9話
マリアの案内で魔術師学院の敷地の中に入った。
街の中にさらに小さな街が作られているかのようで、敷地に入ると雰囲気が変った。
マリアの説明では、学院内には誰でも自由に入れるそうだ。正門は日が暮れる頃に閉められるのだが、正門の横に出入り口があるので夜でも出入りが可能らしい。
敷地内の殆どの人が魔術師学院の制服を着ており、冒険者の格好をした俺は珍しいらしい。まるで、珍獣でも見るかのように好奇の目で見られた。マリアも注目を浴びてしまったようで、俺はマリアに申し訳ない気持ちになった。
目的地の研究棟は学院の奥に建てられており、学院を横断した。途中、マリアが学院の建物の説明をしてくれたので、かなりの距離を歩いてもさほど苦にならなかった。
マリアに連れられて研究棟に入り、地下に降りた奥の厳重に封印された扉の前に来た。
マリアは魔法の封印を解き、鍵で錠前を解除して扉を開け、俺を部屋の中へ誘導した。
部屋の中央に測定装置と思われる装置が置かれていた。
部屋自体は中世風なのだが中央に置かれた装置はシンプルな構造なのに遥かに進んだ未来の装置のように見えて、物凄く場違いな印象を受けた。
「これが測定装置よ。中央に椅子があるからそこに座って頂戴、邪魔な荷物はその辺に置けば良いわ」
俺はマリアの指示通りに背中に担いだリュックと腰のロングソードを床に置いて、装置の中央にある椅子に登って座った。
マリアは装置に接続されている操作端末の椅子に座って装置を起動した。装置に明かりが次々と灯り、微かな振動音が聞こえだした。
俺がロードした基礎知識には魔法に関する膨大な知識が含まれている。俺が座った魔力測定装置が単純に魔力を測定するだけの装置ではないことが分かった。
「マリアさん。この装置は単純な魔力測定装置じゃないですよね。何を測定するんですか?」
「これは最新式の魔力測定装置よ。魔力と属性を同時に測定できるの。1分で終わるから、しゃべらないでじっとしてて頂戴」
俺は言われた通り、黙って動かないようにした。成る程、属性を測定する装置だと言うのなら納得だ。しかもたったの1分で測定できると言うのなら、マリアの言う通り最新式の装置なんだろう。
「終わったわ。椅子から降りても大丈夫よ」
1分よりも長く感じたが、俺は黙って椅子から降りた。
「装置を停止するから、ちょっと待ってね、私の研究室に行くから、置いた荷物を回収して」
マリアは俺に説明すると操作端末の操作を続けた。俺は言われた通り、リュックとロングソードを身につけた。
装置の明かりが消え、動作音も消えた。装置が停止したのだろう。
「それじゃ、行きましょう」
マリアは俺に声を掛けると部屋を出た。俺が外に出るとマリアは元通りに鍵をして魔法の封印を復活させた。
「結果はどうでした?」
「そうね、ギルドに登録されていたデータより数値が増えてたわよ。私の研究室に行ったら見せてあげるわ。行きましょう」
マリアが通路の先に向かって歩き出したので俺はアリアの後を追った。
マリアの案内でマリアの研究室に入った。
入ってすぐの部屋は学校の教室の半分ぐらいの広さがある。片方の壁に端末の机が6個分並んでいる。それぞれが個室のように仕切られていた。
部屋の中央に大きな作業机と椅子が左右に6脚。移動式の黒板のような立て板に設置された60インチぐらいの液晶ディスプレイ。
部屋の奥にさらに部屋があるようで、奥に入るためのドアが均等に3個並んでいた。
後で分かったのだが、向かって右がマリアさんの個室、つまり、導師用の執務室。真ん中が台所兼倉庫。左は助手用の小部屋が6個分並んでいる
「荷物を適当に置いて、作業机の上にでも床でもどこでも良いわよ。先に測定結果を見せるから、椅子に座って頂戴」
俺はマリアに言われた通り、机の上に荷物を置いて椅子に座った。マリアは移動式のディスプレイを見やすい位置へ移動させ、協会の腕輪をセットしてディスプレイに情報を表示した。
「左がギルドに登録されていたデータ、右が今回測定した結果よ。見ての通り、約10%ぐらい増えてるわね。
ギルドに登録されていたデータの測定が6ヶ月前で、あなたの年齢が16歳だとしても増加率が高すぎるわ。
地下迷宮で相当無茶をしたんじゃないかしら」
