~04 巡り合い~
4話目です。
まだまだ和やかなやり取りをご堪能ください。
更に二日後。
「ミクおじ、起きてる?」
そう聞きながら、返事も待たずに勝手に玄関の引き戸を開けて入ってくるモクラン。
「お前なぁ、少しは遠慮ってものを…」
と振り返ったミクラはモクランの後ろからおずおずとついてきた子供に目が釘付けとなった。
「ミクおじ?どしたの?あ、紹介するね?この子、タクっていうの。あたしのお友達よ」
一瞬ミクラの思考を空白に変えたもの、それは生き別れとなった我が子の現身であった。ただ、よくよく見れば、自分の追い求める面影はあるものの、多分違うといえる少年がそこにいた。なぜなら、あの子はもっと花が咲き誇るように笑い、周りも笑顔にするような、そんな子だったから。目の前のこの子も、背格好はそれに似ているが、背負う雰囲気は陰鬱としており、何よりその子、ナタなら、自分と同じ黒髪黒目のはず。だが、この子の髪色は全く違う。くすんだ灰色の長髪は薬師の子と言われた方が納得できるというものだった。そして、その長髪の間からおどおど覗く瞳は陰ってよく見えないものの、黒とも灰とも見える。と、そこまで考えたミクラだったが、モクランの問いに気が付き、慌てて答える。
「あ、ああ、いやちょっと一瞬知っているやつに見えたんで驚いちまったんだ。」
「そうなの?」
「いや、人違いさ。それより今日はなんなんだ?」
と、ミクラに問われて、少し恥じらいの表情を浮かべながらモクランが言う。
「べ、別に大したことじゃないよ!さっきも言ったでしょ、元気になったミクおじにあたしのお友達を紹介したくって連れてきたの!」
「ふーん、お友達、ねぇ。」
「な、なによ?」
モクランは少し下卑た笑いをたたえながら二人を見るミクラに気おされたのか、一歩後ずさりながら、弱気に問いかける。
「いーや、なぁんも。ただ若いっていいなぁと思ってな。しかし、まだ少しおませが過ぎるんじゃぁないか?」
「っっっ!もう、知らない!」
途端、顔を朱に染めてそっぽを向いてしまうモクラン。
「くくく、いいじゃないか。俺は応援するぜ?」
「っ~~~っもう!ミクおじのバカ!変態!もう行くよ!タク!」
更に真っ赤に染まった顔を誰にも見せないように俯きつつ、タクの手を取って強引に部屋から出ていこうとするモクラン。急に手を引かれたタクはモクランが振り返った瞬間の涙目を見た動揺も相まって、たたらを踏んでしまう。
「ぇ、え?ちょ、ちょっと、ま、待ってよ、モクラン。」
それでも強引に出ていこうとするモクランに、そんな事態を引き起こした張本人のミクラが、声をかけながら立ち上がる。
「悪かった悪かった、嬢ちゃんがあんまりにも可愛らしいんで、つい、な。許してくれ。俺はまだ、そのお友達に挨拶もできてないんだぜ?おぅ、坊主、色々と順序がおかしくなっちまったが、俺はミクラというもんだ。今はここの薬師の先生とそこの嬢ちゃんに命を救われた居候ってとこだな。よろしく頼む。」
そういって、軽く頭を下げ、手を差し伸べる。ぼさぼさの髪の隙間から見える目に、無精ひげ、衣類は薬師から借りた清潔なものになってはいるが、お世辞にも柄がいいとは言えない風貌のミクラである。そんなミクラに見降ろされながら握手を求められるのは、狭い屋内ということもあり、独特の威圧感があった。普通の子供なら、泣いて逃げ出しそうな雰囲気であったが、握手を求められた当のタクは、おっかなびっくりではあるが怯えることなく、手を握り返した。
「…よ、よろしく、です。」
「お、おう、こちらこそ、な。」
これには自分の容姿を理解した上で、あえて威圧的に挨拶をしたミクラの方が驚かされることになった。これを見ていたモクランは、ミクラの動揺を察し、
「ふふふ、何々?ミクおじ?目を真ん丸にしちゃってさ。まさか、驚かそうとしたのに普通にされてびっくりしちゃったとか?そうなのよ、タクは普段びくびくおどおどしてるけど、やるときにはやれる子なんだからね!」
そういって満面の笑みになる。してやられたミクラは、頭を掻きながら、ばつが悪そうに
「ああ、正直驚いたよ。ビビらせてやろうって気がなかったわけじゃないからな。坊主、お前見た目に寄らず、度胸あるじゃねぇか。」
と、素直に漏らす。そして当のタク本人は
「…ぁ、うん、なんか怖くな、、、あったかい感じがしたから、かな?」
と、自分でもよくわからない風であった。だが、その言葉尻から的を得ているのを察したモクランが、すかさずミクラをからかいに走る。
「ミクおじ、見透かされちゃってんじゃん。」
「うっせぇな。ま、でもそんだけ度胸が据わってんなら、将来嬢ちゃんの尻に敷かれるだけってわけでもなさそうで良かったよ。一方的な関係は長続きしねぇからな。」
思わぬ反撃を受けたモクランがまた顔を茹でだこのように赤くしながら、奇声を発した。
「に゛ゃ、、、にゃにお、お、お、お尻に敷かれるって、どういうことよ!」
「あはは、まぁ、きにすんな、年長者からのアドバイスだよ。さて、ほんで今日は村を案内してくれるんじゃなかったのか?」
頬を膨らませ、顔を真っ赤にして、涙目になって剥れるモクラン、その隣でおろおろしながらも、モクランをなだめすかし、頭を撫でてやっているタク。案外いいコンビなのかもな、と思いつつ、外に向けて歩き出すミクラであった。
その様にほほえましいものを感じ、モクランの脇を通り抜けざまに頭にポンと手をのせてみたのだが、
「子ども扱いしないで!」
と更に噛みつかれる結果に終わり、苦笑しつつも、連れ立って村に向かうのであった。
見つけてくれて、読んでくれてありがとう。
和やかな日々は突然終わる。
終わるまで気が付かないこともたくさんありますが、だからこそ今に感謝し、大切に生きたいものですね。