目覚め
長くなってしまいました。
今日で1週間が過ぎようとしていた。
この日よりバージルに代わりラーズが兵器開発部門の最高責任者【キング】となる。
そして今日と言う日はバージル達にとって大きな意味を持つ日になった。
何かが終わり、 何かが始まる運命とも言えるこの1日が…。
部屋に閉じ込められたバージル。
ベッド以外は何も置かれていないが牢屋と言う訳ではない。
ドアの前には2名の兵士が微動だにする事なくきちんと立っている。
リオネを連れて行かれ、 レプリロイドに近寄れなくなった今
彼は不安で溜まらなかった。
だがそのまま腐っていないのがバージル博士。
自分が今出来る事をとことん追及する彼の性格が状況を良い方向へと導く事になった。
外の兵士に怪しまれない程度に内ポケットに忍ばせていたノートを取り出し
密かに準備を整えていたのだった。
準備とはつまり人格の投与。
リオネのノートを手にした日より徹夜とも言える毎日を送っていたバージルは
たった今それを完成させたのだった。
後はこのプログラムをどうやって自分のレプリロイドに組み込むのか…。
ここから遠隔操作で実行する事は可能だが、 ガイアス達によって
別の部屋へ移されているかもしれないと推測を立てるとその選択は消去せざるを得ない。
何故ならあの部屋のカプセルに入っていなければ意味がないからだ。
しかし他に思い浮かぶものがなかった。
「(どうすればいいんだ……。 時間が…ないと言うのに…)」
そんな事を悩んでいると外の兵士の話し声が耳に入る。
「あ、 貴方はガーランド隊長!? 何故この様な所へ…?」
「この部屋にバージル博士が監禁されていると聞いたのだが、 博士は中にいるのか?」
「はっ! おい、 開けろ」
「了解!」
兵士の1人がロックを解除する。
ドアが開き、 2人の兵士はそれぞれ横にスッと身を動かす。
「ご苦労…」
と一言ガーランドが告げると次の瞬間、 彼は兵士達に殴り掛かったのだった。
廊下に2人の倒れる音が静かに響く。
そしてバージルの元へと歩み寄って行くと片膝をついて彼にこう言葉をかける。
「遅れて申し訳ありません、 博士」
「あ、 あんた……確か…」
「はい。 以前貴方に命を救われた者でございます」
「そうか。 あんたティエリスの兵士だったのか。
それで何故わしを助ける? あんたの主人はガイアスだろう?
こんな事をしたらあんた…」
「自分は、 受けた恩は恩を持って返すものだと思っております。
ガイアス殿の部下である前に戦士として、 男としてここへ参上致しました。
博士が何故この様な待遇を受けておられるか自分は知りません。
知りたくありません…自分は、 貴方の力になりたいだけです」
「あんたのその気持ちに甘えさせてもらうよ。
悪いが今、 時間がないんだ」
「分かりました自分が先導します」
「まずは、 わしのレプリロイドの部屋へ」
警戒しながらガーランドが先を、 その後ろをバージルが歩く。
部隊の隊長と言うだけあり兵士の配置を頭に入れているガーランドは
誰にも見つかる事なく目的の部屋へ入る事に成功した。
カプセルの中にはレプリロイドが6人、 いつもと同じ様に眠っている。
この事からまだガイアス達の手に渡っていないと安堵の表情を浮かべたバージルは
すぐにノートを机の端末に入れ、 データをそれぞれのレプリロイド達に送信する。
「………よし、 成功だ! 人格の種が上手く機能しておる!!」
「博士、 あまり長居はしない方が」
「うむ……。 あんたにお願いがあるんだが」
「自分に出来る事ならば…なんなりと」
「ここのレプリロイドをわしが今から言う場所へ運んで欲しいんだ。
6人とも全員…ここから運び出せるか?」
「ここからですか!?
