断罪イベント365ー第25回 封印された“断罪帳”
断罪イベントで365編の短編が書けるか、実験中。
婚約破棄・ざまぁの王道テンプレから始まり、
断罪の先にどこまで広げられるか挑戦しています。
王城広場に、今日も断罪の鐘が響いた。
三百人を超える民が見守る中、壇上に立つ王子の顔には、いつになく緊張が走っていた。
彼の足元に置かれた黒塗りの箱には、魔道具《断罪帳》が封じられている。
「本日、この場にて断罪されるのは、侯爵令嬢フィオナ=グランフォード!」
名前が呼ばれると、白銀のドレスに身を包んだ令嬢がゆっくりと歩み出る。
その姿はまるで神殿の女神のようで、思わず観衆からため息が漏れた。
「ふつくしい……」
「今日の断罪、なんか違う意味で緊張してきたぞ……」
一方、王子は咳払いしながら、威厳を保つように声を張り上げる。
「令嬢よ。貴様の数々の罪状、今日この場にて明かされよう。断罪帳を開帳せよ!」
家臣が慎重に黒箱を開き、中から漆黒の表紙の書物を取り出した。
それは魔道具であり、対象の名を記すことで、過去の罪状が浮かび上がるというものだ。
王子は胸を張り、堂々と名を記した。
「フィオナ=グランフォード!」
ピカァァァ……。
淡い光が書物から放たれた──が、次の瞬間。
……白い。
真っ白だ。
開いたページには、なにも書かれていなかった。
「……あれ?」
ざわ……ざわ……
「まさか、記入ミス?」
「いや、魔道具が壊れてるのでは?」
「未来日付とかじゃなくて、まさかの白紙!?」
王子は慌てて叫ぶ。
「断罪帳、故障か!? 予備はないのか!」
近くに控えていた文官が、青ざめた顔で進み出た。
「お、おそれながら……この者の罪状は、すでに“封印”されている可能性がございます」
「……封印だと?」
「はい、かつて美の女神の審判を受け、“あまりにも罪にならぬ罪”として記録が消去されたと、記録文書にございます……」
「えっ……なにそれ……聞いてないぞ?」
「つまり、罪状は存在していたが、“嫉妬による誤解”として無効化されたようで……」
ざわめきが広がる中、観衆のひとりがぽつりとつぶやく。
「……つまり、罪状が美しすぎて人を惑わした、とか?」
「美貌ゆえの断罪不可? それって、ずるくないか……?」
ここで、王子が懸命に挽回を試みる。
「た、確かに! そなた、ティーパーティで王女付きの女官を泣かせたという報告が──」
令嬢は一礼しながら、静かに答えた。
「ええ、その件は既に和解済みです。お菓子の甘さと私の甘さが競合した結果、涙が出たそうで……」
「……なにそれ」
「遅刻の件はどうだ!? 礼装選びに時間をかけたせいだと聞いている!」
「礼儀としての美の表現に、時間は不可欠と考えております」
「──うぬぬ」
すると、断罪帳が再び淡く光り、ページが勝手にめくれた。
その中央に、金色の文字が浮かび上がる。
『美の女神セレナの祝福を受けし者、裁きは不要とす』
― 封印処理済・断罪帳記録より
\\ ド ヨ オ オ オ ン //
「女神認定されてる!」
「ズルすぎる! けど、なんか納得しちゃう……!」
「美の暴力とはこのことか……」
観衆が揺れる中、王子はなおも抗う。
「で、では……おぬし、まさか自分の美貌がすべて許すとでも!?」
「もちろん、そんなことは思っておりませんわ。……ただ、断罪帳が私の潔白を証明しているだけです」
そう言って、彼女はそっと断罪帳を閉じ、箱に戻す。
「このまま、白紙の帳として保管くださいませ。もはや記す罪もございませんので」
静寂の中、令嬢は背を伸ばし、すっと一礼した。
まるで、すべてを受け入れ、超越した存在のように。
王子は呆然としながら、観衆の反応をうかがったが――誰一人として、異を唱える者はいなかった。
それどころか、ひそひそと声が上がる。
「……あの子、王妃にした方が国が安定するんじゃないか?」
「なぁ、もう断罪やめて、プロポーズすれば?」
「いや、無理無理。レベルが違う」
「魔法とか女神とか、それ以前の問題だろ、あれ」
王子はついに、壇上にへたりこんだ。
令嬢の勝利は、圧倒的だった。
罪状は白紙。
記録も白紙。
すべてが“無罪”であることを、美が証明したのである。
後にこの事件は、「封印断罪・美貌無効事件」と呼ばれ、王国断罪史において“白紙革命”とまで語り継がれることとなった――。
「封印断罪・美貌無効事件」誕生
歴史に刻まるべき事件が誕生しました。
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