見られた!
なんで土曜日なのに学校があるんだよ…。
男子生徒は授業中にもかかわらず窓際の席から空を見上げた。
土曜授業は半日で終わるが男子生徒は一刻も早く向かいたい場所がある。その場所とは家電量販店のjyo-sonnである。
別に男子生徒は家電を買いたいのではない、目的はjyo-sonnの中にあるおもちゃ屋に用事があるのだ。
高校からだと自転車で30分弱…学校が終わるのが13:30分…。ギリあるかもしれん…。いや必ずあると信じよう。
そして最後の授業の終礼のチャイムが鳴る。
よし!すぐに駐輪場へ…。
だが…男子生徒の前に陽キャ軍団が道を塞ぐ。
「真里谷のネイルめっちゃカワイイんだけど!なんのキャラクターなの?」
「琴音サンキュー!教えても分からないから教えてあげない!」
「どれどれ見せてくれよ。」
くそっ…。邪魔で通れない…でも通してとは言えない。俺はクラスカーストの底辺にいる男。もはや空気より影の薄い男そんな男に陽キャたちは誰も気付くはずも…。
「東影くん。どうかしたの?」
俺に話しかけてきたのはサラサラの金髪でパンツが見えそうなくらいにスカートを短くした陽キャギャルの円野真里谷だ。
「え…いや…。その…。」
東影は急に声をかけられたのに動揺し、なかなか話せずにいた。
女子への免疫力の無さを久しぶりに痛感した。
「あ…あの…。帰りたいのでドアを通していただきたいのですが…。」
同級生に謎に敬語で話す。
「ごめんね!さあさあ通っていいよ!」
「ありがとう。」
ドアを通り抜けると東影は走って駐輪場まで向かった。
jyo-sonnまでの道で東影は円野のことを考ていた。
円野さんと話したのは入学してもしかして今日が初めてかも…。あまりにも住む次元が違うから話す機会がなかったのもあるけど、俺は空気以下で彼女はクラス中心の存在。決して交わることのない存在同士なんだろうな…。
そんなことを考えているとあっという間に目的地のjyo-sonnがある複合施設に到着した。
東影は急いで自転車を駐輪場へ停めて複合施設の二階にあるjyo-sonnへと走る。
「頼む!あってくれ!あってくれ!」
東影はそう強く呟きながらおもちゃ売り場へと向かう。
やった…。最後の一つあったぞ!
そこにあったのは、夏から始まる新特撮番組マスクドライバーホムンの変身グッズであるホムンドライバーだ。さすが人気特撮番組だ。店も特設エリアを造設して力を入れている。
よくぞ…。俺が来るまで残っていた…。ありがとう…ホムンドライバーよ…。
東影はホムンドライバーの外箱をがっしり抱きしめて心の中で泣いた。
近年は転売が横行し特撮玩具もなかなか手に入らない状況である為、より感極まった。
そう、何を隠そうこの物語の主人公である東影正雄は特撮オタクなのである。
特撮とは、巨大怪獣や巨大ヒーローが街を舞台に戦う物や、人間大のヒーローがチームを組んで戦う戦隊シリーズとマスクドライバーシリーズがある。東影は主に戦隊シリーズとマスクドライバーシリーズの大ファンである。
「あれ?東影くん?」
東影が特設売り場の前から立ち去ろうとすると声をかけられた。
恐る恐る振り返るとそこには陽キャギャルの円野がいた。
「ヤ、ヤバい!見られた!」
思わず心の叫びが声にでてしまった。
それより今までクラスメイトに隠していた特撮オタクがバレてしまった。よりによって円野さんに。