マリアが呆れた顔で俺を見た。俺はビクッとした。
「いくら若いと言っても、無理しない方がいいわよ」
マリアはディスプレイに別のデータを表示した。
「これはあなたの各属性の魔法力よ。高い水準で全ての属性を網羅してるわ」
マリアは俺のデータを左に移動させて、右側に別のデータを表示した。
「これが私のデータよ。そして、これが私の魔力数値。あなたの数値の半分ぐらいかな」
マリアの魔力測定データもギルドのデータベースに登録されている。昨日、協会のネットワークで検索して見た覚えがある。
「知ってるとは思うけど、一応、個人データにはセキュリティが掛かっているから、普通は見れないのよ」
何気にマリアが爆弾発言をした。俺はすぐにアリスに確認した。
「マリアさんはどうやって僕のデータを手に入れたんですか?」
「本当は秘密なんだけど、誰にも言わないでね。
実は特殊なアプリケーションが存在していてね。そのアプリケーションを使うと個人情報が見れるのよ。一部の関係者では有名な話だから、アプリケーションの存在を知っている人は意外と多いかもしれないわね。でも、アプリケーションを持っている人は限られるわ」
アリスに確認すると俺のIDには最上位の権限が付いているので、どんな情報でも参照可能で変更も自由にできるらしい。
「なんだかハッカーツールみたいですね」
「まぁね」
マリアはディスプレイのデータを消して、協会の腕輪を外して自分の左腕に着けた。
「それじゃ、助手の登録をするから、魔術師ギルドのカードと特級魔術師資格のカードを貸して頂戴。冒険者ギルドのカードでも良いわよ」
俺はウェストバックからカードを出してマリアに渡した。
「10分ぐらいで終わると思うから、ちょっと待っててね」
マリアは俺はカードを持って奥の部屋に入って行った。
予告通り10分ぐらいで小箱を抱えたマリアが戻ってきた。
「学院のカードと制服は明日の朝になるわ。カードを返すわね」
マリアは箱を作業机の上に置いてカードを差し出した。俺はカードを受け取ってウェストバックに入れた。
「それから、これを渡すわ。助手になってくれたお礼よ。助手を辞めたら返して貰うけどね」
マリアが箱を俺の方に押した。
「何ですか?」
「開ければ分かるわ」
俺は箱の蓋を開けた。黒色のハンドガン型の魔弾銃が入っていた。
「魔弾銃よ。一緒に入っているカードが所有権と使用許可証。あなたの名前を登録しておいたわ。申し訳ないけど助手を辞める時は必ず返して」
ショットガンを片手で持てるように短くしたようなデザイン。無骨で銃身が長く銃口がかなり太い。取り出して右手で構えると、コアに魔力のラインが繋がって俺と同調した。
「あら、使い方を知っているようね」
「えぇ、知っています」
「それなら問題ないわ。許可証があるから自由に使えるけど、あまり見せびらかさないでね」
「分かりました」
俺はマリアに返事をしてからウェストバックに魔弾銃とカードを入れた。
「それじゃ、あなたを教授に紹介するわ。一緒に来て」
俺はマリアの後に付いてマリアの研究室を出た。
「こんにちは、教授はいる?」
マリアはノックも無しに研究室に入ると声高に呼んだ。俺はマリアに続いて研究室の中に入った。
部屋の様子はマリアの研究室と殆ど同じで、作業用机には2人の男女が座っていた。
「おや、マリアくんじゃないか。久しぶりだね」
向かって右側の中央に座っていた男性が立ち上がってマリアに答えた。
身長は190cmぐらいで細身。金髪の長髪に尖った耳が突き出ている。緑色の目。人間離れした妖精のような整った顔だち。放出している魔力が並ではないところを見ると、ハイエルフじゃないかと思う。20歳ぐらいに見えるが、寿命の無いハイエルフなら見た目で判断するのは間違っているだろう。
濃紺の魔術師のロープを着ている。
「マリアさん。こんにちは」
男性の隣に座っていた女性も立ち上がってマリアに挨拶した。
身長が175cmぐらいの長身の女性だ。赤い目で尖がった耳が赤毛の頭から突き出ている。男性と同じハイエルフ族のようだ。細身で腰が細いが凶悪な胸がはみ出しそうに見える。世界トップモデル並みのスタイルの持ち主だ。マリアとは色違いの制服を着ているが、こちらの方がスカートが短く、色は明るい緑。
