プロローグ
「ゴホッ、ゴホッ、……」
広くて真っ白で清潔な部屋の中央に、ただ一つのベッドが置かれ、ベッドの上の20代の若者が咳きの発作に襲われていた。
若者は肺病を患った病人のようにやせ細り、青白い顔で弱々しく苦しそうに咳きをしている。
観音菩薩を思わせる若い美女が若者の背をまるで恋人のようなしぐさで優しく擦った。
暫くすると、咳の発作が納まった若者は仰向けに横になった。すぐに若い美女がベッドの掛け布団を整えた。
「ミロク。そろそろ時間のようだ」
若者は注意していても聞き取れないほど小さな掠れた声を出した。
「はい。マスター」
「命令した通りのタイミングで、「迷宮都市の冒険者達」を配布してくれ。このゲームがキーになるだろう」
「はい。マスター」
「再生した俺なら、きっと生き延びることができる」
「しかし、マスター。再生するとは言っても、マスターの人格は完全に消滅します。新しいマスターは魂が同じでも、まったくの別人になるでしょう」
「あの高次元領域では、流石に人格を維持できないよ。人格が消滅するのは防ぎようがない。しかし、新たに生まれた人格はあの世界の次元位相がベースになる。
ソウルパワーが9倍に増幅されるはずだ。それに、基本的な人格は変わらない。きっと、新しいマスターが気に入るさ」
「しかし、私にとっては、あなたとは別人であることに変わりはありません」
「そうだな、……だが、諦めてもらうしかない。お前を残して行くことになるが、後を頼むぞ」
若者は眠ったかのように、静かに目を閉じた。
「騎士王物語」のプロローグを流用して、少しだけ手を加えました。
現時点ではストーリの終わりが不確定なので、ストーリが固まったら大幅に変更する可能性があります。