は来た道を戻って壁が崩れたままであることを確認して、また、大部屋に戻り、周囲を念入りに調べたが、やはり、空っぽの宝箱があるだけだった。

 壊れた壁がある通路に入るところは見せかけは壁の隠し扉になっていた。これだけの仕掛けがあって空っぽの宝箱がおかれているだけと言うことは有り得ないはずだ。

 それに、この階層の宝箱としては罠のレベルが低すぎる。

 ひょっとしたら罠を解除してはいけなかったのかもしれない。「警報」をわざと発動させて魔獣を出現させる必要があるのかもしれない。

 すでに罠を解除しているので「警報」を発動させることは出来ない。仕方がないので、今日は引き上げて宿に戻ることにした。



 食堂に入りいつも座るテーブルを見ると、いつも通りにジェームズとルーティが並んで座って夕食を食べていた。俺に気づいたルーティが手を振るとジェームズも続いて手を上げて合図を送ってきた。

 この宿屋に来て11日目になるが、夕食は決まった時間にジェームズとルーティと一緒に食べることが習慣になってしまった。俺は2人が座っているテーブルに移動し、いつもの通りにルーティの向かい側に座った。

 ジェームズに夕食は新居で食べないのかと聞いたことがある。すると、若奥さんはこの宿屋の厨房で働いていると返事があった。ジェームズは毎日遅くまで飲んでいるから奥さんと上手く言ってないのかと思っていたら、なんのことはない。夜は一緒に仲良く新居に帰宅しているそうだ。

 テーブルは6人掛けで中央にジェームズ、その左側にルーティが座り、俺がルーティの向かい側だ。酒場の常連客であるライオネルとサムソンが夕食を食べ終える頃に現れて俺の隣に座ることになっている。

 ライオネルとサムソンはジェームズの幼馴染で一緒にパーティを組んでいるそうだ。

「地下迷宮の攻略はどこまで行ったんだ?」

 俺が座るとジェームズが聞いてきた。流石に素直に答えるのは問題かと思い、さばを読むことにした。

「やっと半分ってとこかな」

「半分か、まだ3日だろう。えらく順調だな」

 俺は話しの調子を合わせることにした。

「誰にも会わないから。稼ぎ放題だよ」

「29階層なら当たり前だ。そこまで潜れる冒険者はこの街でも20人もいないだろうよ。そのレベルになればたまにしか行かないからなぁ。リオンは異常だよ。何か面白い物でも見つけたか?」

「無いよ。ギルドで購入した地図通りだね」

 食堂の給仕が俺の夕食を運んできた。俺はパンをちぎってシチューに浸して口に入れてた。

「そう言えば、ギルドでドロップ品の換金をしたことがないと聞いたぞ。どうしてだ?」

「面倒だし、時間もかかるからね。全部亜空間に入れてあるよ。宝箱に金貨が入ってるからお金も十分にあるしね」

 俺は口の中のパンを飲み込んでから答えた。

「29階層ってそんなに儲かるの?」

 ルーティが羨ましそうな顔で聞いた。

「29階層になると宝箱を殆ど独占できるからなぁ、宝箱には金貨5枚から10枚ぐらいか、1日で3つか4つの宝箱を見つけたとすると金貨だけでも2、30枚になる。しかもリオンは1人占めだ。全く常識外れも良いとこだな。羨ましい限りだぜ」

「凄いのね」

「ルーティ、こいつの真似はするなよ。普通の冒険者は週に1回か多くても2回しか地下迷宮に行かないからな、3日も続けて地下迷宮に行ったら体がぼろぼろになって動けなくなるのが普通だ」

「そうだね」

 夕食を食べながら話を続けると、いつもの時間にライオネルとサムソンが来てテーブルに座った。彼らの話では明日はルーティを入れて4人で地下迷宮に入るそうだ。

 俺達はいつものようにライオネルとサムソンのばか話を肴にビールを飲んで遅くまで騒いだ。



 翌日の朝、いつもの通りに朝食を食べて地下迷宮に入った。そして、昨日の闘技場のような大部屋にやって来た。

 壁は元通りになっていたので、昨日と同じように壁に体当たりして崩した。そして、大部屋に入ると昨日と同じように「警報」の罠が仕掛けられた大きな宝箱が置かれていた。

 罠を解除しないで蓋を開くと警報のサイレンが闘技場に響き渡った。そして、オーガの亜種を含む6匹のオーガのグループが幾つか、魔法使いを含む6匹のリザードマンのグループなど、100階層の地下迷宮なら80階層から出現する上位の魔獣が闘技場一杯に次々と現れた。


