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ETERNAL SAGA Ⅱ   作者: 紫音
episode zero
4/12

失われし力

超巨大企業ティエリスの象徴とも言えるのが王冠のマーク。

兵士が扱う武器や防具から宇宙船、 一般人の使用する車などティエリス製の物には

全て王冠のマークが入っている。 これは創設者であるガイアス自らがデザインしたものであり

どの分野においても“頂点”に立つと言う事を目的としていた為と言われている。


そしてこの企業の最高傑作“魔導技術”は一般的にも取り入れられており

例えば携帯端末【ノート】は若い世代にも多く普及している。

従来まではメモリの容量限界がどうしても付きまとっていたこの問題を簡単に解決し

さらに自身の個人情報をホログラムシステムで再生する事が出来るようになった。


この事により自分の記憶をネットワーク上に残せるようになったのだ。

ホログラムシステムの登場により新たなサービスを立ち上げた会社も少なくは無い。

また医療でも魔導を取り入れる事により飛躍的な進歩を果たしている。



とある会議室にはガイアスを含めその様な分野のトップ達が集結していた。

大円卓を囲い、 中央に座るのはもちろんガイアス・コール。

彼の後ろには黄金色に輝く、 社の象徴でもある王冠が描かれた額が壁に掛けられてある。

数時間の会議を終えて解散すると会議室にやって来た人物がいた。


ラーズ・サリバンである。


すれ違う各分野のトップ達に へこへこ と挨拶を交わしながら

部屋の奥で鎮座しているガイアスへと足を運ぶ。



 「ガイアス殿は相変わらずお忙しそうで…ふっふっふ」


 「ラーズ博士。


 このエリアは“一般人”は立ち入り禁止ですよ」


 「おお! そうでしたそうでした! いやっはっはっは。


 まだバージル博士が“キングの称号”をお持ちでしたな」


 「1週間まであと数日あるのです。

 その間はバージル博士が貴方の上司…それは守って頂かないと困りますね」


 「ははは…申し訳ない」



ガイアスは椅子を回転させてバージルに背中を向けると

溜め息を軽く零し、 話を進める。



 「……それで、 何のご用で?」


 「あー、 はい…。


 例のレプリロイドについてなんですが…」


 「……問題でもありましたか?」


 「…この前に行った戦闘テストのデータを整理していたんですが

 少し気になる事がありまして…。



 



 いえね…レプリロイドの性質…と言うのか何と言うのか…。

 とにかくこれをご覧頂けますか?」



ラーズは懐からノートを取り出し、 ガイアスに手渡した。


 「闘っているのはバージルモデルのレプリロイドです」


 「……これは……





 


 エネルギーを吸い取ってる?」


 「いえ…そうじゃないんです。


 “ミスト”を取り込んでいるのですよ…ガイアス殿」


 「ミストを!?」


 「はい…活動不能になったミストを自分の身に取り込んだのです。


 こちらのデータを……失礼」



ラーズはガイアスの持ってるノートに横から触れてページを変えた。

すると何かを表すデータが表示される。



 「左側が戦闘前のレプリロイドのエネルギー値。


 


 そちらの右がミストを取り込んだ後のエネルギー値です。



 ほんの僅かですがエネルギーの上昇が見られます」


 「…ほう。 


 つまりあれですか…レプリロイドが強化されたと?」


 「いえ、 ただの強化ではありません……。


 ガイアス殿……これは“魔力”です」


 「!?」


 「このレプリロイドはミストを取り込み、 自らで魔力を作り上げているのです」


 「……………。









 遥か昔の人類は、 あらゆる現象を引き起こせる不思議な力があり


 その源となるのが魔力と言われています。


 それを擬似的に再現し、 現代のテクノロジーと融合させたものが魔導でした。






 失われたものが…まさか……」


 「早急に処分を決めてよかったですな……。


 この様な現象は偶然に起きたに過ぎんが、 それにしても

 バージル博士は一体何を考えておられるのか…。

 


 処分を早めると言うのも考えた方がよろしいかと…また何か変な…」



この様にラーズはガイアスに提案しているのだが返事が返って来ない。

話の途中でノートを持つ彼の手が震えていた事に気づいたラーズは

目線を顔へゆっくりと変えてみる。



 「…ラーズ博士…」


 「は!? はい…」


 「どうして処分を早める必要があるんです?」


 「え、 い、 いや…ですからそれは…」


 「くっくっくっくっく…ふっふっふっふふふふ…」


 「ガ、 ………ガイアス…殿…?」


 「素晴らしい!! 実に素晴らしいですよ!!


