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レグルスレグルス、私の小さき王よ

 人喰いハウスメイドを倒したダミアンは、出した時のように剣を空間に放り投げて消した後、私から背中を向けると物凄いぼそぼそ声で何やら囁き出した。


「レーグルス、レーグルスよ、小さき王」


 詩?

 どうして急に? はっ、殺してしまった人への鎮魂歌? それで残虐だと認識した私には聞かせないようにしている?


 だがしかし、男性の低い声は意外と聞こえるものだと彼は知らないのだろうか。

 そしてダミアンの声は、犯罪者にしておくのももったいないぐらいに、私の腰骨に響くぐらいにとても素晴らしい声でもあった。


 絶対褒めてやらないけれど。


 だから私はダミアンの囁き声に耳を澄ませた。

 男性の滑らかで素晴らしい声による詩の朗読の鑑賞は、女性が大好きな娯楽である。我が家でも父を囲んでの詩の鑑賞会が、何度も何度も開かれている。

 父も素敵な声なのよね。


 さて。


 朝を知らせ宵の帳を嘆くシルフに愛されし小さき光。

 頭頂に頂く花は冠であり、君が運ぶ希望である?


 魔獣化した人にむける鎮魂歌にしては可愛らしく、まるで恋人に捧げるような言葉では無いかしら?

 結局、こっそりどころか私はもっとしっかり聞こうと、ダミアンの前に出てしまった。が、丁度詩の暗唱は終わった所だった。


 魔法の詠唱、だったらしい。


 彼が最後の言葉らしく最初の言葉を繰り返し、それから自分の右手の人差し指にちゅっとキスすると、まあ!!

 彼の指先に小さなオリーブ色の小鳥が出現したわ!!

 小さな小鳥の頭の天辺には、小さな黄色の花が乗っている。


「なんて可愛い小鳥」


「ああ。可愛いがこれは通信鳥だ。この状況の後始末をしなければいけないからね、友人達を呼ぼうとね。彼らが来たら我々は宿屋に行こう」


 ダミアンの指先にとまっていた小さな小鳥は、ぱっと飛び上って消えた。

 あとはダミアンの友人が来るのを待つだけとなったが、私はその可愛い魔法の行き先について首を傾げる。


「あなたのご友人達? 王都からここまで時間がかかりませんか? あ、魔法で一瞬で移動ができますの?」


 ダミアンは、ハア、と嫌そうに溜息を吐いた。

 彼は私が人でなしだと戦闘中に認定したようだから、私についてぞんざいな扱いになったのかしら? だったら結婚破棄してくれればいいのに。いいえ、毒ニンジン嗅がせたりは、ぞんざい所の話じゃないんじゃないの?


 彼は私に気兼ねなく色々出来るから私を手放したくないのかしら?


 え? もっと何かされちゃう?


「ダミアン。あなたは私にどんなことをしちゃいたいの?」

「私達と一緒に旅している黒覆面が友人達だ」


「え?」

「え?」


「あの黒覆面がご友人達だったの?」

「言えばさせてくれるのか?」


「え?」

「え?」


 私達は顔を合わせ(ダミアンは物凄く真っ赤な顔ですけれど)、このままでは会話にならないと、先にどうぞと互いに譲り合う。だがしかし、黒覆面隊がダミアンの友人だったことよりも、ダミアンが私にしたい事を聞く方が私のためだ。


 そう、この先個人的な付き合いなどダミアンの友人とは私は考えていないのだから、黒覆面部隊の情報などどうでも良い。


「あなたが私にしたい事を聞きたいわ」


 足枷を嵌められ、毒ニンジンを嗅がされ、誘拐された、私としては、これから受けるかもしれない無体を受けないで済むなら受けないでいたい。


 ダミアンは、ヒュッと音を立てて吸い込むと、まるで今から死ねと命令された新兵みたいに両目は泳ぎしどろもどろになった。


「今すぐでなくともよいが、出来るならば一日も早くとは望んでいる。やはり、夫と妻となったのだから、褥を共にできるならばしたいと」


 言葉通り、したいこと、だった。

 このままダミアンに喋らせておくと、私が彼を死体にしてやりたくなる。

 そしてそんな考えを抱けば、足枷によって私が転がされてしまう。

 話題の変更だ!!