「私の助手を紹介するわ。リオン・ウォート。さっき助手に登録したばかりよ。リオンは学院に来たのが今日が初めてだから、面倒を見て貰えると嬉しいわ」
マリアは俺を横に立たせて2人に紹介した。
「驚いたな、マリアの助手だって、……どうして助手なんだね。私が覚えている限りマリアには助手はいなかったはずだ。それに、人間族の少年のようだが、何処で見つけたんだい? マリアが助手にするぐらいならその少年は特別なんだろう。確かに不思議な雰囲気があるけど、何処が特別なんだい?」
男性が近づいて俺を見ながらマリアに聞いた。かなり興奮しているようだ。
「教授、落ち着いてください。いつもの教授らしくないですよ」
男性の隣に座っていた女性が立ち上がって近づいてきた。
「リオンのことは秘密よ。それより話があるんだけど、時間の方は大丈夫かしら?」
マリアが含み笑いをしながら、教授と呼ばれた男性に答えた。
「あぁ、特に急ぎの用事はないから大丈夫だよ」
教授は俺を見ながら答えた。
「リオンくん。もう分かったと思うけど、こちらが教授よ。マーリン・トワイライト導師、考古学部門の部長さん」
マリアが教授を紹介してくれた。
「僕がマーリン・トワイライトだ。教授と呼びたまえ」
教授は俺に手を差し出して名乗った。
「リオン・ウォートです。よろしくお願いします」
俺は教授の右手を握り返して自己紹介をした。
「そちらは教授の助手で、マーガレットさんよ」
「助手のマーガレット・アマデウスです。マーガレットと呼んでね」
マリアが紹介するとマーガレットは教授を押しのけて俺に手を差し出して微笑んだ。
「リオン・ウォートです。よろしくお願いします」
俺は教授と同様に右手を握り返して自己紹介をした。マリアほどではないが、とても魅力的な女性だ。
「リオンくんの輝きは凄いわ。うっとりしちゃう」
マーガレットが言葉通り、うっとりした表情で呟いた。物凄く色っぽい。
「長くなるから、テーブルに座って話しましょう」
マーガレットは魔力が目に見えるのだろう。俺がマーガレットに質問しようとしたら、マリアが割り込むように言ってから俺の腕を取った。
マリアは教授が座っていた椅子とは反対側の椅子に向かったので、腕を取られた俺もマリアの後に続いた。マリアが一番前の椅子に座ったので、俺はその隣の椅子に座った。
教授とマーガレットは座っていた椅子に戻り、教授は椅子に座ったが、マーガレットは「お茶を入れてくるわ」と言って奥の部屋に入った。
マリアが何処からともなく書類の束を出して教授の方に置いた。
「まずは、これを確認して頂戴。これを見れば大体分かると思うわ」
教授はテーブルに乗り出して書類の束を取った。
「これは、スターレン渓谷の遺跡の調査計画だね」
書類をめくっていた教授が顔を上げてマリアに言った。
「えぇ、そうよ。内容は前に見せた時と変わってないわ。最後のページを確認して頂戴」
教授は書類をめくって最後のページを見た。
「ほう。国王のサインが貰えたんだね……。予想通り、王国の支援も無しだね」
教授は書類を机の上に置いた。マーガレットがお茶のカップが載ったお盆を持って戻ってきた。全員にカップを配ると教授の隣に座った。
「マーガレットくん。例のスターレン渓谷の遺跡の調査計画に国王のサインが貰えたそうだよ」
教授が書類の最後のページを見せながらマーガレットに説明した。
「予想通り、王国の援助も無しだけどね」
「あら、予定通りですね。マリアさん。おめでとう」
「ありがとう」
「分かった。リオンくんは特級魔術師なのね。それでマリアさんは助手にしたんだわ」
マーガレットが手を打って教授に嬉しそうな顔を向けて言った。
「何だって!」
教授が吃驚して大声を出した。
「教授は見えないから仕方ないけど、リオンくんの輝きは凄いわよ。マリアさんよりも眩しいわ。マリアさんよりも眩しい人なんて初めて見たわ」
「マーガレット、本当か?」
「教授、私が嘘を言っていると思うの?」
マーガレットが怒った顔で教授に言った。
「あっ、いや、すまん。勿論、疑ってないよ……。しかし、不思議な雰囲気だとは思ったが、そこまで実力があるとは思えないね。16歳ぐらいの人間族の少年にしか見えない。ひょっとして人間に似てるけど違う種族じゃないのか?」
