第8話 夢
「……ごめん」
「別にいいですよ気にしないで。見られて減るもんではないし」
男の体なんて見ても嬉しくないだろうし。
俺も特段恥かしいとは思わない。
見られて恥ずかしい体をしているつもりもないしな。
「はるくんってなんかスポーツやってたん?」
「いいえ。特にやってなかったですね。俺は」
「え~にしてはさっき見えた体結構がっちりしてた気がするんだけど?」
「海外で筋トレしてたんすよ。周りの連中は体が大きかったんで鍛えとかないと虐められるんすよ。それになぎちゃんと会うときにヒョロヒョロよりはいいでしょ」
海外の連中は俺に比べて体格が大きかったし他にもいろんな要素があったから鍛える他に方法が無かった。
なぎちゃんに見せられる体でありたいって言うのは本当だけどそれが一番の理由ではない。
副産物だ。
「はるくんは努力家なんだね」
「そんなんじゃないですよ。必要だからやっただけです。努力家なんかじゃありません」
努力できる人間はもっとすごい。
俺なんか赤ちゃんみたいなもんだ。
「いいや。はるくんは努力家だよ。こっちに戻ってくるために家事の練習も一通りしたんでしょ? うちにはそんなことできないな~」
「冷夏先輩とは比べないでくださいよ。比べる相手が悪いです」
「酷いっ!?」
「まあ、そんなことは良いんで先輩はベッドで寝てください。俺はソファーで寝るんで」
「そんなことっ!?」
そんなことだろう。
とりあえず俺は疲れた。
もう寝たい。
「いいから早く寝てください。明日も片付けするんですから」
「むう、はるくんって意地悪だ」
「そんなことないですよ。普通です。それじゃおやすみなさい」
先輩にそう告げて俺はソファーに横になる。
なんだか無性に疲れた。
「うん。おやすみ。ありがとね」
先輩の声を最後に聞いて俺の意識は途絶えた。
◇
「はるくんは外国で何してたの?」
「う~んこれといってなんもしてなかったな~なぎちゃんは俺と別れてからの10年何してたの?」
「私も特に何もしてないよ。ただ、はるくんと会える日を心待ちにしてたくらいかな?」
「それは俺もだよ」
やっと会えたなぎちゃんは昔の面影はあったけど年相応に美人になったと思う。
めっちゃ可愛い。
「それで、例の約束の事覚えてるかな?」
「もちろん。はるくん私と結婚して!」
「それ、俺が言いたかったんだけどな」
「えへへ~私がさき越しちゃったもんね~」
全く、なぎちゃんには敵わないな。
でも、これで俺が日本に戻ってきた目的を果たせた。
これで……
「起きて」
◇
「起きて」
「はっっ!?」
「や~っと起きた。もう朝だよ? 8時」
「なぎちゃ、冷夏先輩。おはようございます」
「おはよう。その様子からして幼馴染ちゃんの夢でも見てたの?
「そんなところです」
夢……か。
せっかく会えたと思ったけどそんなに甘くはないか。
残念だ。
「そっか。いい夢だった?」
「ええ。それはもう最高の夢でしたよ」
夢みたいに簡単になぎちゃんと会えたらいいのに。
でも、そんなことを願ってもかなわない。
だから地道に頑張るとするか。
「そっか。よかったよ」
「んじゃ朝飯食べて先輩の部屋片づけに行きますか!」
「お願いします!!」