 魔獣の数が多すぎる。モンスターハウスでもこんなに魔獣は多くない。


 唖然として固まった俺はアリスの警告に従って、半分無意識に「超加速」、「魔闘気」、「超高速回復」、「ダメージ軽減」の特性を発動して「黒桜」を装備した。

 「加速」「全能力向上」などの補助魔法は発動した特性と重複しているので俺には補助魔法を掛ける必要はない。

 全ての魔獣が俺に向ってくる。あちらこちらから攻撃魔法が俺に向って飛んでくる。俺は近くのオーガのグループに向って疾走しグループのボスであるオーガの亜種を「黒桜」を左右に振って切り刻み、複数のオーガが同時に棍棒や剣で攻撃してくるのを掻い潜って攻撃してきたオーガに「黒桜」を振り回した。

 勿論、無傷ではない全ての攻撃を避けきれずに棍棒で殴られ剣で切り裂かれた。それから20分間も攻撃してくる魔獣を狂ったように「黒桜」を振り回して倒し続けた。途中、アリスの警告に従って全回復のポーションを飲んだが何とか全ての魔獣を倒した。

 アリスによれば出現した魔獣は全部で120匹だそうだ。

 全ての魔獣が消えると、闘技場の中央に宝箱が出現した。俺は宝箱に近づいて探査してみると罠は仕掛けられていなかった。

 宝箱を開けてみると、金貨100枚が入った袋と魔法が掛かったクロム鋼鉄の両手剣が入っていた。

 俺は宝箱の中身をアイテム画面に入れてその場で座り込んだ。ウェストバックから水筒を取り出して水を飲み少し休むことにした。

 突然だったので焦ってしまった。確かに数が多いのだが魔獣自体はそれほど強い訳ではない。ゲームの観点から見ればレベル上げやスキルの熟練度上げには丁度良いかもしれない。

 勿論、生身でゲームのレベル上げをすると言う発想は流石に自分でも現実的じゃないかもしれないとぐちぐちと考えていたら、「警報」のサイレンが再び闘技場に鳴り響いた。

 俺は慌てて立ち上がると発動型の特性を発動し再び「黒桜」を装備した。

 先ほどと同じように20分ぐらいで120匹の魔獣を倒すと、今度は宝箱が出現しなかった。宝箱は最初の1回だけなんだろう。

 「警報」の罠は30分毎に発動し、その度に120匹の魔獣が闘技場一杯に出現した。俺は宿屋に戻る時間になるまで闘技場で魔獣を倒し続けた。

 色々と試した結果、この闘技場はボス部屋と同じような仕様になっているらしく、1日に1回リセットされて1日に1回宝箱が出現した。120匹の魔獣がボスの代わりなのかもしれない。フロアボスは1日に1回しか倒せないが、ここでは30分毎に120匹の魔獣が出現する。レベルと熟練度上げには理想的な場所だ。結局、俺は毎日この闘技場に篭り、レベルとスキルの熟練度上げに勤しんだ。



 日曜日の朝。8時10分前に食堂に入り遅い朝食を食べ終えて、アリーシャがおまけに追加してくれた果実水を飲んでいるとルーティが近づいて来て「おはよう」と挨拶をしながらテーブルの対面に座った。

 この世界でも日曜日は休養日の認識が一般的だ。ギルドなどの公共機関や宿屋などのサービス業は年中無休で営業している。そのため日曜日でも普通に勤労に勤しむ人々はいるが、普通の人は休養日は休むことになっている。

 冒険者は昼まで部屋で寝ているのが普通だ。このため日曜日の朝の食堂はかなり空いている。

「おはよう」

 俺は果実水を飲みながらルーティに挨拶を返した。

「今日は暇?」

「暇だよ」

「師匠のところにお使いに行くんだけど、一緒に行かない? 師匠がリオンとゆっくり話しがしたいからたまには連れて来いって言ってたよ」

「いいよ」

 俺が返事をするとルーティは「やったぁ」と嬉しがった。俺はルーティがまるで姪っ子か娘のような気がしていた。


 果実水を飲み干してルーティと一緒にエルシアの家を訪問した。3人でお茶を飲みながら俺は魔術師学院について2人に話し、エルシアは竜人のことについて話してくれた。

 軽い昼食をご馳走になりルーティが美味しいケーキの店に行きたいと言うので2人でエルシアの家を出た。エルシアも誘ったが「若い2人のデートを邪魔するほど無粋じゃない」と言って断わられた。


