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11話

 8月1日月曜日。

 1週間続けて泊まったおかげで顔見知りになった宿屋の女将さんに別れの挨拶して外に出た。


 日差しが強くて眩しい。気温も高いようだ。

 時刻は朝の8時10分前、太陽はとっくに昇っており、今日も暑い1日になるのは確実だろう。

 今は夏の真っ盛りで暑さのピークなのに、俺は革鎧に丈夫そうなブーツ、腰にロングソードを下げて背中にリュックを担いだ格好だ。

 学院都市では学院の制服は当たり前で、学院の制服なら目立つことはないと思うのだが、俺は昨日まで、学院の制服を着て学院に通っていた。

 多分、助手の制服が目立ったのだろう。何となく、通り過ぎる人の注目を浴びていたような気がする。しかし、今日は冒険者の、しかもバリバリの初心k者の格好をしているためか、昨日までと比べると、随分と注目されているような気がするのだが、まぁ、いわゆる自意識過剰と言う奴だろう。


 革鎧とブーツには温度湿度を調整する魔法が付与されているので見た目に反して涼しいのだが、一般人は俺の姿を見れば気の毒に思うらしく宿屋の女将さんが「暑いのに大変そうだね。まぁ、がんばりなよ」と声を掛けてくれた。

 今日はスターレン渓谷の調査に出発する予定の日。9時に出発する予定なので、俺は30分前に集合地点に行くつもりで宿屋を出た。

 あれからマリアは何処かに出かけたらしく1度も見ていない。

 俺は毎朝8時30分にマリアの研究室に行き、マリアが居ないことを確認してから教授の研究室に顔を出してから図書館に通った。

 図書館は一般用、研究員用、導師用のフロアに分かれていた。俺は助手の資格があるので一般用、研究員用のフロアに入ることが出来た。

 導師用のフロア、地下にある特別許可が必要な禁書の保管庫、そして、旧館の地下1階と2階に見つけた秘密の書庫には無断で浸入してアリスのライブラリに取り込んだ。

 秘密の書庫は全部で6部屋もあったのだが、どうやら存在自体を誰も知らないようだった。


 マリアと会わなくなって3日後に、マリアに出会ってからの自分の精神状態を冷静に見直してみた。

 アリスは否定しているがまるでマリアに魅了の魔法に掛けられたかように俺はマリアの言いなりになっていたと思う。

 アリスの言う通り、実際にマリアは魅了の魔法を使わなかったのだろう。しかし、同じ効果を俺に与えたことは間違いないと思っている。

 マリアに出会った瞬間、俺の心を覆っていた殻が木端微塵にはじけたみたいだった。そして、その心を覆っていた殻がメッセージに書かれていた神の細工だったのではないかと考えている。

 以前の俺には恋人が居なかった。女性を好きになることも興味を持つこともなかった。中学3年と高校3年の2回。女性から好きだと言われたことがあったが、2回とも相手に興味が無かったので断った。

 大学に入ってからは殆ど女性とは話さなかった。理系の大学で女性はごく一部しか居なかったので、話す必要がなかった。

 ゲームオタクが原因だと自分では納得していたのだが、神のメッセージが本当のことだとすると、神の細工が原因だったと言うことになる。

 そして、何となく心が若返ったような気がしている。肉体も精神も16歳の若者に若返ってしまったようだ。

 そして、今日まで1週間近くもマリアに会っていない。正直に言うと今はマリアに会いたいと言う気持ちが俺の中で膨れ上がっている。

 誰かに会いたいと思うこと自体、生まれて初めてかもしれない。

 最初の頃はイカレてたと自分でも認めるが、今は普段の自分を取り戻している。と思うのだが、正直なところちょっと自信が無い。

 今のところ、マリアとは敵対する理由が無いので、一応、味方だと考えているが用心は怠らないようにするべきだと思っている。しかし、恋は盲目と言う通り、俺は簡単に騙されてしまうのだろう。

