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ネット小説大賞準グランプリ受賞短編+作品置き場

奴隷メイドは主人の性根を叩いて治したい。

作者: monaka

借金のカタに売り飛ばされてしまった少女美琴はとあるお金持ちの家に買われていく事に。


主人となった男が抵抗する権利のない少女に対し要求したものとは……?




念の為に書いておきますがこれは一応ラブコメです。



 

 どうしてこうなってしまったのだろう。

 私はただ平凡な家庭に生まれ平凡に生き平凡な結婚をして平凡な家庭を持ち平凡に死んでいく。そんな人生を送りたかっただけなのに。

 生まれた環境がそれを許さない。


「すまない……本当にすまない……っ!」


 父は情けなく涙をだらだらと流しながら私に謝罪の言葉を述べるbotと化している。


「俺が不甲斐ないばかりに……」


 本当にその通りだと思う。

 どこの世に一人娘を借金のカタに売り払う親が居るだろうか?

 今が時代劇に出てくるような時代ならともかくこの平和な令和の世で私は売り飛ばされる。

 しかも今現在進行形で私自ら誓約書にサインをさせられている。


 こんなろくでなしでも私の父なのだ。

 いや、別にこんな父が今更どうなろうと知ったことではないのだけれど、父が借金苦で自殺するならともかく蒸発でもされたら私は破滅だ。


 平和な令和の世とはいえ、中学生の私が一人で生きていけるほど世の中は甘くない。

 そして私はこの世に絶望して自殺をするほどの度胸もなければ死ぬ気で一人生き抜く為に地獄の人生を送る気もなかった。


 だから私も納得済みなのである。

 たとえ私が金持ちに買われてどんな扱いを受けようともまだマシだと思っている。

 そこで畜生のように酷い扱いを受けようと、性奴隷にされようとまだ先も見えない暗闇を一人突き進むよりマシだ。

 私は努力というものが大嫌いな自堕落人間なのである。

 こんな所ばかり父親に似てしまった事については本当に恨んでいるが、違う家庭に生まれた所で私はこうなっているという確信めいた予感がある。

 だって敷かれたレールの上を走っていれば平穏な人生が送れるというのであればそれに越したことはないのだ。


 でもアホでバカで甲斐性なしの父親のせいで私はレールから外れてしまった。

 だったら自分でレールの整備なんて面倒な事やってられるかっての。


「……はい、これでいいんでしょ?」


 私は契約書に中島美琴と署名をして、隣で私を見下ろしていた執事風の男性に手渡す。


「……はい、確かに。これで美琴様のお父上が抱えている4千850万の借金は道明寺家が肩代わり致します」


 驚いた。

 借金のかたに売られるのは分かっていたがこのアホ親父5千万近くも借金を抱えていたのか。

 そして驚きはもう一つ。

 私一人にその値段を出すこの道明寺家とやらはアホなのか?