……分かりました。 何とかしてみせます」
「わしはその間、 リオネを連れ戻す」
「貴方1人では危険です! 信頼できる部下が何人かいるのでその者に…」
「いや…1人でないと駄目なんだよ。 わしなら大丈夫。
その代わり、 こいつらを頼んだぞ」
「博士……それではこれをお持ちください」
ガーランドは腰に下げた銃を取り出し、 バージルに手渡した。
「LB90です。 強力なレーザータイプですが比較的扱いやすいのでもしもの時に…。
お嬢様はラーズ博士のラボにいます。 ガイアス殿も恐らくそこに…」
「悪いな…こんな老いぼれの為に………感謝するよ」
銃を両手で握るとバージルは辺りを警戒しながら部屋を出て行った。
ガーランドはカプセルからレプリロイドを1人抱えると彼も部屋を出る。
「(感謝などと…それはこっちの台詞ですよ。 博士)」
一方その頃、 ラーズのラボにいると言うリオネは
新型レプリロイドのさらなるバージョンアップに力を貸していたのだった。
それはバージルモデルに起きた異変を意図的に起こすと言うもの。
“魔力”の開花である。
何度も何度も出たアイデアをシミュレーションするが失敗に終わっていた。
「くそ…これも駄目なのか…」
「大体、 あれは偶然起こった事なんでしょ?
原因がわからないのにどうやって同じ現象を作るのよ。
あなたも科学者ならそれぐらいの事分からないの?」
「(う、 うるさい小娘ですね…)」
奥の椅子に足を組んで座っているガイアスが立ち上がって2人の元へと歩き出した。
「リオネ嬢、 偶然でも起きた事は事実です。
必ずまた起こせます。 例え何万分の1の確率でもね」
「そんなの不可能って言ってる様なものじゃない…。
何万分の1って…」
「いやそれ以上かもしれません。 どれだけ時間がかかってもいいのです。
さ、 少し休憩しましょう。 彼女の機嫌が悪いみたいですから」
フッと笑みを零しながらラーズに言ったガイアスは部屋から出ようとドアに向かう。
彼が前に来ると左右にドアが開いた。
そこにはなんと、 銃を構えるバージルの姿があったのだった。
「バ、 バージル博士!?」
「何処へ行くんだ? ガイアス」
バージルは銃口を目の前にいる男の頭に合わせる。
そしてそれに両手を上げ少しずつ後ろへと足を戻すガイアスの口が開く。
「ど、 どうやってあそこから…。
まさか……貴方が兵士を倒したとでも言うんですか…?」
「…リオネ、 こっちに来なさい…」
リオネは警戒しながらバージルの元へと向かう。
「ほ、 ほう…。 連れ戻しに来たと言う訳か…」
無事に腕に抱かれたリオネを確認するとバージルはもう1度ガイアスを睨んだ。
そしてそのまま構えながら片手でリオネに何かを渡した。
「今からそこに行きなさいリオネ」
バージルが渡した物は1枚のノートであった。
それには地図が描かれており、 その場所はガーランドにも教えた所でもあった。
「わかった。 おじいちゃんは?」
「………後で行くから」
「ほんと? ほんとにだよ!? 死んじゃダメなんだからね!」
「…大丈夫。 いいから早く行きなさい」
「うん…。 おじいちゃん絶対に来てよ!」
リオネは不安を残しつつも、 その場から走り去った。
それを確認したバージルが徐々にガイアスとの距離を縮めて行く。
ドアが左右から閉まるとバージルの口が開く。
「孫に何をさせてた?」
「ふ、 ふふ…少しお手伝いをしてもらっていたんですよ」
「お手伝い?」
構えながら辺りに目を配ったバージル。
「…愚かな事を……“アレ”が危険な物だと何で分からんのだ、 あんたは」
「貴方こそ素晴らしい物であるとどうして分からないんです?」
と、 2人が話している隙を見て身を隠していたラーズがドアに向かって走り出した。
バージルの視界に余裕で収まっている彼の逃げる姿に照準を合わせ、 言葉を飛ばす。
「止まらんと撃つぞ!!」
「ひ、 ひぃぃ! わ、 わ、 わかった…わかったから撃つな!!」
「横に並べ!」
言われる通りガイアスの隣に向かう臆病者のラーズ。
「私を殺すおつもりですか? バージル博士」
「………あんたはわしを殺そうとしただろ?」
「私の言う事を聞いて頂けなかったので、 つい…」
「レプリロイドの製造を中止するんだ。 今すぐに」
「いえ、 それは出来ません」
「だったらここを破壊してやるまでだ」
「あっはっはっは! たった1丁の銃でですか?」
皮肉の笑みで笑うガイアスにバージルは内ポケットから小さな球を取り出し、
それを彼等に見せる。
「…?」
「ふっふっふ。 これが何か分かるか?」
「ば、 爆弾!?」
「ラーズ博士の頭ではそれが限界だろうな。
……この球にはあるウィルスが詰まっておる。
これ1つでここのレプリロイドの機能を破壊出来る程のな」
「ななななんですと!?」
「なるほど…。 しかし使う対象をお間違いなのでは?