 昨日の朝、教授の研究室に行った時にマルコムの助手の祝賀パーティに誘われたが、田舎者の世間知らずを理由に断った。

 学院都市で1番の最高級ホテルで盛大に行われたらしい。マーガレットに聞いた話だが、宮廷魔術師の祖父がお祝いに来ることになっているそうだ。

 マルコムは上位貴族の血を引いた魔法の力に特化した上位種の人間であり、教授が護衛を依頼したジュリアス・アンドレも同じく上位種の血統でマルコムの従兄弟になるらしい。

 ジュリアスは戦闘力に特化しており、魔力は普通の人間程度の実力しかないとマーガレットが教えてくれた。



 研究棟の裏口に行くと4頭の馬が付けられた馬車が止まっていた。

 乗合馬車を改造したのだろう。前の半分に3列の座席が作られており、乗り込むための扉と窓が作られている。後ろの半分は荷台に改造されている。

 荷台の後ろに鞍を着けた4頭の馬が繋がれており、馬の近くでマルコムを含む4人が集まっておしゃべりをしている。

 少し離れたところで教授とマーガレットが並んで立っており、教授の後ろの方に30歳ぐらいの男女2名のエルフが控えていた。教授の使用人で教授の身の回りの世話と食事などの雑用を担当することになっている。

 御者が御者台に上がっているところを見ると、出発の準備は完了しているようだ。

「おはようございます」

 俺は教授達に近づきながら挨拶をした。

「やぁ、リオンくん。おはよう」

 教授が明るい声で挨拶を返してくれた。機嫌が良さそうだ。

「リオンくん。おはよう」

 教授の隣にいたマーガレットが挨拶を返してくれた。

「リオンくん。ジュディ達に紹介するからこっちに来てくれ」

 マルコムが呼んだので、俺は教授とマーガレットに「ちょっとあっちに行ってきます」と断ってからマルコム達の方へ移動した。

「マルコムさん、おはようございます」

 俺はマルコム達4人に頭を下げて挨拶した。

「おはよう、リオン。

 皆。彼がマリアさんの助手のリオンくんだ。よろしく頼む」

「リオン・ウォートです。よろしくお願いします」

 マルコムが紹介してくれたので、俺は頭を下げて挨拶した。

「これは、ご丁寧な挨拶。痛み入る。

 私はリーダのジュディアス・アンドレ。マルコの従弟だ。よろしく頼む」

 部分鎧を着た金髪の女性が挨拶した。20歳ぐらいで身長は170cmぐらい。目は冷たい感じの灰色。腰に刀を差している。確かにマルコムに少し似ているようだ。

 刀を使う冒険者は珍しいが居ない訳ではない。迷宮都市でも刀を差した冒険者を稀に見掛けた。

「銀狼族のハヤテだ。よろしく」

 ウォルフ族の男性が名乗り出た。身長は180ぐらい、年齢は分からないが若い方だと思う。顔はハスキー犬のような感じで、銀色に灰色の縞が入っている。目の色は白っぽい灰色だ。

 短めの2本の剣を交差させて背中に担いでいる。双剣の使い手らしい。

「神官のアンネ・シュトラウスです。よろしくお願いします」

 最後に統一教会の尼僧の制服を着た女性が挨拶をした。身長は170cmぐらい、ジュディアスより2、3cmぐらい高くて細身で、金髪碧眼の西欧系白人の美女。魔術師の杖を持っている。


「おはよう。皆さん。私が最後のようね」

 ちょうど挨拶が終わった時、教授達の方からマリアが声が聞こえた。振り向くと、黒色のミニスカートのゴスロリドレスとつばが広い黒い帽子を着たマリアが教授の近くに居た。初めて会った時に着ていた恰好と同じだ。

