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2日目

ピ、ピ、ピと無機質な機械音が部屋に響く。

お世辞にも高いとは言えない天井は見事に音を拾い、部屋中に伝えていく。

もう少し費用をかければよかっただろうか、と考えるがあまり豪華にしても気が落ち着かない。

考えている最中でも規則的に音は鳴る。無機質な、人からは絶対に出ない音。

だけれどもその機械から伸びる管に繋いでいるのは紛れもない彼女。

今日もその瞳は開かない。

だがそれでいいのだ。まだ起きてもらっては困る。

硬く瞳を閉じた彼女の髪をさらりと撫でてみるが反応は無い。

滞りなく今日も計画は進んでいる…。


「…ん。今、何時…?」

落ちた体に徐々に意識が戻ってくる。

ふかふかの白い掛け布団。最後に意識があった時のワイシャツにズボンという服。

そして突っ伏したわたし。

起きてすぐの少しゴロゴロとする目。ゆっくりと体を起こしてみると独特の関節の痛みが微かに感じられる。

どうやらわたしは自室に帰ってきて早々寝てしまっていたようだ。

「やっちゃった…」

せめてシャワーぐらい浴びればよかったと後悔する。寝落ちしてよかったことなど思いつかないし。

目線をそのまま動かすと窓を覆うカーテンの隙間からほんの少しだけ光が伺える。

そろそろ夜明けのようだ。今から用意すればこの姿での観察の続行は避けられそうだ。

そうと決まれば、と体を半ば無理やりに動かし服を脱ぐ。

着替えは部屋に備え付けられている棚に収納したはずだ。

漁ってみると予想通り着替えはそこにあった。

着替えを確認したその足でシャワー室へと向かう。

部屋と同様に白を基調とし、石鹸やシャンプーなどを備えたシャワールームは人一人がシャワーして身を清めるには十分な広さだ。この部屋だけ見るとシンプルなビジネスホテルと大差無いように思う。

個室それぞれにトイレやシャワー室が完備されているのは他の部屋主達に気を遣わなくていいのだがやはり、

「鳥籠のよう…」

キュッとシャワーコックを捻ると頭上から暖かいお湯が湯気を発しながら降り注ぐ。

看護長が毎食配膳してくれる食事。医師がそれぞれの自室に赴いて実施する診察という名の経過観察。

それぞれにある程度許容しているところはあるもののそんなものは何の慰めにもならない。

部屋から出ることも滅多に許されない。文字通りの鳥籠。

だけどそれ以前に彼女らはまず大前提として事件の被疑者であり、もしもそれが本当なら如何なる理由があっても法で裁かれるべき存在だ。

そしてその証拠を暴き事件解決に繋げるべき配属されたのがわたし。

相手がたとえ片手で足りる程の幼子であっても同情は無用。

幼子が犯人として検挙された事件だって実在する。殺そうと思えばAのような五歳の子でも人を殺せる。

この世の中でこんな思いを抱くわたしはきっと間違っているのだろう。

可哀想。なんて言葉では到底世界は上手くいかない。加害者がいれば必ず存在する被害者のことだって考えないといけない。

ここに時配属されてまだ数日、まして彼女らと出会った次の日にこんなことを考えるべきではない。

頭ではわかっている。わかっているのだ。

キュキュッとさっきとは反対にコックを捻る。

ポタポタと滴る水滴。お湯で十分に流した髪は乾いている時と違い重みを得て体と共に熱を帯びていた。

わたしはあの子達の誰か、最悪全員を裁かないといけない。

わたし達に裁く権利なんて本当は無いけれど観察した上で捜査上に挙げるというのはそういうことだ。

随分と重たい仕事を任されたなと今になってようやく気づいたけれどここで逃げるなんて許されない。

暖かくほのかに湯気を纏う体とは逆にやけに冷えた頭が警鐘を鳴らす。まるでカチッとスイッチが入ったような、そんな錯覚すら覚えた。

自分の役目を果たせ、と。例えどんな結末を迎えても。

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