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1話


 0時26分。

 JR東海道線の電車が戸塚駅で止まった時、腕時計の針が指していた時間だ。

 東京駅から約40分、ぐっすりと眠り込んでいた俺は、電車が減速する時には目を覚まし、戸塚駅であることを確認して、電車を降りた。

 始発駅の東京駅から乗車するので、次の電車に並べば、必ず座ることができる。30年近くも通い続けた甲斐あって、電車が動き出す頃にはぐっすりと眠り、戸塚駅に着く頃に目を覚ますことができる。

 電車から降りると、人の流れに乗って改札口に向かった。深夜のこんな時間なのに、電車からぞろぞろと背広姿のサラリーマンが降りて改札口へ流れていく。

 自動改札を通勤定期でパスして、駅の階段を下りる。

 駅から出るとすぐに胸ポケットからタバコを1本だけ取り出し、同じく、胸ポケットから愛用のジッポを取り出して火をつける。完全に習慣化しているので半分眠った状態だ。タバコを一息吸って、やっと目がさめてくる。

 俺の名前は大門将人だいもんまさと。59歳の何処にでも居る平凡なサラリーマンだ。

 最近、疲れが溜まっているのか、変な夢を見る。夢の内容を覚えている訳ではない。目覚めたときにおかしな夢を見たと言う感覚が残っているだけだ。

 先程、電車で眠っている間も、その夢を見た。

 タバコを吸いながら、どんな夢だったかを考えた。

 誰かと話をしていたような気がするが、相手のことも話の内容もまったく覚えていない。

 定年まであと半年、孫が居ても可笑しくない年齢だ。実際に兄と妹の所は孫が居る。なのに、俺は独身男性のサラリーマンだ。

 贅沢をしなければ退職金もあるので、老後を生きていく金は十分にあるが、自分でも寂しい人生だと思う。

 何時の頃から落ちこぼれたのか、入社した頃はばりばりと仕事をこなし、出世コースに乗っていた。若い頃に剣道と空手で鍛えた体力のおかげで、徹夜続きでも平気だった。他の競争相手を完全に引き離していた。

 同期の中で一番に主任に出世したにも拘らず、落ちこぼれてしまった。

 落ちこぼれた原因は何だったのか、上司との人間関係なのか、独身なのがいけなかったのか、あるいは、俺の趣味が原因なのか……。

 俺はPCゲームに熱中し、ゲーム機を買い揃え、オンラインゲームにのめり込んだ。しかし、仕事は人並み以上にこなしたし、コンピュータ関連の会社だったためか、俺以外にもゲームに熱中していた者は大勢いた。

 落ちこぼれの原因は一つではないのだろう、俺の人付き合いの悪さと独身であることと、ゲームを趣味にしていることなど。

 結局、運が悪かったのだろう。

 仮に、昔に戻って人生をやり直すチャンスを貰ったとしたら……。

 普通の人は、こんなチャンスを貰えれば喜んで人生をやり直すのだろう。しかし、俺はそんなチャンスが欲しいとは思わない。人生をやり直して果たして今よりも良くなるのか、やり直しても同じことをやっていれば結局は同じ結果になる。違う仕事を選んでも、趣味がゲームで独身で落ちこぼれているに違いない。

 ……いつの間にか、駅前の交差点についた。

 俺は、ふと、なんでこんなことを考えているんだと疑問に思ったが、ちょうど歩行者用信号が青になり、固まって待っていた歩行者達が交差点を渡り始めたところだ。

 俺も信号が変ってしまう前に交差点を渡ってしまおうと思い、早足で交差点へ向かい、交差点を斜めに歩いた。ちょうど、交差点の中心にさしかかった時、後ろを何気なく振り返った。

 …………目の前に巨大なトラックがいた。

 俺は無意識の内に、突っ込んでくるトラック対して横に避けようとした。横方向に避けるために、一旦、体を沈め、そして、思いっきりジャンプしようとした。

 俺が後ろを振り向いてから、トラックにぶつかるまでの時間は一瞬だったはずだ。しかし、まるでスローモーションで再生されているかのように、自分の体の動きを意識していた。トラックの運転手がハンドルに被さって寝ているのが見えた。