「ご友人がいらっしゃるなら、帰りは誰かの馬に乗せて貰えますわね。私は外に待たせたままの馬車で、教会の宿坊に向かっていいかしら。疲れてしまったの」


 ダミアンは、はっとした顔をした。

 彼の閃いたって顔つきで、私こそ余計な事を言ってしまったとすぐさま後悔だ。

 だって、今まで彼が閃いたらしきことは、私こそが迷惑被っていることばかりだったのよ。余計な事を言ってしまうなんて、学習能力のない私の馬鹿!!


「私の腕の中で眠っていいぞ。眠ってしまった君を私が宿屋のベッドに運ぶし、ちゃんと風呂にも入れてやる。気兼ねなど不要だ。君は妻だからな」


「そうきたか!!」


 私の「魔力無しは魔道具設備では水一滴出せない」という一言から、どうやら彼は「奥さんとお風呂に一緒に入る」という夢を抱いてしまったようである。


「さあ、俺の膝に」


 私が色々考えている間、ダミアンこそ色々用意していたようだ。

 彼は廊下に置いてある適当な椅子を持ってきて座り、私に向かって両腕を広げているでは無いか。――マントを脱いでいるのは、毛布代わりにそれで私を包むつもりなのね。


「イゼル? 気にせずにおいで」


「あなたのお友達にそんな姿は見られたくは無いわ」


「――そうだな。私の様な男に抱かれている姿など、私の友人には見せたくはないな。あいつらはどいつもこいつも気が良い奴らだが、どいつもこいつも女性の夢の男性らしいからな」


「もしかして、お友達としてバートラム卿も黒覆面隊にいたのかしら?」


「ああ。あとは近衛のジェフリー。王弟のアラン。私の親族でもある、ユーベルとフィオン。そして宰相補佐のベルフォード」


「顔は知らなくても名前は誰でも知っている方々が、無造作に馬車の周りを走っていたのね。道理で普通の護衛らしくないと思った」


「君に今まで紹介しなかったのは、彼等の身元を隠す必要もあったが、彼らの素顔を君に見せたくなかったからだ。私が夫という不幸が、さらに辛く感じるだろ」


 私はきゅっと歯噛みする。

 ダミアンの自己評価が低いのは、友人達が女性人気の高い方々ばかりだったこともあるのだろう。社交場で六人の友人達が女性達に囲まれる中、ダミアンだけ一人ぼっちで人の輪から外れていたのかしら。


 想像した途端に、私の胸の奥がズキッと痛んだ。

 目頭だって傷んで来た、なんて。


「これは疲れているからよ!!」

「うお!!」


 私の急な大声にダミアンは驚き、次には石像の如く固まった。

 私が彼の膝の上に転がったから。


「私が寒くないようにちゃんとマントで包んで下さいな。あと、絶対に落とさないで。それから、宿屋に着いたら、絶対に起こす事。私の意識が無い状態で私をお風呂に入れたら、私のベッドには一生入れてあげませんからね、ってあぷ」


 ダミアンは私をマントで包んでしまった。

 真っ暗になった視界の中、まるで赤ん坊を抱くように私を抱きしめるダミアンの手の温かさこそ強く感じた。


 だから、ありがとう、と私に囁いたダミアンの声が涙声だったことについて、私は気付いていないことにした。

れーぐるす・れーぐるす キクイタダキさんの学名です。

頭に菊の花びらを乗せている小鳥です。

怒るとぴょいと花びらみたいな頭の黄色の羽が持ち上がります。


ダミアンはイケボです。

行動が常軌を逸しているので、イケボであることを褒める場面が無かったので、ここで、です。

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