 マリアを見たらドキドキするかもしれないと、密かに恐れていたのだが、脈拍が速くなったり、動揺したりしなかったので安心した。

 例えて言えば、ゴールデンウィーク後に学校で美人の同級生に会った感じだろうか、気にはなるが特別に何かを感じることはなかった。

「マリアくん。おはよう」

「マリアさん。おはようございます」

 教授とマーガレットがマリアに挨拶をした。

「マリアさん。おはようございます」

「おはようございます」

 俺とマルコムもマリアに挨拶をした。


「皆。馬車に乗りたまえ、出発するよ」

 教授が呼びかけるとジュディアス達は馬車に繋がれた手綱を解いて馬に乗った。

「僕はジュディと一緒で護衛だよ。リオンくんは馬車に乗ると良いよ」

 マルコムは俺に告げると、残っていた馬の手綱を解いて馬に乗った。

 馬車の前列に教授とマーガレットが乗り込み、3列目に2人のエルフが乗り込んだ。マリアは馬車の扉を開けて俺が近づくのを待っていた。

「リオンくんは2列目、私の隣よ」

「分かりました。マリアさん。お先にどうぞ」

 俺は右手で扉を捕まえて左手で先に乗るように示した。

「あら、ありがとう。気が利くわね」

 マリアは嬉しそうに笑うと先に馬車に乗り込んだ。俺もマリアに続いて乗り込み、扉を閉めてからマリアの隣の座席に座ってリュックを足元降ろした。

 マルコムとジュディアスの2人が先導して馬車は出発し、ハヤテとアンネの2人は馬車の後ろに付いた。


 馬車は研究棟の裏口から北に進み、学院の北口を出ると東に向かった。学院都市内の道路は石畳で舗装されているので、馬車は殆ど揺れずに快調に進んだ。

 馬車には屋根があるし、窓は全開なので車内の風通しは良いのだが、夏の真っ盛りのため、流石に室内は少し暑い。しかし、隣に座っているマリアは平気そうな顔をしているし、前に座っている教授達も楽しそうにしている。

 俺と同じように魔法で温度調整をしているのだろう。後ろに座った2人のエルフは両方の窓際に寄ってぐったりとしている。

 なんとなく恥ずかしい気がして、俺は隣のマリアを見ないようにして外の景色を眺めた。

「リオンくん、キョロキョロしてるけど、北口に来たのは初めてなの?」

 マリアの方に顔を向けると、マリアが笑顔で俺を見ていた。ずっと俺を観察してたのかもしれないと疑問に思った。

「はい。初めてです。正門よりもこちらの方が落ち着いた感じですね」

「そうね。北側は住宅街だから南側と比べたら、随分と静かよ。とっくに通り過ぎたけど独身寮は北口の近くにあるわ。教授の豪邸はあっちの方よ」

 マリアは左側の方を指差した。

「そう言えば、マリアくんは何処に行ってたのかね?」

 教授が後ろを振り返ってマリアに質問した。

「教会本部の様子を探ってたわ」

「なるほど、それで何か変わったことはあったかね?」

「特に無いわね。私達の調査許可が出たことは報告されてるはずだけど、特に注目はされていなかったわ」

「そうか、それなら問題無しだね」

 教授は頷くと顔を正面に向けた。



 学院都市を出て舗装された道から出ると、途端に馬車が揺れ出したが。

 乗合馬車と比べると遥かにましだ。乗合馬車の半分ぐらいの速度しか出ていないためだろう。本を読むのは難しいかもしれないが、しゃべると舌を噛むほどでは無い。

「リオンくん。私が居ない間は寂しくなかった?」

 揺れに慣れるのを待ってからマリアが俺に聞いた。

「勿論、寂しかったです。マリアさんが居ないからつまらなかったですよ」

「あら、お上手ね。それで、今まで何をしてたの?」

「マリアさんに言われた通り、毎日、図書館で勉強していましたよ」

「あら、リオンくんに図書館で勉強しろなんて言ったかしら?」

「歴史と教会の勉強をしろと言いましたよ」

「そうだったかしら……。そう言われると、確かに言ったかもしれないわね。それじゃ、どれだけ勉強したか試してみようかな。ベルゼルグ王国の初代王のことを説明して頂戴」

「ベルゼルグ王国の初代王ですか?」

「そうよ。どんなことでも知ってることを全部話して頂戴」

 アリスがベルゼルグ王国の初代王であるボトフ・ベルゼルグの情報を伝えてきた。

「初代王の名前はボトフ・ベルゼルグ。父は有名な将軍でボトフは父親から軍人として厳しく育てられた。神は彼のリーダシップに優れた点を買ってこの王国の初代王にしたと言われています……」