「ひょっとして私達って付けられてる? あそこ人。街に入ってからずっと付いて来てる」

 店に入って店員の案内でテーブルに座り、店員に注文するとルーティが声を潜めて告げた。

「街に入ってと言うよりも朝からずっとだけどね。でも気にしなくていいよ。付けられてるのは俺だと思う」

「何か悪いことでもしたの?」

「やったかも」

 俺は心当たりがあるので正直にルーティに告白した。

「えっ! 何したの?」

 ルーティが吃驚して少し大きな声を出した。

「しっー! 声が大きいよ」

「あっ。ごめんなさい」

 ルーティは手で口を押さえて言った。

「それで、何をしたの?」

 ルーティはちらりと後ろを見てから聞いた。

「ギルドマスターを殴って倒した」

 俺が答えるとルーティが吃驚した顔になった。

「だって、それって儀式だもん。リオンは悪くないわよ」

「その通りだけど、でも、ギルドマスターの一味からみると面目丸つぶれだろう。確か2日後から誰かに付けられるになったからね」

「そんなの、ただの嫌がらせじゃないの」

 ルーティは怒って言った。

「最初は何か言ってくるか、手を出してくるかと思ったけど、何もしてこなかったからね。ルーティの言う通り嫌がらせかもしれないけど、被害を受けていないから文句も言えない。結局、知らん振りして無視するのが一番だと思う」

「でも、なんか嫌だな」

「まぁね。だけど気にしたら負けだよ。嫌がらせが目的だとすると文句を言ったらあいつ等は反応があったと大喜びだからね。完全に無視するのが一番良い対策方法だよ。

 ちょっかいを出してきたらギルドマスターを倒したこの左フックを喜んでお見舞いしてやるよ」

「リオンの言う通りね。でも手加減しないとだめだよ」

 ルーティは「うふふ」と笑いながら言った。

「勿論さ」


 店員が注文したケーキとお茶を運んできた。ルーティは話を止めてケーキを一切れ口に入れ「美味しい」と言って笑った。俺もケーキを切り分けて口に入れた。

「リオン。明日も地下迷宮に行くの?」

 ケーキを食べ終えてお茶を飲んだルーティが聞いた。

「そのつもりだよ」

 俺は29階層の闘技場に嵌って、そこでレベル上げとスキルの熟練度上げに勤しんでいる。

「よかったら、明日はギルドで依頼を受けない?」

「そうだね。週に1回は依頼を受けるように言われているから、それでも良いよ」

「誰に言われてるの?」

「ボスだよ。俺の上司さ。ここに来たのも上司が地下迷宮の最下層を調査しろと命令されたから来たんだ。と言うかさ。今朝、エルシアさんのところで話しただろう」

「そう言えば、上司命令で調査に来たって言ってたわね。忘れてたわ」

「別に良いけど。それじゃ、明日はギルドで簡単な依頼を受けるで良いのか?」

「えぇ、お願いね」

「良いよ」



 翌日の月曜日。ルーティと一緒にギルドに行き簡単な依頼を済ませて午後3時に宿屋に戻り、ルーティと分かれて自分の部屋に戻った。

「リオン。ジェームズだ」

 夕食までの時間をどうやってつぶそうかと思案していると部屋のドアがノックされてジェームスの声が聞こえた。

 部屋のドアを開けると、ジェームズが立っていた。

「ちょっと話があるんだけど、時間を取れないか?」

 ジェームズは誰かが来ないかと気にしているようで、ちらちらと廊下の左右に目を向けている。

「時間って、どれぐらい?」

「1時間もあれば済むはずだ。1階の応接間に来て欲しい」

 どんな話なのか気になるがそれは話を聞けば分かることだ。

「いいよ」

 俺は部屋から出てドアに鍵をしてからジェームズに連れられて1階に下りた。


 応接間に入ると、見知らぬ冒険者風の男がソファーに座っていた。人間の男性で30代後半、短めの茶色の髪に灰色の目、目つきが鋭くRPGゲームなら盗賊の冒険者と言ったところか。

