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夫婦のありかたを再考なさいませ

 私は心の中で、阿呆とダミアンに吐き捨てていた。

 またダミアンだけでなく、彼の口から新たに飛び出した国の有名人に対しても、私の中で再び燃え上がった怒りのまま、糞野郎と叫んでいた。

 淑女ですから心の中だけでね。


 でも、今世紀最高と名高き美貌の魔導士も、ダミアン側の人間だったとは。

 この国にはダミアンの非常識を諫められる真っ当な人間はいないのか。


「あなたがバートラムに会うその時は、私も同席させて頂ける?」


「君も彼のファンだったか?」


「いいえ。妻に足枷を嵌めようと考えるあなたを止めるどころか、さらにくそ魔法に改造した彼をぶち殺してやりたいだけよ」


 ぶふっ。

 聞きなれた黒覆面部隊の吹き出し笑い。

 私はさっと彼らに振り返る。彼らはさっと私から顔を背ける。


「ああもう。どうして私は魔法が使えないんだろう。ろくなことしかしでかさないあなたも、あなたを一切諫めないあなたの周りの人達も、全部火あぶりにしてやりたいのに!!」


「君は魔法が使えないのか?」


 ダミアンの驚きを含んだ声に、私は突破口を見つけたと喜び彼を見返す。


 そう、貴族は魔法を使えるもの。

 魔力が無いという理由で、長子なのに跡継ぎから外されるってこともある。

 それだけ魔力のある無いは、貴族社会では重要視されているのだ。


「ええ。使えないわ。我がカーネシリア男爵家は血統だけを大事にしてきましたから、跡継ぎに魔力が無かろうが廃嫡される事はなかったの。だから、私は一切魔法が使えません」


「生活魔法ぐらいは使えるだろう?」


 私はにっこりと笑い、使えません、と答える。


 どうだ!!私が結婚相手を見繕える学園に通えなかった理由がこれよ!!


 でもね、実は私は魔法が使えない事で落ち込んだ事は無い。(今までは)

 だって、魔法が使えないを前提として領地経営を考えると、必要経費こそ色々抑えられるし有能な人材確保が可能になるのだから。


 魔石や魔力ありきで構築された設備は、魔道具と一緒だから実に高価なものだ。

 それらは当たり前だが細やかなメンテナンスが必要で、そのメンテナンスも専門業者に発注せねばならない。それでは保全費が高くつく。でも、魔力のない平民が使用できる設備であれば、壊れれば自分達で勝手に修理できるし、そもそも働く意欲のある者を魔力の有無関係無しに誰でも雇えるのだ。


 困りごとは、魔力のない私が誰からも結婚を望まれない、という点ね。

 母みたいに父のような人を見つければいいだけの話だから、私はその点についても全く不安に想ってはいなかったけれど。


 嘘です。出会いなくて少々焦ってました。だけど、ダミアンは無い、と改めて思う。そして自分に魔力が無くて良かったと、心の中でガッツポーズをする。


 魔力無しの侯爵夫人なんかありえないでしょ!!


「魔力が全然無いの。こんな私では侯爵夫人を名乗るなんておこがましいわね。それに、こんな私では、きっと最新設備のあなたのお屋敷には住めないわ。魔力が無い私では、魔力ありきの設備だと起動なんかできないでしょう。お風呂に入りたくても、お水一滴出せなくて涙を流すことになるわ」


 だから、魔力のない私をあなたの妻にするのは、考え直しましょう。

 まだ白い結婚ですもの。離縁できますわよ!!


 私は微笑みながらダミアンを見つめる。

 こんなに期待を持って彼の次の言葉を待つのは初めてだろう。

 そして私に期待の瞳で見つめられたダミアンは、軽く咽て見せた後、彼こそ両目を輝かせて胸を張った。


「家のことで君に困ることあれば、私に助けを求めてくれ。すぐに解決しよう。お風呂に入れないと君を泣かせはしない。私が君と風呂に入る。それに約束しよう。私の妻である君は、我が館では女王様だ。君が指一本動かさなくともよい生活となるだろう」


「そうきたか」


「ああ。君の心配事が、自分には魔力が無い、それだけならば、心配は不要だ。私は君に魔力が無いと聞いて、さらに愛情が湧いている」


「そう? 私は今こそ魔力を持たない自分に絶望しているわ。魔力が無いばっかりに変な思考回路の男がつけた足枷も外せないのだもの!!」


「そんなに嫌か?」


「当たり前でしょう!!足枷付けられて喜ぶ人間がどこにいるのよ!!あなたも良く考えなさって。戦場で敵兵に囲まれた時に私があなたに会いたいって望んだら、その足枷があるばかりにあなたは戦場のど真ん中で引き回しの刑になるのよ」


 ダミアンは、ああ、と小さく叫んでから、すぐににっこりと微笑んだ。

 とても嬉しそうな笑顔で。


「妻に心配して貰えるって幸せだね」


 その妻は本気で目の前の夫を引き回しの刑にしてやりたいって、願っていますけどね。そうね、未亡人になれば自由ね。


「きゃあ」


 急に私の左足首がきゅっと締め付けられ、そのまま足が上へと持ち上げられた。

 そのために私は勢いよく後ろへと倒れかけたが、しっかりとした腕に支えられて事なきを得た。


「大丈夫か? これは人の悪意にこそ反応するんだ」


「――悪意ですか」


「悪意だ。もとは囚人や捕虜用だったからかな。人の暴力的想念に反応しやすくなっているのだろう」


「あら。ろくでもないあなたの友人達を罰したい私の気持は物凄く本気なものでございましたのに、全く反応しませんでしたわよ」


「たぶん、私に対してだけ、だな。この魔法はバートラムが私の為に改造してくれたものだから。うむ、冗談でもあまり物騒な事は考えない方が良いだろう」


「あなたに対して?」


「私に対して」


「あなた。喧嘩をするほど仲が良いって言葉はご存じ?」


「ああ、知っているが。それがどうした?」


「逆を言えば、喧嘩も出来ない夫婦は仲が良くならないってことですわよ。あなたが私と笑い合いたい人生など不要と考えていらっしゃるなら、そんな格言こそ不要なものでしょうけれど」


「そんな事は無い!!」


「では、いいこと? 夫婦喧嘩という結婚した人だけが楽しめる触れ合いを失いたくなければ、出来るだけ早くこの魔法を解除なさい」


 私はずぶっと人差し指をダミアンの胸に刺した。

 そして私に言い負かされて言葉を失っている彼の腕から私は抜け出すと、誰よりも偉そうに見えるように胸を張る。


 魔力が無いことで貴族社会では軽んじられる人間だろうとも、私は歴史ある領地の跡継ぎとして育てられているのだ。

 この足枷だけは本気で許せない。

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