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白い蝶と赤い花

掲載日:2010/02/01

青空の下を、一羽の蝶が飛んでいました。

昨日までさなぎだった、蝶でした。

その蝶の眼には、空からのこの世界の風景が、すべてが新鮮なものに映りました。

その蝶は、先輩蝶々と一緒に、花の蜜を求めて、飛んできました。

しかし、目新しいものに心を惹かれているうちに、ひとりぼっちになってしまったのです。

まだよく分からない世界で、ひとりぼっちになってしまったのです。

怖くないわけがありません。

蝶は必死で、先輩蝶々の姿を探します。

しかし、そうしているうちにも、空の色は、変わってきます。

先ほどまでの綺麗な青から、だんだんと黒くなってきました。

次第に、雨雲が、この世界を覆いつくしてしまったのです。

蝶は、頬に何か冷たいものを感じました。

雨の雫です。

大量の雨粒が、蝶の羽を濡らそうとしています。

蝶は、困ってしまいました。

まだ、うまく飛べない上に、雨に濡れてしまったら、大変です。

しかし、そんな蝶に1つの声がかかりました。

「蝶さん、白い羽の蝶さん。ぼくのところにおいでよ。」

その声は、一輪の花の声でした。

蝶は、その声のもとに飛んでいきます。

一輪の花は、蝶の傘になってくれました。

雨におびえる蝶に、話しかけ、怖がっていた蝶を励ましてくれました。

楽しい話で、笑顔にしてくれました。


 雨は、通り雨だったようです。

黒い雨雲がなくなり、空には、再び、太陽が顔を出しました。

少しだけ濡れてしまった蝶の羽も、すっかり乾いています。

蝶は、

「ありがとう。」

そう、お礼を告げると、一輪の花のもとを去って行きました。


 次の日、白い羽の蝶は、昨日の花に、もう一度お礼が言いたくて、再び、一輪の花のものを訪ねました。

昨日は、よく見えませんでしたが、一輪の花は、赤い色をした、綺麗な花でした。

蝶は、一瞬、その美しさに見惚れてしまいます。

 

蝶は、言いました。

「昨日は、本当に、ありがとう。綺麗な、綺麗な、赤い花さん。」

「いえ、いえ。ぼくも、蝶さんと話ができて、楽しかったよ。ありがとう。そうだ、きみにぼくの蜜を分けてあげるよ。」

「本当に?ありがとう。」

蝶は、そう言って、赤い花の蜜を吸いました。

それは、甘い、甘い蜜でした。

その蜜があまりにおいしかったため、蝶は、次の日も、そして次の日も、赤い花に会いに行ったのです。

蝶が会いに行くと、赤い花は、いつも笑顔出迎えてくれました。

そして、白い羽の蝶と、赤い花は、一緒に話すようになりました。

何日も一緒に話して、蝶は、あることに気がついたのです。

赤い花の話には、よく、白い花が出てくるということです。

蝶は、赤い花に聞いてみました。

「ねぇ、赤い花さん。赤い花さんは、白い花さんが好きなの?」

と。

すると、赤い花は、もとから赤い花びらを、さらに赤らめます。

そして、小さくうなずき、

「うん。」

と、言いました。


 次の日から、白い羽の蝶は、赤い花のところに行かなくなりました。

赤い花の、甘い蜜が欲しいのだけれども、なぜか、羽をうまく動かすことができないのです。

そして、そうなって、ようやく気がつきました。

赤い花が、白い花を好きなように、蝶も、赤い花を好きだったのです。


 「風さん、風さん、聞こえている?」

蝶は、風に問いました。

「ああ、聞こえているよ。小さな、小さな、白い蝶さん。」

「ねぇ、頼みがあるのだけども、・・・風さん、聞いてくれますか?」

「ああ、いいとも。言ってごらん。」

「最近、わたしが一緒にいた、赤い花さんを風さんは知っている?」

「ああ、知っているとも。綺麗な赤い花だろう?」

「ええ、そうよ。あのね、風さん。あの赤い花さんの恋がうまくいったら、一番にわたしに教えてくれない?風の便りで。」

風は、少しだけ、首をかしげました。

蝶を見ている目が、「なぜそんなことを言うの?」と言っています。

でも、風は、蝶に何も聞かず、言いました。

「いいとも。いいとも。白い蝶さん。きみに一番に便りを持って行こう。」

「ええ、ありがとう。優しい、優しい、風さん。」

「そう言えば、赤い花がきみのことを心配していたよ。」

「・・・。」

蝶は、思わず黙ってしまいます。

「・・・元気にしているよって、伝えておいてもいいかい?」

「ええ。お願いします。」

そう言って、蝶は風に頭を下げました。

「ねぇ、白い蝶さん。」

「なに?」

「きっと、きみは幸せになれるよ。」

「ありがとう、ありがとう。優しい、優しい、風さん。」

少しだけ涙を流し、それでも、蝶は、そう言いました。

「どういたしまして。」

そう告げると、風は蝶のもとから去っていきました。

蝶の涙を拭きながら。


 ひとりになった、蝶は思います。

今はまだ、会いに行く勇気がないけれど、風の便りが来たら、赤い花に、一番に「おめでとうと」伝えよう、と。

「赤い花さん、わたしは元気です。まだ少しだけ、胸が痛いけど、あなたの幸せを祈っています。」

白い羽の蝶は、小さな声で、そう言いました。

その声を、優しい風は、聞こえていました。

そして、風は、蝶に聞こえない声で言ったのです。

「人間にとって、相手の気持ちがこちらを向いていなければ、恋心というものは、意味がないものになってしまうのだという。それは、蝶の世界でも同じだろう。

でもね、人間にとって、叶わなくても、恋することは素晴らしいことなのだという。

ねぇ、白い蝶さん。それは、きっと、蝶の世界でも、同じだろう?・・・恋をすることのできるきみは、きっと幸せになれるよ。」


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