 どう考えても釣り合いが取れていない。


「有難う御座います有難う御座います……」


 いや、クソ親父よ感謝の言葉より私に対する謝罪をもっと寄越せ。


 そんな値段で売られたのならば私はそれこそ何をされるか分かったもんじゃない。

 たとえば脳みそサイコってる御曹司に手足もがれて達磨にされた挙句はらわたほじくりかえされたりするやもしれん。

 終わった。楽な道を選んだからこうなる。

 人間やはり努力が大事なのだ真っ当に生きなければならなかったんだおしまいださようならお馬鹿で自堕落で不幸で自業自得で可愛らしくて美少女の私。来世に期待します。


 胸の中でこっそりこの世に別れを告げ、今更思い出したように私へ謝罪の言葉を漏らしている父へ振り返る事なく私は執事っぽい人と家を出た。

 普通の住宅街にめっちゃ長い高級そうな車が停まっている。テムジンとかリムジンとかいうやつだ。


 その黒光りする車に乗せられて窓の外をぼんやり眺めつつろくでもない人生の走馬灯を幻視しているうちに私は巨大なお屋敷に到着していた。


「後は頼みましたよ」


 車を降りると執事っぽい人がメイドっぽいおばさんに私を引き渡した。

 そのおばさんに引きずられるように屋敷へと連れて行かれあれやこれやという間に着替えさせられてとある部屋へと放り込まれた。


 そこに居たのは高校生か大学生くらいの男の人。背が高く割と整った顔をしているが服装はやたらとカチカチなブラウスに皺一つない紺のパンツ。しかもインしてる。

 オールバックに硬められた黒髪にインテリ感漂う眼鏡。

 見るからに御曹司ってやつだ。しかも性格悪そう。偏見だけど。


 そして私の今の姿は完全にメイド。これでもかってくらいメイドである。

 さっきのメイドおばさんはクラシカルな古き良きメイドスタイルだったのに私のはなんだかメイド喫茶みたいな少しミニ丈のメイド服だ。

 これは完全にこいつの趣味だなと私は思った。

 これで私の今後がどうなるのかはある程度だが想像がつく。

 どうやら人生終了ほどではなさそうだ。人としては終わりそうだけど。


「君か今日売られてきた女とやらは」


 ほらきた。こいつ絶対性格悪いわ。


「君は自分の状況を正しく理解しているか?」

「……はい」


 私のルートはこのボンボンの性奴隷コースまっしぐらだ。間違いない。


「僕の言葉は絶対。そうだな?」

「はい」

「僕に逆らえばどうなるか分かるな?」

「はい」


 しつこい。何をしても訴えられないように言質でもとってるつもりなんだろうか。


「つまり、だ」


 そこで彼はひと呼吸置き、ごくりと唾を飲み込む。


 あぁ、さようなら私の純潔。さようなら私の自尊心。


「ぼ、僕が何を相談しても他言しないな?」

「……はい?」


 今相談とか聞こえたけどなんかの聞き間違いだろうか?


「だから、僕が君にどんな事を相談しようと今の君の立場上誰にも言う事はできないよな? 逆らったら君の家族は」

「あ、はい。誰にも言いませんよ?」


 なんだ? 何か試されてる?


「そうだろうそうだろう。そこで絶対に逆らわず他言できない状態であるところの君におりいって相談があるのだが」

「……はぁ。なんですか?」


「そ、その……つまり、なんというか」


 彼は俯き口に手を当ててなんだか言いにくそうにしている。

 もしかしてあれか? エロいお願いをしたいけど思春期特有のアレで恥ずかしくて言い出せないとかそういうやつだろうか? 可愛い所もあるじゃないか。

 でも私はこういううじうじした態度が嫌いだ。どうせする事するなら潔く「やれ」と言われた方がマシである。


「どうしました? 恥ずかしがってないで言いたい事言ってください。どうせ私は逆らえないんですから」

「う、うむ……いや、しかしだな」


 もうだめ。イライラする。


「あーもうはっきりしない男だなお前は!」

「おまっ、僕に向かって何という口の聞き方を……それに僕には誠という立派な名前がだな!」

「誠実の誠でマコトですかいい名前ですねそれでそのまこちゃんは私に何をさせたいんですかはっきり言ってください」

「ぐっ……まこちゃん、だと……? 貴様自分の立場を」

「分かってます。分かってるから言ってるんです。何を要求されてもその通りにしますし逆らいません。だから……安心してなんでも言えばいいんです」


 彼は何故だが目を丸くして口を半開きにした後笑いだした。


「何がおかしいんです?」

「くくっ、はははっ。いや、君があまりにもサバサバしていてな。竹を割ったようなというのだろうか?