 古の時代より失われた力が、 今まさにここに在るんですからね!!」



狂った様に笑い声を上げるガイアスの顔を見る事すら出来ない小心者のラーズ。

ノートを持っている彼の手から視線を変える事が出来なく、 気配でその様子を探っていた。

ラーズはこの時よりガイアスと言う男の影の部分を知る事になったのだ。

彼は単純に背筋に冷たい物が流れる様な恐怖を味わった。



 「処分は取り消しです」


 「……」



ラーズは正直、 自分がキングの称号を持つ事に浮かれていた。

それは兵器開発部門において最高責任者となる最も高い位の称号だからだ。

それが無くなる、 またバージルの下で働かなくてはと思うと

複雑な気持ちに悩まされていた。 かと言って今のガイアスにどうこう言える根性はない。

その結果、 否定も肯定も出来ない無言となってしまったのだった。

しかしそんなラーズに救いの手が差し伸べられる。



 「ただ…。




 キングはこの前決めた通り、 ラーズ博士でいきます」


 「え!?


 そ、 そ、 それは…一体…」


 「バージル博士は真面目過ぎるんですよ。

 事実を知れば…私に食って掛かってくるのは目に見えてます。


 それに比べ貴方はとても我が社の為に尽くしてくれています。


 キングに相応しいと、 私は思いますけどね」


 「あ、 あ、 ありがとうございます~!!


 ティエリスの利益を生みだす為、 今後とも精進していく所存でございます!」


 「期待していますよ」


 「そ、 それでは…また何かあれば…」



ラーズが深く礼をする。 それにガイアスがにんまりとした笑みで答えた。

冷静を装いながら会議室を出て行くラーズの心の内は動揺で埋め尽くされていた。

ガイアスがどの様な表情で見送っているのか、 振り返る事も出来ない。

そしてドアが閉まり、 ここでやっと後ろを振り返る。



 「(ガイアス・コール……。


 まさかこれ程の狂人だったとは……)」



緊張していた手足が一気に解放されたラーズは少しふらつきながら

自分の個室へと帰っていったのだった。























数日後…。








今日もバージルは“あの部屋”にいた。

彼の後ろにはレプリロイドの入ったカプセルが並んでいる。

静か過ぎる部屋に1人、 彼は机に向かって無言で作業をしていたのだった。

バージルが取り組んでいるものはレプリロイドに人格を刷り込むというもの。

“誰か”の人格ではなく全く新しく自らで人格を作り上げると言う難題に取り組んでいた。


解決策は既にある。 リオネのノートに全て書かれているのだから。

バージルが難しそうな顔をしている理由は別にあった。


そう、 彼もレプリロイドの異変に気づいていたのだ。

“魔力”と言う未知なる力を生みだせると言う事に。

Ⅰ(ファースト)Ⅱ(セカンド)Ⅲ(サード)

Ⅳ(フォース)Ⅴ(フィフス)Ⅵ(シックス)

バージルモデルと呼ばれる6つのレプリロイド全てにその現象が見られた。


『魔力は破壊をもたらす危険なもの』であると何かの歴史書で知っていたバージルは

すぐに魔力を取り除く案を考える。 だがどの様な案も脳内で却下された。

ただ1つだけ、 その方法があるのだが…。



 「(それは出来ん…生まれた命を絶つ事だけは…)」



顔を振って真剣にもう1度考え直してみる。

そんなバージルの元に、 再び彼女が現れるのだった。

眉間にしわを作りいつも以上に悩んでいるその顔を見るや否や



 「ね、 ね、 ね、 ね! おじいちゃん!!


 これ見てぇ! じゃあ~ん」


 「リオネ…ここへ来たら駄目だと何回言えば…お前は…」



溜め息で言葉を吐くバージルへと関係無しに近寄ったリオネは

この前と同じく肩から下げた筒からノートを取り出した。

それを地面に置くと、 ノートから立体映像が映し出された。



 「…お前…これは……」


 「どう? 凄いでしょ~?


 えへへへ、 あたしが作ったんだよ!」



ホログラムシステム、 情報を立体で表示出来ると言うシステムを使って

リオネはある物を作った。


【白百合の花】


今は亡きバージルの妻、 ユリアが好きであった白い百合の花である。



 「今日、 おばあちゃんの命日でしょ?」


 「…お、 おぉ…! そうか…そう言えばそうだった…」


 「んもぅ! おじいちゃんが忘れてどうするのよ!!

 おばあちゃん天国で泣いてるよ」


 「そうか…。 今日があいつの…」


 「研究もいいけど、 たまにはおばあちゃんの事も思い出してあげないとダメだよ?」


 「そうだな…ふっふっふっふ。


 まさか孫のお前に説教される様になるとはな」



バージルが天井を見上げて感極まる表情でそれに浸っている間

リオネがふっと机のモニターに再生されている映像に目を向ける。



 「ねぇ……おじいちゃん。


 その銀色の光ってるもの何なの?」


 「ん……? あ、 あぁ…。



 リオネは“魔力”って聞いた事あるかい?」


 「うんもちろん! ずっと昔にいた人は魔力があって魔法が使えたんでしょ?」


 「そうだな。


 実はな…リオネ、 わしのレプリロイドはその魔力が生み出せるようになってしまったんだよ」


 「え、 じゃあ魔法が使えるの!?」


 「いや…今はごく小さな量だからそれは無理だろう」


 「でもすごぉい!! おじいちゃんやっぱり天才だね!!