「セイン・ナルトン、ギルドの副支店長だ」

 ジェームズが紹介するとセインは立ち上がって近づいてくると右手を差し出した。

「リオンくん。よろしく頼むよ」

「リオン・ウォートです。よろしくお願いします」

 俺は挨拶を返して差し出された手を握った。

「話とは何ですか?」

 ソファーに座って、2人が座るのを確認してから俺は聞いた。

「最近、ギルドの動きがきな臭いことは気づいているかな? 特にリオンくんを中心に動きがあるんだけど」

 セインが俺に聞いてきた。

「ギルドの内情を知りませんので、きな臭いと言われても何のことか分かりません。確かに、例の儀式の後から僕を監視してるグループが居ることは知っています」

 監視しているグループが2つであることは分かっているが、俺は黙っていることにした。

「そうか、監視されていることには気づいているんだね」

「まぁ、後を付けられているだけでちょっかいを出してこないから無視してます。正直に言えば気分が悪いですね。目的も分からないし、襲ってくれれば問答無用で返り討ちにしてやるつもりです」

「なかなか物騒だね。だけど君の強さは知れ渡っているから襲い掛かるような命知らずはいないと思うよ」

 セインは頷きながら同意した。俺をおだてて取り込もうと考えているのかもしれない。セインは何も言わずに俺をじっと眺めた。俺も黙ってセインを見続けた。

「リオンはこの街に来たばかりだから何もしらないぞ、最初から説明してやれよ」

 暫く沈黙が続いてからジェームズが耐え切れない様子でセインに言った。

「分かった。ところでリオンくんは今のギルドマスターをどう思う?」

「何も」

 俺は即答した。はっきり言ってギルドの組織に興味はない。いい加減、押し問答のような会話に飽きてきた。

「何もとは?」

「何も思っていない。興味は無い。僕には関係ない」

「儀式を強制されたのにかい?」

「結果的に被害を受けてないからどうでも良い。どちからと言うとギルドマスターの方が被害を受けたんじゃないかな」

「成る程。確かにリオンくんの言う通りだね。リオンくんは何も被害を受けていない。しかし、それはリオンくんだけだよ。他の冒険者は少なからず被害を受けている。特に冒険者の登録に来た若者はあの儀式のせいで登録を止めてしまう者も多い。ギルドとしては前途有望な若者が去ってしまうのは困ることなんだ」

 セインは話すのを止めて俺の反応を伺った。俺は黙って続きを待った。

「それでもリオンくんは何も思わないのかね?」

「副支店長のセインさんは困るのかもしれないけど、僕には関係ないことです。ギルドとして困るのならばギルドが止めさせれば良いのでは?」

「それが可能ならとっくに止めさせているよ」

 セインは溜息をついた。

「まさか、僕に止めさせてくれとは言わないですよね。僕は単なるランクCの冒険者ですよ」

 俺は呆れて嫌味を言った。

「あぁ、その通りだよ。確かにランクがCだからリオンくんには討伐の依頼もできない。しかし、リオンくんの強さはランクS以上だよ。最初に報告を受けたときは流石に信じられなかった。なんでもここ3日ほど、とんでもない修行をしているそうだね」

 セインは闘技場のことを言っているらしい。

「そうすると、僕を監視しているグループはあなた達ってことですか?」

「間接的にそうなるね」

「間接的ですか?」

「私達はリオンくんを監視しているのではなくて、ギルドマスターの一味を監視しているんだ。ギルドマスターの一味がリオンくんを監視しているから結果的にリオンくんを監視していることになるんだよ」