 いやはや気持ちいい」


 そんな事で悦に入られても困る。


「で、私への要求は?」


 開き直った彼に何をさせられても大丈夫。私はもうその覚悟は完了している。


「うむ、相談というのはな、僕に女性との付き合い方というのを教えてほしいんだ」

「……はあ?」


 ほんとにはぁ? だった。何言ってんだこいつ。


「その、あれだ。僕は年頃の女性にどう接していいか分からんのだ」

「はぁ」

「この屋敷に居る女性達くらい歳が離れていればまだいいのだが、同年代の女性と話す機会など無いまま育ったのでな、こう、どうしていいか分からなくなるというか」


「……つまり女の子と仲良くする方法が分からないからなんとかしてほしいと、そう言ってます?」

「だからそう言ってるだろう? 誰もが皆君ほど話しやすければいいのだがなかなか世の中そんなに都合よくできていないのでな」


 分からん。


「私そんなに話しやすいですか?」

「それはそうだろう。君の身柄は道明寺家が買い取った。逆らう事はできない。こんなに安心な相手が他にいるだろうか? いや、いない」


 だめだこいつ。

 女と話せるようになりたいというだけの為に人一人奴隷として買い上げて逆らえないようにしてから練習相手にするとか馬鹿すぎる。


「私にエロい事するのが目的じゃなかったの?」

「えっ、えろ……!? 年頃の女性がなんて事を言うんだ恥を知れ恥をッ!!」


 誠……いや、まこちゃんは顔を真っ赤にして激昂した。変な奴。


「私てっきり性奴隷にされるのかと」

「馬鹿か君は! ぼ、僕がそんな事する訳ないだろうが!」

「知らんがな。そもそも借金のかたに奴隷状態で連れて来られたら誰だってそう思うよ」

「そ、そういうものか?」

「そういうものだよ」


 まこちゃんは本当に心外だと言わんばかりに首を傾げている。

 首を傾げたくなってるのはこっちだ。


「ぼ、僕はただ絶対的な安心を求めてだな……それに君にとっても悪い話じゃなかっただろう?」

「まぁね」


 あのクソ親父はどうでもいいけれど、まぁ確かにあれだけの負債をチャラにしてくれるんだから文句は言えない。


「だからって金で縛り上げて抵抗できなくしてからっていうのがそもそも気に入らない」

「そ、それは……すまない」


 急に眉間にシワを寄せてしゅんとしてしまった。


「いいよもう。それより、どうしたいの? 私が話し相手になればいいって事?」

「う、うむ。それで段々女性慣れしたいというのもある」

「そんなに女性が苦手なの?」

「……何を考えてるかも分からんし、どう接していいのやら……」


 はぁ。こいつ、私が性根を叩き直してやらないと金に物を言わせて女を道具として扱うようなクソ野郎になりかねないぞ。


「分かった。まこちゃんが普通に女性と話が出来るように私がいろいろアドバイスをしてあげよう」

「ほ、本当か!? それは助かる!」

「まずは誰か一人と友達になる事が目標ね。その次は複数。最終的には恋人を作れるくらいになればもう大丈夫かな?」

「なんとそこまで……! ぼ、僕にできるだろうか?」


 最初とはまるで別人のように情けない顔をした彼を見て、私は決意する。

 こいつは叩けばある程度形を成形できる。やるなら今のうちだ。不幸な女性を増やさない為にも私がひと肌脱ごうじゃないか。


「大丈夫。私に任せて。じゃあ早速だけど私を初めて会う女性として扱ってみてよ。こっちから話しを振ってあげるからさ」

「レッスンワンというやつだな。分かったよろしく頼む」


 私はいくつかパターンを考えながら、適当に演技をしてみた。


「あの、すいませんこの辺りで小さな子供を見ませんでしたか? ちょっと目を放した隙に弟が何処かへ行ってしまって……」

「……」


 なんだか目つきが鋭くなった気がする。いや、むしろこれは明らかに見下すような視線だ。


「見ていない。警察にでも協力してもらえ。交番までの道のりが分からないほど無知ならば案内してやってもいいが?」


 ……えっ? 嘘でしょ?


