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ダウンズベリーの部屋と私とダミアン

 目を覚ました私に最初に見えたものは、水色の空、であった。

 本物の空ではなく、天井に描かれただけの晴天だ。

 室内天井が単なる水色に塗られただけでしか無いのだが、それが空に見えるのは天井に接する壁の隅部に金色に塗られた貝や小鳥や花々のモチーフがあるからだろう。それらが、まるで太陽の輝きを受けた浮雲に見立てられるのだ。


「気分はどうだ?」


 空には飛竜もいるようだ。いいえ、天使かしら。

 ダミアンが私を見下ろしていた。

 整った顔立ちと彼独特のピーコックブルーの瞳、室内照明を受けて輝く金色の髪が、彼を至高の存在に演出していた。

 私にしてくれた事は、ろくでもない事ばかりだけど。


「また魔法で眠らせたのね?」


「約束通り起こしたよ。まず、風呂にするか? 夕飯が良いか?」


 私は勢いよく上半身を起こし、ダミアンに連れ込まれた部屋を見回した。

 私が横たえられていたのは、天蓋もついているクイーンサイズのベッド。

 しかし部屋の広さはこのベッドを置くには少々狭いとしか言えない。


 言い方を変えれば、ベッドしか無い部屋、である。


 ベッドに横になっていた私を基準に部屋を見れば、右手にはカーテンが閉め切られている大きな窓があり、左手側は壁だが中央に両開きのドアがある。その両開きのドアは廊下か別の部屋に続くもので、足先方向にある二つのドアは、洗面室かクローゼット、あるいは別の部屋だろうか。


「ここ、宿屋、なの?」


「ああ。私が毎回利用している場所だ。満室で二部屋は無理だった」


「もしかして宿の満室理由は、黒覆面部隊に王弟がいたから?」


「その通り。我々の馬車を守るように彼らがいたが、実は彼らを守る護衛達も離れた位置から取り巻いていた」


 私が嘔吐してたり、はしたなく左足を掲げて転びかけたりしてた姿を、ダミアンとそのお友達だけでなく、数多くの護衛騎士達も見ていたってことね。


 とりあえず既婚者で良かったと、ダミアンとの結婚の事実を初めて喜ぶことになるなんて。でも、単なる婚約者でその婚約が無しになった場合、そんな醜態を沢山の男性に見守られていた私は、絶対に結婚できない傷ものと言えよう。


「どうした?」


 私が羞恥で顔を覆うどころかドレスごしに股部分を両手で押さえたから、私の素振りにダミアンが疑問を感じたのだろう。


「虫でも下着に入って来たか?」


「ち、が、い、ま、す。破廉恥な足枷魔法で左足を高々持ち上げられましたから、スカートの中身を見た人がいるんじゃないかなって、急に思い当たりましたの」


 ハハハハ。


 ダミアンが笑い声を立てたが、物凄く物騒に聞こえたのはなぜだろう。

 え? 私の横に腰かけたダミアンが、宙に右手でぐるっと円を描いた?

 それで描いた円の中を指先でツンツン突いている?


「ダミアン? 何を始めたの?」


「護衛官達の配置を確認している。君のスカートの中を覗ける位置にいた奴らを処罰せねばならんからな」


 むさくるしい男達の生首が並ぶ光景を想像した。

 私はこれはいけないと脅え、ダミアンを押しのけながらベッドから飛び降りる。


「イゼル?」


「あ、ああ、お腹空いたなって。あ、あと、そう、よ、用足しよ!!」


 貴族の娘として躾けられた私が、男性に下事情について平気で言えるようになっているなんて。それでも私の申告が役立ったのか。ダミアンは血祭りにあげる護衛官探しを止め、魔法を使用していた指先をドアを指し示すのに使った。


「あ、そこね!!」


 私は二つあるドアの内、窓がある側にあるドアへと向かう。

 そして、ドアを急いで開け、急いでドアを閉めて鍵まで掛けた。

 けれど、私の口はポカンと空きっぱなしになった。


「何このお風呂」


 真正面の壁は高級な異国の絵柄の入ったタイルが貼られているが、中央には口を開けた金色の獣のオブジェが設置されている。

 そのオブジェの下には、陶器でできた大きな半円形の水受けがある。

 噴水みたいに大きなお風呂、だ。


 こんな様式のお風呂など見たことない。


 また、お風呂場を半分隠すようにガラスの衝立壁があるのだが、その壁がある部屋側となるスペースには、用を足すための便座があった。


 体がぶるっと震えた。

 私の視界に便座の存在が認められた途端に、私の体が用足しが必要だと思い出したようなのだ。


 …………漏らすわけには、いかない。


 私は恐る恐ると便座に座り…………はあ。


 さて、無事に用を足せて気が付いたが、どうやら私は生活魔法が使えるらしい。

 水を流すためのレバーを探す間もなく、勝手に水が流れたのだ。

 私は不思議に思ったまま首を傾げ、自分の視線は自分の左足首に止まる。


 もしかして? いえ、絶対そう!!


 私は苛立ちのままドアを開けて部屋へと飛び出していた。


「ダミア」

「どうした!!問題があったか?」


 ダミアンこそ私に声を上げた。

 真っ赤な顔で。

 真赤? 確定だわ!!


「顔が真っ赤って。ああやっぱり、魔法で覗いていた? 水を流したりとか、手を洗うための水を出したり、私にはできないサポートをするために?」


 私は恥ずかしさのままベッドに転がる枕を掴み、ダミアンに向かって投げ付ける。当たり前だが、ダミアンは枕にぶつかってくれなかった。犬が投げたボールをキャッチするように、当たり前のように飛んできた枕を受け取っただけである。


「もう!!ぶつかっておきなさいよ。私が困らないようにって気遣いかもしれないけど、気遣いなら違う方法をとって欲しかったわ。確かにギリギリだったけど」


 ぶふっ。


「ひどい、笑うなんて!!」


「ハハハ。君は本当に可愛いらしい」


「もう!!子供みたいだから何しても平気だと」


「違う。自動魔法って知っているかな。意識がはっきりしなくても使用してしまう場所にはね、粗相がないように自動魔法が掛かっているんだよ」


「え、でも。私が昔お茶会で招かれたお家は、魔力が無ければ使えなかったわ。粗相をするわけにもいかないから、使用人用の場所を使わせていただいたのよ。だから、だから私は王都の学院のどれにも進学できなかったし、同じ世代の方からのお呼ばれも気軽に受けられなかったのよ」


「辛かったな」


 頬に柔らかい布があてられた。

 ダミアンが首に巻いていたクラヴァットだった。

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