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どうして私の時ばかり乱暴なの?

 ダミアン・ゴーライエン侯爵様は、私の前となる三人の女性達に関しては誘拐などしていないそうだ。

 信じられない。

 そんな事実を聞いた私は、先程まで散々に彼に脅えていたことも忘れる程にいきり立ってしまった。


 あのくっさい毒ニンジンを嗅がされて誘拐された被害者は、私だけですって?


「どうして私の時ばっかりこんな乱暴なのよ!!」


「今度ばかりは逃げられる訳にはいかないからだ」


「逃げられたくないなら、もっと他に方法があるでしょう!!」


「普通に挨拶しても、私は脅えられるばかりなんだ。仕方が無いだろう」


「仕方なくなんかない!!あなたが普通に挨拶だけ、なんて信じられない。絶対に相手を脅えさせる行為をしたはず。言わせてもらいますけどね、あなたの顔のどこが怖いのよ。美しすぎて怖いって話でしたか? 単なる自慢でしたか?」


「自慢って、私の顔は――」


 少々の怒り声で言いかけたダミアンだったが、なぜか急に黙る。

 男性の怒り声など女性を怖がらせる一番のそれだと気が付いて、彼は自分の行いを反省したのかしら?


「――私が美しいなんて言うのは君だけだ」


「そう思い込んでいるのもあなただけよ。それで誘拐なんて変な発想するあなただから、きっとあなたの無意識な振る舞いからあなたが危ない人なんじゃないかなあって先入観を抱かれたのよ」


「それは違う。振舞うも何も、顔を合わせたそこで悲鳴を上げられたのだ」


「その怖そうな仮面など被っていないのに?」


「この仮面など被って無くとも、だ。それから君がこの仮面が怖いと思うのは当たり前だ。この仮面は戦場にて、アレグラナに竜騎士ありと、敵兵に知らしめるためのものだからな」


「私は敵兵か!!」


「いや。怖い仮面で脅えたところに私の素顔を晒してだな、私の顔の怖さを仮面の不気味さで軽減できるかもと、あの、友人がな、言うものでな」


「そんな戯言言った奴は誰よ。そのご友人に次に会った時には、くだらないことしか言わないその口に綿をしっかり詰め込んで、井戸にでも沈めてしまいなさい」


「ぶふ、ん、ん」


 ダミアンは私から顔を背け、二度三度咳き込んだ。

 冗談だと思っているの? 私は本気で怒っているし、あなたの友人を井戸に沈めてしまいたいのも本気なんですけど。

 私は怒りのまま両手を打ち鳴らす。


「はい、注目。お話の途中です」


「私が君には素晴らしい、だったか?」


「あら、いい笑顔。どうして脅えられていると考えるのかわからない程にね。でも、あなたは自分が怖い人で女性に逃げられるばかりだと思い込んでいて、だから私にこんな無体な事をしでかした。そこは間違っていないのね」


「ああ。間違っていないし、今の時点では正しい行動だったと自負している」


「自負するな。おかしな行動だったと反省して。もう! その思考回路がおかしいの。おかしくないって思っていらっしゃるなら、こんな行動を取る結果になった事情、そもそものあなたの婚約破棄について最初から説明してくださらない?」


 ダミアンは口元を歪めた。

 侯爵様なんて身分の男性が、自分の行動について他人に、それも身分がずっと下の小娘になんやかんやと言われたくないのは分かる。


 でも私は知りたい。

 私ばかりが酷い目に遭っている、その理由が知りたい。


 彼が婚約破棄によって傷ついたのは事実であろう。

 けれど、だからといって、適当な女性を誘拐していいなんてことは無い。

 私をその適当な女性にして良いわけなんて絶対ない!!


「語っただろ? 脅えられて逃げられた。それだけだ」


「わたしは詳しく知りたいの」


 私はじとっとダミアンを睨む。

 すると、ダミアンこそ私を睨み返した。

 彼の意思の硬そうな唇は真一文字に引き締められ、私なんかに話す事は無いという風に黙り込んでいる。話せよ、嫌だよ? 私達は無言で睨み合う。


 ふっ。

 笑った? それとも諦めで鼻を鳴らしただけ?


「強情だな」

「む」

「ふっ。わかった。君が望むならば、語ろう」


「ではお一人目から、どうぞ」


「一人目は、陛下直々による縁組だった。相手は我がゴーライエン家と同じ家格の、セミリオール侯爵家令嬢だった。私達の初顔合わせは、王妃主催の茶会だった。そして茶会が終わる前に、気分が悪いと消えた彼女が王城を守護する近衛の一人と駆け落ち婚したと、私は謝罪と共に聞く事になった」