「そもそも弟と二人だったのであれば君は保護者代わりだったはずだろう。なのに保護対象から目を離すとは何事か。これでその弟とやらに何かあった場合全て君の責任だぞ。分かっているのか? 分かっているならすぐに交番へ行け。分からないのならば知らん。消えろ」

「待て待て待て待てストーップ!」

「なんだ今いい所だっただろう?」

「なにがいい所だこのバカチンが!」

「バカチンとはなんだそんなはしたない言葉を使うもんじゃない!」

「うるせぇ! 失格失格! 話にならない!」

「なん……だと……?」


 まこちゃんは大げさに仰け反って額に手を当てる。本気でショックを受けているようだ。マジかこいつ。


「な、何がいけなかったと言うのだ……」


 まこちゃんは仰け反った身体を今度はくの字に曲げそのまま床に崩れ落ちた。


「マジでサイテー」

「僕は何を間違えた? 正論しか言っていないはずだ……」

「正論が正しい対応だと思ってるのならその既成概念を壊せ!」

「正しい事が間違いだとでも言うのか!? 誰がそんな社会にした!?」

「うっさい! いい? あんたの言う事は正しかったかもしれない。だけど思いやりの欠片もないんだよ!」

「思いやり……? あるだろう、僕は弟を見つけるのに最善の方法を提案した。それに弟を見失ってしまった事への注意喚起も……」

「言葉のセレクトが終わってんのよあんたは!」


 こいつ想像以上に駄目だ。社会に適応できてない。根っからの支配者層理論が頭に渦巻いてる。なんとかしなくては。


「もしさっきの事を相手に伝えるならこうよ! ……弟さんが居なくなってしまったんですね。なら一緒にさがしましょうか? 特徴を教えて下さい。これ!」

「非効率的だ! 弟をすぐに見つけたいなら交番へ行き協力を仰ぐべきだ!」

「それならそれでまずは、交番へは行きましたか? まだでしたら案内しますので行きましょう。じゃろがい!」


 まこちゃんはまた口半開きでポカーンとしている。


「それに、目を離した事で慌ててるのも反省しなくちゃいけないのもその女性は分かってんのよ! だからそれを責めるのは駄目! それより先に弟を見つける事に協力的な優しい言葉をかけるのが先決!」


「な、なるほど」


「じゃあ次行くから今度こそしっかりしてよね!」

「う、うむ! 分かってきた気がするぞ!」


 ほんとか?