教授が俺を見ながら言った。
「僕は平凡な人間ですよ」
俺は思わず教授に答えていた。
「平凡な人間が特級魔術師のはずがないじゃないか。黒髪の上位種の話は聞いたことが無いし、一体、きみは何者なんだね?」
教授が真剣な顔つきで俺に聞いた。
「それよりも、教授はどうします? 少なくとも私はリオンとスターレン渓谷に行くつもりですけど、一緒に行く?」
マリアが教授の追求を断ち切るかのように教授に聞いた。
「あぁ、勿論、調査に協力するよ。最初から協力するつもりだったからね」
「ありがとう」
「何、大したことではないさ。直ぐに護衛の約束をした彼女達に連絡するよ。出発の予定日は彼女達次第だからね。予定が分かったら知らせるよ」
「分かったわ」
「それで、正直なところ、封印が解ける可能性はあるのかね?」
「勿論よ。かなり期待できると思うわ。ねぇ、マーガレット」
「えぇ、勿論です。リオンくんならどんな事でも出来そうですね」
「解除する魔方陣の術式は分かっているわ。リオンと私の魔法曲線の相性も良さそうだから、リオンと協力すれば、解除魔法を発動できるわ」
「マリアくんがそこまで言うのなら信じるよ」
「ところで、さっきから何の話なのかさっぱり分からないのですが、説明して貰えませんか?」
俺は話題が途切れたタイミングを見計らって切り出した。
マリアが吃驚した顔で俺を見た。
「マリアくん。リオンくんには説明も無しで助手にしたのかね」
教授が呆れた顔をしてマリアを見た。
「ごめんなさい。遺跡の説明はしてなかったわ」
マリアが教授に謝った。マーガレットがクスクスと笑っている。
「僕に謝っても仕方がないよ。リオンくんはスターレン渓谷の遺跡のことを知ってるかね」
「いいえ。知りません」
「スターレン渓谷の遺跡は神の遺産が眠っていると言われている遺跡の1つだよ」
「神の遺産ですか?」
「まさか、神の遺産のことを知らないのかね」
教授が呆れた顔で聞いた。神の遺産と言うのは世間一般では常識のようだ。俺はとっさにマリアに話した身の上話で誤魔化すことにした。
「はい。ずっと森の奥で暮らしていたので、世間のことをあまり知らないんです」
「ほぉ~、森の奥ねぇ……。ひょっとして神のことも、教会のことも知らないのかね?」
「はい。迷宮都市で神官の冒険者を見たことがありますが、話したことは無いです」
「まぁ、面白い。教会のことも知らないなんて、筋金入りの世間知らずだわ」
マーガレットが面白そうに笑った。
「リオンくんがどんな生活をしてきたのか、詳しく聞きたいところだが、それは後で聞くことにしよう、……。
そうだね。最初から説明した方が良いだろう。リオンくんは神について何か知ってるかね?」
「いいえ。何も知りません」
「ふむ。これから話す内容はエルフ族の常識だよ。教会や人間の国では違う話が信じられている。僕から言わせれば、人間族で一般に信じられている話は教会や王族が自分の都合の良いように捻じ曲げた話さ。
その点は留意してくれ、まぁ、後で図書館で調べれば良いよ。学院の図書館は世界一の規模を誇っているからね。
さて、今から2万年前に、神がこの世界にやってきたそうだ。私の祖母が神から直接聞いた話だから間違いないと思うよ。
神の名前はダンテ・ファンドール。ファンドール一族の最後の生き残りで、神の種族は上帝一族と名乗っていたそうだ。ファンドール一族以外に上帝一族が居るらしいが詳しい話は聞いていない。祖母は神も知らないのだろうと言っていたよ。
神がこの世界を見つけた時、古代文明、あるいは、前文明と呼んでいる文明が完全に滅んだ後だったらしい。
世界は虫や植物でさえも生きられないほど荒廃していたが、神が生物が生きられるように大改造を行なった。
世界を管理するために神聖協会と呼ぶシステムを作り、最初に世界樹とエルフ族をこの世界に移住させた。今から7千年前だ。
6千年前に獣人族、エルモ族、ヴァンモス族など人間種族以外の種族を移住させ、最後に人間種族を移住させた。
そして、今から千年ほど前に神がこの世界から居なくなった。どうやら戦いに負けたらしいのだが、詳しいことは何も分かってない。
神は自分の後継者のために、遺産を残したと言われている。全ての遺産を手にした者が神の後継者になれるらしい。