「それは、ええと、普通に近衛の方と恋仲だったから、じゃない?」


「私の顔は関係ないと? 茶会では私の顔を見た途端に、彼女は真っ青になって気絶したぞ」


「コルセットがきつかったんじゃないの? 」


「ん、んん」


 ダミアンは横を向いて喉が詰まった咳をする。

 耳の先が赤くなっているのは、想像したのね、女性の下着を。

 やっぱり変態の誘拐魔だわ。


 私の視線の中で、彼は横向けていた顔を私に向け直す。

 取り繕った今までと変わらない真面目顔ですけれど、頬骨の辺りや耳がまだ赤いですわよ、すけべえ。


「何か?」


「いいえ。お続けになって」


「――では二人目だ。彼女は我がゴーライエン侯爵家の一族の一つであるゴルネス伯爵家の令嬢だった。侯爵家存続の為に跡継ぎを生む相手が絶対に必要だと親族が動いたのだ。そこで私は前回の失敗を踏まえ、見合い前に婚約を決めた。だが、無駄だった。結婚式の相談で顔を合わせた翌日に、彼女は従兄という男と駆け落ちをした」


「幼馴染との恋はよくある話よ?」


「君も恋をしている幼馴染がいるのか?」


「そんなのがいたらとっくに結婚しているわよ。お忘れですけど、私も家の為に跡継ぎを絶対に生まなければいけませんの」


「そうだったな。では、跡継ぎの製作には私も力を入れて頑張ろう。侯爵家には二人は必要だ。それと君の家用。うむ、三人は絶対に必要だな。いや、三人と言わず、君に似た女の子が生まれるまで頑張るのもいいな」


「そんな戯言よりも三人目のお話が聞きたいわ」


「たわ、ん、んん。三人目は、レーベン子爵家の令嬢だ。レーベン子爵より、彼が抱えている借金の返済の見返りに娘を差し出すという申し出だった。これならば逃げないと思ったんだがな。子爵は私からの融資を受け取るや、娘共々姿をくらませたんだ。調べてみれば、レーベン子爵家など元より無かった。侯爵家と違い星の数ほどいる子爵家など私が詳しく知るべくもない。が、私の失敗だな」


「三人目のそれって、あなたの顔が怖いというお話じゃなくて、ただの結婚詐欺に遭いました、というお話、よね?」


「ハハハ。確かに。だがこれは良い経験だったかもな。うむ、考えてみれば、今回に繋がる良い勉強をさせて貰えたとも言える」


「今回に繋がる良い勉強?」


「ああ。婚約では逃げられるならばと、陛下に結婚認定証を作らせ、王命として君の父上に承諾のサインをさせた。君に逃げられる隙を与えず、意識を失わせての拘束。君は暴挙と言うが結果として私は君と楽しい会話ができている。経験が生かせた良き結果と言えるのではないか」


「私があなたと楽しい会話ができていると考える時点で終わっているわ」


「ああ、終わっているか。私という醜い男の妻にされて辛かろう。だが、我が領地は海もあり風光明媚で楽しめる場所だ。飯も旨いしな。私を我慢しなければならなくとも、それ以外では得るものは多いと思う」


「ああ微妙に会話が成り立たない。どうしたら気持が通じるの」


「すまないな。私が君にした事を後悔して欲しいと君が願っていることは分かるが、私は後悔する気などないのだ。私は君だけは逃がしたくなかったからね」


「君だけは?」


「ああ。孤児院で子供達と戯れる君を見て、私は君が欲しいと思った」


「ん、んん」


 咽たのは私の方だった。

 地味で気が強い私は、領地でも王都でも、男性達にモテた事なんか一度もない。

 だから、私が欲しい、なんて言われて情けなくも気持が浮ついてしまった。

 ダミアンは外見だけは最高だし。


 最高……私は彼を新たな目で見返し、彼の服装が気になった。

 黒いマントの下は、議会にも出られそうな素晴らしきブルーグレーの上下スーツを着用されており、旅装束からほど遠いものである。


 誘拐された私が着ている孤児院訪問用ドレスも、全く旅装束ではありませんけどね。


「何か?」


「いえ。あなたの服装が正装なのが気になって」


「当り前でしょう。私は君の父君と話し合う必要があったからな」


「あ、そうよ。あなたと父の話し合いについて聞いていなかった。どうして父はあなたのそんな無体な要求を簡単に受け入れたの。いくら陛下の一筆があろうと、いいえ、一筆があるからこそ父は慎重になったはずだわ」


 ダミアンは、鼻で笑った。

 そんなこと、と。


「娘の平穏無事は君の判断の早さにかかっていると伝えたら、彼はすぐに承諾の署名をしてくれたよ」


「それはまんま脅しでしょ!!」


 ああ、私の前に彼を袖にした令嬢達、恨むわ。


私にだけダミアンがしてくれた事

①恐ろしいトカゲ顔の仮面(敵兵を脅す目的のもの)を被って出現しました。

②毒ニンジンで意識を失わせる

③有無を言わせず誘拐し結婚は勝手に成立させた→婚約者だと逃げられるから

NEW→④保護者である父に結婚承諾書に署名させるために私の安否を匂わせた


さいてい!!

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