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黒覆面部隊とダミアン

 ダミアンが父親と交信魔法を終えたそのすぐ後に、三人の男性達ががやがやと騒々しく話し声を立てながらダミアンに向かって歩いて来た。

 ダミアンは彼等の姿を認めるや、眠るイゼルに自分のマントを巻きつけ直す。

 彼らが親友だろうが、イゼルの可愛い寝顔を見せたくはない、という独占欲だ。


「おい、奥さんがどうかしたのか?」


 赤い髪に印象的な緑色の瞳を持つ男が、本気で心配する声を上げる。

 ダミアンはその声を上げた人物、従兄であり軍では重騎兵団の団長でもあるユーベル・ゴーライエンへとすまし顔を向けた。


「どうもしない。イゼルは疲れて寝ているだけだ。お前達が遅くてな」


「仕方が無いだろ。自分がプリンスだと理解しない奴を宿に置いてくるのに一苦労だったんだよ。お守りのはずのジェフリーこそ来たがるしさ」


 ユーベルは王弟のアランに対して不敬そのものとなるセリフを吐くや、ニヤリとダミアンに笑って見せた。

 ダミアンは、相変わらず顔がいいなと、従兄(ユーベル)の笑顔を羨ましく思った。

 近しい親族であるために体格は二人とも似ているが、髪色が全く違うようにユーベルとダミアンは気性が全く違う。ユーベルの方がダミアンの父の性格に似ていると、ダミアンはいつもよりも強くうんざり思った。


 ユーベルの顔にも竜の印があれば、こんな無邪気そうな笑顔など作れまいに。


 しかしダミアンは親友に向ける負の感情をいつものように覆い隠し、いつものようにして高慢そうな声音でユーベルに言い返す。


「アランも連れてきてやれば良かったじゃないか。この有様を後で報告する必要など無くなるぞ。ついでに、無力で従順であった人間がいつでも凶器になり得ると、心に刻んで貰えるやも、だ」


 ユーベルこそ、ダミアンの偉ぶった言い方を、いつもの彼のものだと流した。

 ゴーライエン家の一員であり軍では重騎兵団団長であるユーベルならば、ゴーライエン家当主で陸軍大将であるダミアンの高慢そうな物言いなど、聞き慣れたいつものものだからだ。

 だからか、ユーベルのダミアンに返す声音は、軽薄そのものであった。


「君は深く刻み過ぎだけどねえ。難しいのは今回は無し。俺達は学生気分のまま、君の結婚祝いと君と花嫁の見守りだけがしたい。アランの見守りはしたくない」


「そう、ユーベルの言う通り。アランが出てきたら、今回の報告がまた面倒になるぞ。ダミアン、君こそ旅の足を止めたいかな?」


「アハハ。そうそう。バートレットの言う通り!!だけどさ、バートレット、アランを連れてきた方が君の身の安全だったんじゃないの? 君は足枷製作者。アランこそ結婚成就のための書類作成の立役者じゃない。イゼルちゃんの目を逸らせるぞ」


「ハハハ、フィオンの言う通り。君はイゼルちゃんにぶち殺しの宣言を受けているものな!!」


 ユーベルの軽口を皮切りに、あとの男二人も悪乗りする。

 イゼルにぶち殺してやりたいと名指しされたバートレット・デミエステオールと、ダルバーンの結婚によって親族となったフィオン・ガザリキアである。

 バートレットは黒髪と金色に輝いて見える琥珀色の瞳が魔性だと有名な美貌の主であり、フィオンはミルクティー色のサラサラな髪に水色の瞳の組み合わせの、年齢よりも若く見える童顔な青年だ。


「で、君が奥方を眠らせてくれたのは、私の身を案じてくれたからかな」


 バートレットはダミアンに悪戯っぽく笑う。

 ダミアンは、バートレットの笑みが貴婦人達が噂しているように、女性を蕩かせるものなのだな、と思った。

 私の笑みなど、魔獣でも失禁すると部下達が噂するものでしかないのにな。


「いいや。これからの面倒話を妻に聞かせたくないだけだ」


「ああ、全く真面目君だ」


「同意だよ、フィオン。だがこの状況を見れば、そうも言ってられないな」


「――確かにな。バートレット。ダミアンがいてこれって、人喰い(アスワング)になった人間の脅威度が増したって事じゃないか」


 ユーベルが怒ったような声を上げた。

 フィオンはユーベルの言葉に同調するように、この惨状を見て見ろと、首を回して室内の様子を見回す動作をする。


 壁は壁紙が剥がれているだけでなく、巨大な魔獣の爪で引っかかれたような深い刻みがそこかしこにある。天井も同じ。ダミアンとイゼルを最初に襲った巨大刃が飛び出て来た部屋は、扉などどこにもない状態で、瓦礫が壁や天井に刺さり、床には大穴を開けている、という情景を曝け出しているのだ。