「あの、すいません。道に迷ってしまって……役所に行きたいんですがここからだとどのように行けばいいでしょうか?」

「……」


 おー、考えてる考えてる。


「……君は、馬鹿なのか? 目的地への道のりくらいスマホで調べられるだろう。それとも何か目的があって僕に近付いたのか? 怪しい奴め……!」

「このボケナス!」

「いや、今のはどう考えたっておかしいだろうが!」

「おかしいのはお前の頭ん中じゃい!」


 まこちゃんは「何故だ……」と指で眉間を抑える。

 こいつ基本的に他人を信じられないから余計変な事になってるんだ。


「普通に道を教えてやりゃいいのよ! 一番いいのは、自分もそちらの方面に用があるのでよろしければ近くまで案内しますよ。これ!」

「役所に用などないが!?」

「無くてもある事にするんだよ!」

「そ、それが思いやりだと……?」

「そうだよ! それにさ、スマホでどうにかなるって言うけど男性と女性じゃ脳に違いがあって女性は地図をうまく把握できない人が多いって知ってる?」


 私もテレビでそんな話を聞いた事があるだけだけど。私もナビ見ながらでも迷う人だから分かる。地図とか分からんし北とか表示出されてもどっちが北じゃい! ってなるもん。


「なんだって……? では僕はその人に無理強いをしてしまったのか。なんという事だ……」

「分かればよろしい! 次!」

「次だ。次こそ!」


 そこでコンコン、とドアを叩く音がした。


「なんだ!? 今僕は忙しい!」


 すかさず私はまこちゃんを睨む。


「ハッ、そ、そうか……そういう事か」


 彼は私の言いたい事に気付いたようで、ドアに近付くと「すまない。少し心に余裕が無くなっていた。許してほしい」とドアの向こうへ声をかける。


「ぼ、坊っちゃん……」


 この声はきっとあのメイドのおばさんだろう。


「それで、用件はなんだろうか?」

「あっ、はい。新入りのメイドは何か失礼をしていないかと様子を見に来た次第です」

「そうか。なら心配要らない。今後僕の世話は全て彼女にやってもらう。いいな?」


 ドア越しに戸惑っている気配がする。そりゃそうだ。あんな言い方されたらね。


 私はまこちゃんに近付き耳元で注意してやった。


「……! ちがう。違うぞ!? 別にお前らが駄目だったんじゃないからな!? 勘違いしないでくれ!」

「ふふ、有難う御座います。余程彼女のことを気に入ったようですね。それならこちらで準備を進めておきますので」


 そう言ってメイドがドアの前から去っていく足音が聞こえた。

 準備ってなんの準備だよ。


「そうか……僕は同年代の女性に対してどうすれば分からないと言ったが、君の指摘で気付いた。僕は基本的に人との接し方全般に問題があるのだな」

「うん、分かればよろしい。えらいえらい♪」


 あまりに素直だったのでつい背伸びして頭を撫でてしまった。


「な、ななな、何を……母にも頭を撫でられた事など……」

「うへぇ、マジか。今後はよくできた時には私が撫でてあげよう。がんばりたまえ」

「そ、それでは逆に頑張りにくいではないか……」


 おっ……? まこちゃんが顔真っ赤になっとる。


「もしかして照れてる?」

「照れもするだろう! 悪いか!?」

「うんにゃ、悪くないね。今のまこちゃんは凄くいい。これならきっとすぐに上手く行くようになるよ」

「本当か!? それは助かる。今後とも宜しく頼むぞ!」


 人との接し方が分からないだけで根はなかなか素直である。

 しかし、私がこの為に買われたのだとしたら彼が人付き合いをマスターした時私はどうなってしまうのだろう。

 用無しになったからといって借金の穴埋めとしては簡単に返すわけにもいかないだろうし、そのままここでメイドとして働く事になるのだろうか?


 いつかはまこちゃんにも良い人が現れて、しばらくはその娘とのなんやかんやで必要とされるだろう。

 でもその後は?


