ガイアス・コール
“ティエリス”
それは戦争で扱う兵器を開発する組織の名前である。
兵器を開発する組織は多くあるが
戦闘兵器と言えば必ずと言っていい程この名前が上がってくる。
その組織を束ねるのが“ガイアス”と言う男だ。
57歳と言う年齢でありながら若々しい容姿を持ち
今も現役で兵器を世に送っている。
ティエリスの代表的なものとして“魔導”と呼ばれる
技術の確立が挙げられる。
これは、 過去に失われた魔法と現在も急速に発展中の機械を
融合させたもので兵器にもこの技術が使われており、
従来兵器の数百倍の性能と言う驚異的な成果を上げている。
彼が若い容姿でいられるのはこの魔導技術によるものなのだ。
この技術は兵器だけに限らず、 人間社会全体に影響を与え
生活はより豊かになった。
その超巨大組織ティエリスがまた新たに着手している兵器があった。
“レプリロイド”
これはDNA遺伝子操作によって生み出された人間の中に
レプリケイタと呼ばれる生きた金属と魔導をその身に組み込んだ人間。
これを人と呼べるのかはわからないがガイアスにしてみれば単なる“道具”である。
そのプロトタイプである6体のレプリロイドをとある研究施設で戦闘実験をしていたのであった。
これは13年前の出来事である。
6体のレプリロイドが等間隔で綺麗に整列している。
周りは広い草原だがここは研究施設の内部なのだ。
宙にガラス窓が浮いており、 そこから見下ろしているその人物こそ
“ガイアス・コール”
ティエリスの創設者である。
白いスーツと白いズボン、 全身白で統一しているのは彼のトレードマーク。
そのせいなのかこの研究施設も白を多く取り入れていた。
手を首元のネクタイにかけて緩めながら隣で同じく様子を見ている老人に話しかけた。
「どうです博士、 今回はいけそうですか?」
「…とりあえず問題の箇所はクリア出来た。
“6人”とも精神状態も安定しておるし…」
「博士あれは人間じゃない。 レプリロイド…兵器だ。
闘う為に生まれた“物”ですよ」
「……そうだったな」
「貴方が生みの親で愛着が湧くのはわかりますけどね」
「………」
「1000億…」
「………………何だ?」
「実に1000億 ktも費やしました。
我がティエリスの財産の3分の1もの巨額を貴方に賭けたのですよ? 博士
そして…我が社最先端にして最高の技術、 “魔導”もご提供させて頂いたんですから」
「何を言う、 あんたが勝手にやった事だろう!
わしの研究をこんな事に使いおって…!」
「おやおや、 何か勘違いしておられるようですね。
貴方の研究を買ったんですよ? その私がどう応用しようがもう貴方には関係ないでしょう。
それに…私にそんな事が言えるのですか? バージル博士」
ガイアスが次に何を言おうとしているのかがわかっているバージルは
返す言葉も詰まってしまい、 目を落とす。
「ふっふっふ。 そうでしょう?
なーに、 別にアレを使って人間を滅ぼそうなどとは思ってませんから」
「………」
「何と言いましたかね? あの生命体」
「………」
バージルは以前無言を貫いていた。
その表情にガイアスは満足した顔で再び話を続ける。
「“ミスト”…でしたか? 博士」
「わしに言わせたいのか…」
「ふっふっふ。 いえ…。
さぁ、 そろそろ始めますか。 これまでの兵器が全く通じなかった“アレ”を
本当に葬る事が出来るのかをね…」
両腕を後ろに組みながら横目でバージルを見るガイアスは次に後ろに控えていた
部下に合図を送ると部下は礼をして何処かに向かって行った。
しばらくすると下に待機していたレプリロイド達の前方の地面に
隠されてあった丸い鉄の扉がゆっくりと開き、 中から5体の何かが姿を現したのだった。
全身が黒く、 霧の様な姿からミストと呼ばれている。
レプリロイドの1体がその前に立ちはだかり、 他はそのまま待機していた。
その5体のミストを見たバージルは、 にやついた笑みで満ちているガイアスに怒鳴った。
「まさかたった1人で戦わせるつもりか!?」
「だから“1体”です。 博士」
ムッとした顔で言葉を発したガイアスだがそのままバージルは話を続ける。
「そんな事はどうでもいい!
前にも同じ事をして失敗しただろう! 何を考えてるんだ!!」
「前に1度やっているからこそ、 今回もやるんじゃないですか。
その方が成果がわかるでしょう?
ふふふ確かに見た目は幼いですが…心配する事じゃないでしょう」
「あんたは何にもわかっちゃいない!! いいかガイアス!!
ミストの正体がまだ何かわからんのだぞ!?
全員で闘わせて細かいデータを記録していかないと1人ではデータを取る前に殺される!
今すぐに止めさせるんだ!!」
「そんなに怒鳴ってると体を壊しますよ? 博士」
「この前の様にまた失いたいのかぁ!」
「破壊されればまた造ればいいじゃないですか。
それに今回は大丈夫なんでしょう?」
「きっさまぁぁ!!
レプリロイドを何だと……………うぅ………うぐぐ…ううぅ」
バージルは胸を押さえながら片膝をついた。
苦しみながら見上げてる彼の顔にガイアスは溜め息と笑みをかける。
「ほーらだから言ったんですよ。
貴方は持病をお持ちなんですからあまり無理しない様にして頂かないと」
「…だ、 だま……」
「魔導の技術を使えばそんな病などすぐに消えると言うのに、
貴方って人は頑固と言うか何と言うか…
バージル博士を医務室へ連れて行きなさい」
「はっ!」
「かしこまりました!」
2人の部下に支えられバージルは医務室へと運ばれてしまった。
そして扉の自動ドアが閉まると近くの椅子に深く腰を下ろしガラス窓から
ミストとレプリロイドの闘いを観察する。
「まだ死なれたら困るんですよ。 博士…」