 馬を休憩させるために馬車が止まるまで、俺は1時間ぐらい延々と初代王に関する話をマリアに説明した。


 馬車が街道を少し外れて止まった。

「残念。リオンくんの歴史の講義は一旦中止ね。でも凄いわ。説明も上手だし、歴史の講師を受け持っても十分にやってけるわ。それじゃ、私達も降りましょう」

 嬉しそうな顔で俺の話をずっと聞いていたマリアは俺に言うと反対側の扉から降りた。俺も自分側の扉から降りた。


 御者と教授の使用人は馬を休ませるために馬車から外し、長方形の大きな水桶を地面に置いて、教授が魔法で水を満たした。マルコム達も馬から下りて馬の世話をした。

 暑いので頻繁に休ませて水を十分に与える必要がある。幸いなことに俺達の半分が魔術師なので水は幾らでも魔法で出すことが出来るし、アンネは治癒魔法で馬の疲れを取ることが出来る。

 特に治癒魔法を使えるアンネの存在は大きい。俺達は15分ぐらいの休憩を馬に与えて再び出発した。

 幸いなことに、マリアから歴史の講義の続きを要求されずに済んだ。教授達とおしゃべりをしたり、景色を眺めたりして過ごした。

 3回目の休憩で昼食が配られた、馬に干草を与え1時間ぐらい休憩してから出発した。午後はおしゃべりはやめて、もっぱら昼寝の時間になった。



 太陽が空の頂点を通り過ぎて日が傾き、暑い日ざしがやっと弱くなりだした頃、俺達は30匹ぐらいの平原狼に襲われた。

 マップ画面の北東に30個ほどの赤い点が表示されてアリスが警告してきた。平原狼は群れるので数は多いのだが、初心者でも討伐することができる弱い野獣だ。

 俺は警告しなくても問題ないと判断して黙っていた。

 赤い点が150mぐらいに近づいた時、先導していたウォルフ族のハヤテが馬車に近づいて御者に「馬車を止めろ」と命令してから「平原狼が約30匹、襲ってくるぞ!」と大声で警告した。


 馬車を降りると、マルコム達は平原狼を迎え撃つ体勢を整えており、教授が魔法のバリアを張り終えていた。

 俺も手伝うつもりでマルコム達のところへ行こうとしたところで、マリアが俺の腕を叩いた。

「リオンくん。魔弾銃の試し撃ちのチャンスよ。魔法バリアの外に出てジュディアス達を手伝ってきて」

「魔弾銃ですか?」

「そうよ。まだ撃ったことが無いでしょう。使い方に慣れておいた方が良いわ」

 魔弾銃を使うつもりは全く無かったが、確かにマリアの言う通りだ。

「分かりました」

 俺はマリアに返事をして魔法バリアの外に出て、杖を構えて身構えているマルコムに近づいた。

「マリアさんに試し撃ちをしておけと言われた」

 俺は魔弾銃を右手に呼び出してマルコムに見せた。

「それは……、ひょっとして魔弾銃!」

 マルコムが目を見開いて魔弾銃を見詰めた。余程、驚いたのだろう。こんなに驚いたマルコムを見たのは初めてだ。

「マリアさんが貸してくれた」

「それが魔弾銃か?」

 俺がマルコムに言い訳をすると、ジュディアスが近づいてマルコムと同様に魔弾銃を見詰めた。

「マリアさんが持ってることは知ってたが、魔弾銃をリオンに貸すとは驚いたな」

 マルコムが呟いた。

「平原狼が近づいています。注意してください。魔弾銃の射程距離は50mです。平原狼の弱点は土属性です。土属性の魔弾を撃つ用意をしてください」

 アリスが警告してきた。俺は両手で魔弾銃を構えて先頭の平原狼に狙いを定めた。

 マルコムとジュディアスは慌てて後ろに移動した。

「距離50mです」

 アリスの警告と同時に俺は魔弾銃を発射した。


 拳銃とは違って魔弾銃には引き金がない。魔弾の撃ち方は気合いだ。

 魔弾銃を簡単に説明すれば、魔弾の魔法に特化した杖だと言える。原理的には杖を構え、呪文を唱えて魔弾を撃つのと同じだが、魔弾の魔法よりも遥かに少ない魔力で遥かに威力の高い魔弾を撃つことができる。