危険なのはバージルモデル、 博士のレプリロイドでしょう?」
「……それは」
バージルが少し目線を落とした隙を利用し、 ガイアスが近くに置かれてあった
レプリロイドのカプセルの開閉プレートに手を滑らせた。
スライド式の透明な扉が素早く開き、 中のレプリロイドの瞳がゆっくりと開く。
「し、 しまった! おのれぇぇ!!」
銃を構え直し、 ガイアスに向けて数発撃った。
油断していたバージルだったが人間の思考能力で考えると素早い判断である。
ただレプリロイドの処理能力はそれを遥かに凌ぐ性能を持っている為
ガイアスに放たれた弾は結果レプリロイドの体で受け止められる事となった。
「くそぉ…」
「ふっふっふ。 お忘れですか? 博士。
ここにいるレプリロイドは主人である私を護るように作られてあると言う事を…。
そして、 貴方は私を殺そうとした…これがどう言う事になるかお分かりですよね」
「………」
形勢が逆転する。
今まで静かに事の流れに身をひっそりと置いていたラーズの凍りついていた顔が
いきなり変わり、 罵る様な奇声を上げてバージルを笑い飛ばす。
「ひぇっひぇっひぇっひぇ!!
ガイアス殿に敵対行為を働く者は例外無くターゲットとなる…うひゃひゃひゃ」
「…く!!」
再度バージルはゆっくりと近づいて来るレプリロイドに向けて銃弾を撃ち込んだ。
見た目は人間と何ら変わりない姿をしているが相手は闘う為に作られた戦闘兵器なのだ。
例え人間の生体組織を破壊できるレーザー弾でも、 レプリロイドには全く効果がない。
その体に命中した弾はただ青く光を散らせているだけであった。
しかし攻撃手段が他にないバージルは、 ひたすら引き金を引く。
そしてバージルの元へとやって来ると左手を彼の首にかけ、 持ち上げた。
人間が行うそれとは明らかに力のかけ方が違い、 呼吸が出来るギリギリのラインに調整される。
何故レプリロイドがその様な行動を取ったのか。
それはガイアスが命じたからである。
「そうだ、 まだ殺すんじゃない」
「あが……が…ぁ…」
銃を持つだけの力が段々と無くなっていくと、 落としてしまった。
両腕を後ろに組んでレプリロイドの側に歩いて来るガイアスと
彼の後ろを金魚の糞の様に付きまといながらやって来るラーズ。
バージルは必死で力を振り絞るものの左手に持っていた球も ポロッ と落ちてしまい
転がって行くとそれがガイアスの足で止まった。
口元に軽い笑みを作りながらその球を拾い上げてバージルの目線まで持っていく。
「くっくっく。 これで貴方の企みもお終いと言う訳です。
バージルモデルは私が責任を持って管理するのでご心配なく。
それではごきげんよう。 ふふふ…もう会う事はないですがね…」
持った球を宙に投げながらガイアスは部屋を出て行った。
「ぐ…あ…が…ガイ…ア…」
「ひぇっひぇっひぇっ!! バージル博士。
これが何かお分かりですかな?」
白衣を着たラーズの左胸には黄金に輝く王冠のバッジが付けられている。
そこを引っ張りながら自慢げにバージルに見せるラーズは
優越感に浸りながら話を続けた。
「キングですよキング!! 私がここの最高責任者なんですよ!! くっくっく。
だからそれに相応しい格好をしなければいかなくなりまして~。
バージル博士、 私はどんなスーツが似合いますかね? ふっふっふっふっふ」
「…………ぁ……………ぅぐ…」
「あ~結構です。 それぐらい自分で選びますから…あっひゃっひゃっひゃ!!」
不気味に笑い上げるラーズはレプリロイドに軽く肩を ポンポン と叩いて
彼も部屋から出て行ってしまった。
それが合図かの様にレプリロイドが力を徐々に強くしていく。
「………が……ぁ…。
(リオネ……)」
今まで何とか堪えていたバージルであったが、 ついに力尽きてしまったのであった。
レプリロイドの瞳に活動が止まった老人の姿が映る。 スッと手を放して地面に落とす。
そこには首の骨が折れていた無残なバージルの姿が ぽつん と横たわっていた。
レプリロイドは一切表情を変える事もなく、 その死体を見ているのだった。
丁度その頃、 全員を運び終えたガーランドは目的の場所で何かの作業を行っていた。
リオネ同様彼もバージルからノートを手渡されていたのだが、
そこにはやるべき支持も一緒に書かれてあった。
ホログラムシステムにより文章ではなく実際にバージル博士が立体映像として映し出され、
知識が無いガーランドにも解るように丁寧に説明する姿があった。
