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魔力が無い人は一人で何もできない

 お風呂場に入った私だが、噴水みたいなお風呂セット(固定シャワーも壁に設置あり)の前で途方に暮れることになった。自動魔法が施されているトイレのように、お風呂場には何のレバーも無い。そしてお風呂セットには自動魔法は施されていないようなのだ。


 ならば私には、どうやって無駄に大きなバスタブにお湯を満たせば良いのか分からない。たぶん、壁に嵌め込まれた金属の獣のお口から、げろっと噴水みたいにお湯が出てくるとは思うのだけど。


 私は腹をくくった。

 バスルームのドアを開け、ベッドルームに残してきた自立迷走型自動魔法機さんに声をかけたのである。


「ダミアン。お風呂はどうやって使うの? お願い助けて」


 私は今すぐ開けたこのドアを閉め、鍵をかけてバスルームに閉じこもるべきか。

 私が頼みごとをした途端に、ダミアンが服を脱ぎだしたのだ。

 もちろん、私に背を向ける、ぐらいの紳士的な脱ぎ方だったけれど。


 いいえ、これは私への配慮というよりは、彼こそ恥ずかしがり屋で私に体を見せたくないからでしょうね。彼は竜の印が左胸にまであると言っていたもの。

 でも、しっかり全裸の後ろ側を私に見せているわよ。

 私こそ淑女としてダミアンの裸に悲鳴を上げるべきなのでしょうが。


 でも、逆三角形の背中の筋肉の付き具合や、きゅっとなっているお尻が、美術館に飾られている大理石像のようで綺麗なんだもの。肩甲骨が動くさまは、そこから翼が生えてしまいそう、なんて思ってしまう。


 ほうっ。


 私の思わずの溜息に、ダミアンの動きがぴたっと止まり、恐る恐るという風に私へと振り返った。私の姿を捉えた彼の両目は真ん丸だ。


「もしかして、私がここにいる事も忘れて全裸になっていた?」


「い、いや。私が脱ぎだした時点で君がドアを閉めていると思った。男の裸など君の目の毒だろう?」


 まさに毒な毒ニンジンを私に嗅がせた人が何をおっしゃる。

 私は母の友人達がするように、口元に手を当ててオホホと笑う。


「とても素敵なお背中で、目の保養でしたわ」


 あ、真っ赤になった。

 すると彼は少々乱暴な仕草で、あら、空中から取り出した? バスローブに袖を通して体を隠す。

 再び私に振り返ったダミアンは、出会った時と同じ無表情顔だったが、顔はゆで上がったエビみたいに真っ赤である。彼はずかずかと私に向かって歩いて来て、少々乱暴に私の脇を通ってバスタブがあるお風呂場の奥へと進んでいった。


 彼は、それで、風呂場の隅っこに壁に両手をついた姿で立つ。


「私が魔力を補給する。君は好きなように入れ」


「す、好きなようにって」


「君が望めば湯は出てくる。石鹸も何だって、君が望めば手に入る」


 でも、と私はダミアンの背中へと顔を向ける。


「私を気にするな。単なる石ころに思え」


「気になりますって。……でも、あなたの魔力が無いとお風呂は使えないのね。それで、望みは、ええと想像するの?」


「命令するんだ。湯を満たせ。バスキューブを出せ」


 ジャー、ガコン。


 ダミアンの声に合わせ、金属獣の口からお湯が迸り、タイルの壁でしかなかったところから私の肩幅の横幅がある引き出しが引き出された。その中には花模様のペーパーで包まれた石鹸やバスキューブが数個ずつ入っていた。


「すごい」


 私は魔法の引き出しに顔を近づけて、バスキューブや石鹸の香りを嗅ぐ。

 それぞれの香りが混じって、花束となった香りが私の鼻腔をくすぐる。


「ペーパーに描かれたお花の香りなのね。ダミアンはどの香りが好きなの?」


「君が好む香りだ」


「よし」


 私は自分が一番好きなものでは無く、知らない花の模様がある物を取った。

 ツバキでもなくバラでもない、白くてきれいな花だ。

 ペーパーを剥がすとふわっと甘い香りが広がり、私は少々香りが強すぎたと思いながらバスキューブを湯の中に落とす。お湯の中でシュワっと弾けて、香りをバスルームに充満させた。


「ガーデニアか。君はこの花が好きか」


 ダミアンの声は心なしか弾んでいた。

 彼こそ大好きな花だった?


「知らない花よ。せっかくなら知らないお花を試したくなったの。ラベンダーやバラはいつでも手に入るわ」


「君らしいな。そして素晴らしい考え方だ。私も見習おう」


 そこまで褒めてくれなくても!!

 単に貧乏性よ。手に入った機会は最大限に活用しましょう、それだけ。

 でも褒められて嬉しくないわけはない。そして私は単純で、私は冒険に飢えていた。ええ、認めるわ。同じ毎日、同じ場所の行ったり来たりだけ。だから誘拐されているのに、本気で家に帰りたいと私は絶望をしないんだわ。


 私はバスルームの端にいるダミアンを見返し、彼の背中が頑として動きはしないという妙な確信というか信頼を感じた。だから、私はドレスに手をかける。


 …………後ろボタンだった。


 どうする?


 広い広いバスタブには、どんどんとお湯が溜まって行く。

 ガーデニアという名の花の甘い香りが、包まれたいでしょう、と私を誘う。


 どうする?


「私とダミアンは夫婦なのよね!!」


「そ、その通りだ」


「目隠しに出来る布は持ってる?」


 ピタッと、湯が止まる。

 ダミアンの時間も止まってしまった、みたい。

 決して振り向くはずは無いと思った彼が、私へと顔を向けて固まっている。

 私は女王様みたいにして、物凄く偉そうにぐっと顎を上げた。

ガーデニア=くちなし 花言葉は「喜びを運ぶ」

貴族男性の嗜みでダミアンは花言葉を知っているので、イゼルがガーデニアを選んだ事でウッキウッキになったのです。イゼルが選んだ理由は、全く花言葉など考えておらず(性格的に覚えていないし拘らない)、普段使えないものを冒険しちゃおう、でしか無いです。

だがそこがいい(ダミアン談)


2024/12/31 15:53 見直し、あれ、ダミアンが喜んでいる様子が無い? 消してた? たった二行ですが消してしまってた文を追加修正しました。

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