 そして、魔弾銃の引き金の引き方は、空手の正拳突きの気合いの入れ方と同じだと考えれば良い。腰を落として「はっ!」と気合いと共に拳を正面に突き出すのと同じ要領だ。

 魔弾銃に魔力線を引き、気合いの変わりに魔力で「はっ!」と魔力を一瞬で込めれば良いのだ。


 俺はアリスの警告と同時に魔力を魔弾銃に込めた。

 無音で発射された土属性の魔弾は高速で飛び出して一瞬で平原狼に当たり、爆発したかのように赤い霧を噴出して4つか5つのバラバラの肉片を3、4mぐらい上空に跳ね飛ばした。

「凄い!」

 移動して杖を構えていたマルコムが驚いた声を上げた。マルコムのように声を出さずに済んだが、俺も驚いた。拳銃よりも遥かに威力がある。

 まるで、ミサイル弾かバズーカ砲で撃ち込んだみたいだ。

 ジュディアスも驚いた顔で俺に注目していることに気付いたので、俺は当然と言う顔を作って次の平原狼に狙いを定めて魔弾銃を撃った。

 2匹目も1匹目と同様に4,5個の肉片になって飛び散った。

 俺は次々と狙いを定めて魔弾を打ち続けた。

 魔弾銃を撃つのは初めての経験だが、魔弾銃のスキルの熟練値も他のスキルと同様に1000のマスタークラスのため、魔弾の撃ち方、つまり魔力による気合いの入れ方を理解していた。