ガーランドはそれに従って順番に事を運んでいく。
地図に描かれてある目的の場所は研究施設を出て10分とかからない所。
周りは森に囲まれているがこの辺りだけ木々が無く、 くり抜かれた様な形になっていた。
ここに宇宙船が1機と6つのレプリロイドの入ったカプセルが置かれてある。
そのカプセルに指示通りの細工を施していく。
「よし……これでいいはずだ。
後は打ち上げるだけだな…」
ガーランドが行っていた作業、 それはレプリロイドの入ったカプセルを
小型宇宙ポッドに作り変える作業であった。
予め基礎を組んでいたものをバージルの指示に従いそれを組み立てるだけであるので
全く知識が無いガーランドでも簡単に行えると言う訳なのだ。
最後の工程が終わり、 ホログラムシステムを終了させたガーランドは
ノートを手に持ち1つずつ宇宙の彼方に飛ばして行くのだった。
ただ行先は指定されていなかった。 何故なら目的地を設定すると
ガイアス達にすぐ発見されるであろうとバージルは考えていたからだ。
レプリロイドは生身に近い身体をしてはいるが闘う為に造られた人型戦闘兵器。
彼等は酸素が無い宇宙空間でも生存できるのだ。
自動的に何処かの星に向かう様には設定されてあるが6つとも違う設定で
ガイアスが簡単に見つける事の出来ない程の遥か彼方に設定されてある。
そのカプセルを順番に飛ばしていき、 残り1つとなった時
リオネが息を切らしながらガーランドの元へと辿り着いたのであった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「貴方は!? リオネお嬢様!!」
「はぁ…はぁ……。 だ、 誰…!?」
「自分は敵ではありません」
ガーランドは手を止め、 少し警戒する彼女に近寄ると追手がいないか周りを確認する。
その後バージルに頼まれた事を丁寧に説明していく。
「そうだ、 あたしも何かメッセージの様なものが…」
リオネは渡されたノートを取り出し、 地図の他に収録されてあったバージルのメッセージを
ホログラムシステムで再生してみた。
リオネよ、 お前がこれを見ていると言う事は
恐らくわしはもうこの世にはおらんだろう
そして無事に目的の場所へと辿り着いたと信じておる
今から言う事をしっかりと覚えておいておくれ
賢いお前ならすぐに理解出来るだろう…
“あいつ”は必ず息子達を追って見つけ出すと思うが
それよりも先にお前が見つけ出すのだ
そして必要なら機能を破壊して欲しい…
ウィルスについては別に収録してある お前の判断で決めておくれ
わしは…わしは…最後の最後まで息子達の命を絶つ事は出来んかった
子供のお前にこんな過酷な事を押しつけてしまい、 本当にすまないと思っているよ
だがお前の他に頼る者もおらん…
時間が無いのでここでメッセージを終わる
リオネよ…どうか…元…気…で…
「おじいちゃん!?」
ホログラムに歪みが生じ、 ここでシステムが終了された。
「自分も同じ様な事を“これ”で拝見致しました。
お嬢様…あの船にお乗り下さい。 すぐに追手が来ます」
「……うん。 あなたは?」
「この…最後の1つを打ち上げた後、 向かいます」
頷いたリオネは宇宙船へと向かう。 すると何処からともなく銃声が聞こえた。
振り返って声を飛ばすリオネの声をかき消す程の声で返事を返しながら
ガーランドは彼女に弾が当たらないように盾となる。
彼の瞳には続々と銃を構えた兵士達の群れが映っていた。
「何してるの!? 早く! 殺されちゃうよ!!」
「自分の事はいいので早く出発して下さい!
大丈夫です。 あの様な下級兵士にやられはしません!」
納得のいかないままリオネは船の中へと入ろうとするのだが…。
「こんな所にいましたか。 リオネ嬢」
「ガ、 ガイアス!!」
兵士達の後ろからゆっくりと姿を現したガイアス。
彼の隣には不気味に笑うラーズと1体のレプリロイドがいる。
それはバージルを殺したあのレプリロイドであった。
ガイアスの合図で横一列に並び、 構える兵士達。
ガーランドとリオネの2人は今身動きの取れない状況にあるのだ。
「貴方は…ガーランド隊長。 そんな所で何をしているんです?」
「………」
「なるほど…バージル博士とグルだったと言う訳ですか…。
まったく…」
一歩前に出たガイアスはガーランドの近くに置いてあるカプセルに目を止める。
「それは…バージルモデル。 そこに何故あるのです? 隊長」
「………」
「……答えられないですか…。 それとも言いたくないと言う事ですかね?
