~05 平穏が崩れ始める音~
5話目になります。
また急に寒くなり始めましたね。
あまり早くは進められませんが、一月くらいの終わりを目指して頑張っていきたいと思います。
「もう、ミクおじ歩くの早い!こういう時は女性に合わせるものだって、父様がいってたよ。」
「女性って、、、なぁ。嬢ちゃんくらいじゃぁ、まだ女性っつぅには5年ははぇえと思うぜ?ちびっ子は走って転んで、元気よく遊ぶくらいでちょうどいいのさ。」
「ん~~~、もうっ!ほんと失礼ね、ミクおじは!」
「はっはっは。おっさんはなぁ、失礼なくらいでちょうどいいのさ、っと、ここか?」
ミクラの疑問に答えるものは特にない。というか、本人も確認くらいのつもりで口に出しただけである。薬師の家を出てから、こんな調子で怒れるモクランを煽りつつ、なだめるという器用なことをしつつにぎやかに進んできた一行。その一行は今日の目的地でもある、村の中心地に到達しようとしていた。
この村は中心に広場を設け、そこに5本からなる主要道が放射状に道が伸びる構造となっている。広場沿いには商店というほどのものではないが、それなりに衣食に関するものを取り扱っている家が数件並ぶ。そして、放射状に延びる道に沿って、民家や畑が立ち並ぶという構成になっていた。主要道のうち一本は北側に延び、その先は村長とそれに連なる者たちの住居が立ち並ぶ。東側には二本、西側と南側にも一本ずつの道があり、南側の一本は村の正門へ、東側の北東方面の道は裏門へと続いていた。薬師の家は裏門そばにあり、他の民家とは大分距離が離れた位置となっていた。薬師は薬草を取りに出やすいという理由からこちらに居を構えていたが、他の住民たちは森を怖がり、あまり裏門には近寄らない。そんなこともあり、広場までの道中、三人は他の村人とはすれ違うことすらなく、今、広場に到着したのであった。
「ここから見えるあの噴水?がこの村の中心ってことでいいのか?しっかし、表の門と言い、この噴水と言い、遠めに見ただけだが、この村は規模に対して色々と凄いなぁ。いや、正直見事なもんだわ。今日日ここまで外への守りを固めつつ、村の中の舗装や下水道まで整ってる村なんておめにかかったことないぞ?そのうえ、こんな見事な噴水まであると来たもんだ。この村作った奴は相当にすげぇやつだよ、いや、マジで。」
遠目に噴水を見ながら、思わずといった様子でつぶやくミクラに対し、急に勝ち誇った表情になってモクランが言う。
「ふふ~ん、そうでしょ、そうでしょ。これみ~んな、父様の指導で作ったものなのよ?驚いたでしょ?」
「…ああ、正直、驚いたわ。何もんだよ、お前の父さん。ん?でも、てぇことは案外この村新しいのか?家の様子とか見るとそうでもなさそうなんだが…」
薬師の家を出てから一時間くらいだろうか?二人の案内で、村の各所を色々と見て回った結果の感想であったが、どうやらミクラの印象通りの村と言うわけでもないらしい。
そして、今到着した広場にある噴水もまた奇麗な出来ではあるものの、そこまで新しい建造物には見えない。まぁ、噴水といっても、頭頂部の噴出口から静かに水が流れ出ており、その下に三段からなる水受けが設えられているだけの物ではあるのだが。
「この噴水はね、上から飲める水、真ん中が食器とかを洗う綺麗な水、一番下が洗濯とかに使う汚れてもいい水になってるのよ。そして、一日に4回一番上からお水を噴き出して、噴水の中も綺麗にしてるんだって。どうやってるのかは知らないけど。だから、お水飲みたいときは一番上からよ?わかった?ミクおじ?」
「へぇ、そんなルールまであんのかよ。わかったよ、しかしこれ全部をあの薬師先生が考えたってか?鍵士も見分けられるわ、ホント、何者なんだ?あの先生は、よ」
「あたしの父様よ?なんでも知ってて凄いんだから!」
「んなこたぁ、知ってるがよ。何でそんなに知ってるのかってことだよ。」
「うーん、良く知らないけど、昔王都ってところにいたらしいわよ?かなり昔になくなっちゃったんだって、凄く寂しそうに話してたの聞いたけど。」
「王都だぁ?そいつがあったのは100年以上前の話じゃねぇのか?そんな昔の事、知ってて、あの若作りって流石にそんなこたぁねぇだろ?」