 30mぐらいに近づいてくるまでに5匹の平原狼を仕留めた。隣で杖を構えていたマルコムは火炎弾の魔法を撃ち込み5匹の平原狼をまとめて始末した。

 神官のアンネも魔弾の魔法を撃って平原狼を始末した。ジュディアスとハヤテも構えた弓の矢を撃ち始めた。

 平原狼の走るスピードが速いため10匹ぐらいは辿り着きそうだ。

 魔弾銃を連射するのは日本人の男子なら却って簡単かもしれない。有名な拳の達人の掛け声を真似ればよいのだ。例の「あったったったったっ……」の要領だ。

 俺は秒間3,4発ぐらいの連射に切り替えて、数秒で残りの平原狼を片付けた。



 ジュディアスとハヤテは構えていた弓を背中に戻した。

「いやー。リオンくん。大した腕だね。特に最後のは凄かった。あんな撃ち方が出来るなんて聞いたことが無いよ」

 教授が褒めながら近づいてきた。

「まぁ、なんとか及第点ってところかな。初めてにしては上手だったわよ」

 マリアが近づいて来て褒めているのかけなしているのか判断に悩む評価を下した。

「さて、それでは出発しよう。皆、馬車に乗りたまえ」

 教授が号令すると、ジュディアス達は馬に、俺達は馬車に乗り込んで何事もなかったかのように出発した。



 空が夕焼けで染まった頃、俺達は街道を逸れて馬車を止め、全員で野営の準備を始めた。

 教授が用意したテントはマジックアイテムで、簡単に組み立てることができた。

 10個の個室とトイレと風呂が完備されたテントの小屋が2つと屋根だけのテント。屋根だけのテントの下にテーブルと椅子が並べられて、皆がくつろげるようにしてある。

 中央に屋根だけのテント、左右にテントの小屋を設置し、右側を男性用テント、左側を女性用テントにした。

 教授が連れてきたエルフ族の夫婦が夕食を調理し、全員で食事をした。キャンプ地はマリアが魔法のバリアを張り巡らしたので見張りの必要もない。

「リオンくん。平原狼を倒した魔弾銃を見せて貰えないか?」

 食後のお茶を飲んでいるとマルコムが話しかけてきた。マリアを見ると頷いたので、俺はウェストバックから魔弾銃を取り出してマルコムに渡した。

「その魔弾銃はリオンくんに同調されているから、リオンくんでないと撃てないよ。リオンくんは手元にいつでも呼び出せるから、盗難の心配もいらないはずだ。

 リオンくんが死ねば魔弾銃は同調前の状態に戻るがね。それでも、魔弾銃は使い手を選ぶそうだよ。リオンくんを殺しても魔弾銃が使い手として認めてくれないと使えないよ。

 それに魔法の魔弾と同じで魔法の抵抗力の高い魔獣には効果が無いよ。ドラゴンや鬼人、魔界の魔人には魔法が効かないからね。

 魔法攻撃を防ぐ魔法のバリアで対抗できるけど、間に合うようにバリアを貼るのは難しだろうね。それよりも、魔法攻撃を防ぐ魔法の鎧を着た方が確実に防げるだろう」

 ワインを飲んでくつろいでいた教授がマルコムに説明した。

「王族が神から貰った魔弾銃を持っているそうね。マルコは見たことないの?」

 マルコムから魔弾銃を取り上げて構えていたジュディアスがマルコムに聞いた。

「王家の宝物だからね。陛下は護身用に常に身につけているそうだけど、僕でも実物は見たことないよ」

「ずっと前に、マリアくんに見せて貰ったことがあるが、実際に使われたのを見たのは僕も初めてだよ」

「私は見たのも初めてだわ」

 マーガレットが言うと、ジュディアスに手を差し出して魔弾銃を受け取った。

「結構、重いのね。構えるだけで腕が震えるわ」

 マーガレットは片手で構えてから感想を言った。

「リオンくんが構えていたように、腰を落として両手で構えれば良いのよ」

 マリアはマーガレットから魔弾銃を受け取って、両手で構えて見せた。そして、俺に魔弾銃を返してくれた。俺は魔弾銃をウェストバックに入れた。

「そうだ、魔弾銃のことは誰にも言わないように頼むよ」

「あら、リオンくんが使えばすぐにばれるわ。無理に秘密にしなくても良いわよ」

 マリアが教授の命令に反対した。確かにいざと言うときに使わないのでは武器の意味が無いが、自分から宣伝することでもないだろう。

「確かに、マリアくんの言う通りだが、わざわざ宣伝することでもないよ。皆、言いふらさないように頼むよ」

 教授が俺の気持ちを読んだかのように皆に頼んだ。

「分かりました」

 マルコムが教授に答えた。ジュディアス達も分かったと言う印に頷いて見せた。

「モントールまで街道を通るから大した魔獣は出ないからね、次に魔獣が襲ってきてもリオンくんは馬車の中で大人しくしてなさい。ジュディアスくん達に任せておけば大丈夫だよ。少なくとも魔弾銃を使う必要はないからね」

「分かりました」

 スターレン渓谷にはモントールを経由して行く予定になっている。モントールは地球の地中海によく似た地形の海に面した都市で海路と陸路の両方の交易で栄えている商業都市だ。

 モントールまで4泊5日、スターレン渓谷はモントールから馬車で1泊2日の距離にある。

「モントール近辺には盗賊が多い、特にあの「赤衣の盗賊団」が出没すると噂になってる」

 ウォルフ族のハヤテが警告した。

「赤衣の盗賊団って何?」

 マーガレットがハヤテに聞いた。

「赤目の魔女と竜殺しが率いる盗賊団だ」

 マーガレットにハヤテが答えた。俺は嫌な予感がした。2人のことを聞きたかったが、聞いたら確実に遭遇することになると確信めいた予感がした。

「赤目の魔女と竜殺しって何なの?」

 マーガレットがあっけなく聞いた。俺はマーガレットの口を塞ぎたかったが後の祭りだ。

「赤目で赤毛の女性魔術師と竜殺しの称号を持った戦士だ。2人とも人間の上位種だと言われている。赤目の魔女の名前はザザ・レッドロック。実力は特級魔術師並みだ。竜殺しの名前はアルフレッド・オーガスタ。竜殺しの称号は本物らしい。2人とも王国が指定した賞金首だ。討伐に向った100名の騎士団が2人に殲滅させられたと言う噂がある」

 ジュディアスがマルコムを見ながら説明した。

 これで盗賊団と遭遇することが確実になった思った。魔獣を殺すことには慣れたが、まだ人を殺したことは無い。人を殺すことを覚悟した方が良いだろう。

「名前で分かる通り、ザザ・レッドロックは腹違いの姉だよ。家族の縁は切られている。襲ってきたら遠慮なく殺して良いよ。爺さんから家族に正式に命令が出てるよ。見つけたら必ず殺せ、ロッドロック家の恥だとね」

 マルコムが辛そうな顔でジュディアスに答えた。


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