 何故か、恐怖はなかった。

 なんともつまらない人生だったなと思っていると、トラックのフロントに体がめり込み、恐ろしい衝撃を感じた。



────────────────────────────────────



 ……………………ふと気づくと、俺は、何もないところにいた。

 目を開いているのか閉じているのか分からないぐらい真っ暗なところだ。

 ここがどこなのか、何が起きたのか思い出そうとして、すぐにトラックにぶつかった瞬間のことを思い出した。

 ……俺は死んだのか? すると、ここは死後の世界か?

 死後の世界が本当にあるとは信じられん。

 俺は死後の世界があるとは信じていなかった。死んだら自意識は消滅してしまうだろうとなんとなく思っていた。

 何故か分からないが、俺は恐怖をまったく感じていなかった。今の俺は幽霊になっているのだろうかと呑気に考えていた。

 自分の体の状態を確かめたくても何も見えない、それに、金縛りにあったように体を動かすことが出来ない。

 霊界に関する本で、死ぬと自分の体の近くにいて、自分の葬式を見学したりすることが良く書かれている。

 世間の出版社はノストラダムスの1999年の予言と同じで、とんでもないデマを平気に本にして売っていると言うことだ。しかし、死ぬと幽霊になって自分の近くに漂い、暫くしたら天国に行くのだと言うことを一体どれだけの人が信じているのだろうか。

 ノストラダムスの予言は、2000年を迎え21世紀になった時点で大嘘であることが判明したが、死後の世界は大嘘だと言う事実は、永遠に世間に伝わることはないのだろう。

 …………どれぐらい時間が過ぎたのか? 現実世界では一瞬なのか、それとも、何日も過ぎてしまったのだろうか。

 …………ふと、正面に針の先ほどの小さな光が見えた。そして、光が近づいているのか、徐々に大きくなってきた。

 針の先から、豆粒ぐらいの大きさになるのに、少し時間がかかったように思うが、豆粒の大きさからはあっという間に大きくなり、光の中心に人がいることに気づいた。

 それはすぐに、俺の目の前にやってきた。

 きれいな着物をまとった美しい女性が眩しいぐらいに輝いていた。

 20歳ぐらいの若々しい顔をしているが年齢は分からない、恐ろしく長い年月を経験していると思わせる何かがある。

 その女性が普通の人間でないこと、それどころか神と呼ぶ存在に近い者。まるで、観音菩薩が具現化したような女性だと思った。

 その女性は魂の内側を見透かすかのように、じっとこちらを見つめていた。

「探査完了。波形パターンが完全に一致しました」

 頭の中で、若々しい女性の声が響き渡った。そして、女性がにっこりと微笑んだ。

 俺は悪魔に魅入られたかのように、優しく微笑む女性を見つめ続けていた。

 女性は右手を上げると手のひらを上にした。

「あなたは、どなたですか?」

 俺は我に返ると、目の前の女性に尋ねたが、女性は俺の声が聞こえなかったかのように無視した。

 女性の手のひらの上に、黄金色に眩しく光る玉が浮かんだ。そして、美しい女性は唇をすぼめると、黄金色に輝いている玉を軽く吹いた。

 黄金色の輝きが眩しすぎて玉の大きさがよく分からなかったが、光の玉は俺の方に飛んできた。そして、俺の体の中に入り込んだように思えた。

「これで主人の最後の命令を達成することができます」

 女性は、笑みを浮かべながら独り言を呟いた。

「なんだって、いったいどうなってるんだ!」

 俺は大声で怒鳴ったと思う、しかし、いきなり眠くなって、すぐに眠りに陥るように意識を失った。


「騎士王物語」の1話、2話を流用して、少しだけ手を加えました。感想で指摘されていた点を反映したつもりです。内容は殆ど変っていません。

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