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加点方式と減点方式について

 私はダウンズベリーの宿屋のトイレに自動魔法が掛かっていると知った事で、数年前の過去に自分が引き戻されていた。


 貴族間のお茶会に招かれた時、自分に魔力が無いから使用人用の手洗いを貸して貰う事になったこと。生活魔法が使えない事で王都の学校への進学が叶わなかった事。私は仕方が無いことだと受け入れていた、そう思っていた。


 生活魔法も使えない魔力無しなんだから、領地の外で生きることは諦めろって。


 なのに、諦める必要など無かった?


 そして今、ダミアンが首から解いたクラヴァットを私の頬に当ててくれている。


 私は泣いていたの? あの日の私は大したことじゃないって顔をしていたし、領地で仲良くしていた子達が仲良く王都に旅立っていく姿を笑って見送った日も、私は本当は泣いていたのかしら。

 そんなみっともない姿を晒していたかしら。

 なんてことは無いって思ってたのに、本当は泣くほど辛かったのかしら。


「友人と同じ学校に行けなかったか。辛かったな」


「勉強はどこでもできるわ」


「群れからはぐれた生き物は辛いものだ」


「言い方。でも、ありがとう。それで、ふふ、着換えも無い旅路なのに、あなたのクラヴァットを台無しにしてしまったわね」


「着替えが無いのは君だけだ。私の領地帰りはいつものことで、着換えはちゃんと持ってきている。安心しろ」


 そうだった。

 誘拐さえも計画通りのダミアン一行が、着替えが無い、なんてはずは無かった。

 私は苛立ちのままダミアンの手からクラヴァットを乱暴に奪い、自分の顔に残る涙を乱暴に拭った。繊細なシルク生地が台無しになるぐらいに。


「ハンカチがあればあなたのクラヴァットを台無しにしないで済んだわね。あなたも、次からはハンカチぐらいお持ちなさいな」


 ダミアンは私の手からするっとクラヴァットを引き抜く。

 それから再び大事そうに自分の首に巻くでは無いか。


「妻の涙が染みたクラヴァットだ。私のここぞの時の品となった」


 ぞわッと来た。

 NEW⑩私の涙が染み込んだクラヴァットは勝負クラヴァットに変わります


「うわあああ。やめて!!そんな変態なことやめて!!」


 ダミアンからクラヴァットを奪い返さねばと、私は彼に飛び掛かる。

 だが、彼が私如きに戦利品を奪われるだろうか。

 そして、彼にとっての本当の戦利品は何だったのか。


 私はベッドにダミアンを押し倒す格好となっていた。

 なんてこと!!

 私にその気があれば突き進む宣言した人を、私は自分の体で押し潰している。


「あ、あああああ」


 ぶふっ!!


 ダミアンは私の慌てぶりに吹き出し、それから、こんな感じか、と呟いた。

 こんな感じ、とは?――はっ!!


「胸が小さくて悪かったわね」


「君は私の為に大きな胸であれば良かったと思ってくれるのか?」


「ち、違うわよ! 一般的に男性は大きな胸が好きらしいから、私の胸にがっかりされたんじゃないかしらって、ああ、違う!」


 何を言っているの私は!!

 まさに、ダミアンが言った事を肯定するみたいな台詞になっている。

 そうじゃなくて、小さいって侮辱された事にムカついたって、はっきり言って分からせてやらなきゃ。


「あのね」

「女性に押し倒される、私も知りたかっただけだ。あいつらの自慢を聞くばかりだったからね」


 何も言えなくなった。

 私がマットレス状態にしている男性は、女性人気のお友達の釣果自慢やら経験自慢を自分も体験したかったと告白したのだ。


 わかる。そこは共感できる。

 学校の長期休みで帰って来た子達とお茶会をすれば、いつだって出会った男性達についての報告会になっていたのだから。


 そうよ、私だって経験したかった。


 私はダミアンの額をパシッと叩いた。

 それから、自分の顔など見せたくないと、彼の胸に顔を埋めた。


「イゼル?」


「どうして普通に挨拶に来てくれなかったの? どうして普通に観劇やパーティに誘ってくれなかったの? 私だって、私だって、そんな風にして求婚してもらいたかった」


 私の背中にダミアンの両手がそっと乗った。

 抱きしめる、ではなく、ただ慰めるために手を置いた、そんな感じに。

 もしかしたら彼こそ自分の胸を押さえたいのかもしれないが。

 だって、ダミアンの心臓の音が煩い。

 ドンドンドンドンと、力強く鳴っているのだ。


「誘ったら、君は断るだろう」


「どうして決めつけるの。あなたは最初から私を理解する気も無いんだわ」


「君は私を理解してくれるのか?」


「普通に求婚してくれたら」


「普通に君が断れる選択肢もできるな。それは選ばせたくない」


「どうして私だったの」


「私にもわからない。魔が差した?」


「ひどい!!」


「ハハハ。天啓の方だな。だが誘拐しなきゃと思い込んだからな、魔が差したと言う方が正しい状況の気がする」


「ふふ。本当にそうだわ。ろくでなし」


「ハハハ。本当に君は私を後悔させないな。君を知るごとに、私は君が可愛らしくて堪らなくなる。お陰で反省するどころか、自分をよくやったと褒めてしまうばかりだよ」


「ふふ。そう言えば聞いた事があるわ。男性は加点方式だって。でもね、女性は減点方式なの。絶対に加算はしない。どんどん、どんどん減点していくだけなの。だから、だから、マイナス一万点ぐらいになる誘拐なんて、最初の出会いにするべきじゃなかったのよ」


 私の頭にダミアンの左手が乗った。

 勝手に頭に触るなと怒るべきだが、私こそダミアンの胸に顔を埋めている。

 父だって持っていない上等な生地でできた上着を、私の涙で台無しにしている。


 だから、許した。


 いいえ、ダミアンの胸に顔を埋めていたから、私の頭に彼の手が触れた瞬間に彼が吐いた安堵の溜息の音が聞こえたからだ。

 私の孤児院の子供達が、私に抱き着いて来た時に私が彼等を振り払わなかった時に吐いた、あの溜息と同じだったから。

 抱き返してもいない、振り払われなかっただけなのよ。

 それだけでほっと安堵するぐらいに、あの子達は傷ついていたってことなのよ。


「ありがとう。私を嫌うのを私の行動のせいだけにしてくれて。出会いを間違わなければ君が私を愛したと勘違いしていられる、ぐふっ」


 私は思いっ切りダミアンの胸を拳で叩いたのだ。

 可哀想を前面に出すのは卑怯だ。

 私があなたを嫌えなくなるじゃないの!!


「この馬鹿!!こういう時は、観劇やパーティに誘うから許してって言うのよ。加点したくなるように頑張るって言うのよ。この馬鹿!!」


「ハハハ、ハハハハ」


 私の頭に合ったダミアンの左手が消えた。

 彼のその手は彼の目元を隠していた。

 彼は笑い声を立ててはいるが、恐らく、泣いていた。

イゼルさんは、弱った人や傷つきやすい人にはやり返せない人です。

だから、気合い入れろおおお、ダミアン!!な感じ。

ヽ(○`Д´)ノ┌┛)゜д゜)ノブホッ

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