…まぁいいでしょう」
ガイアスは兵士の1人に指示を出し、 カプセルを銃で破壊させた。
「百戦錬磨で名が高いガーランド部隊…その隊長、
“ゼノス・ガーランド”の力量を知るいい機会です。
さぁ…そこのレプリロイドと闘って何分持ちますかね…ふっふっふ」
破壊された事により扉が開く。
中からゆっくりと出て来たレプリロイドはガイアスを見た後
ゼノスの方へ歩いていった。 その後ろから笑いながら指示を送るガイアス。
「あれは確か…Ⅵでしたか…。
Ⅵよ、 存分にお前の力を見せてやりなさい」
ゼノスが構えるが何も武器を持っていなかった。
彼は素手でレプリロイドと闘おうとしていたのだ
と、 今にも戦闘が始まろうとしていた時であった。
「嫌だね…」
ゼノスに近寄っていたレプリロイドがいきなり言葉を発した。
ここにいる一同、 皆耳を疑う光景であった。
そしてレプリロイドは振り返ってガイアスを睨むと、 ゆっくりと口元を吊り上がらせたのだ。
「わ、 わ、 わ、 笑った…。 れ、 れ、 れれレプリ、 ロロロイドが…」
「…動揺しすぎだろ、 お前」
口が上手く回らないラーズに対して フッ と笑みと一緒に言葉を漏らした。
しかし驚いているのは何も1人だけではない。 ガイアスも同じであった。
「…どうして……ただの…人形が勝手に」
Ⅵはゼノスの前に立つと戦闘態勢に入る。
「おい、 おっさん。 リオネを連れて一緒に脱出しろ」
「…私の事か?」
「他に誰がいるんだよ。 あいつらは俺が片づけてやるから」
「1人で…か?」
ゼノスは少年の様な姿のⅥに向かってそう言った。
Ⅵの容姿はリオネと同年代ぐらいであった為、
レプリロイドと言う事をすっかり彼は忘れていたのである。
「知ってるだろ? 俺はレプリロイドだ」
「……分かった」
ゼノスは前方のガイアス達を警戒しながらもリオネのいる辺りまで走り出した。
「お嬢様!! 今がチャンスです、 早く中へ!」
「で、 でも…彼を助けないと!!」
「分かっています。 でも今はここからの脱出を優先させて頂きます!」
リオネの手を引いて中へと入って行った。 扉がゆっくりと閉まる。
もちろんガイアスがそれを見過ごす訳がない。
彼は気持ちを切り替えて兵士達に命令を下したのだった。
「絶対にあれを飛ばさせるな!! 撃てぇ!!」
兵士達が一斉に宇宙船に攻撃を仕掛ける。
「そうはさせねぇ!」
Ⅵがいきなり兵士に向かって走り込んで行った。
「な!?
うぐぁぁ!!」
そして兵士の1人を一撃で簡単に倒すと、 周りの兵士達の狙う照準が次々とⅥに向く。
銃声の嵐。
しかしレプリロイドであるⅥにしてみれば、 まるで小石を投げられた様な感覚なのだ。
「いてててててててて……!
いってぇぇぇんだよぉぉぉ!!」
銃弾を受けながらも1人、 また1人と地面に倒していく。
全く歯が立たない兵士達は次第に恐怖し、 ガイアスの元へと後退する。
兵士の1人がガイアスの目の前まで戻って来るとその兵士を殴り飛ばす。
「役立たずめ…」
Ⅵがガイアスの前に立つ。
「ガイアス・コール」
次に隣で怖気づいているラーズに目を向ける。
「ラーズ・サリバン」
「き、 き、 きさ、 きさまは~!!
ななな、 な、 なにものだぁ~!?」
「へへへ、 知ってるだろう?
俺は…」
と、 言葉を並べる途中で足元に散らばった兵士の腰にあった武器を手に取ると
ニヤッと笑みを浮かべてラーズにこう言うのだった。
俺の名前は…
“LB90”だ…。