「成る程」

「ところで、ギルドマスターが襲って来たら、リオンくんはどうするかね?」

「勿論、返り討ちにします」

「返り討ちと言うとギルドマスターを殺すのかい?」

「いや、そこまでは流石にやらないよ。動けなくなるぐらい叩きのめすだけですよ」

「まぁ、そうだろうね。しかし、正直に言うとギルドマスターを殺して貰うと助かる」

 セインの言葉に俺は吃驚した。ギルドマスターを殺せと言うのは犯罪だろう。

「いや、流石に殺人は犯罪でしょう」

「防衛のために殺してしまったなら犯罪にはならないよ。ましてや相手が賞金首だったら報酬が貰える」

「賞金首? ……ギルドマスターが賞金首ですか?」

「公式に通知していないが、アルトスのギルド本部で赤虎族のダンヒルは賞金首に認定された。報酬は1万クランだ」

「1万クランとは……。破格ですね」

「ダンヒルは前ギルドマスターを殺害したからね。ギルドの沽券が掛かっている」

「そうですか、しかし、1万クランなら腕に覚えのある冒険者なら誰でも飛びつくんじゃないですか?」

「実を言うと先月にランクSの冒険者が極秘で討伐しようとしたが返り討ちにあっている。この大陸にはSSクラスの冒険者は居ないから事実上大陸ではトップクラスの冒険者だ」

「トップクラスの冒険者ですか……。ダンヒルはそんなに強いんですか?」

「ダンヒルの強さの秘密は我々も分かっていない。実力的にはランクAだと考えていた。しかし、トップクラスの冒険者が返り討ちにあったことは事実だ。そこでギルド本部は他国のギルドにランクSSの冒険者を派遣するように依頼しているのだが、まだどの国からも承諾の返事を貰って居ない。

 リオンくんはランクSの賞金首2人を同時に倒した実績があるから、リオンくんならダンヒルを倒せるだろうと我々は考えている。しかも1人は「竜殺し」の称号持ちだそうじゃないか、ダンヒルも同じ称号持ちだが、ダンヒルは1人だからね。こっちの方が討伐は楽なはずだよ。

 本当なら正式に討伐を依頼したいのだが、リオンくんはランクCだから依頼する訳には行かない。だから、こうやって情報を流していると言うことだよ」

「成る程。話は分かりましたが、ダンヒルが襲ってくるとは限らないでしょう。僕は自分から討伐になんて行きませんよ」

「ところが、そうもいかないんだよ」

「どう言うことですか?」

「そうだね。少し説明が長くなるが、最初から説明しよう。

 事の起こりは2年前の前ギルドマスターの殺害になるね。知ってるかもしれないがその時ギルドマスターになったのがダンヒルだ。本来はダンヒルはギルドマスターの候補に挙がっていなかった。しかし、何故か教会からの強力な横槍が入ってね。ギルド本部のある幹部が強引に動いてダンヒルがギルドマスターに就任してしまった。

 分かると思うけど、ダンヒルがギルドマスターに就任してからここのギルドは酷い状態になってしまってね。それで色々と調査した結果、2年前のギルドマスター殺害の犯人がダンヒルだと言うことが分かったんだ。苦労して調査して3ヶ月前にダンヒルが犯人であることの証拠がやっと見つかってね。それで賞金首に認定されたんだが、先ほど話した通り大陸のトップクラスの冒険者に極秘に討伐を依頼したと言うことだ。

 我々はかなり前からダンヒル一味の監視を続けていたんだが、リオンくんがダンヒルを殴り倒してから、何故かダンヒル一味の活動が活発になってね。ダンヒルは教会の幹部とも接触しているらしい。リオンくんを監視していることについては、最初は仕返しのためだろうと考えていたのだが、一向に手出しをする様子がないし、リオンくんの監視に尋常じゃないほど力を入れているみたいだ。しかも教会もきな臭い動きをしているようにも思える。

 ダンヒルと教会の目的は皆目見当がつかないが、リオンくんが襲撃される可能性もあると考えてね。それで今回の話になったと言うことだよ」

「つまり、ダンヒルが僕を襲うかもしれないと言うことですか?」

「そうだ、それも単なる仕返しではないと考えている。下手をするとリオンくんの命を狙っている可能性もあると僕は思っているよ。まぁ、単なる感だけどね」

「脅かさないでくださいよ」

「兎に角、我々の勝手な願いだけどね。もし、ダンヒルに襲われたら遠慮はいらないから殺して欲しいと言うことだよ。勿論、首を持ってくれば1万クランの報酬を払うよ」

「はぁ、一応、話は分かりましたが、しかし、命を狙われるなんて嫌だなぁ」

 俺は溜息をつきながら答えた。

「それに関しては我々では何も力になれそうもないんだ。本当に申し訳ない」

 セインは頭を下げて謝った。

「そうですか、分かりました」


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