 どうやったのぉ~!?」


 「わしじゃないよ。 偶然に起こったんだ。


 いいかいリオネ…。 魔力は破壊を生む最悪なものなんだ。

 このままこいつらの中にあってはならんものなんだよ。

 

 …取り除く事も出来んしな……ガイアスの言った通り、

 処分するのが1番いいのかもしれんな…」


 「え? 処分って何?」



リオネがバージルに尋ねたと同時に部屋のドアが開く。



 「処分は取り消しましたよ、 博士」



2人の瞳の中には白いスーツとズボンを着たガイアスの姿があった。



 「ガイアス…」


 「おやおや、 これはこれは…博士のお孫さんですか?」


 「どーもガイアスさん」



リオネは面倒臭そうな挨拶をする。



 「取り消しとはどう言う事だ?

 ラーズ博士からは処分と聞いておるが?」


 「気が変わったんです…」


 「なるほど……あんたも“アレ”に気づいたか」


 「ふっふっふ。 貴方には黙っておこうと思っていたんですがね、


 やはり貴方も気づいておいででしたか…」


 「何を考えてるか知らんが、 こいつらは渡さんからな」


 「そうですか…ふっふっふ。


 やはり私の思った通りの答えでしたね…」



ガイアスが合図を送ると後ろに控えていた兵士がバージルとリオネを取り囲んだ。

そして一斉に銃を構える。



 「…こう言う事です。 バージル博士」


 「く…。 あんた…自分が何をしようとしておるかわかってるのか!?


 我々にとってどれだけ危険であるものなのか!」


 「危険? どうして危険なんです?


 遥か昔の人々は普通に使っていた力なんですよ? 博士」


 「その力が何故現在失われているのかを考えないのか!?」


 「博士、 お話をしに来たのではないんですよ。


 貴方は明後日には称号が無くなり、 キングはラーズ博士となります。

 つまり貴方は…もう用無しと言う訳です。


 ふっふっふっふ。 いえ…実はもう少しだけ貴方には生きてもらいたかったのですがね、


 そこのお孫さんについて色々と聞いておかなくてはならない事がありまして…」



ガイアスの視線がリオネへと向いている事にすぐ気づいたバージルは

彼女を自分の後ろへと隠した。



 「孫に指1本でも触れてみろ!! どうなるかわかっておるんだろうなっ!!」


 「あっはっはっはっは。 どうなると言うんです? 博士。


 その様な老体で一体どんな事をなされるのですか? くっくっく」


 「……それ以上近寄るな!!」


 「バージル博士、 お孫さんがこの研究施設に来ている事は知ってるんですよ。


 セキュリティーがそんなに甘いはずないでしょう?

 わざと放置していたんですよ。 どうしてだかわかりますか? 博士」


 「………」


 「私の方で調べさせてもらいました。

 

 貴方のお孫さんはとても頭が良く、 レプリロイドに凄い興味をお持ちのようで。

 バージル博士、 彼女は貴方よりも有能であると思っています。

 まだそんなにお若いのに……ね」



ガイアスが右手を上げ再び合図を送ると兵士達がバージル達に

ゆっくり歩み寄り距離を縮めて行く。



 「な、 何をするつもりだ!」


 「ふっふっふ。 私はね、 博士…。



 欲しいと思った物は何でも手に入れたい性格なんですよ……










 撃て!」



兵士全員が銃を構え引き金に手をかけようとしたその時、

リオネが大声を上げて叫ぶのだった。



 「やめてぇぇぇぇぇ!!!



 あなたの言う通りにするからもうやめて!!」


 「ふっふっふっふ、 博士…。


 お孫さんはやはり賢い方ですね。 貴方と違ってちゃんと物事を理解してます」


 「リオネ…」


 「大丈夫だよ! 別に殺される訳じゃないんだし…。



 いい? おじいちゃんに何かしたら許さないからね! わかった!?」



リオネの言葉にゆっくりとした礼で返事を返すガイアス。

そしてバージルに一言漏らす。



 「貴方よりずっと説得力がありますね。 ふふふ。


 では…リオネ嬢、 行きましょうか」



リオネの肩に優しく触れてドアを出て行き案内をするガイアス。

その最悪な景色を、 バージルは兵士に取り押さえられたまま見ていたのであった。




もうすぐ本編に戻ります。

まだ地味なシーンが多いですが…

1は一つの世界を中心にしていましたが今回は宇宙が舞台となってます。

もう少し先になりますが2は星と星を旅する壮大な物語になる予定なので

その辺をご期待頂ければ。


ストーリーや戦闘は1より深くなる様に努力していくつもりです。

 

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