第4話 ファッションショーが長すぎる…
「っとやっと終わったな」
六限目の終了を告げるチャイムを聞いて立ち上がる。
帰りのHRは出ないとワンチャン出席にならない可能性があるので午後の授業は全部サボってもHRだけは出ないといけないのだ。
全く面倒で仕方がない。でも、卒業はしないといけないからな。
クソめんどくさいけど我慢するしかないか。
出たくはないが屋上を後にして自分の教室に向かう。今の季節は春だから屋上はそれなりに日が当たって気持ちが良かったのだが校内に入ると少しだけ肌寒く感じた。
「まだ地味にさみぃんだよな。陽があたってねぇからなおさらか」
今着ているブレザーだけでは少しだけ心もとないが上着を持ってきてねぇからしゃーないか。早く家に帰って風呂でも入りたいもんだぜ。
教室の扉をあけると視線が一気に俺に集まる。だが、一瞬集まった視線はすぐに散る。まるで見ちゃいけないものを見ているみたいな対応だ。
まあ、俺は自分で言うのもなんだが学園ではそれなりに不良と言われていることもあり自ら関わってこようとする物好きはいない。
なんなら今日の昼が初めてだ。
「早く終わんねえかな」
頬杖をついて窓から外を見渡す。まだ桜が完全には散りきっておらず花びらが散っていた。その様子を見てもあまり感情は動かなかった。
考えることと言えばどうすれば早く帰れるかとかそんなことだけだ。
「お前ら~席につけよ~俺は早く帰りたいから手短に連絡事項だけ話すな~」
入って早々教壇に立って話し始めるのは30代ほどの男性教員だった。少し長めの髪にめんどくさそうな顔つき。目の下のクマを見るに今日も寝不足をしていたのだろう。
めんどくさそうに頭を掻きながら明日の連絡事項を淡々と告げる。
この先生は我がクラスの担任で堤 礼。
学園ではダウナー系の教師として有名だ。
「んじゃ今日はこれで終わり。気いつけて帰れよ? お前らが面倒を起こすと俺が面倒だからな」
最後までめんどくさそうな態度で話を終えて教室から出て行ってしまった。
んじゃ俺も帰りますかね。
カバンを持って教室から出る。今日は家に直行で帰るとしますかね。
「ちょっといいでしょうか?」
「全然よくないね。俺は今から予定があるんでね」
後ろから声をかけられたけどめんどくさかったから振り返りもせずに嘘を並べる。
特段予定なんかないけどそうでも言わないとこういう輩はついてきそうだからな。そういえばどんなもの好きが俺なんかに声をかけてきたんだ?
気になって振り返ってしまったことを俺は後悔した。
「私、泣きますよ?」
「げっ」
見てみればにっこり笑顔を浮かべながら俺を見ている藤原がいた。まずい、ここでこいつが泣けば学校での居場所が完全になくなる。別にそこはあまり気にしてないんだけど卒業まで約二年間学校という場所の居心地が悪くなるのはぜひとも勘弁願いたいところではある。
「わかった。落ち着け。要件はなんだ?」
「そんな大層なものじゃないですよ。ちょっと帰り道にお話ししたいなって」
なんて笑顔を浮かべてやがる。ここで断ろうものなら周りの連中から刺されかねない。こいつは自分の立場と人気を理解してこの行動をとっているのだろう。
だとしたらとんでもない策士だ。俺に切り抜ける手段が存在しない。
逃げようものなら絶対に後日厄介なことになる。先の面倒か後の面倒か。
どっちにしろ面倒なら先に面倒を味わっておくとするか。
「勝手にしろ」
「ありがとうございます」
はぁ。なんで俺がこんな面倒ごとに巻き込まれにゃならんのだ。
こんなことになるなら今日はサボらなければよかった。心の底から自分の行動を後悔する。でも、今更後悔しても遅いから今はこの状況を打開する方法を考えるとするか。ああ、めんどくせぇ。
◇
「そんで? わざわざ俺なんかに話ってなんだよ」
「気になりますか?」
「うぜぇ。要件があったからわざわざついてきたんだろうが」
要件がねぇならこんな奴がわざわざ俺に話しかけてくるはずがない。
とっとと要件を済ませて家に帰りたいんだけどな。
「本当にあなたはつれないですね。私にそんな冷たい対応を取るのはあなたくらいですよ?」
「そうかい。だったらちゃんとお前に構ってくれる男の所に行ったらどうだ? 止めないぞ」
「嫌ですよ。そういう人たちは下心丸出しなんですもん。あなたからは下心とかを感じないので興味がわきました」
「じゃあ、今からお前に下心丸出しで迫ったらどっか行ってくれるか?」
家ももう近い。こいつに家を特定されることだけは避けたい。
絶対に確実にめんどくさいことになる。面倒くさいどころじゃない。
こいつと長時間関わるのも嫌だ。
「あなたはそう言うことしなさそうなので大丈夫です」
「会ってからまだ数十分なのに随分信用されてるようで」
こいつ、本当にめんどくさいな。どうやったら帰ってくれるのか?
話があるとかいってこいつ一向に話し始めようとしないし。
なんなんだこいつは。
「あなたって本当に変ですよね。私に全く興味を抱かない男性って点でも変ですし何も聞いてこないですし」
「お前は何か聞いてほしいのかよ」
話すことと言ったら屋上での事だろうか? 絶対にめんどくさい奴じゃん。
でも、聞かないとこいつ一向に帰る気配がないぞ?
「まあ、そうですね。私は頼れる人がいないので。でも、私に下心を向けてくる人にこういう相談をしたくなかったので。あなたが適任だったんです」
やっぱり訳ありか。
にしてもそれを聞かないと帰ってくれそうにないし。
仕方ないか。
「わかった。聞いてやるから場所を変えてもいいか? お前もこんな場所じゃあ話しずらいだろ?」
「え、はい。そうしてくれると助かりますけどいいんですか?」
「何を今更。変なところで気を使うなら最初から俺に関わってくるなよ」
場所を変えるといっても俺の家なわけだからそこまで迷惑じゃない。
こいつに家を知られるのはまあまあ厄介だけどそこは諦めるしかない。
「すいません」
「謝んなうざってぇ」
素直に頭を下げてくるこいつに無性に腹が立つ。なんで腹が立っているのか具体的には俺自身でもわかんねぇ。でも、なんだかイライラする。
「ついてこい」
「はい」
そこからは特に会話は無く目的地に着くまでは沈黙が俺たちの間を支配していた。