「君がこんなに大苦戦するほどって、そこで死体となっているアスワングは、一体何人の人間を腹に納めたんだろうね」


 少年にも見える童顔で線の細い青年、フィオンは、そんな外見からは考えられない老練な顔つきとなる。彼は軽薄そうな外見と違い、人の魔獣化についての研究が主な学者で医師なのである。


「すまない。少しばかり手を抜いて、わざとアスワングを暴れさせたんだ」


「どうしてそんなことを」


「フィオン、追及してやるな。我らのダミアンは、ジェフリーの言葉の実践をしたんだよ。後がない状況でそれをひっくり返して見せると、どんな女も賞賛して惚れてくれるってやつ。ダミアンは、イゼルちゃんの為にひと芝居頑張ったってことさ。で、どうだった?」


「黙れ、ユーベル」


「そうだよ。君は余計な事を言うべきではないよ。君のせいで毒ニンジンなんて危険な代物をダミアンがカーネシリア嬢に使っちゃったんじゃないか」


「おいおい。フィオン、俺のせいじゃないよ。俺は女を落とす時は弱い所をつけと言っただけだ。落ち込んでいる時に囁くように慰めるのもいい手だってね」


「それだけでないでしょ。君が付け足した軽口、魔獣をティムする時もまず弱らせてからだろ。が、ダミアンの中で一人歩きしちゃったんだよ。反省して」


「フィオン。ユーベルを責めても仕方が無い。悪いのはダミアンだ。重罪人に使用する足枷魔法を、妻の足に嵌めようと考える奴なんだ。止めても止まらん。出来る限り無害なものに改造するのに、どれだけ私が苦労したと思っているんだ」


「え、バートレット。君こそノリノリだった気がする」


「フィオン、お前もか。偶然だな、俺もそんなだった気がするよ」


「とにかく、ダミアンが妻には聞かせたくないお話とやらを、まずは聞こう」


「では話す。まず、私はここに叔母が住んでいないことは知らなかった。知らなかったのでこの館に叔母宛で妻を連れて行くという手紙を送った。そしてアスワングに襲われて倒した。その結果としてアスワングの死体はそこで転がっているわけだが、ここで問題だ。叔母の結婚は父が再婚した年だった。そして叔母は結婚後はここを空き家にしていたという。では、」


「言うな!!ダミアン!!」

「そう。アスワングの死体処理も報告書も俺達がしておくから何も言うな!!」

「そうだ言うんじゃない。この家が空き家となった六年の間に、棲み付いたアスワングがこの館で人を何人喰って来たのか、なんて、考えるんじゃない!!」


 三人の男達は一斉にダミアンに向けて吼えたが、ダミアン含めた三対の視線はユーベルにだけに注がれた。ユーベルは自分が言い過ぎた事に気が付き、右手で自分のお喋りな口元を抑える。


「決まりだな。たった今ユーベルが言った事を簡単でも調べておいてくれ。この館を賃貸として借りていて行方不明になった者がいるか、あるいは、六年間でこの町で失踪者はどれだけいたか、程度で良い」


親友達のうんざりした視線は全部ダミアンに向かい、彼らの視線を浴びたダミアンは、決まったな、と口角を上げる。


「頼んだよ。私は新妻と大事な時間を過ごしたい。君達の茶々無しでね」


 ダミアンはイゼルを抱き直し、座っていた椅子から立ち上がる。

 それから彼は無造作に歩き出す。


「おい、ダミアン」

「友達がいないじゃないか!!」


 後ろからユーベルとフィオンの声が響いたが、ダミアンは足を止めなかった。

 なぜならば、足を止めたら彼らに尋ねねばならないからだ。


 君達はこの館にアガット叔母がいないことを知っていた、だろう? と。

ダウンズベリーの屋敷にアガット叔母がいないことを父親の再婚相手の実家親戚であるフィオンが知らないわけはなく、ユーベルこそ知らないならばふざけた状態でやって来る事は無いのです。

知らぬを通すなら、六年の間にアガット叔母の屋敷で何が起きたのかしっかり調べて報告しやがれ、そうしたら騙されたまま不問にしてやる、というダミアンの気持でした。

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