「あたしだってわかんないけど、そういってるの聞いたんだもん。」
「そいつぁ、ん~なんともいえんが、でも、もしそいつが本当の事なら…」
と、ミクラが無精ひげのあごに右手をあて、思考に埋没しかけた刹那、広場に一人の男が駆け込んでくる。北東側の道の入り口でずっと話していたミクラ達からはちょうど建物の影となって見えなかったが、どうやら北側の道からやってきたらしい。
男は息も絶え絶えといった様子で噴水に駆け寄り、何かに躓いたのか転んでしまう。転んだはずみで一回転して、噴水に背をぶつけたかと思うと、痛がる様子も見せずに、すぐさま自分のもと来た道のほうを振り返る。その振り返った横顔が、なんとも言えない恐怖と焦燥に駆られた表情であったため、それを何気なく見ていた三人はぎょっとして、動きを止めた。
三人がそうやって、静かに見守っている中、男は後ずさろうと、必死に土を掻き始める。だが、背中が噴水にあたっており、それ以上後ろには進めない。それでも恐ろしい何かから逃げるように、もがき続ける男だっただ、ふとした瞬間、三人のほうに視線を変えた。視線を変えたほうも変えられた先にいた三人にも状況の全くわからない沈黙が一瞬。そして、一番最初に我を取り戻したのはその男を知っていたモクランであった。
「ど、どうし「に、逃げろ!!」
我を取り戻して、声をかけながら駆け寄ろうとしたモクランに対し、男がとった行動は叫ぶことだった。その叫びを聞いた瞬間モクランの体がこわばる。それを見ていたのかいないのか、男がすぐに叫びを続ける。
「ミミックだぁ、ミミックが出たぞ、ぐ、むぅん」
こちらを向いて、最初の叫びよりも明確に叫び始めた男の顔に、横合いから何か真っ黒な物が絡みつく。それは、蛇のようにも見えたが、口を含んだ頭部に絡みついた後、そのままそれは男の体、足へと絡みくついていった。男は声も出せず、恐怖のために見開かれた目を再度、北側の道のほうに向ける。かと思うと、次の瞬間、男の体が宙を舞った。それは綱を思いっきり引っ張った時のような動きで、あっという間に男を北側の道に引きずり込んでいってしまった。
「っ~~~~~~!!!」
男の飛んで行った先から、声にならない悲鳴のようなものが聞こえたような気がしたかと思うと、それはすぐに『ボコン』という、大きくも間抜けな音にかき消された。そして、静寂。
「ね、ねぇ、ミクおじ?今の、道具屋のサブさん、だよね。な、なにがどうなって…」
あまりの光景に身動きが取れないながらも、懸命に言葉を紡ぎだすモクラン。普段から大きな猫目を更に目を大きく見開き、自分の体を抱きすくめるように震えながらミクラに問う。そんなモクランの頭にやさしく手を乗せミクラは二人の前に静かに進み出た。そして、しゃがみながら振り返り、二人の肩に手を乗せると、
「二人ともよぉく聞け。お前らはな、こっから逃げなきゃぁいけねぇ。モクランのいう、サブさんが誰だかは知らないが、あいつが最後に伝えてくれたことが正しいんなら、あの先にはミミックがいる。人を喰ったばかりのミミックはすぐにゃぁ動けんはずだが、それでも30分は持たんだろう。しかも、あんなに簡単に人を捕獲できるほど育った個体だ。もしかしたら七大災厄に匹敵する大きさかもしれん。そんなのが暴れ始めたら、こんな村一日だって持たん。だから、お前らは手当たり次第の人に声を掛けながら、門の外に向かって走れ。大事な人は連れて、それ以外の奴が何を聞いてきても「ミミックが出たから逃げろ」それだけを言い、決して足を止めるな。そして、無事に門の外に出てからもできるだけ村から遠くに離れろ。そして、ここのことは忘れて別の場所で生きることを考えろ。いいな?」
と二人を自分に引き寄せながらささやくように言うミクラ。
いつも冗談ばかり言うミクラの真剣な顔を見て、モクランは平穏が崩れ始める音を聞いた気がした。
見つけてくれて、読んでくれてありがとう。
物語はここからここから転がり始めます。
モクランはタクは、そしてミクラはこれからどうなってしまうのでしょうか?
ご期待に添える結末を迎えるかはわかりませんが、最後までお付き合いいただけるとありがたいです。