神の遺産があると言われた遺跡が今までに20個ほど見つかっていて、15個ほどは偽者だと分かっている。
色々な説があるので正確な個数は誰にも言えないし、神の遺産がどのような物なのか、そして、正確な個数も分かっていない。
スターレン渓谷の遺跡は神の遺跡があると言われている最有力候補の遺跡だよ。最深部に強力な魔法で封印された扉がある。
勿論、各国の王族や統一教会、かく言う我々の魔術師学院も神の遺跡を血眼になって探している。
何せ、神の後継者になれるんだからね。特に人間は誰もが神になりたがっていると言えるんじゃないかな。スターレン渓谷の遺跡には様々な者が封印を解こうと挑戦してきたが、今のところ誰にも破られていないし、記録によると100年近くも放置されたままだ。
マリアくんは、君がこの封印を解くことができると信じているようだがね。仮に封印を解いたとすると、その後が大変だろうね。特に教会の動きには注意した方が良いだろう。
古代文明の遺品の殆どを教会が確保して隠蔽していると言う噂だよ。実際に教会は高い技術力を持ってるからねぇ、油断できない。
それに、裏で人間の王族を管理している。まぁ、僕に言わせれば、信仰の力を使って人間族を支配しているようにしか見えないがね。
あぁ、このことは内密に頼むよ。教会の信者に限らず、人間族には話さないでくれ、特に教会関係者に聞かれたら大変なことになる。君も気をつけたまえ」
教授はカップを取り上げてお茶を飲んだ。
「なんだか大変そうですね」
俺は思わず感想を言った。
「まぁ、他人事みたいな言い方ね。リオンくんが封印を解くのよ」
マーガレットが笑いながら俺に言った。
「僕ですか」
「大丈夫よ。後で封印の魔方陣のことを詳しく説明するわ。勿論、封印を解くための魔法陣もね。安心して任せて」
マリアが笑顔で俺に言った。マリアに笑顔を向けられると断ることができなくなる。そう言えば、初めから封印を解く約束で雇われたことを思い出した。
「分かりました。それで、スターレン渓谷はどんな場所なんですか?」
「スターレン渓谷の遺跡は10階層のダンジョンだよ。その最下層に封印された扉がある。古代文明の軍事施設だったらしくて、古代文明の遺品が随分と見つかったらしいが、かなり昔のことで、今では遺品の欠片も残っていないがね。
王国の管理下に置かれていて、入口は騎士団の砦が建てられている。入るためには王国の許可が必要だ。それに100年ぐらい放置されたままだから、ダンジョンには魔獣が溢れているはずだ」
「魔獣ですか?」
「何、心配は不要だよ。そのためにトップクラスの冒険者を雇うことになっている。すでに約束を取り付けてあるから、連絡すれば来てくれるはずだ」
「それなら、僕の役割は封印の解除だけと言うことですね」
「あら、折角、魔弾銃を渡したのよ。ダンジョンの掃除はリオンくんにも手伝って貰うわよ」
マリアがにこやかな顔で俺に宣言した。
「ほぉー。あの魔弾銃をリオンくんに渡したのかね」
「えぇ、助手を辞める時は返して貰う約束でね」
「成程、マリアくんがそこまで信頼しているとは、余程、リオン君は特別なんだねぇ」
「まぁね」
マリアが教授に向ってうふふと含み笑いをした。なんだか嫌な予感がする。背中がぞくりとしたような気がした。
「この調査は3年も前からマリアさんが計画してたのよ。学院からも国王からも許可が出たし、予想通り支援は一切無し。調査許可の条件のところに支援は無いかわりに口出しもしないと明記してあるものね。
何か見つけても発見者の物よ。学院も王国も口出しできないはずだわ」
マーガレットが俺に説明した。
「そうは言っても油断は禁物だよ。教会が割り込んでくるのは必須だからね。まぁ、全ては封印が解けてからの話だがね」
教授がみんなに警告した。マーガレットとマリアは教授に頷いている。
「さて、それではリオンくんのことを教えて貰いたいのだが、リオンくんは森の奥で暮らしていたと言っていたが、いつまで森にいたのかね」
俺は以前にでっち上げた身の上話をさらに膨らませて教授に説明した。
暫く教授達と話た後、明日の朝の9:00に研究棟の入口でマリアと待ち合わせる約束をして学院を出た。
学院都市で適当な宿屋を探して泊まった。