 きっと私はこの人にとっては一つの通過点にすぎない。

 その時が来たら軽口を叩く事もできなくなるのだろう。

 今日会ったばかりなのだから多分気のせいなんだけれど、少しばかり寂しさを感じた。


「か、勘違いするなよ!? 別にお前に撫でてほしいとかではなく純粋に君から学ぶ事が多いからという意味だからな!?」

「はいはい分かってるよ。まこちゃんがまともに女性と話せるようになるまでは面倒みたげるわ」

「だからそのまこちゃんというのをやめろ」


 まこちゃんは顔を赤らめながら恥ずかしそうに言った。だがやめる気は無い。


「まともな対応が出来るようになったら誠様って呼んであげるよ」


 何故だがその言葉を聞いて彼は眉間にシワを寄せた。


「何を言っているんだ。既に君は僕にとって先生であるとともに友人だ。様付けなどやめてくれ。誠でいい」


 ……友人、ね。

 まさかそんな風に思ってるとは。

 てっきり指導役としての道具みたいなもんだとばかり。


「ち、ちなみにだな。僕はまだ君の名前すら知らない。普通初対面で名乗るものだろう?」

「いやいやまこちゃんが名乗る暇もくんなかったんじゃん」

「そ、そうだっただろうか……? すまない。出来ればその、名前を」


 まこちゃんはもじもじしながら、「教えてほしい」と呟いた。後半は聞き取るのが難しいくらいの小声で。


「美琴。マコトとミコトだね」

「ほう、美琴というのか。ではやられてばかりでは癪だからな……僕が君に合格点を貰えるようになったらこちらがみこちゃんと呼ばせてもらおうじゃないか」

「はぁ、別にいいけど」

「あ、あれ?」


 多分この人自分がまこちゃんって呼ばれるのが恥ずかしすぎて他の人もそういうのが恥ずかしいと勘違いしてる。

 私は元々友達からみこちゃんと呼ばれていたのでノーダメージなのだが。


「でもそう呼ばれるのは当分先になりそうだなぁ」

「そんな事はない! すぐにマスターしてみせるぞ。それまではみこと呼ばせてもらおう」

「……お、おぅ」


 男性に呼び捨てされるのなんて父親以外初めてだから結構照れるな。

 まこちゃんはこんな気分だったのか。


「どうしたみこ」

「うるさい」

「おや? まさか恥ずかしがっているのかね?」

「そのニヤニヤ顔をやめろ腹立つ!」

「ははは、君にも弱点があるという事だな。安心したぶぼっ!?」


 腰に手を当ててのけぞりながら盛大に笑うまこちゃんのガラ空きボディに一発入れてやった。


「れ、レディともあろう物が暴力とははしたない……!」

「うっさいなぁ。だったらレディとしての振る舞いってやつを教えてよ」

「……」


 まこちゃんが顎に手を当てて固まってしまった。何かまずったかもしれない。


「なるほど、それはいい。君が僕の先生であるとともに僕が君の先生になろうじゃないか!」

「うわめんどくせぇ」

「めんどくせぇとはなんだ言葉遣いがなってないぞ君に拒否権が有ると思うなよ?」


 うへぇ……なんだかややこしい事になってしまった。どうしたもんかと考えていると、まこちゃんがそんな事どうでも良くなるような爆弾を放り込んできた。


「僕の世話はみこに一任すると先程決まったな? みこには今日からここに寝泊まりしてもらう」

「うわやっぱり性欲処理に使う気だ!?」

「使うかこのアンポンタン!」

「アンポンタンとかいつの時代の人!? ってか違うならなんでここで寝泊まりなの?」


 意味が分からない。世話をするにせよここに寝泊まりする理由にはならないはずだし、広い屋敷なら空き部屋の一つくらいあるだろう。


「みこはきっと僕が目を離せばすぐにレディとしての振る舞いなど頭から消えてしまうだろう?」

「それをまこちゃんが言う? そっちこそ私がいなきゃ……あー、なるほどね」

「そういう事だ。お互い常に相手の振る舞いについて指摘し合う事で高めあう事ができる」

「いやしかしね、年頃の男女が同じ部屋でってのはどうなの? その辺ちゃんと考えてる? 私が着替える時とかどうする気なの?」


 まこちゃんは口を半開きにしたまま顎に手を当てて考える。だめだこいつ。


「ふむ、それは考えていなかったな」

「はいマイナス! レディに対する心遣いがなってません!」

「ぐっ、僕とした事が……ッ! ……そうだな、やむをえまい。ベッドをもう一つ用意すれば十分かと思っていたがそういう問題があったか。流石に別室を用意した方が良さそうだな」


 分かってもらえて何よりだ、と安心したその時だった。再び部屋がノックされる。


「坊っちゃん、少し宜しいでしょうか?」


 またさっきのメイドさんだ。


「構わんぞ」

「では失礼して……」


 メイドはドアを静かに開ける。そこには、何やら大量のメイドが。


「な、なんだ何事だ!?」


 まこちゃんも驚いている。もしかしたら私を助けに来たのでは? なんて薄い期待を抱いたのだがやはりそんな事はなかった。


「必要な物を揃えて参りましたのですぐに準備をさせて頂きます。皆さん、二分で終わらせて」

「「「はい!」」」


 まるで砂埃でも巻き上がる勢いでメイド達が部屋になだれ込み、バタバタと作業をして二分かからずに去っていった。


「貴方、ぼっちゃんに気に入られたのならばしっかりお役目を果たすように」

「は、はぁ」


 さり際にあのメイドさんからそんな事を言われた。キツイ口調、ではなくなにやら笑ってた。なんやねん。


「それではお楽しみ下さいませ」


 メイド達が部屋を出ていくと二人の間に妙な静けさが広がる。


「な、なんだったの?」

「分からん。何をしに来たのだ……?」


 メイド達はベッドまわりでバタバタしていたので二人でその辺りを確認する事に。


「……な、なぜ僕のベッドに枕が二つならんでいるのだ……」

「ねぇ、この小さい箱何が入って……」


 枕元に置いてあった小箱を開け、すぐさま閉めた。


「みこ、何が入っていたんだ?」

「な、なんでもない」

「なんでもないわけないだろうが」

「なんでもないったらなんでもないの!」

「貴様僕に隠し事をするつもりか!? 渡せ、自分で確認する」

「だーめーだってば!」


 まこちゃんが意外と強い力で掴みかかってきて、私は抵抗し、なんとか箱は守ったつもりだったんだけど。


 ドサッ。


「す、すす、すまないそんなつもりでは」

「わ、分かったから……どいてよぉ」


 ベッドの上に組み伏せられてしまった。押し倒されるのなんて人生初である。

 さすがに恥ずかしすぎて至近距離で顔を見られたくなくて表情を隠すように手で覆う。


 ぼさっ。


 箱の蓋が空いて中身が私の顔の上に落ちた。


「なっ……んだ、と……ッ」


 そう、ウブなまこちゃんが見たら固まってしまう物。

 つまり、ゴムである。


「ば、ばばば、馬鹿か!? あいつらいったい何を考えて……」

「いいから早くどいてってば……」

「す、すすすすまない! ……あっ」


 まこちゃんの視線が私の顔より少し下に移動する。

 私もつられて視線を動かす。


「き、きゃあああああっ!!」


 私は思い切り乳を掴まれていた。

 で、何が腹立つかといえばさっきの悲鳴が私じゃなくてまこちゃんだって事。

 甲高い悲鳴をあげたまこちゃんは大げさに飛び退いてそのまま床を後転するようにごろごろ転がり、ソファにぶち当たって止まる。


「レディの乳鷲掴みにしといてその悲鳴は酷いんじゃないの?」

「わ、わ、わざとじゃないんだ許してくれあまりに僕の知ってる乳房とはかけ離れていたのですぐに気付けなかったのだ!」

「ぶっ殺すぞ!?」

「何故だッ!?」

「おめーがデリカシーの欠片もねぇクズ野郎だからだよーっ!!」

「な、僕はまた何か間違えたのか!? どこが悪かったんだ教えてくれ! 触ってしまった事は事故だ! 謝るからっ!」


 まこちゃんは私のボディブローを恐れるように中腰になり両手の平を前に突き出して「すまん! 胸と気付かなかっただけなんだ!」と繰り返す。


「ほんっとになんで怒ってるのか分からないの?」

「ひいっ、その鬼のような形相をやめたまえ! レディにあるまじき……」

「うるせぇぇぇ!!」


 私はまこちゃんのガードを飛び越えて顔面に飛び蹴りをくらわせた。


 こいつが女心とやらを理解できるようになるにはいったいどれほどの時間がかかるのだろう?



 なんだか私は急に自信が無くなってきた。


 女としての魅力にかって? ちげーよクソが。



 でも、なんだか使命感じみたものを感じる。

 ある意味これは私にとって第二の人生だ。

 ならやるべき事をきっちりやってやろうじゃないの。


 このどうしようもないデリカシー欠損男をぶん殴ってでも叩き直してやんよ。

 覚悟せよ。



 私の戦いはまだ始まったばかりだ……!








数ある作品たちの中からこれを見つけて頂きありがとうございます!


基本的に鬱か阿呆かしか書けない極端な作者ですがよろしければ他の作品も覗いてってね!



少しでも気に入ってもらえましたら感じたままでいいので下の方にある☆を黒くしてやってくださると作者が小躍りします。


感想なども大歓迎です☆彡



それではまた別の作品で出会える事を願って。


monaka.



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